[押し迫る夜の帳を祓うように、やがて電熱灯に光が点った。照らし出された娘は、年の頃およそ15,6か。されどいま一方の姿は、其の光で浮き出た闇に却って沈み、判然としなかった]行ってしもた、なぁ……。うち、ほんまに行ってしもてもええんやろか。[風がさわさわと木々をなびかせ、其れに乗って娘の呟きが駅員の耳に届いた。山間ながらも、さして寒いとは感じられぬそよ風だった。とはいえさすがに焦れたのか、同行者は娘の袖を引く。さつきさん、という呼びかけを彼は聞き取り、娘の名を認識した]