困ったな。
少年は、かりり、と林檎飴を齧りながら思った。
雑踏の只中、辺りを見回すが母の姿は影も形も見当たらない。どうやら完全にはぐれてしまったようだ。
母は、見知ったひとに会ったから挨拶に行く、と言っていたから、そちらと話し込んでいて、自分が居ないのにまだ気付いていないのかも知れない。そのうちに気が付いたら探しに来るに違いない、それまで露店でも見ながら待っていよう。
……等と、迷子にしては随分と暢気に構えていた。少年には生まれつき、こういう胆の太いところがあった。
思わぬ自由時間と思って、改めて往来を眺めれば、本当に物珍しく心惹くものばかりだ。
射的、型抜き、かるめ焼き。
綿飴、甘酒、お面売り。
日頃、滅多に見ないものばかり、面白くて心がわくわくと躍り出す。
少年は、ずり落ちてきた額の狐面を指で押し上げた。
ぶら下げた袋の中の二匹の金魚も気になって、目の高さに掲げてじっと見る。ひらひらした尾を打ち振るって泳ぐ黒と緋の魚。また愉しくなってにんまりと笑った。