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仮令相手が喰わずともアタシァ恋われりゃ喰っちまうからネェ。
咲き乱れるにゃ早過ぎるヨゥ。
[笑う遥月] [舞う花弁] [色めく空気] [潤む碧]
甘露な蝶なら以前ひとつ捕まえたヨゥ。
アタシの糸に何時気付いたンか、蝶だからかネェ。
遥月の兄さんは蜘蛛はお嫌いかえ?
[出される盃] [白の手伸べて] [傾く瓢箪] [とぷとぷり]
[青鬼唸り] [此方を見るに] [碧濡らして] [ニィと笑み]
誰が如何思おうと勝手さァ。
アタシァ、アタシ、其ンだけだヨゥ。
お帰りィ、白水の姐さん。
姐さんも呑むかえ?
まったく、月には敵わぬわ。
己は今日も手ぶらよ。酒ならほら常葉の娘にたかると良い。
[空いた手で司棋の髪わしわし。八つ当たり。
カラコロ下駄鳴るそちらを見れば白の姿]
今宵も酒の席は盛況だ。
桜さく酒を飲まねばなんとしよう。
[赤鬼の酔いしれる様子にくつりと笑んで、
杯カリと噛み、口元を上げる]
ああ。実に清清しい顔をしとったぞ。
あの面にして咲く花のようじゃったわ。かっかっか。
[遥月の言葉に僅かに首を傾げて]
妾を鮮烈な刺激を抱く果実と表すか。
図りかねるが汝れがそう言うのであればそうなのかのぅ?
[反対側に首傾げ]
[青司の姿が目に留まれば]
やはり、花見酒――かの?
今日も注ごうか。
近頃は、飲むより注ぐ方が性に合っているようじゃ。
[曖昧な笑み]
おう、今日も賑やかだぁな。
鬼の鬼ごっこもいいが
こういう酒宴が常にあるのはありがてぇ。
[ひらり振る手は白水に。]
遥月も呑みたいかぁ。
いいこった。
昨日の様子を見るにいけるクチだと思うが、
どうだい?
[揺らめく月のたおやかな影、
其の眦は櫻の端の紅に似る。]
[社に背き歩けばやがて辿り着くは朱の鳥居]
…嗚呼、出られはせぬというに。
戻るところで何も在りはせぬに。
やれ…戻りて何せうぞ。
[懐の内、右の腕。
ゆぅるり上げれば鳥居を伝う]
……やれ、面倒を思い出した。
舞いを約束していたな…
[気配は読めねども]
[在る場所は一箇所か]
[満たされた盃の中身を、ついと飲み干す。]
いいええ、常盤様。
わたくしは蜘蛛を好いて御座います。わたくしの身を捕らえて放さぬ蜘蛛様を、どうして嫌うことができましょう……?
嗚呼、わたくしの毒に犯され焼かれぬ蜘蛛様なら尚のこと。
[紅色の視線は、舐め尽くすように常盤を見回す。]
ところで……常盤様に囚われた、哀しくも羨ましい蝶殿は何処に?
嗚呼、聞くが野暮ならどうぞこの質問は御捨て下さいませね。
アタシァどうせ直ぐに全部忘れちまうヨゥ。
でも面白いから覚えておこうかネェ。
[青鬼見遣り] [ニィと笑み]
童の謎かけより簡単だと思うけどさァ。
さて眼を喰われたら代わりに何を貰おうかネェ。
[品定めるか] [濡れた碧眇め]
[赤鬼の声] [薔薇色の唇] [吊り上げ]
好いネェ、乾杯なんざァついぞしてないさァ。
ほゥら、喰児の盃をお出しヨゥ。
[ちゃぷり] [瓢箪揺らし] [ニィと笑み] [潤む碧]
[ひら] [ひら] [はらり] [金色に映る薄紅] [覗く]
開那の兄さんにも司棋の兄さんにも舞う花弁の時を貰い、日毎見る櫻は蕾を膨らませて、今宵は有塵の兄さんの桜のせいで狂ってるだけさァ。
咲き乱れたら甘露な涙零して喰児を惑わせてみようかえ?
[月へと向けた呆れ顔はふいと消えて]
ああ、お前さんはお前さんか。
咲き乱れるも恋われるのも良いが、
己の相棒食ってくれるなよ。
[常葉の言葉に目を細めくつり笑う。
白の申し出に、咥えていた杯手に落とし差し出して]
では貰おうか。
近頃と云うのなら以前は酒飲みか。
いいえ喰児様。
わたくしはさほど御酒には強く御座いませぬ。
戴ける盃は、有り難く頂戴致しますが。
[桜の花びらの紅を見せるように、目を閉じて笑う。]
そりゃあいい、
墨櫻の精も満開かぁ。
[青鬼見つつくつくつ笑い]
ああ、司棋はまだ寝たままかい、
寝る子は育つってなぁ。
夜斗は何処へ行っちまったんだい?
お散歩かあ?
[司棋の鼻先軽く弾いて]
嗚呼、開耶様。ごきげんうるわしゅう。
今日も佳い香りですねぇ。
[ほんのりと紅潮した頬と首筋、盃を持つ白い手首。遥月は、紅を纏った視線を開耶に向けた。]
いつにも増して色香が漂うなぁ、遥月。
謂っても会ったのはついこの間だがねえ。
[真理が勧める甘露の酒に
己が手にある杯差しだし]
そんならこれから乾杯だ。
花びらも呑みほすくらいに呑んでやれ。
有塵は騒がしいと睨むかもしれねぇがなあ。
[僅かに顔上げ櫻を見上げ、
泪の話に及ぶの聞けば]
そいつぁいけねえ、それこそ甘露さ。
佳い女の泪の前には形無しさあ。
[真意の見えぬ物言いで]
[出された杯][とくりと満たす]
飲んでも酔えぬが――よく飲んでおったな。
この身に湧き出る泉の力が酒を綺麗に流してしまう。
難儀よのぅ。
[司棋に視線を這わせれば]
あれからずっと寝ておるか。
わっぱと言われても仕方なきことやもしれん。
[くすくす笑う]
ええ、白水様。
キリリと辛い刺激を持つ果実……。
白水様の纏う色――上質な絹を思わせる黒と、目の醒めるような鮮やかな白、その色其のままですよ。
毒持つ蝶に遊ぶ蜘蛛かえ?
蜘蛛を厭わぬ蝶たァ嬉しいヨゥ。
遥月の兄さんの毒に焼かれぬ様に気をつけないとネェ。
[乾く遥月の盃] [白の手伸べて] [とぷとぷり]
[視線に瞬き] [問いに] [また瞬き] [益々潤む碧]
蝶はアタシに成ったのさァ。
晒しはせぬが遥月の兄さんの胸と同じく蝶が翅を休めてるヨゥ。
[青鬼の声] [つぃと顔向け] [ニィと笑み]
アタシァ恋われりゃ誰でも喰っちまうさァ。
謂うならアタシじゃなくて相棒に釘をお刺しヨゥ。
[遥月の声かけるに] [濡れた碧の眼差し] [向き直る]
[常葉の女に苦笑を浮かべ]
直ぐに忘れるとは鶏か。
やれやれ余計な事ばかり憶えてもしかたなかろうに。
では童の次にわからぬわ。
[浮かぶ笑みにこちらの瞳も細く弧を描く]
さあてなぁ?
食われたならばお前さんが決めればよかろうて。
[言い終えてからり笑うと、くつくつ笑う赤鬼へ]
ああ、よきかなよきかな。
桜咲くのは良い事だ。
夜斗はあれから見てないのう。
芸を気張りすぎて今頃何処かで寝こけておるかもしれんな。
育ってもこの有様ではいつまでもわっぱよ。かっかっか。
俺の心配してくれるのかい、
泣けるねぇ相棒。
[すいと杯呑み乾して
藍を見つめて笑い顔。]
強くないが受けた杯は乾すんだなあ。
そりゃあいい、
そういう心意気は好ましいぜえ。
[遥月は更に酒を呑む。
紅眦はいよいよ赤く。
また赤鬼も酒を乾す。]
呑んで酔えねぇのは難儀だねえ。
騒ぐ白水も見てみたいがなあ。
歌を歌ったりするのかね。
――くつくつ。
いやですねぇ、喰児様。
わたくしを褒めても、深みある甘露は出せませんよ?
わたくしは男、寄る辺無き身。女人の涙には敵いますまい。
――くつくつ、くつくつ。
なんなら、お好きな味を試されてはいかが?
甘露に、ハッカ……毒の蜜。
――くつくつ、くつくつ。
[白に差し出す杯満たされて、
水面に落ちるは桜のひとひら]
飲んでも酔えぬか、それもまた難儀だろうて。
泉……ふむ、触れれば濡れるか?
[訝しげに白を見遣ってから
司棋へと視線を落とす]
さてはて、何と言っていたか。
[杯口につけ、ひとつ唸る]
口付ければ起きると申しておったかのう。
気づかないほど寝こけていれば効果はなさそうだが。
[わっぱの鼻をむにりと摘む]
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