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やれ、やれ――。
[違和感に興味を惹かれ、滅多にないことに、男は自ら扉を開けた。むわ、と霧が逆流し、その向こうからは可憐な高い咳が聞こえた]
―――。
[見たことのない少女。こちらの風貌に驚き、怯えているようだ。霧に抱かれ暫し見詰め合う固まった少女と枯れた男の姿は妙な画になっていた]
――何だ。
[男の鈍い言葉にびくりと身を震わす少女。たどたどしく、断片的な情報で、大勢のヒトが消えた、ということを聞き取った男は、ぐい、と身体を振り向かせた。壁にナイフで突き立てられた紙切れ。何処かの海の男が自慢げに見せびらかしていたその紙は、男によって血痕まで精巧に模写されていた]
ふ、ふふ、ふ。
[男はくつくつ、と喉を鳴らす。目の前の少女は呑まれたようにそれを見詰めた]
…ああ…煩わしい。面倒臭い。
正直生き死になんてどうでもいい。
だが…くつくつ。
私が死んだら、君たち、は、果てしなく困るんだろ?
うー……ん、知らないけど。
ほんとに人がいないのかな。まさか、みんな海に落ちちゃったりして?
なーんて!
……あ!、ヘンリエッタ。
///
部屋をあとにしいしい話していると、知らない部屋にはいっていくヘンリエッタの後ろ姿。
なぜだろう。がぜん興味が沸いた。
え、え、え……?
[細い細い男の醸す異様な雰囲気。
天敵に睨まれたかのように
ただただ立ちすくみ]
こ、困るって、
死ぬって、
なんですか……?
[か細い声で、聞いた]
[少年は何のことだかわからない、といった風に、地図を一瞥した。]
占い師?
もし、本当なら、頼もしいところだが・・・。
にわかに信じがたい話だよな・・・。
[少年は溜息をつき立ち上がると、伝声管を使って声を発した]
− あーあー。
ご乗船になられている皆さん、そして乗組員の安否を調べるため、一度ホールのほうに集まって下さい。
負傷された方は、医務室ではなく、ホールでヴィンセント先生が診てくださいます。
もう一度言います。
ホールに一度集まってください。
[これでいいのか?という表情を浮かべ、操舵室の扉を開く。]
一度、生存者の確認をしよう。
この嵐でやられちゃった人もいるかもしれないし。
[皆のいる方をちらりと向いて、言った。]
全員集まれば、その中に占い師ってやつがいるかもしれないしな。
[半信半疑ながら、生存者の中から、占い師を探してみるつもりでいた。]
[伝声管を使う若い船員に微かに目を細め]
それが良いかも、ね。
それでも来ない人は。少し所か怪しいし。
最も…集まるの、数人しかいなさそうなんだけど。
[ゆっくりとアーヴァインの近くから離れる様に操舵室の入り口へと向かう]
[ラッセルが伝声管ごしに船全体に伝えた言葉を聞くと、彼の表情にこくりと頷き返して。ホールへ歩みながら、ラッセルに返した]
占い師の名乗りを上げたのはヴィンセント先生。
今の所、彼以外で占い師とは聞いていないけれど……
他に居るとしたら厄介ね。
―――。
[操舵室に向けて歩き出す。自室に繋がっている伝声管の先はそう多くはない。鈍い頭で思考を巡らす。いつの間にか見ない顔が2つに増えており、彼女達が何か口々に囀っている]
――つまらない、幻想の、話だ。
くつくつ。
1人1人黄昏へ消えていき、そして、誰もいなくなる物語――
無力なアリを襲う2つの幻想のお話――
ここで無為に私が消えれば、アリはとても困る、ただソレだけの話さ。
[身体を動かしていない割りに存外早い歩きで、操舵室の前へ歩く。開こうとしたすぐそばで、扉が開いた―]
……?
放送……?
[響く館内放送。
ホールへ集まれと言う。
マンジローもまた、おや、と首を傾げて]
……皆さん、いらっしゃるでしょうか……。
蟻、
幻想、
だれも、居なくなる……?
[静かな声は不安を掻き立てる。]
……それ、って、御伽噺……ですか?
あっ、
メイ様、此方にこられたのですか?
[黒い男の雰囲気に圧倒されていたヘンリエッタは、幾許かほっとしたようだ]
占い師が他にいる?
まさか。
私のほかに殺人鬼か否かを見分ける能力を持つ人なんてこの船にはいないだろう。
この地図には何て書いてあるんだ?
[ヴィンセントも、アーヴァインの死体を後にゆっくり歩き出した。]
[少年は踊り子の方に振り向いた。]
まさか。ヴィン先生が!?
だとしたら、心強いな。
でも、二人いるって・・・?
だって、さっきの地図には・・・。
一人しか・・・。
[まだよく事態を飲み込めず、さっきの地図のことを思い出しながら、ぶつぶつ呟いた。]
[操舵室の扉の向こうで、男の声がしただろう。
開けば男の姿があっただろう。]
――十人目。
……?
[奇異な男の姿、だが今はそれを気にしている場合でも無さそうだ]
さて。
無実のアリを蹂躙しようとする2つの幻想とは、誰のことかな?
この人数で安易に悪意を向けようとしている誰かさんか?
[くつくつ。哂って、自分に悪意を向ける面々を見詰めた]
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