[気付けば少年の足元は、深い緑瑪瑙の色をたたえた淵。
乱れる水面。瑪瑙色に飲まれゆく小さな躯。
川の瀬鳴りさえ聞こえなくなってゆく。
遠くなる空、濃くなる瑪瑙色、
そして霞む兄の姿――こぽこぽ――]
[こぽこぽ こぽこぽ][湯の沸く音]
[気付けばそこは長屋の一部屋。竃には明々と火が燃えている]
[カァン カァン カァン]
[黒髪の男が一心に鉄(くろがね)を鍛えていた]
嗚呼…あにじゃ。
…………狂うて、しまわれたな。
狂うてなくばこうも早うに、ただの鉄に魂は入らぬよ。
[鉄をうつ男には聞こえるはずもなく]
[カァン カァン...金属音は高く響く][宵も昼も]
[打たれる鉄は愛しげに、額に汗玉の光る刀匠を見上げ――]