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[指先に伝わる] [湿った感触] [細まる金色] [覗いて]
[潤む碧] [蠱惑的に揺れ] [白い面] [黒き蝶が翅を揺する]
其ンなら好かったヨゥ。
[首筋をなぞった手] [首に絡めて] [寄せられる唇]
[僅か開く薔薇色] [ぬらりと唇を舐め] [紅い舌が誘う]
優しいのが好いのさァ。
[赤黒に染まる浴衣] [音も無く肩滑り] [肌蹴て足元にたまる]
[月明りの下] [露わになる白い肌] [*直ぐに薄紅に染まるのだろう*]
[ある人は言った]
[出会わなければ、知らずにすんだと]
むかーし……初めてわらわが恋うることになったヒトは
あの謎かけをこう言った。
咲かぬ桜、春を知らずに穏やかな陽射しに包まれて
誰に知られることもなく平穏に、日を送ることが出来ようと。
[潤む碧は薫り立つ。
視界の端で蝶がゆれ、羽ばたく漆黒艶やかに]
ああ。
[着物広げて地に敷いて、白い体を横たえる。
誘う舌を甘噛みし]
優しく、優しくなぁ。
[吐息が擽る首筋を、
舌で辿ったその後に、
耳元で囁く、*真の名を。*]
咲いた桜、
春を知って花開き、火のない心に灯かりを燈す。
風に煽られ火揺れるとも、花ある限り消えはせず。
春が過ぎればはかなく散りて、灯かり共々消え失せる。
[一拍の間――視線は舞い落ちる花びらに沿わせて]
――散るは花、散らすは緋(わらわ)。
次の春を待つことが出来ぬなら、風に散らされ舞うよりも
灯かりが燃え尽きてしまう前に、吹き消してくれとーー……。
[風をうけつつ瞳を閉じて]
わらわはずっと、死ぬのが怖かった。
寂しくて寂しくて……魂を刈り取る度に泣いていたが、
それでも――
殺すは一人との別れ
死ぬは全てとの別れ
想像しただけで耐えられぬことじゃった。
[視線おとして寝顔見つめる]
それなのに……巴も汝れも、死んだのに笑うておるのぅ。
[くすり][笑みもらし]
――巴が笑うて去んだ理由は今なら何とのう判る気がするがな。
[その寝顔に唇寄せて]
汝れがそばに有る暖かさを知ってしまったら――
居らぬ世界が寒くて寒くて寂し過ぎる……
[散る花びらを見つめつつ]
[あの赤鬼は何と言っていたか]
喰児……わらわは答を見つけたぞえ。
汝れの言う通り、わらわの中にあったようじゃ。
ありがとう――
常盤といつか鬼ごっこをした時は、汝れも笑うのかのぅ。
わらわは本壊――汝れも本壊遂げれたら良いの。
咲いた桜――
散るも散らすも緋の目のわらわ。
[咲かずは平穏――咲けば毒得て散るを待つ]
[全てがそうだと思ってた]
[でも今は]
汝れとの出会いが毒だったとは思うておらん。
[浮かんだ色は佳い笑顔]
[藍の頭を膝からおろし]
[隣で寝転び骸を抱いて]
わらわの最後のわがままじゃ。
青司には、色んなものをもらった気がするが
[ぎゅっと抱き締め耳元でささやく]
なれど最後にもう一つ。
汝れの骸をわらわにくれ――
一人で消えるはやはり怖い。
[くすり笑って両の目つぶし]
[その最期まで抱きしめて]
[命が削られれば体も徐々に水に還り]
[骸の男も徐々に墨へと還るだろうか]
[溶けて]
[溶けて]
[溶け合って]
[混ざり]
[雑ざって]
[交じり合う]
[白い泉と黒い墨]
[あとに残るは*水と青墨*]
[耳朶にかかる息遣い] [鼓膜震わせ紡がれる名]
[切なげに眉根寄せ] [背に腕回しきつく抱き締め]
嗚呼、嗚呼―――
[零れ落ちる吐息] [乱れ咲くは熱の華]
[薔薇色の唇] [うわ言みたいに] [鬼の名を紡ぐ]
[赤黒に染まった浴衣] [肩からかけて] [赤鬼に身を寄せ]
[目蓋をおろし] [呼吸を落ち着けるうち] [浅き眠りに落ち]
[──どれ程の間、そうして俯いて居たのか。]
[やがて、]
[手を伸べて、地に転がった瓢箪を拾う。]
[ゆぅらり立ち上がりて、]
[ぞろり、と墨色の衣が地を擦る。]
[中有を静かに見詰める眼(まなこ)が映すは己が周りを舞う花弁と……]
[さくらいろの闇。]
[神域の、数の減りたる怪も]
[見ているのに観ておらぬ目で眺めつつ]
[そぞろ歩く。]
[交わされる声も耳に届けど]
[しかれども聴こえてはおらぬ。]
行かねばなあ、おれの居場所へ……。
[ぞろり、ぞろり。]
[はらり、はらり。]
[びょうびょう、]
[桜を揺らし風が吹く。]
[散らされた、花。]
[墨の衣の端より白く解けて花弁に変じ]
[ほろりほろほろ]
[風に乗り][巻き上がり]
[白き花風となりて]
[遥月の傍でぼんやり佇み、掌にひらりひとひら、淡い花弁]
…我花葬る(ほうる)を痴(こけ)と笑え
いつの日か我を葬るはそも誰ぞ…
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