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オレの身体に何すンだよ……
死んじまった身体に、さらにひでェことする気かェ………?
[セシリアが、己の死体の衣服を破る様子を、嫌悪に満ちた目で見つめている。]
[眼前の光景に、しばし声が出なかった。
一瞬間を置いて、やっと言葉が絞り出される]
……信じられないな…
[一歩近づくと鎖を引き、彼女の顔を上げさせる。
そこに浮かぶ表情を探るように。
だが、なにを問うべきか、言葉が出なかった。
その時、一人の女が檻の中に入ってきた。
カミーラだ。
念のため、セシリアの手枷と足枷に元のように鎖を施し、やや自由を妨げた。]
[男は、檻を開錠し、カミーラが入っていくのを眺める。]
「気をつけてな。」
[どういう意味で言ったものだったのか
知る者はいない。]
[嫌悪の念が黒き影と化す。其れはネリーの身体を包み込むように、竜巻のごとく逆巻き――天を突く。
人間であろうが、人狼であろうが、生者にはおそらく見えぬであろう――黒き「影」として。]
[痣、血の塊、身体の一部の欠損。]
[ネリーは、其れを冷ややかな目で見つめる。]
[セシリアは、後ろから引かれる首輪と鎖が邪魔なのか、獣の様に四つん這いの姿勢。
ネリーの薄い胸から痩せた腹を舐めた後、深く鋭利な爪をネリーに差し込み、器用に手慣れた動作で心臓だけを取り出す。その動作から、今までどれほど多くの人間を彼女が手に掛けて来たのかが知れた。
取り出したネリーの心臓を。
引き摺る様にして口元へ運ぶ。
そうやって、気に入った臓腑だけを食べる動作を、セシリアは繰り返した。]
「気をつけてな。」
ああ、充分気をつけるよ。
[こうして男から扉を開錠してもらい、カミーラは檻の中へ入った。
檻の中には…例の化け物の他に、
負傷したクインジーと無残な姿になったネリーがいた。]
『……ああ。そういえば――』
[セシリアが豹変する刹那、人狼はカミーラだと云ったことを思い出した。
本当なんだろうか。]
――カミーラ、お前が人狼なんだってな。
セシリアが云ってたぜ。
[どこか揶揄するようにその言葉は発せられたが、クインジーの右目は笑ってはいなかった。
二人の様子に、どこか妙な仕草や仲間らしき気配が見られないか、観察している]
………おめさんに、何ができる?
オレが殺されかかってる時はなぁんにもできなかったくせによォ、オレが死んだら「助けてやる」のかィ。
……悪ィ冗談だなァ。
[影はカミーラの背を見て、クッと喉の奥で嘲笑う。]
死んでしまえ。
おめえも、おめえも、それから……おめえもだ。
みぃんな、みぃんな、死んでしまえばいい。
殺し合え。
食い殺せ。
憎め。
……そこに転がってるオレん身体みたいに、ボロボロになっちまえ……。
―アーチボルト家―
[ドン―― ドンドンドン! ドン!
大きな音。
外から扉を叩く音。
粉屋の女将の声――。
他にも数人か――殺意を抱くのか――
魔女かもしれないという恐れよりも
怒りと憎しみで心を塗り潰したもの達が居るようだ。
ジェーンは小指が欠けた左手を見る。
今は血色悪く弛んでいるが、
昔はセシリアと同じく、華奢で白い指だった。]
[書き終えたばかりの手紙を、ヴィンセントは従者に托した。
近隣の町の有力市民である知人に宛てたものである。]
そうだ。
判事の注意を早くこの村に引きつける必要があるんだ。
まともな返事がもらえるまで粘れ。
どうしても無理なら、なるべく多勢の人手と馬車を借りて戻って来るように。
私はここに残る。
[不安そうな相手に、とにかく急げともう一度言って、ヴィンセントは詰め所に向かった。]
[入り口付近まで退いていくクインジーの言葉を聞いて、カミーラはナイフを持った手を強く握り締める。表情は変わらずに。セシリアの方へ視線を移し、静かに近づく。]
この化け物めが…でたらめを言うな!
[カミーラはそう言うと、持っていたナイフをセシリアに向けて強く振り下ろす!]
[馬の上から、何度か主人を振り返る従者の表情には、不安よりも安堵が混じっていたかもしれない。
こんな場所に、義憤だか私情だか知らないが、狂った村の雰囲気が理解できていない主人と一緒に残ったら、どんな目に会うか知れたものではない。
ヴィンセントの後姿が見えなくなると、彼は馬を急がせ、逃げるようにその村を去って行った。]
[肩口にナイフが突き刺さる。
幾人もの人間を殺して来たのか、血錆びたその刃は切れ味そのものよりも、染み付いた怨念で、セシリアに苦痛を与えた。
傷口に黒く濁った染みが出来る。]
──お前の村が滅ぼされた時。
お前自身も、失われてしまったのだろう…。
[少女の姿をした悪魔による惑わしの言葉が、カミーラを襲う。
だが、それに負けじとカミーラは目の前の化け物と戦うのであった。]
やはりそういうことか。
真実を覆い隠し、まやかしをばら撒くとはな…!
私は今、この場で生きている!
この村を人狼から救い、そして貴様らのような邪悪なる者どもを撃ち滅ぼすまでは、
私は死ぬわけには…いかない!
[再びナイフによる斬撃を繰り出す。]
[寂れた村だった。彼女が足を踏み入れた時点で、すでに滅びの気配が漂っていた様に思う。][曇天][くすんだ空気]
[当時の記憶はやや曖昧なままだ。]
[この村に辿り着き、彼女がセシリアに乗り移る以前の記憶。]
[全てを失った──黒衣の女。]
[久しぶりの食事で満ちた彼女の躯は、枷と鎖で拘束されているものの、身体の内側をあたたかいものが巡り心地良かった。
淡い笑みを浮かべて、今度はナイフを避けた。
ナイフが床に当り、硬質な音を立てた。]
──…私のように拘束はされていないのだから、ナイフよりも、爪や牙を使えばいい…──。すでに人狼と化しているならば、誰に教えられなくても、使えるはず。
[攻撃を避けられて、その拍子にナイフを落としてしまう。
その後、化け物がカミーラに向けて再び惑わしの言葉を投げかける。]
…だが断る!
そんな汚らわしい行為なんぞ、
まっぴらごめんだ!
[その言葉を合図にカミーラは、攻撃を避けられた時に落とした愛用のナイフを素早く拾おうとした。]
──…本当に?
汚らしいか。
[近くに転がったままのネリーの遺体に視線。]
お前は、檻の向う側で随分とネリーと親しそうだった。
本当は喰らいたかったのでは?
このナイフも随分と穢れている。
[カミーラが拾う前に、手枷をナイフに当てる。]
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