―自室―
[ベッドの上に起きあがって辺りを見回す]
俺に、言い聞かせようとでも言うのか。
[つい手放さぬまま眠ってしまった刀を抱いた]
死に行く者を迷わせぬ事に心を砕いていた先祖を、俺は誇りに思っていた。
死んでしまった者であっても、俺がここにいるからは、せめて。
[首さえ落とせば成仏できる。そんなものは己の盲信かも知れぬという畏れが胸をかすめる。しかし]
『俺に出来ることがあるのならば』
[天賀谷とのつきあいは短いものだった。しかし、望月が天賀谷に抱いていた人間的な好意は金ゆえではなかった。
その死で取り乱すには及ばぬまでも、彼が亡者に、屍鬼に堕ちかけているならば、救ってやらねばならないと思った]