――二階/廊下――[水盤の許に辿り着いたさつきは其の傍らへ屈みこむ。レースの手袋――ワンピースと同じく、黒であった――を外し、そっと水面に差し入れる]『いまひとたび、想う者の姿を――真実の姿を――』[無想の儘に水鏡を観じた先の折とは異なる念を籠め、緩やかに掻き動かす。方位磁石が磁北を示す様を連想した。観ずる者の名と姿を思い浮かべ、心に描いた磁針を其方へ向ける]『示されるのは――北つ枕の赤か、其れとも人の白か。 仁科、さん――』