─初日の地下室回想─
[地下室特有の湿り気を帯びた匂いと何処か淫靡さを巧妙に織り交ぜた匂いが、扉を開けた事により鼻腔を擽った───ように思えた]
[地下室と謂えば、陰湿さと背徳の華を思わせる場所]
[日頃より陽の当たらない場所であるという認識が、そう思わせるのだろう]
[エレノアは躊躇うように止まった足を、ひんやりとした地下室へ一歩踏み入れた]
[カツン]
[ヒールが石の階段に当たり、硬質な音を響かせた]
[ぽっかりと空く穴の中へと入ってしまえば、どうなるのだろうか。ふと、夫の顔が思い出されたが、彼がいけないのだ。愛していると言ってくれたとしても、家で独りいる事の寂しさを心から分かってくれているのか───エレノアの疑いが、心の隙を呼んだのだった]
[意外にも空調が効いているのか、最初に扉を開けた時に薫った匂いは既に感じられない。幻だったのだろうか…?]