[目には見えねど決して消えぬ、妖の血の臭い。たとえ周囲のヒトにはわからなくても、遥月にはそれがわかる。
――妖の血のにおいを微かに纏った『ヒト』に、遥月はにこりと微笑んだ。]
おかえりなさい。お待ちしておりましたよ。
しかし…随分背が伸びましたねぇ。すぐにわたくしのことなど追い抜きそうで。嗚呼、不思議なものです。あの頃はまだまだ「わっぱ」と呼ばれていたのに……。
[――ヒトの成長は早く、命は短い。
――目の前のヒトは、少し見ぬ間にまた変わる。
――遥月は、ヒトか妖か。
――ヒトならば、ヒトと添い遂げられよう。
――妖ならば、その命は長く、いずれ再び長い長い孤独を味わうのだろう……
――その孤独こそ、彼が妖を裏切った『罰』なのか。それとも……]
それにしても、今回は長かったですねぇ。貴方が帰って来るのを心待ちにしていたら、こんなに歳をとってしまいましたよ。ふふっ……
[遥月は、目の前のヒトに手を伸ばし、にこりと微笑んだ。]
[雑踏の中、石畳に三つの足音が響く。たわいのない会話、家路に着く道程。
――花街の空は、いつしか紅い紅い夕暮れに包まれて居た――*]