――客室――
[紅茶にブランデーを落としたものをゆっくりと啜りながら、ローズマリーは一冊の本に目を通す。
それは生前、唯一アーヴァインから貰った思い出の品。今となっては形見になってしまったもの――]
懐かしいな…。いつも一人で寂しかったわたしに…プレゼントしてくれたんだっけ…。
「自分もこれを読んで寂しさを紛らわしていたから」って――。
でもあの人の心の中にはいつもアンナさんが居た――。どんな時もアンナさんの面影を追っていた。わたしを抱いている時も、亡くなってしまった今でさえ――
……嘘つきね、アーヴァインさんって…。ホント嘘が上手で困っちゃう…。
――でも…。本当の嘘つきは…。
あなただったのね、ステラさん。
[本を閉じ、冷めた紅茶を飲み干して、静かに気配がある方に視線を送る。]
一番最初に狼の話題を出したあなたが――まさか人狼だったとはね…。
[そこには生前の姿などは微塵も感じさせない異形の魂が、夥しい憎悪を振り撒きながら浮遊していた。]