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[ふわ、と木から夜斗と降り、社をみやりと常盤の髪。
雨ふらぬのに傘を持ち]
翠の…?
[それをみつけ少し嬉しそうに。
そちらへ向かおうと、近づくにつれ猫の気配に夜斗は殺気立ちながら]
常葉の君、こんな所で。
…何をして……ん?
[はまる猫を見て、絶句]
…何してるんですか、そこの猫。
[触れられ] [震える] [長い睫毛] [隻眼の碧] [弧を描く]
如何もこうも鬼ごっこさァ。
邪魔なもンは捨てっちまうに限るからネェ。
[寄せられる唇] [離れれば] [白い指] [そぅと唇をなぞり]
其ンじゃあ狼さんと呼ぼうかィ。
悪気は無いんだ赦しと呉れヨゥ。
[ちらり] [指し示される方] [すぃと視線移し]
遠慮しとこうかィ。
さっきも喰ろうてみたが弱い奴ァ旨く無いからネェ。
呪い解けぬ程に巧く人間に化けれる奴等なら旨いかネェ。
[ゆらり][岸には昼間の妖し]
[見渡せば幾許か増えている連れ]
やれやれ、折角見逃してやったというに。
――二度目はないぞえ。
[冷たい紅が敵を捕らえて]
陸で挑めば良いものを……
此処で挑むは愚の骨頂じゃな。
[泉に映る月は歪んで小さな漣を起こして]
それ以上水に踏み込むな――穢れる。
[差し伸べる手] [一つ増え] [白い手引き]
[遊螺り] [立ち上がり] [万次郎の姿] [眺め笑む]
兄さんも中々に好い形(なり)じゃないかえ?
[一つ声] [ゆるり] [首捻り] [揺れる常葉]
[赤の少年] [見詰め] [隻眼の碧] [僅か弧を描く]
命の姐さんが居たからちょっかい出してたのさァ。
昨夜は大丈夫だったかえ?
おお身を起こすのに助けをくれるとはありがたい。
[もがきは抜けられぬゆえと見破られていようとも、いまだに身を起こすためと言い訳をしながら手を差し伸べる]
…いかんいかん。
[するり伸びた爪をひっこめればメイのそれは、もう真理の肌を傷つける心配もない、白く柔らな小さな手]
では、お力ちょうだい。
[じたばたを止めて、番傘を持たぬ方の手を貸してくれる真理へと片手を差し伸べる]
……ぐっ。
[そこに現れたは、その使う力は麗しく目を楽しませようとも、やはり弱みなど見せたくない相手、司棋。メイは答えぬままに顔をあさっての方向に逸らし]
[そしてマンジローの姿をも見つけると]
万次郎…その姿。
おぬしも戦いより戻って来た後か?
…いやいや、ともかくそういった事はここを出てから聞こう。
[姿に見合わぬ優しい笑みと伸ばされた手に安堵し、残った手を万次郎に差し出して]
さあ遠慮は要らぬ。すっと出しておくれ。
…面倒なものに笑われぬうちに、早う。
あまりいい気にさせても面倒なのでそのまま夜斗と呼び置き下さい。
綺麗な目だったのに…。
蛍火でもよかったら、新しいお目でも入れましょうか?
紅、翠、玄、縞(しろ) 蒼に金銀…お好きな色を。
[再び目元、頬…唇へ口付け落とし]
やはり翠の君が好まれるものはもっと好い物でなければ、ですか。
ではご希望下されば夜斗とともに狩りましょう。
[猫がもがくをせせら笑いながら]
いつも見る猫は随分とずるがしこく逃げ隠れしていたけども…こんな猫を見たら一噛みで食い殺してくれるのに。
お互い、知らぬ身でなくてよかったと思うだけでしょうかね
[くくく、と笑いながらやはり傍観、夜斗は後ろでうなるだけ]
常葉のひめと慕われておるのだから、其方が助けた方が彼の者は喜ぶのではないか?…まあいいか…。
好い成りとはなんだ。
其方こそ、眼はどうした。美貌が惜しくはないのか。
[さらり云ってのけ、メイに差し出した手は招く形で]
爪は仕舞ったな?…確り掴まるのだぞ。
頭を低くして、そう。得意だろうに?
[ずるずる。途中メイの後頭部を庇うようもう片方の掌を添え
肩が抜けたと判ると、担ぎ上げるようにしてすとん、と
縁下前に抱き降ろした]
無茶はするな。小娘が。
そうかィ、そうかィ。
なら夜斗と呼ばせて貰うヨゥ。
新しい眼を入れて貰えば見えるかえ?
其れとも只の飾りかえ?
司棋の兄さんが見立てて呉れるンなら華も眼も何でも好いヨゥ。
[落とされる口接け] [一つ] [一つ] [呼応する様] [睫毛震え]
甘露な血肉と魂が喰らえるなら誰でも好いヨゥ。
其れも司棋の兄さんが見立ててお呉れかえ?
静かなる者を喰ろうて喧嘩祭りに華を添えるも一興かも知れないネェ。
[ゆらり] [女の周りから湧き出る蒸気――否、其れは霧か]
[ゆらぐ視界の隙間から] [それでも紅ははっきりと見え]
同族喰い――か。
したことはないが、喰ろうてみようか。
[ゆらゆらゆれて][岸辺の手前]
――……汝れの魂は不味そうじゃな。
やはり黙って去ね。
[パシャーン] [少し大きい水の音]
[弾かれたように飛ぶ水飛沫――]
[憐れ][妖し] [瞳見開き虫の息]
ああ、すまん――
ヒトの姿では力に制約があるようじゃ。
ひと思いに殺れなんだな。
[ふわり硯に残る青墨飛ばし。
するり、黒の浴衣を脱ぎ捨て藍の浴衣を着直す。
乾いた浴衣から墨は剥がれ、すっかり元の色]
さぁて己もそろそろ本気の支度よのう。
[からからからり。カラコロコロリ。下駄鳴る。
袂から腰帯移り下がる帳面。綴られた紙には数多の鳥獣。
カラコロコロリ、向かうは何処。
あちらこちらに赤の名残。遠巻き眺める百鬼共、
浮かぶは畏怖か敵意か。くつり、藍の浴衣に殺気纏う]
腹が減っては本気も出せぬのう?
久しく碌なもの食うておらぬわ。
それ、貴様ら程度でも腹の足しに変えてやる。
[紙千切り、咥え息吹きかければ
黒い数多の蝶が百鬼を覆い食らう。
赤、黒織り交ぜ。血を吸い骨まで砕く]
――戻れ。
[蝶は赤を取り込み黒の煤へ。
煤は男の口に戻り呑まれて行くか。ぺろり飲み込み口元舐める]
お望みであれば。
蛍は儚さ、儚さは美しさと申します。
貴女様の目が綺麗でなければ何が綺麗といえますか。
翠の君のお美しさを際立たせるには飾りと申してもよろしいかと。
[軽く笑い]
ご安心を、元通りにして差し上げますよ。
華と同じく、貴女様が望めば何時まででも何でもご覧になれまする
ただし、呪いだけは元にできませんがね。
律儀だねえ。
[片付け始める人影2つ、
赤鬼足先蹴り上げて ごろんと転がる生首1つ。
口元拭えば滴る緋色]
ははは、ちぃたあ腹の足しになったなあ。
さぁて、そろそろ気配が増えてきたぜえ。
社の酒宴の時間だな。
なぁんか猫が鳴いたような声が聞こえたなあ。
隻眼のアタシァ醜いかえ?
醜さで司棋の兄さんにつれなくされるンは寂しいネェ。
飾り一つで気が引けるなら易いと見るか難いと見るか…
[笑む様子] [伸ばす白の手] [赤の髪梳き]
司棋の兄さんの双眸が互い違いなンも蛍火だからかえ?
一緒に成るなら其れも好いネェ。
この身は呪いだらけさァ。
自分でかけた呪(まじな)いでアタシが呪(のろ)わばこの身と共に触れた相手も腐れ落ちるからネェ。
其ン内にゃ残りの眼も腐れるだろうヨゥ。
[カラリ][コロリ] [歩み寄り]
[屈んで][其の魂を手にとりて]
やはり、不味そうじゃな――
[くすくす笑って立ち上がる]
[泉をそろりと振り返り][浮かぶは月と白き花弁]
花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき――
[カラリ][コロリ] [下駄鳴らし]
[行く当てもなくふらふらと]
[右は茶の懐に、左は昨夜のままの瓢箪ひとつ。
草鞋音微かにゆぅるりゆるり夜店道]
[夜店は並べど影疎ら]
[ゆぅらり揺らぐは殺しの気]
やれ…懲りぬ輩よ。
…嗚呼、仕方あるまいか。
[ざりり足裏緋き跡]
幾つか喰われてしもうたか。
知らぬが寄るか、やれ面倒な。
[ひとつ礫を始めとし。
幾つ飛び来る礫々と]
[するり右腕取り出せば、扇を返し只弾き]
[不意に生まるる左の気]
[ふわりと漂う、紅や蒼い気、心なしか嬉しそうに相好崩し]
皆様、おいでになったようですね?
[先程まで心の臓を食らっていた己の浴衣
白地に蒼い水の波紋、飛び散った朱は紅梅のように鮮やかに]
さて、今日は皆様随分と血なまぐさい。
酔いそうなほど、好い匂いでありますが…
[かぁん]
[鳴るは瓢箪。
突き立つるは氷の刃]
…やれ、未だ開けてもおらぬに勿体無い。
溶けては酒が流れよう。
仕方あるまい、早々に参るか。
[右の扇ぱぁんと開き。
風に乗せれば噎せ返るかの幻香]
[足を止めるる妖おいて、一人香を抜け出しつ]
夢幻(ゆめ)の花嵐(あらし)に巻かれるが良い。
[ぱちり扇を閉じようと。
暫しは香は留まろう]
好かったネェ。
[助け出される] [仔猫に声かけ] [番傘くるうり]
命のお姫さンは殿が助けりゃ好いのさァ。
こン面(つら)なンぞより大事なもンは幾らでもあるヨゥ。
[恥じる事も無く] [隻眼の碧向け] [ニィと笑み]
[ぽたり] [ぽたあり] [番傘から落ちる] [紅い雨垂れ]
司棋の兄さん、紅く染まったこの形(なり)に今宵も華ひとつお呉れかえ?
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