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飴も物の怪もお前さんには同じものか。
[呆れ顔で返す。手の平に滲む墨。
息をかけるとさらり、煤に還り傷跡残すか]
さぁて、己の正体は如何かの。
気が向かぬから教えてやらん。
[手を伸ばし、林檎飴受け取り齧る]
……馬鹿を申すなとさっきも云うただろうて。
お前さんの戯言は戯言に聞こえぬわ。
それとも仲違いでもさせたいか。
美味しければ其ンで好いヨゥ。
おや、つれないネェ。
哀しい、淋しいと泣いて見せようかえ?
[言葉と裏腹] [コロコロ笑い] [カリリッ] [苺飴齧り]
本気も本気の鬼ごっこするンなら其れも面白いネェ。
いっそ此処で茄子の兄さんを喰ろうて喰児と鬼ごっこでもしようかィ。
逆に喰児を喰ろうたら茄子の兄さんはアタシと遊んでお呉れかネェ。
はいはい、はい。
泣くのなの字も見えんぞ。
[しれっと飴齧る]
それならいっそ此処で己がお前を食らうてやるか?
しかしそれでは己が喰に喰われてしまうわ。
どちらにせよぐるりひと巡りの鬼ごっこになるじゃろうて。
己の気に入るものを喰われれば己が食い返す。
それとて他も同じものだ。延々喰うか喰われるか。
どちらか食い尽くされるまで終わらぬ。
生憎アタシァ喰う専門さァ。
[吊り上がった] [薔薇色の唇] [戻った筈の] [碧の双眸]
[やおら潤み] [ニィと笑んだ侭] [白い頬伝うは] [透明な雫]
[瞬けば益々零れるから] [長い睫毛] [震えるばかり]
[藍を見詰め] [薔薇色の唇] [尚もニィと笑んだ侭に]
厭だヨゥ、笑ってるさァ。
其れとも泣けば慰めてお呉れかえ?
[藍の瞳は困惑を浮かべ][常葉の女を計りあぐねている様]
笑っているなら、頬を拭え。
泣かれるのは嫌いじゃ。
煩くて、煩わしくて、泣き止むまで如何にもし様が無い。
お前は泣いているのか笑っているのか。どちらだ。
茄子の兄さんに嫌がらせ出来るンなら、では泣こうかィ、喚こうかィ。
欲しけりゃ目玉一つ呉れてやるヨゥ。
[笑み] [崩れる前に] [俯き] [雫] [はらはら零れ]
[白の袖] [顔を覆い] [声も無く] [震えれば] [袂の墨も揺れ]
[するり手を伸ばし、袂を除けると落ちる涙、指に当たる。
涙の痕に浮かぶ薄墨、眉根を寄せて、指握りこむ]
[次いで伸ばす手、頭に置いて]
では好きなだけ泣け、喚け。
それでも触れてくれるな、痛くて痛くて解けてしまう。
墨がぱきりとひび入ってしまう。
泣き止んだら顔を上げろ、それからじっとしていれば良い。
墨絵の茄子の兄さん解かしちまおうかィ。
[歪む視界] [ぼやけた墨色] [袖に隠れ] [噛み締める唇]
[乗せられる手] [声は漏れず] [静かに] [はらり] [はらはら]
[零れる雫] [白の袖濡らし] [落ちれば墨も] [染めるか]
嗚呼、嗚呼、情けないネェ。
遊びの時間は是からだって謂うのにさァ。
ほら、もう泣いてないヨゥ。
目玉一つ持ってくが好いさァ。
[顔を上げ] [未だ濡れる] [長い睫毛] [震え] [ニィと笑み]
ほんに情けない。
誰も彼もわっぱのようじゃ。
[からり、ひとつ笑い。
顔上げる常葉の女、頭から手はゆるり離れて
変わりに動かぬようにと顎を持つ]
鼻汁は垂らしていないようじゃな。
まあ、良かろうて。ほれ屈め、そのまま動くなよ。
[するりと口寄せ、濡れる睫毛に口付け瞼を舐める。
ざらりと舌はそのまま目のふちをなぞり
涙掬って 差し入れ 眼球転がし
水音立て 唇離れ つうと伝う銀糸もひと舐め攫う。
両の目そうして舐めとれば、目玉は喰わずに置いておく]
良く泣くわっぱの目玉喰えば、
次の目玉も直ぐ食う事になろうて。
盲目の手をひくのも手間ゆえ。これで勘弁してやろう。
[顎掴まれ] [僅か眉根寄せ] [濡れた碧] [藍] [見詰めて]
[大人しく] [碧の眸] [舐められ] [片側終り] [瞬いて]
[また寄る顔] [逆の眼] [舐めて] [離れる顔に] [戦慄き]
[白い手] [空を切り] [青鬼の頬] [打つ] [乾いた音]
目玉呉れてやると謂い、何で手を引けと頼むのさァ。
幾ら情けなくとも其処まで落ちぶれちゃ居ないヨゥ。
[白い手] [己が眼に伸ばし] [片目抉り] [飛び散る紅]
[薔薇色の唇] [血に塗れた碧] [寄せて] [くちゃり] [食む]
次に泣いても目玉はやらないさァ。
変わりに墨絵を解かそうかィ。
[黒々と竜蛇を思わす幹にその身を預け]
[高枝の上で夢うつつに微睡む。]
[白き花霞に包まれて。]
[もとより耳目は飾りに過ぎねど]
[見ても視えず][聞いても聴こえず]
[夢幻のうちに揺蕩う。]
[下界を望めば、]
[物の怪どもが凶事に打ち騒ぐ様]
[穏かならぬ気配に覆われゆく様が、ありありと見えようが]
[心幽境に遊ぶ墨染めの衣には知るべくも無い。]
[打たれた頬。飛ぶ紅。薔薇の唇添える赤]
―――っ
[藍は目を見張り]
かっかっかっか
[からからから空を見上げて笑う。
腹の底から笑う 笑う。ひとしきり底から笑った後に、
藍の目細めて弧を描く、細く細く弧を描く]
――気に入った。
目玉の無礼の代わりじゃ。
己と本気の鬼ごっこ解かすか喰うか、いつでも参れ。
さて、嘘か真か戯言かわからぬ己とお前よ、
お前は黒猫描けと言えば良い。己は黒猫描きに来たと言えば良い。
それでお前の魂食らうか己の魂食らわれるか、
鬼ごっこのはじまりじゃぁ
[片目抑え] [零れ] [白の浴衣] [紅く染まる]
[残る碧] [糸の如き弧を描く藍] [覗き込み]
一つ謂い忘れたヨゥ。
アタシの赦し無く触れた分は呪(まじな)いがかかる筈さァ。
片目と謂うに両目舐められちまったからネェ。
アタシの残るこの眼も何れ腐れ落ちる。
けれど兄さんの片目も同時に腐れ落ちるヨゥ。
[ニィと笑み] [片目抑えて] [片目瞬き]
まだまだ本気の鬼ごっこにゃ足りないさァ。
盲目になっちまう前には鬼ごっこ出来ると好いけどネェ。
[片目顰めて、残る碧を焼き付ける]
かっかっか、成る程成る程。
それもまた愉快じゃ。己の片目のひとつ解ける前に往くか。
お前の両の目潰れたその時は、残るもの全て攫いに往こうぞ。
後にも先にも約束一つ。
如何なる時にも合いの言葉で己はお前を食らいに行く。
本気になる前に、よその誰かに食われてくれるなよ。
たとえ喰児だろうて、邪魔をするなら容赦はせんわ。
[くつり笑む藍の色は強く、睨む程強く強く常葉を刻み
ゆるり背を向け歩き出す。何時の間にか落とした林檎飴拾い上げ]
はよう本気になれ常葉の娘。
[言の葉と番傘残してぺたりぺたりと木立の*向こうへ*]
[覗く藍] [真っ直ぐに] [見詰め返す] [隻眼の碧]
生憎と盲目に成ったくらいじゃそう易々と攫われやしないヨゥ。
さァてネェ、アタシァ気紛れだからさァ。
でも鶏より足りない頭でも一応は覚えておこうかィ。
[睨む程] [強い藍] [見据える碧] [弧を描く]
そンならそろそろ咲き乱れようかィ。
でも茄子の兄さんもさっさと本気におなりヨゥ。
[ぱたぱた] [紅零し] [苺飴片手に] [青鬼と逆へ*歩き出す*]
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