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……夜斗様は夜斗様。
貴方様と命を共にすれども、夜斗様「だけ」でそのような姿にはなりますまいて。
見え透いた嘘はお止め下さいな。本当のことを言いなさい!
貴方様は、本当はヒト……狩人なのでしょう!?
万次郎様の「目」が、司棋様を狩人だと告げました。万次郎様の言葉を鵜呑みにすることはできませぬが、しかし手掛かりにはなりましょう!
さあ……お答えなさい。
場合によっては………
[化粧の道具箱に掛けた風呂敷をそっと外し…]
司棋様……貴方を、喰らいます。
[毒紅の器を取り出した。]
[藍を見る目は穏やかに]
[自分もゆるりと瞼を伏せて]
[繋いだ手と手をきゅっと握れば]
[言葉を紡ぎ、目をあける]
妾の目を――奥まで覗け
[藍と視線が会えば同時に]
[緋色の奥は水のように透き通り]
[奥に波紋が拡がれば]
[魂は幻影にとらわれよう――]
なかなか面白いだろお?
青鬼赤鬼の本気が見れるぜえ。
[くつくつ笑いでからかうように]
手ぇさえ出さなきゃ
見ようと見られまいと俺ぁかまやしねぇさあ。
相棒はどう答えるかねえ。
ん、相棒の頭が必要かい?
そんならちぃと気をつけるとしようかねえ。
ああ、手加減しねぇように気をつけねえとなあ。
[芳しいのは血の香り。]
仔猫たああのちいせぇのの事かあ?
蝶か。
血ぃ吸ったら綺麗だろうなあ。
心の臓が効いたんなら結構なことさあ。
そういや琥珀のは何処いったあ?
なんだかんだで来てたろう。
[手をつき肩越し振り返り
眇めて見るのは夜の闇]
酒でも見繕ってる……にしちゃぁ遅ぇなあ。
食らう……やもしれませぬ。
[びゅお、とひとつ風が吹く。紅の器を司棋の顔目掛けて投げつけ、遥月は高く飛んだ。
月明りに照らされ黒く映る影は、司棋の背後を取らんとす。]
[見据える強き視線] [受け止める] [互い違いの双眸]
[うたう双刀] [ちらと見遣り] [酒煽り] [ニィと笑み]
他に猫ァ見かけてないヨゥ。
鬼ごっこが始まったから混ぜて貰ったのさァ。
[くつくつと] [赤鬼笑う] [見詰め浮かぶ] [三日月の笑み]
本気が見れると好いネェ。
誰も彼も本気と謂いながら刹那に遊ぶにゃ全然足りてないのさァ。
其ンじゃ茄子の兄さんに一言断ってお邪魔しようかィ。
別に無くたって片目腐れるだけだヨゥ。
茄子の兄さん負けるンなら冥土の土産に呉れてやっても好いさァ。
詰まらない事なンざァ忘れて刹那を楽しみなヨゥ。
こン子は魂しか喰わないが紅ァい紅ァい血の中で舞うのさァ。
心の臓のお陰で楽しい鬼ごっこも出来たヨゥ。
[唐突に顔に紅を投げられ一瞬ひるむも、飛び掛らんとした夜斗を制し。
遥月へ背後を取られたが、何も抵抗をせず]
貴方なら、かまいませんよ。
僕とて望んで狩るものになった訳でもあるまいに。
[落ち着いたように言葉を紡ぐ。
然し顔は青ざめ、わからぬほど小さく、震えては痛けれども]
[振り返った首戻し
碧の微笑み見てにやり]
刹那に足りねぇ、足りねえ、
もういいかい、まあだだよ、だ。
そろそろ満ちねぇと鬼ごっこで捕まった奴らが増えて来ちまったからねえ。
そうしてくれや。
碧の眼が腐れ落ちんのは勿体ねえなあ。
まあ、残ったら残ったとき。
残らなけりゃ残ったときさ。
紅い血かあ。紅の蝶はさぞいい色してるんだろうねぇ。
そいつぁ佳かった。愉しいのが一番さあ。
[がし…と音を立て、首を絞めんと司棋の首に腕を回す。]
……お覚悟が出来て居るようで。その意気や、よろしゅう御座います。
しかして、わたくしの食らい方と申しますれば、貴方様のそれとは違い……わたくしが欲しますのは血肉では御座いませぬ。
[首に絡めた両腕を解き、司棋の目を塞ぎながら彼の顔を後ろに向かせ、唇に触れる寸前の所で語る。]
わたくしは……貴方様の中に眠る慾を、捕らえて食らう妖し……
[紅を眺める藍は穏やかに、奥を映して幻揺れる]
[桜咲く山の奥。
古びたあばら家、縁側に。
鳴くウグイス、暁覚えず昼下がり。
転がる畳に散る花びらの影落ちる。
茅葺屋根に新緑芽吹く。
向日葵咲いた落ちる夕日に影絵のように。
蝉鳴く鳴く、夏の夕暮れ。
紅葉そまる秋の山
赤い実つつく小鳥の姿。
紅葉眺める下駄の下
さくりと鳴った。霜降り始める朝
しんしんと雪積もる庭。
夜更けてもほの明るいままに
音は消えうせ、誰も彼も眠る冬の夜。
墨下ろして、静かに静かに春を待つ]
[さくらさくらさくらさく
巡りて春に筆持つ指も墨へと還り。
やがて風乗りどこへ行く]
[浮かび映ろう季節の幻
春巡り夏きて秋過ぎ冬迎え、春訪れる]
[言も無く眺め
ゆるり瞬き困ったような笑み浮かべた]
やれやれ。
手など握るから、己は百鬼に成りきれんようじゃ。
[ぎゅっと眉間に皺をよせ
憤るか哀しいか。
定かではなくも、何かしらの感情は持ち合わせ]
…メイを、喰ろうたか。
そうか。そうか……あの猫をな。
あやつは、なんの悪さもせなんだ。
だのに其方は…―――メイを、喰ろうた―――…と。
鬼ごっこが聞いて呆れる…!
疑わしくもない奴を、そうほいほい喰らうことが
主様の望みと思うてか!
……其方、名を明かせ。
明かさぬのなら、斬る。
[言いながら、既に手は柄に。
手が震える訳もなかろうに鍔は
チリチリ カタカタ
カタカタ チリチリ
歓びうたう]
[目をふさがれて、唇寸前で感じる吐息にびくりと体を緊張させ]
何、を…?
[いつぞやの酒の席、彼が情やら欲やらと言うを聞いていたか]
夜…斗…!
[本能的に逃げようと体を捩り、夜斗を呼ぶも、主人の頭と気持ちの混乱のせいで夜斗も姿を維持できないか、そのまま蛍となって消え]
や…っ
嗚呼、足りないさァ。
捕まって喰らわれるンかえ?
さて、どっちが捕まえたンかネェ。
そうさァ、何も考えず刹那を遊ンど呉れヨゥ。
さァて、こン子が舞うンは何時かネェ。
喰児が茄子の兄さんに勝ちゃ見れるかも知れないヨゥ。
[万次郎の声] [すぃ] [眇めた双眸] [ニィと笑み]
[うたう刀] [呼応するかの様に] [黒き蝶] [白の面で舞う]
疑わしいか疑わしくないかなンざァアタシァ最初っから気にして無いヨゥ。
アタシァ主様の為に在るんじゃ無くってェアタシの為に在るのさァ。
誰かの為なンてェ戯言吐く様な奴にゃこン名を呉れて遣る気は無いヨゥ。
欲しけりゃ喰児から奪うと好いさァ。
………そう。
ヒトも妖しも、等しく逃げられぬ定め……。
肉を食らい、悦を求め、それを仮初の「愛」と為す……。幻覚に囚われる、愚かな生き物に御座います……
[司棋の体を抱き締める遥月の腕はそうっと下り、彼の襟の奥に掌を忍ばせる。]
司棋様。後々の為に教えて差し上げましょう……
[司棋の身体を強く抱き締め、囁く。]
いつの世も、逢瀬で「愛」を語るは身の破滅……
呉れ呉れも、「愛している」とはおっしゃらぬよう………!
[そう言うと、遥月は司棋の唇に、深く激しく口づけた――]
[目の前を流るる季節の巡り
初めて見ゆる幻に
ただただ呆然と目を瞬かせ]
なぜ……
何故わらわにも見えるのか。
他人の幻を見たのは初めてじゃ――
[悪い幻を懸念していただけに、見えることにも巡る季節にもただただ目をまるくすることしかできなくて]
この桜は――いつぞや汝れが言うていた景色か。
[青司を見上げ、けれど百鬼になれぬという言葉に]
どういう意味じゃ?
さて、どっちだろうなあ。
俺ぁ喰う方が好きさぁ。
ああ、舞う様見てみたいねえ。
いい鬼ごっこができそうさ。
[刹那に遊ぶ鬼が居る。
今までになく愉しげに]
なんだい、万次郎。
碧の名がほしいのかあ?
[ゆらり、緋色の気配が揺れる]
こいつぁ俺んだからなあ。
くれてやるわけにゃいかねえさあ。
情なぞ持つからでしょうに。
貴方様より僕の方が万次郎様に切られるべきなんですがね。
あれだけ苦しめて殺してやったら、僕は気が済んだのですが。
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