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[細まる金。
宵闇の三日月を思わせるかの如く]
そうか。
ではそういうことにしておこう。
[すぅと伸ばす腕。
その先に在る扇は微かな音と共に閉じられて]
[ぱちん]
[閉じきれば薄まり行く香。
次第に幻も解け消え逝く]
嗚呼、鼻が良い者にはきつかろうな。
それは悪いことをしてしまった。
[扇はすとんと懐に収め]
…綺麗と思われるならば幸いに。
ちぃと遅くなるかもしれねぇが
獅子舞で運んで見せるぜ。こんな風になぁ。
[大きな掌動かして、
獅子の口の動きを真似る。
潤む碧、見て笑んで]
呆れて碧を袖にするなんざ勿体ねぇ。
俺が珍しいんじゃねぇ、見る眼がないやつが多いんじゃねぇか?
なぁんてな。
[ぱちんと鳴る音小気味よく
扇が閉じられ櫻が消える。
最後の一片掌に捕まえるように握ってみせて]
そういうことにしといてくれや。
良いもの見せてもらったぜ。
何か礼をしねぇとなぁ。
司棋の兄さんところの夜斗もさぞ辛かろうってネェ。
[消え逝く桜] [瞬いても] [碧は潤んだ侭]
なんだい、もう仕舞いかえ?
でも好いもンが見れたヨゥ、有難うネェ。
司棋の兄さんの居ない折にはまた見せと呉れヨゥ。
[赤鬼の] [大きな手] [動く様] [見守り]
[やがて何時もの] [碧の双眸] [ニィと笑み]
見る目が無い奴が大半たァ寂しいネェ。
喰児は構って呉れるから其の分寂しさ消えて嬉しいけれど、アタシァ気が短いから林檎飴は出来るだけ早く頼むヨゥ。
[握ったところで後には何も残らない。
幻は刹那に消える]
その言葉で充分。
我は最初から見返りなぞ求めるつもりはない。
[流すように着ていた浴衣。
僅か肌蹴けかけるのを簡易に直す]
[潤んだままの碧。
ひとつ頷いて]
あまり長くは持たぬ。
長すぎては戻ってこられなくなるやもしれぬしな。
幻は偽り。
次は真に咲くのを愉しめば良い。
[カラリコロリ 遠巻きに眺める柳の輪]
[橋にかかる墨色は 半日立てばさらさら風に舞い
水の音の向こうに消える]
……また逢おうぞ。
[くるり橋に背を向けて 空気がゆらめく
ゆらり 御狐の姿。
現れる姿にゆるり、男は深々と面を下げる]
[告げられる言葉。
空気に解ける御狐を見送る藍は。
静かに瞬き、空を仰ぐ]
[開いた掌何も無く、残り香だけが漂った]
言葉だけで十分かい、
慎ましやかだねぇ、琥珀の兄さんは。
まあ何だ、そのうち俺が勝手になんか持って行くかもなぁ。
何せ初物見せてもらったわけだしな。
[ひらり手を振り余韻を味わう。
次に咲くのは真の花。真理に視線を投げてよこして]
埋もれた花を見つけられない奴らは不幸だぜえ?
皆もっと眼を鍛えるべきなのさ。
林檎飴は赤鬼青鬼に任せておきな。
[不意にすっくと立ち上がり]
獅子舞の頭でも探しに行くとするかあ。
あんな綺麗な櫻見せられちゃあこっちも気合入れないわけにはいかねえからな。
また夜に呑むとしようぜ。
かっかっかっかっか。
良いだろう。良いだろう。
[藍の瞳は細く細く]
――主様それが己の罰か。
良かろう良かろう、
赤にでも黒にでも如何様にでも染めてみせようか。
しかしそれも気分の内だがよかろうて。なぁ?
[カラからカラ 鳴る下駄。笑う声]
[林檎飴ひとつ手にふらりと何処へ行くか]
長く持たぬは惜しいネェ。
戻って来なくとも好いのにさァ。
[刹那] [遠い碧] [瞬き] [戻る] [桜の幹に身をもたせ]
[浴衣を直す様] [見詰め] [こつり] [頭を幹に寄せるか]
偽りも真も如何でも好いヨゥ。
でもこン子が咲けばきっとまた楽しいのだろうネェ。
[赤鬼の言葉] [コロコロコロリ] [笑う声]
アタシにつれないは気の毒だと思っておくさァ。
赤鬼青鬼に今宵は可愛い犬っころまで居そうだしネェ。
往くンかえ?
獅子舞も楽しみにしとくヨゥ。
[ふわ、と風とともに夜斗を伴い泉の近くへ。
それでも幻を見せる人妖達には見えぬよう
未だ残る香にまた眩暈を覚え]
〜…っ。
あぁ。幻は終わったのですか…。よかった…
[ふらり、立ち上がり少しにらむ様に翠の君へ]
…さっきの食われるとは…どういう意味で…?
あまりご冗談はお止めてくださいよ?
おや、お帰りかえ?
[睨む眼差し] [覗く碧は涼しげに] [弧に笑むばかり]
冗談なんざァ喰われかけておいて謂えた事かえ?
気をつけないと司棋の兄さんは本当に喰われちまいそうだネェ。
[コロコロコロリ] [笑う声軽く] [けれど優しく響こうか]
…求めたところで何も得られはせぬ。
それを知ったまでのこと。
無理に用意せずとも良い。
賛辞の言葉が最大の礼だ。
[直す浴衣は所詮簡易。
僅か乱れたままも気にせずに]
幻も無きに独り幻を漂うか?
刹那の愉しみすら消え失すぞ。
[つぃと向かう視線。
幹に頭を寄せるを見れば、琥珀を細める]
[そうして立ち上がる隻眼に]
嗚呼、往くのか。
また何れ、恐らく会わぬことはあるまい。
食われ…かけ…って…
[一瞬で顔に紅葉を散らし]
はぁ、大丈夫でしょう、誰もそんな物好きはおりませぬよ。寧ろ貴女がご留意すべきでは?
もっとも、そんなやからは明日明後日代わりに夜斗が本当の意味で喰ってくれましょうに。
おうよ、今宵は賑やかになりそうだぁな。
[ひらひら手振り歩き出す。
カラコロなるのは誰の下駄]
鬼さんこちら、
手の鳴る方へ……
[低く歌うわらべ歌、*雪洞の間を縫って溶け*]
[泉から離れた桜の木の影。ふらり姿を現す]
かっかっか。なんぞ皆で水浴びでもしとったか。
おやおや昨夜に無い顔。お初にお目にかかる。
まだ見ぬお仲間はちらほらおるのかのう。
[幹に頭寄せた侭] [碧の眼差しだけ] [すぃと琥珀へ移り]
枯れぬ華は詰まらないネェ。
けれど咲き乱れる桜が散り逝き続けるなら好いンだヨゥ。
刹那よりも望むもンが其処にはあるかも知れないのさァ。
[謡う赤鬼の背] [ひらり手を振り] [笑い] [現れる青鬼]
人が多くて水浴びが出来ずに難儀してたところさァ。
逢ってない奴ァ判らないけれど、未だ居るかもネェ。
[パシャリ][跳ねた水の音]
[陸にあがれば衣を着込み]
何じゃ、宴は終わりかえ?
美しい花が一瞬見えた気がしたが――。
[周りに在るはつぼみの桜花]
――咲いた姿ばかりが美しいとは限らんが
惜しいことをした気分じゃ。
[くすくす笑う][袖は口元]
[去る赤鬼と見えた青鬼]
[からころり]
[鳴る下駄の音に振り返り]
[映るは藍い]
……『茄子』?
[呼び名はそれしか知らず。
問う顔は到って真顔]
[向けられる碧。
逃れるようにか、琥珀は天に広がる枝へ]
人は桜は散るからこそというが。
所詮桜は刹那の身か。
散り逝き続ける桜に何ぞ見る?
[まるで少女の様にか] [染まる頬] [見詰め] [眇める碧]
アタシァ気をつけなくたってェ、誰も喰やしないヨゥ。
精々が呆れて遊んで呉れる程度さァ。
夜斗はアタシが危なくなっても助けて呉れるンかえ?
其んなら頼もしいネェ。
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