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[フレームが歪みかけた眼鏡の向う側で、セシリアの瞳が大きく見開かれる。
──袋の中から、無惨に痛めつけられた痕の残る顔だけを覗かせたジェーンを凝視した。]
─詰め所前─
[ルーサーは無表情のまま、大股でずんずんと歩いた。
詰め所の中で起きている騒ぎを遠巻きに眺めていた村人達は、彼が現われると気まずそうに口を噤んで、おずおずと挨拶らしきものを呟いた。
ルーサーはそれに優しく丁寧に挨拶を返しながらも、瞳の底の光は決して和らぐことはなかった。
聡い者はそれに気付き、何か一波乱起きそうな気配を感じ取っていた。]
「…………お母さん。」
[セシリアの小さな呟きが耳に届いた。]
なんだって!?
――おい
[クインジーは檻の方に向けられている袋の口の中身を確かめようと、麻袋に近づく。]
[こうして人狼に関する説明を一通り終えると、カミーラは何を思ったのか、ふと檻へ近づく。]
人が説明していたときに、さっきからブツブツとうるさかったんだけど。
[足元にあった石を拾って、檻の中にいるセシリアの顔に投げつけた。]
おっと。
[ノーマンの手下が、クインジーの行く手を阻む。]
この中には、豚が1匹入ってるだけだぜ?
犬ッころの飯になりそうだからよぉ。
コイツの口に合うかどうか聞こうと
連れてきただけなんだよ。
[彼の表情を支配するニヤニヤ]
[行く手はノーマンの手下によって阻まれた。
クインジーは心外そうに首を振った。]
やれやれ、ノーマンさん。
見せちゃァくれないんですか?
楽しそうなことなら、俺も話に混ぜてもらいたいンですがねえ……
[そう言って、唇の端を歪める]
アンタぁ、豚がそんなに見たいのかい?
下手に見ると、余計な騒ぎになるぜ。
[見下すように。]
見ちまえば、情が移って犬ッころに食わせるときに
余計な感情を持っちまうだろうが。
これは、俺なりの配慮ってもんよ。
─広場─
[檻の前には人だかりが出来ていた。
檻を中心として異様な熱気が渦巻いているのが感じられ、ルーサーは眉を顰めた。
魅入られたように立ち尽くす村人達を掻き分け、前へと進む。
肩に手を掛けられた村人はむっとして振り返ったが、相手が神父と知ると、大人しく脇にどいて彼を通した。]
[ジェーンに向かい、何時もの、家族としての、親密な笑みを浮かべかけて止める。首を横に振る。
そのままノーマンを睨みつけようとして、堪えきれなかった涙が一筋流れる。]
……仲間なんて居ないわ。
他の人狼なんて…──誰も…知らない。
[セシリアはちらりとカミーラの方を見る。
視線を向けた瞬間、石が投げ入れられ、セシリアの口元に当たった。]
…──ッ。
[それが真実、セシリアの母親だったのなら、少女はどのような反応を見せるのだろう。
魂の奥底まで人狼であるなら、母親であろうとその安否は気にかからぬだろうか。それとも、魂は未だ人であるのか。
はたまた、人狼たるセシリアは同じく人狼である母親を案じるのだろうか。
それとも、まったくの無実か――?
クインジーはノーマンと話をしながらも、セシリアの反応を注視していた。]
[セシリアへ石を投げた後、少し周囲のやりとりを見ていたその時、カミーラの身体へ眠気が急に襲ってきた。]
…う〜ん、何だか急に眠くなってきたな。
さてと、私はそろそろ宿坊に戻るとするか。
[こうしてカミーラは、就寝の為に宿坊がある*教会へ戻っていった*]
[女が、セシリアの顔に石を投げる。
周囲の男達が、その科白にわっとはやし立てる。
その様子に、表情がひきつった。
晒し物にされた罪人に、見物する側が石を投げるのは、珍しい光景ではない。
だが相手が、その少女だと知ってしまっては。]
「下手に見ると騒ぎに」
「情が移る」
[ノーマンの言葉の端から、おそらく袋の中身は想像した通りであろうと確信を得た。
ならば、わざわざ見るほどのことはない。]
なるほどねえ……
ノーマンさん、あんた、見込んだ通り行動力がある人だ。
[そう口にしていたのは、ジェーンが手酷いリンチを受け、片目が抉られていることを知らずにいたからだったが。
クインジーは今はむしろセシリアの反応に意識が向かっていた]
んんー……さすが犬ッころ。イイ声で鳴くねえ。
[やや悦に入ったような調子で。]
やめるもやめねえも、てめえの心がけ次第だぜ?
てめえの仲間ぁ、何匹だい。
[再度問う。]
[殴打][殴打][殴打]
[見えない位置から振り下ろされる棍棒]
[男達は、恐怖や嘲りを振り下ろす力に変え、殴り続ける]
[絶え間ない衝撃が息を詰まらせ、声すら上げられない][くぐもった、引き攣ったような音しか――]
[神父の声が聞こえる。彼の顔が露骨に不機嫌に。]
いえねえ、ちょっとこの子とお喋りしているだけだって。
[手下が、厳重に麻袋を取り囲む。]
[囃し立て石を投げていた周囲の者達が、ギョッとした表情でルーサーを見詰める。
その視線に全く頓着することなく彼は歩を進め、檻の側のノーマンへと近付いた。
歩きつつ、朗々と言葉を続ける。]
貴方が暴行を加えた少年は死にました。
私が先程看取りました。
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