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[ざわり、と鳴る林の音、じっと見つめる遥月の目。
一呼吸、飲み込んで小さな声で]
僕は、貴方の全てになりたいと、いいました。
貴方を狩れば、僕もきっと、死ななきゃいけない。
なら、ずっと生きて一緒に、いたいです。
[小さいけども、はっきりと]
[林檎飴の如くてらてらく光る紅い番傘くるうり]
[張られた蜘蛛の巣月光浴びて綺羅綺羅綺羅リ]
[肩に降りた長い常葉色風に煽られふわり広がる]
さァて、始めようかィ。
[風は極彩色の蝶を舞わせ微か白粉の薫り乗せ]
[三日月の笑み浮かべ片手で逆手に持った簪構え]
[姿勢正して一足踏み立つ姿は凛と静寂を纏うか]
へえ。
[丹色、青碧、躑躅色
蒲葡、金糸雀、常葉色。
眩暈がするほど鮮やかな
色の奔流 溢れ出て]
こりゃぁ見事だ。
[高揚隠しきれぬ様子で
緋色の鬼は笑う笑う。]
蜘蛛の捕らえた蝶の群れ、ってかあ。
こりゃあいい。
最高だぜえ。
[いつかの賽の目、林檎飴。
思い起こさす番傘の
その直ぐ下で女は笑う。]
あぁ。
[口の端から牙覗き、
金の瞳は燃えるよう。
ごうと炎の気配を纏い
赤鬼、斬と踏み出して―――]
………ふふふ。
貴方様の言葉を信じましょう……
嗚呼。どうか……
心変わりは、為さらないで下さいな……
[司棋の身体を強く抱き締め、その唇に深い口づけを施す。]
いつぞや交わした「刹那の契り」とやらは、この紅い泉に捨てましょう……
わたくしが欲するのは……
貴方様の、たましい……
嗚呼。
身体を重ねても何もならぬと、笑わないで下さいな……。
[司棋の身を静かに横たえ、緩やかにその身体を掌でなぞった。]
[ひらひらちらちら極彩色の蝶は花弁と共に舞う]
[風すら起こしそうな蝶の群れの真ん中に立って]
[笑う緋色の鬼見詰め常盤色の狩る者も笑う笑う]
漸く見つけた鬼さん退屈させやしないヨゥ。
[踏み出す赤鬼から逃げるよう飛び退きつつも]
[鋭き爪に赤黒く染まった浴衣の袂切り裂かれ]
[炎の気配にちりりと焦げるに笑みは深まるか]
[くるうり番傘を回したたみ勢い良く地を叩き]
[朦朦と粉塵を巻き上げ飛礫が赤鬼へと向かう]
[同時にひゅうと白の手風を切り簪赤鬼へ翔る]
[地を抉り飛ばす飛礫はどれも小石程度だろう]
[先端の尖る簪は狙い澄ました様に金色の眸へ]
[其の尾に綺羅リと光る筈の糸は粉塵に紛れる]
ん…ぅ…っ
[昨日の今日、僅かの恐怖感はぬぐいきれずとも、おずおずと口付け受け入れて
横たえられ、小さな震えは隠せなかったけれども
ぎゅう、と肩に顔を埋め、小さく頷き]
笑いません…。でも…どうか…離さないで…
ええ……勿論。
[遥月は、目を細めて笑った。]
……司棋様のように、妖しと戦う力は、わたくしには御座いませんが……。司棋様の手を離さぬ力くらいは御座いますよ?
[いつぞや染まったものか――赤黒い痕が残る司棋の浴衣の襟をそっと手にとり、その肩を月明りの元に晒した。]
……嗚呼。綺麗……
司棋様……わたくしの愚かな身体を、どうかお赦しになって下さいませね……
[水に濡れて重みを増した己の着物を剥ぎ、司棋の肌に蝶を重ねた。]
期待してるぜぇ。
[百花繚乱、花吹雪。
飛礫が飛ぶが避けはせず
幾つか振り払って塵と化す。]
ははっ!
[簪鋭く金の眼狙う、
体を倒して紙一重、
眼の端切り裂き緋が散った。
笑みは消えず尚深く、
胴を狙って腕を薙ぐ]
[肌を晒され顔に朱を散らし。触れ合う部分は体温感じ、緊張を僅かでも緩めるか。
遥月の蝶の刺青、指でなぞり首筋へ口付けを]
遥月…も綺麗。この蝶、初めて見ました…。
貴方が愚かなら僕も同じ、どうぞそれ以上は言わないで…
[ゆる、と首に手を回し、小さく微笑む]
―――ザァァアアァ…
[緋色の鬼の炎にか極彩色の蝶は舞い狂い夜空を彩り]
[振り抜かれる腕に腕を引きつ更に一歩退き胸逸らし]
[ひらり胸元肌蹴舞う紅は赤黒に染まる浴衣を更に染め]
嗚呼、良い、好いネェ。
[地を蹴り蝶の群れへと空へ飛び紅い番傘を回し開く]
[くるうり逆に番傘回すと綺羅綺羅リ蜘蛛の巣落ちて]
[蝶の群れ微かな風を起こし蜘蛛の巣を揺らめかせる]
ほゥら、此処だヨゥ。
[引く手に戻る簪手に白い手は空を切り]
[木に巻きつく糸を引き中空で軌道変え]
[楽しそうにコロコロ笑い緋色の鬼を誘う]
この蝶は………
[哀しげな表情で、笑う。]
わたくしが妖と成りし時から在ったもの……。
わたくしがわたくしと成る前の、「ヒト」……貴方様の目の前に姿を現した、あの方が刻んだ蝶……。
「橘」という男の、「罪」の証……
そして…「生きた」証に御座います……
[僅かに顔にかかった血潮、
べろりと赤い舌で舐め]
愉しいねぇ。
[恍惚滲ます互いの瞳、
闇夜にさえも鮮やかな
蝶の彩りその中に]
鬼さん、そこかあ。
[蜘蛛の巣きらきら月に揺れ
深く踏み込み地を蹴って
誘われるままに駈けて行く]
[悲しそうな表情を見せる遥月の頭をゆるりと抱きしめ]
遥月の過去…僕は拒否…しませんよ
どうぞ…そのまま…覚えていて上げて下さい。
忘れられる…のが…一番、悲しいです…。
遥月は遥月…僕は、貴方を否定しない。
僕は…貴方の罪の悲しさ…埋めて上げられますか?
嗚呼、楽しいネェ、愉しいヨゥ。
[軽やかな笑い声は蝶の羽音か風に紛れて闇夜に解け]
[ぽたあり、ぽたあり、赤黒く染まる浴衣から紅い雨降り]
[駈ける緋色の鬼目掛け落ちるは中空を漂う蜘蛛の巣]
此処だヨゥ。
[くるうり番傘回し閉じ風の抵抗無くなれば降下も早く]
[ひゅうい白の手空を切り向かう先は鋭き爪の在り処か]
[向かう蜘蛛の巣切り裂かんと振り上げられる軌道に翔る]
[かすかに響く笑い声、
手の鳴る方へ
手の鳴る方へ
空に浮かんだ蜘蛛の巣墜ちる]
っとぉ
[翻った白い手は
加速するまま狙い撃ち
避ける動作より尚速く
ざくりと鬼を抉って通る]
いいねぇ。真理。
いいねぇ。真紅。
[にいと笑んで傷さえも
ものともせずに赤鬼は
白い腕を掴もうと]
ええ……。
……有り難う。
[ふっと微笑み、遥月は司棋に再び口づける。
優しく、甘く……壊さぬように。
汗ばむ肌と、蝶の入れ墨。
ぺちゃり、とひとつ水の音。]
嗚呼、心満たされればそれで良いでしょうに……
[司棋の身体からそっと離れて]
なのに……深く潜り込みたいと願う……情欲。
わたくしの毒針は、愚かな慾の塊となり……貴方様を……。
[溜息と共に、司棋の身体の奥に手を伸ばし、ゆっくりと滑らせる。]
[口付けられて、惚けたような表情を晒し。
ふと離れる体につい目を開き]
え…?
ひっ…ぁ…、やぁ…っ!
[当然誰も触れさせた事の無い奥の奥、触れる感触、緊張の解けた体が再び強張り。思わず遥月を押しのけようと]
[ひらり、はらり、月夜に煌く切り裂かれし蜘蛛の糸]
[空へと昇る緋色の鬼と地へと落ちる常葉色の狩る者]
[緋を散らした簪を引き戻す腕に伸ばされる大きな手]
嗚呼、喰児、喰児―――
[褥を重ねた時と変わらずうわ言みたいに熱ぽく名を紡ぐか]
[濡れた碧と甘い闇孕む漆黒の互い違いの双眸金色と交わり]
[引く腕に紅散らせつ番傘捨てた白の手をひゅうい振り抜き]
アタシァ此処だヨゥ。
[振り抜いた糸は緋の鬼の首を捕え様とふわりと舞い]
[番傘落ちる頃には地に降り立ち更に背後へ飛び退き]
[風に舞い赤鬼の紅い髪と常葉が揺らめき白粉も薫る]
ふふっ……
数多の怪を封じる司棋様の御身体も、こういうことには馴れておられぬご様子……嗚呼、可愛らしいこと。
[押し退けようとする司棋の両手を受け止めて、片手でそれを纏めて掴む。]
嗚呼……もっと……
声を……聞かせて……
[司棋に口づけると、遥月は司棋の身体の奥へと紅を塗り、そっと押し広げる。]
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