──そしてまた、今年も春は巡ってきた。
再建された社、真新しい鳥居。
幟が花びら含んだ風にはためき、奉納舞の楽の音が響き渡る。
参道には露店が立ち並び、着飾った男女がそぞろ歩く。
射的、型抜き、かるめ焼き。
綿飴、甘酒、お面売り。
はらりはらはら満開の、今を盛りの桜の木の下。
人でごった返したその中を、薄墨いろの水干姿の童子が駆けていく。
まるで人の群など最初から居らぬように、気にも留めずにすいすいと、走る。
行き交う人々の、髪に衣に桜の花びら降り懸かるなか、不思議なことに童子の周囲のみ花びらは常に舞い踊って、地に落ちるという事がない。