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[本気とも冗談とも付かぬ声音で言い掛けて]
[物憂げな微笑に気付き、]
……済まぬな。遥月。
もう言わぬ。
[目を背け、残りの酒を一息に呷る。]
だから遠くで見るだけ、
相手が居る者に焦がれて咽ぶのかい?
[いつか謂われたその言葉、
繰り返しては覗き込み]
そうだなあ。
男色の気が無くても惑わされるものもあろうさあ。
[有塵の言葉に含み笑い。]
また熱うなってきた。
[空の瓢箪放り出し、己の分身の幹に背を凭れ掛けさせて]
[頭を付けて天を仰ぐ。]
[熟柿の香漂わす熱い息を深くついた。]
喰児。酒。
[少しく酔いが醒めた蒼褪めた顔で瓢箪を取り、]
酔うたか。おれとしたことが。
[言い訳がましく呟いて、急いで酒を口にし喉鳴らす。]
[転げた瓢箪追う有塵、赤鬼やや苦笑気味]
おいおい大丈夫かよ。
ずうっと酔いっぱなしみたいなもんだったけどなあ。
顔色元に戻ったかあ?
むしろ蒼いかぁ。
[戯れ混じりに青褪めた有塵の額に手を伸ばす]
[額に触れた手に、ハッと身を固くするも、]
[童子の様な面持ちで素直に受け入れる。]
[そのままその手の感触を静かに味わう。]
……喰児。
胸?
[有塵の言葉繰り返す]
どうしたあ、胸を病んだか?
いや、そんだけ呑んでるんだからそんなこたぁないか。
[つと考えて笑み浮かべ]
さては、恋煩いかあ?
[細かく唇震わせて、歯を食い縛る。]
[乱れる呼吸を必死に整えて堪える。]
[ようやっと、笑い交じりの緋の鬼に答え]
[引き攣った微笑を返して]
恋は、もう先に煩って居るよ。
[歯を食いしばる有塵のかんばせ
少し怪訝な顔で見た]
……煩いたぁ待ち人かい?
来るといいねぇ。
[顔を背けてしまった櫻の
黒い髪を手で梳いて]
ずうっと探してるんだもんなぁ。
[手をすいっと離して謂った]
[出来るだけ平静な声音で答えようとして、]
ああ。来ると好い。来ると……
[そこで崩れてしまった。]
……来る筈など無い。来ない。
もう疾うに契りは…ッ。
[耐え切れず涙溢れ、]
[しとどに頬を濡らす。]
おいおい……
[泣き出した黒櫻、赤鬼また手を伸ばし]
待ってたもんなぁ。
俺と会う前からずうっとなあ。
辛ぇんだろう。
俺にゃ分からねぇことだろうが、痛ぇんだろうなあ。
[あやすように髪を撫で]
[撫でる手を邪険に振り払う。]
もう良い。良いのだ。
これで終わりなのだから。
おれは最後の夢を見ると、そう決めたのだ…っ。
[押し留めた筈の滴がまたも溢れ出す。]
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