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[突如、甲高い声が響いてきた。はっとするネリー。
雑貨屋のほうに視線を移す。
リックが血相を変えて飛び出してきた。どうしたのだろう。]
どうしたの!?リック。
ウェンディがどうしたの?
[ネリーは雑貨屋、リックの方へ近づき始めた。]
[特に話しかけて何か雑談をするという間柄では多分ないし、一言二言挨拶程度にネリーに声をかけてから店に入ればそれで問題はないだろうと。
ちょうど彼女まであと数歩といったところだったか、店の扉が開いて従弟の姿が見えれば少しだけ視線はそちらにうつる。
なにやらあわただしい様子に視線は細められ]
[リックの後ろ姿を眺め、ウェンディを寝かせ手を握る。]
やれやれ。あれが人に物を頼む態度かって…なあ?
若いってのは、向こう見ずってことだとは思わない?
[ニタニタしながら語りかける。]
[袖が伸びんばかりにネリーは左手を掴まれた。少し抗議の色も見せようかとも思ったがウェンディが心配になりあっと言う間に吹き飛んだ。
ネリーはリックに引き込まれるように雑貨屋へ吸い込まれていく。]
―町の路上 車中―
[どれ位、そうしていたのか。ルーサーは車のシートに深くもたれかかりながら黙然と祈りを捧げていた。]
…… 御在天なる父よ 願わくば ……
[病が、老いが、その命を奪おうとしている人のために。死にゆく人を前に心の平穏を乱されている彼の家族のために。ルーサーに悪罵を浴びせ、彼とその神を否んだ人のために。]
…… 御国を来たらせたまえ 御心の ……
[静かに、何度も、何度も。何かを振り払うように。]
[女の嬌声が切羽詰っていくのに従い、深奥に打ち込むストロークが深く素早いものに変わっていく。
男の呼吸も荒く、笑んだ唇から微かな呻きが洩れた。]
[家の者が主を呼ぶ間、わたしは暗くなり始めた辺りを見渡し、仄かに甘い吐息を漏らした。
彼、ヒューバートと初めて逢った時も確かこんな空の色をしていたと思った。しかし辺りは比べ物にならない位賑わっていたはずだったが。]
本当に…不謹慎だわ。わたしは今、仕事でこの場所に来ているのに…。まるで逢瀬をせがんでいた頃を重ねるだなんて…。本当に不謹慎…。
[とくん――]
[とくん――]
[心臓は次第に高鳴りを強める。
わたしは崩れた身を正すために大きく息を吸い込んで、緊張を解す為に左腕を強く握り掴んだ。]
いい?今は教師としてここに来ているのよ?
判った?――ファファラ…。
[そう言えば、教師がイザベラからステラに変わる少し前に、シャーロットは時々学校を無断で休むようになった。ヘイヴンの学校に馴染めないのなら──と、ヒューバートのすすめもあって、ヘイヴンの人間にはめずらしく町外の学校へ転校した事もある。
結局は戻って来る事になったのだが。
そう言った意味で、家庭訪問──と言うものは、シャーロットに取って歓迎すべきものではなかった。何を言われるかわからない。母親ではなく、父親が残ってくれたのは幸いかもしれない。]
[断続的に響くローズマリーの嬌声。
きっとハーヴェイの耳にも届いているのだろう。]
あ──…。
[あたふたと立ち上がるも、挨拶に返す言葉もない。]
え?ちょっと…どうしたんですか?!
[上から聞こえる声と音、自分の声にはじかれたように振り返った真赤な目のソフィーと。
状況が上手く飲み込めないまま、ソフィーをなだめるように近くへ]
あの…何か…あったんですか?
―バンクロフト家アプローチ―
ああ。すまない。
ロティ、おいで。
[シャーロットに手を添えるように腕をとる。私たちはアトリエから出た。
玄関へと続くアプローチを進む間、私の心臓は緊張や不安、あるいは期待に高鳴っていた。期待?――おかしなことだ、と私は思う。これは二人だけの逢瀬ではない。まして、今の私たちの間柄はそんな関係ではない。私たちの間には、6年という年月が重く確固とした壁のように横たわっている。
それどころか、隣には愛する娘がいるのだ。
アプローチは間接照明の仄かな光に照らされているとはいえ、薄暗い。闇の中玄関に向けて進む私の瞳は彼女の姿を求めて彷徨い――
――
……何?
[リックもネリーもこちらに気づく様子はなく、従妹の名前が挙がったことだけは聞き取れて。
鳩尾の辺りが嫌な予感でひやりとする。
それを少しだけこらえて足早に店の中へと入るだろう]
――雑貨屋――
[ニーナの小柄な姿が視界の隅に入る。店内の喧騒―そうはいっても騒いでいたのは僕だけだったが―には同じく気づいて居なかったらしい。扉を抜けて戻ると、明暗の差で視野がくらっとした。ボブとウェンディの姿が見えないことに一瞬焦るがカウンターの奥で声が聞こえてきて安堵。そこで喉の渇きを覚え、そのときまで気づきもしなかった自分の迂闊さを呪った]
……と、いう、か、水、そう、水、だな。
ミネラルウォーターのボトルが、あった、はず。
冷蔵庫に入ってるから、ネリー、取ってきてくれないか?
だめ……お姉様……。
[悪戯な仕草で、エリザは小さく身を捩る「ネイ」の首筋を追う。
「ネイ」の首筋にエリザの唇が触れ、舌が触れ……やがてそれは、「ネイ」の唇に重なる。]
ああん………っ
[「ネイ」の潤んだ瞳に、エリザの笑みが映る。]
エリザお姉さ……まっ
[目の前にいる相手から目を逸らすように、「ネイ」はギュッと瞳を閉じる。視界を自ら失った「ネイ」の身体は、エリザの双の手が導くままにソファへと倒された。]
──アンゼリカ店内 - 1階──
あの──、これは──…。
[自分の事ではないのに何故か感じる羞恥。
なんとか誤魔化そうと口を開いても、先が続かない。]
………!
[ソフィーへ声をかけた瞬間上から聞こえてきた鋭い声。一瞬で全てを物語ったその叫び声に流石に硬直する。
自分の頭に巡るのは一体なんだったのか。
思考が巡りきった後、襲ってきたのは目眩がする程の吐き気]
うっ…!
[リックがネリーを連れて戻ってくる気配に、
表情、態度がガラリと変わっていく。]
オイ!大丈夫か?どうしたってんだ一体!
[邪な笑顔の黒人はもうそこにはおらず、
今は、心配でいっぱいの男に見えるだろう。]
―町の路上 車中―
[ルーサーはやがて祈りを終えると、手帳に目をやり、以前、頼んでいた薬のことを思い出した。]
ああ、そうだ。ブランダーさんのところに頼んでおいた薬はもう届いているころだな。しかし、あの嵐だ。ひょっとすると仕入れが遅れているかもしれないな……
ふむ、ひとまず様子を見に行ってみるか……
[キーを捻ると、エンジンが鈍い音とを立てて動き出す。彼はブランダー家に向かって車を走らせた。]
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