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酒場の看板娘 ローズマリー は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
冒険家 ナサニエル は お尋ね者 クインジー に投票してみた。
修道女 ステラ は お尋ね者 クインジー に投票してみた。
異国人 マンジロー は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
書生 ハーヴェイ は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
お尋ね者 クインジー は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
学生 ラッセル は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
墓守 ユージーン は 冒険家 ナサニエル に投票してみた。
冒険家 ナサニエル は村人達によってたかってぶち殺された。
誰かが寝たまま起きなかったみたい。
しぶとい奴は酒場の看板娘 ローズマリー、修道女 ステラ、書生 ハーヴェイ、お尋ね者 クインジー、学生 ラッセル、墓守 ユージーン の 6 人だと思っておこう。
ああ、ありがとうよ。
[墨の血舐めれば慣れぬ味。
最早動かぬ藍色の相棒の姿見下ろして]
いいさあ、呪がかかってたんだったなあ。
魂も持っていきなあ。
[抱きかかえた相棒を
碧の方へと差し出して]
嗚呼、こンで自分の眼でおっ月さんをまだ拝めるさァ。
[くたり動かぬ青鬼] [そぅと白の手伸ばし] [落ちた首持ち上げ]
[其の眼ひとつ] [ぞろりと紅い舌が舐め] [吸出しくちゃり] [食む]
墨の味かィ。
[口の中に広がる味] [微か眉根寄せ] [其れでも嚥下]
[ひらり] [黒き蝶] [白の面より剥がれ] [青鬼の胸元]
其ンじゃ遠慮なく魂も頂こうかィ。
[墨零れる胸] [張り付き攫う魂] [舞い戻り] [薔薇色の唇へ]
[口直しと謂わんばかり] [舌の上で転がし] [極上の笑み浮かべ]
嗚呼、美味しいヨゥ。
有難うネェ。
[黒い霞が散ったのを、知るや知らずや遥月は笑む。]
こうして憎き相手に犯される心地は如何?
おぞましい?
……それとも、気持ち良い?
[指を口許に当て、唇を歪めた。自分の身体に組み敷かれた万次郎の顔を見下ろし、一度くすりと笑うと、ヒラリとその上に跨る。]
嗚呼、嗚呼……もっと差し上げましょう……
たとえ、どんなに貴方様が嫌だとおっしゃっても……
[遥月の奥で、スルリと衣擦れの音がする。
遥月は、眼下にいる組み敷かれた男の膨張した肉棒を指で導き、己の身体に取り込んだ。
――――ちゃぷん。
温かく絞まる沼の中、小さく水音がするのを聞く。
其の沼は――毒液巡る、毒の沼――]
おれはおまえが羨ましいぞ、青司。
[ひっそりと、夜闇に紛れて佇む。]
[その面は冷たく硬く変わらねど、]
[閉ざした眸が、*語るのは。*]
[林の中に、熱い吐息を漏らす声が響く。]
………嗚呼………
[切なげな声を上げ、遥月は万次郎の身体の上でゆるりと舞う。取り込んだ其れを身体の奥で締め上げ……さらに吐息を熱くする。]
ん……っ。嗚呼……
[絡み合う吐息、昂ぶる体温。
胸元には黒い血の跡。
鼻に入り込むにおいに遥月は噎返り――やがて其れすら、くらりと甘美な刺激となる。]
[絞り出す声はうわずり、理性を失う獣の声と化す。我慢ならぬと舌を絡ませ、万次郎の掌を己の毒針へと導く。]
ああ……ん。……っ………
ねぇ……わたくしの中で……果てて……。
ねぇ、貴方……ッ……!
[――如何ほどの時が経ったであろうか。
為されるがままの男は腹の上に毒液を塗られ、其の精は遥月の毒沼に取り込まれて行った――]
喰ったことのねぇ味さあ。
[今はもう光映さぬ藍の眼は
薔薇色の唇に吸われ消え
魂ゆらり碧に喰われ
笑みは極上、蕩けるような]
そいつぁ佳かった。
相棒も嬉しいんじゃねぇかあ?
[藍色の髪風に揺れ
答えはもうないけれど]
[――しばしの放心の後。
腹の上に噴き出された毒液を指先で掬い、半開きの目をした遥月は笑む。]
………ふふ………
ねぇ、貴方………
[毒液を掬った指先を、万次郎の唇の奥に捩じ込み、舌に絡ませる。]
……はぁ……ッ……
はぁ…………
嗚呼、貴方………
[紅の唇が、言葉を放つ]
『愛しております』
――己の身体に巣くう呪いの言葉を、解放した――
魂は旨いが墨ァ好みの味じゃ無かったヨゥ。
アタシが何と謂おうが茄子の兄さんは気にも留めないさァ。
[コロコロコロリ] [軽やかな笑い声]
[緋に濡れる赤鬼の腕] [そぅと白の手伸ばし]
喰児は旨いかネェ。
[下駄を鳴らしてたどりついたは社なれど]
誰もおらんというのも珍しい――
いや――そうでもないかのぅ。
[万次郎は司棋と鬼ごっこ]
[子猫は既にこの世に居ない]
[咲く前に散った薄紅の桜]
[笛の音遠く付喪神――]
[はらり][一粒零れれど]
[袂で拭い、月見上げ]
喰児や常葉が居らんのは、少々珍しいことか。
慣れた血肉の匂いじゃなかったなぁ。
こんな人間いねぇだろお。
なあ、相棒。
[答えは無いと分かりつつ
変わらぬ調子で問いかけた。
白い繊手が伸ばされる。
すいっと金の眼細めて見つめ]
どうかねえ。
喰ってみりゃあ分かるだろうさあ。
碧は美味そうだぁなあ。
[にいと笑って手を伸ばす。
常盤色の髪触れて]
[立ち上がり、着衣の乱れを直す。
体内に毒液廻らせ、妖しである万次郎を犯した其の味を確かめる。]
……ん……っ。
うぶで真っ直ぐな、男性的で素敵な御味ですこと……。
[くすりと笑んだ視線の先には、抜き身の刀がただ一振り。
――其の名は、「万次郎」――]
……嗚呼。
其の御身、其の御名……為した仲故、弔いましょう……
万次郎様……
せめて、安らかに眠らんことを……
[刀――「万次郎」を花水木の根元に刺し、遥月は静かに祈りを捧げた――]
[赤鬼の問う声] [有塵は答えぬか]
随分と惚れ込まれたネェ。
[白い指は緋を掬い] [口許寄せて] [ちろと舐め]
[伸ばされる大きな手] [双眸眇め] [誘う様な笑み浮かべ]
喰児も旨いじゃないかィ。
アタシァ美味いかもネェ。
[見遣る黒色、碧の声に]
惚れ込まれたかあ。
[緋を舐めとる女の笑みは
蟲惑の香りを漂わせ]
美味いかあ?
自分じゃぁわかんねぇがなあ。
[常盤の髪に口付けて]
喰らう時は骨まで残さず平らげてやるさあ。
喰児も隅に置けないネェ。
[金色覗き] [双眸は弧を描く]
[近付けば薫る赤と黒] [常葉に落ちる唇]
嗚呼、喰児は喰いでがありそうだネェ。
残さず喰うなァ大変そうさァ。
全部残さず喰ろうてお呉れかえ?
血肉に成るなァどっちかネェ。
[囁く声] [甘く] [薫り] [すぃと身を引き]
[紅い髪ひと房] [そぅと持ち上げ] [薔薇色の唇に寄せ]
楽しみにしておくヨゥ。
[上目遣いに覗き] [身を離し][番傘くるうり]
[踵を返し] [しゃなしゃなり] [下駄の向く侭] [*気の向く侭*]
[弔いの祈りを終え、遥月は立ち上がって辺りを見回した。一陣の風が舞い、遥月は思わず目を細める。]
……司棋様……。
[夜斗に守られ静かに眠る司棋に歩み寄り、傍らに座った。遥月は心配そうに司棋の顔を見つめ、その頭を撫でた。]
嗚呼……司棋様。
貴方様には、この光景は畏ろしゅう御座いましたか……。
わたくしの呪いは、異形の中でも揶揄され石を投げられるもの……。まして誰かに抱かれるのが初めての貴方様にとっては……
[ふるりと首を横に振り、いたわるように司棋の掌に己の掌を添えた。]
司棋様……温かい……。
嗚呼、生きている……!
[傷ついた司棋の右手をそっと手に取り、優しく口づけた――*]
[宴のない社は不気味なくらい静かで――]
[否、毎夜騒々しい方が恐らくは異質なことなれど]
[妖しも酒もない場所では]
[些細な音も僅かな香りも] [風が運んできてしまう]
墨の香り――青司か?
[顔をあげれば涙を拭い]
[近くにいるのかと歩を進め]
[香りが少し濃いような]
[この血の香りは誰のものか]
[其れも深くは考えず]
からかうなぃ。
[肩を竦めて碧を見遣り、
続く言葉にふふりと笑んで]
俺を喰いきるのは大変だろうなあ。
腹ぁ一杯になるだろうがねえ。
碧を残しちまうなんざぁ勿体ねぇ。
さあ、鬼ごっこ次第さ。
[緋色の髪に口付けた
薔薇の唇弧を描く]
ああ、俺も楽しみにしてるさあ。
[もういいかい、
もういいよう。
節をつけて口ずさむ。
櫻の木の幹凭れては、相棒に手向けの酒注ぐ]
[カラリコロリと下駄は響いて]
[薄い笑みたたえて桜の下に赤を見つける]
喰児か――墨の香りがした気がしたのじゃが、
どこぞに青司は――……
[詰まる言葉]
[倒れ伏す藍色を暫し見つめて]
[現実を拒むかのように]
[震える声で言葉を紡ぐ]
――……なんじゃ、青司。
飲みすぎで、つぶれたか……
嗚呼、万次郎の持ってきた酒でも、飲んだかの……
[そうでないことは一目で知れて]
[それでもそうとしか声はかけられず]
[手にした杯小さく掲げ、
杯乾して伏し目がち]
白水かあ。
相棒は其処さあ。
[藍の男は倒れたままで、
墨の香りを漂わせ
櫻の花びら散り積もる]
[笑うておれ――]
[最近聞いた言葉のはずが、酷く遠い昔のようで]
汝れが、殺したのか。
[精一杯に涙をこらえた声]
[泣いてはならぬ][泣いてはならぬ]
[青司の前では笑うておると言うたではないか――]
[噛み締めた唇には朱がひかれ]
[ただひたすらに泣かぬことだけ]
[体を抱き上げ、やわらかだった藍の髪を抱きしめて]
[魂すらも見当たらなくて視線は辺りを探すけれど]
そうさあ。
どちらが死ぬかの死合いの結果。
俺達ぁ約束を果たしたのさ。
[眼を細めて様子を眺め、
墨が絡まりずたずたの腕を隠す風もなく]
[ない]
[どこにもない]
[感じない]
[見えない]
常盤か――
汝れは肉を好む者――魂食らうとしたら、
この状況では常盤しかおらぬ。
[黒く染まり始める衣]
[胸の蝶まで染みぬうちに躯離して]
――これまで消すわけにはいかぬな。
約束果たした――か。
ならば去んでも本望じゃろう。
[俯いた顔][その表情はうかがえず]
[涙声もいつしか消えて][冷たい声が響くのみ]
そうだなあ。
魂は碧にやったさ。
[ゆらゆら酷く苦しげに
揺れるように見える白い顔。
墨はじわじわ広がった。
赤鬼腕組み立ったまま。
―――去んでも本望だろう。
それは窺い知れることではないが]
相棒のやつぁ、佳い笑顔だったさあ。
[それだけ確かな事実があった。]
笑顔だったか。
青司らしいの――
[頬に伸びる墨]
[染まった衣]
[首元に咲いた赤に手を這わせ]
わらわは約束果たせそうにないのぅ。
――青司の前では笑うておると言うたのに。
先ほどまでこらえていたはずだのに涙すら出ん。
約束も守れなければ、泣いてやることも出来んわ。
――否、泣くなと言うておったから、これでいいんかの。
[緋色はくすみ][その表情も人形のようで]
寂しゅうてたまらんはずじゃのに。
泣けぬのも難儀じゃ。
ああ、相棒らしいさぁ。
[泣けぬ、泣けぬと緋色が軋む。
斑に染まった白黒滲み]
誰だったかなあ。
いつか会った人間が謂ってたさあ。
悲しすぎると
泪もでねぇ。
泣くこともできやしねぇ。
難儀だねえ。
ああ、難儀さ。
[虚ろな瞳は赤鬼とらえ]
か な し す ぎ て ?
関わった者が死ねば寂しい。
汝れが死んでもわらわは寂しい。
寂しいがゆえに泣く。
[ゆるり首ふり]
青司と皆……何が違う。
わからぬ、わからぬ、わからぬよ。
[空ろな硝子のような眼を
金の瞳で真っ直ぐ見据え]
お前にわからねぇもんが
俺に分かる筈もねぇさ。
[寂しい、寂しい、泣けない女。]
白水、
お前自身の中にしか答えはねぇよ。
[木にもたれるように背を当てて] [膝に藍の頭を抱き]
[片目無きを合わせた両の瞼に手を当てて]
[落ちた手拾って握りこんだら]
[ただただやさしく血の気の失せた頬撫ぜる]
――わらわの中か。
まったくもって難儀なことよ。
[答える声もどこか遠く]
[中身のないまぶたにひとつ]
[触れるだけの口づけ落とし]
咲かぬは陽
咲くは灯
散るは緋――
――……ほんに難儀よ。
[呪文のような例え唄]
[迷子の緋色を*そっと伏す*]
[伏せられたのは緋の瞳、
藍と白のそのまわり、
白い花びら散り積もる。]
……
[緋色の鬼は背を向けて
薄墨櫻に目配せしそのまま林へ歩みだす。
既に空は明けの色。
*鳥が奏でる鎮魂歌。*]
[藍の骸を掻き抱く、白の女のその姿、]
[静かな眸を半眼に、じっと眺むる]
[緋の鬼の促しに、林の方へと歩み出すが、]
[一度だけ、振り返りて足止める。]
[その時は、声には出さず暫くの後、]
[緋の鬼に並びて歩き寄る道すがら、]
想う相手に死に別れるのと、
生きていながら逢えぬのと、
果たして何方がより辛いのか。
……それを訊くおれは愚かか、喰児。
[ぽつり、呟く。]
──夢とこそ
言ふべかりけれ世の中に
うつつあるものと思ひけるかな
……添うていたのが夢なのか。
それとも、この世は全て夢なのか。
[しののめの明けゆく光に染む花の色。]
[冷たく硬い面はそのままに、目伏して思いに耽っていたが、]
[突如歩む足が、]
[がくり、]
[力抜けたように膝折りて、]
[咄嗟に喰児の血に染んだ袖に縋る。]
………っ。
[切羽詰った面持ちで、袂より瓢箪取り出し、]
[急ぎて呷り一息に酒を喰らう。]
[ごくりごくりと喉鳴らして干して、]
[ようやっと赤みの差した頃に長い吐息を一つ。]
……大事無い。酒が切れただけだ。
喰児。もう花も盛りだなあ。
後は散るばかりか。
[手を借りずに立ち上がり、]
[ふわり、墨染めの衣揺らして、]
[己の宿る木へと*戻ってゆく。*]
[己の宿る薄墨の桜樹の幹、寄り掛かり、]
[酒の満ちたる瓢をば、そこらにごろごろ転がして。]
[夢現の境を異とせず、酒を喰らいて微睡みぬ。]
[光長閑き春の日にしず心なく散る桜、]
[はらりはらはら、*降り乱る。*]
[右腕の傷の熱で意識が戻り。
傍らの夜斗は犬に戻っているがその右前足も傷ついて]
血…。
万次郎……
あいつは…どこに…
[また光を宿さない目でゆうるりと頭を巡らすと、木の根元、弔う形で刺された刀、「万次郎」との刻印が]
あぁ、あの刀、万次郎…。
あれでは流石に喰らえない…
[けらけらとまた笑うもつかの間。
傍らにたたずむ姿は遥月。途端に脳裏が白く焼け]
───!!
[脳裏に浮ぶのはあの夜の幻影、抵抗できずにされるがままに抱かれたあの時、くらりとする頭を抑え、思い切り遥月の目に向け手を振り下ろし。
寸前ではずれ、頬に紅い線を引くのみと終わったが]
やだ…、来るな…僕に、触るな…!
[よろりと後ずさり、夜斗に支えられ。やはり前足を引きずる夜斗だったが、主人を乗せると風のようにその場から消え]
[司棋の傍らに佇み、いくばくかの時が過ぎた頃……]
………司棋様。
ああ…ご無事で……!
[目を覚ます司棋に微笑み、遥月はそっと手を延ばす。しかし……]
『やだ…、来るな…僕に、触るな…!』
[遥月の頬に、うっすらと血の赤が一筋。呆然と司棋を見つめる遥月は、無意識のうちに頬に手をやる。]
………………。
[司棋はよろりと後ずさり、ほどなくして夜斗に乗り何処へと消えていく。遥月は、その姿を黙って見送ることしかできずにいた……]
[夜斗が運ぶは祭りの場。やはり今も多くの人が。
汚れた着物、痣だらけの体に腕から血を流し、精神を病んだような、どろりと濁る目でふらつく様はすれ違う人も不気味がり、遠巻きに]
…あぁ、あの林檎飴…美味しかったのに…
ねぇ、夜斗…もう一度、林檎飴、食べたい…
[ふぅらり、すれ違う人々。背後でまた、大きな悲鳴が上がったけれども眉すら動かさず。それからどこともなく、心もとなく歩みを進め。その手には、いつの間にかいつぞやと同じ、血を滴らせる心臓が。
あの夜、己の頭の中、ぱりん、と何かが*割れていた*]
―泉にて―
[泉のほとり、はらりと着物が地に落ちて、遥月はそっと皆もに足を沈める。波紋はゆるりと広がって――やがて大きなものとなる。]
………「触れるな」。
[泉に佇み、ついと目をやる。
寄り添い泳ぐは、夫婦金魚。]
嗚呼……わたくしの手は貴方様を欲し……深く、傷つける。わたくしの思いがつのるほど、貴方様はわたくしから遠ざかる……
[水を両手で一掬い、顔にパンと弾かせ、紅を落とす。]
………嗚呼。
恋うる想いは届かずに、ただひたすらに胸焦がす……
[また一掬い、水を浴び。
男の顔から、紅は消え去る。]
……引き裂かれよ、と。
この身引き裂かれよ、と。
わたくしに祈るはどなたの声……?
[震える唇キュッと噛み締め、現るは凛とした男の目。]
『……嗚呼。これが……
「僕に」架せられた罰……
愛しき女(ひと)を地獄に追いやりし男を殺した「僕」に……
その「僕」に手を貸し、共に罪に墜ちて下さった「はづき」さんを「僕」から奪うだけでなく、この「僕」に逢瀬と愛そのものを赦さぬことが……
「僕」の……罪。』
[胸に刻まれた蝶に手をやり、遥月は笑む。]
嗚呼。どうかお泣きにならないで、「橘」様とやら……。わたくしが成りし身は、貴方様の罪の証……どうか、どうか悲観為さらず。
……「橘」様。
わたくしの罪は、わたくしのもの。
貴方様のものでは御座いませぬ。
壊した欠片拾い集めて、元に戻すはわたくしの勤め……
……だからお泣きにならないで。
[胸の蝶に手を当てて、遥月はそっと目を閉じた……*]
[唄う声]
[あの夜唄ったヒトの唄]
[桜が踊り笛が響き鈴が鳴り]
[代わりの芸をほめられて]
[くしゃりと触れた大きな手]
[独りで唄うヒトの唄]
[舞いも笛も消えうせて]
[鈴の音遠く聞こえずに]
[時は少々遡る。
夜明け前、林の中を歩いてゆけば、
薄墨桜が問うて来た。]
愚かたぁ思わねえよ。
だが答えも持ち合わせちゃいねぇ。
[どちらが夢か、全てが夢か。
夢の中の住人は、夢に気づくことは無い。
朝露踏みしめ歩めば不意に、
腕掴まれる感触が]
っおい!?
[膝折りふらつく有塵は酒を呷って息を吐く]
酒が切れただけってお前、
それじゃあまるで中毒だなぁ。
万次郎は――子猫の敵を討てたのじゃろうか……
司棋は未だ、生きておるのか――
遥月が見えぬがどこかに居るかのぅ……
誰が居て、誰が居らぬ……
[手の中にいる男は居ない]
終わらせよう、終わらせようか。
[全てを殺して]
[誰とも関わることなく]
[長い永いながい]
[幾千年の孤独に震えて]
関わるは――毒ぞ――……
[瞳が僅かに揺れて]
[胸に覚える拭えぬ*違和感*]
[後は花は散るばかり。
黒い背見送り呟く言葉]
散り際の花ぁ綺麗だぜえ。
[仰ぎ見たのは暁の空]
喰って喰われて狩られて死んで。
宴も酣、
約束を果たさねぇとなあ。
[にやりと笑い歩き出す]
おや、白水の姐さんは居らぬかィ。
[白の少女の泉] [水を浴び] [紅差して] [水面覗く]
[夫婦金魚] [寄り添い] [離れて] [擦違い] [また寄り添う]
もゥ好いかえ?
もゥ好いヨゥ。
―――もゥ好いヨゥ。
[コロコロコロリ] [忍びやかな笑い] [出目金の尾] [水面に波紋広げ]
[ぱしゃり] [白の手は水面叩き] [あがる水飛沫] [綺羅綺羅と陽光弾く]
[白の肌] [包む] [沫絞り白の浴衣は赤黒く] [帯締め]
[常葉結い上げ] [木の枝に腰掛け] [煙管をくゆらせる]
嗚呼、良い、好いネェ。
[薄紅の花弁舞い] [春の風] [常葉攫い] [微か薫る桜] [白粉]
[はたり] [苺色の鼻緒揺らし] [双眸遠く見据え] [僅か弧を描く]
そろそろ満開だヨゥ。
[潤む碧] [闇孕む漆黒] [地に降り] [花弁捕える番傘] [くるうり]
[カラコロカラリ] [下駄の音響かせ] [*金色の眼の赤鬼探すか*]
[藍の髪を撫ぜながら]
[緋色に映る色なき色]
生きるに飽いたら喰ろうてくれると言うたくせに
先に逝くのはずるいのぅ――。
[凍るような冷たい目]
[桜を見上げ] [散るを思う]
さてはて……生きるにどうやら飽いたらしいが
汝れ以外にただでくれてやる命なぞない。
[さらり]
[頬なで]
[立ち上がり]
妾も鬼ごっこに行ってくるかのぅ――
[笑みも][柔らかさも][優しさも][あどけなさも]
[何一つ宿すことなく][ただただ冷たい緋色が光る]
[ふうらりふらり、桜の木の上、片手に心臓弄び
一口喰らってみるも途端に咽せ]
う…っ
げほ…、うぇ…っ
[好んでいた訳でなくとも食していたはず
それなのに
体はそれを受け付けず。
胃液まで吐き出して、暫く咳き込み]
…何で…
[ぐったりと木の幹よりかかり]
[今また目醒めて、瓢に口付ける。]
[果たしてどれ程酒を身体に収めたか、]
[けれども身体は冷えたまま、]
[朱に染むことも最早稀。]
寒いな……。
もうこれでは足りぬか。
[それでも眸はどこか夢醒め遣らぬまま。]
そうだ、開耶……。
[ふと散った同属の形見の扇預かったことを思い出す。]
やれるうちにやっておくか……。
[ふらり、蹌踉めきながらも立ち上がり、覚柄ぬ足取りで桜の生いたる林へと。]
[ふと声のする方を向けば、眠ってばかりの犬の童子。]
[……それは、]
おまえは。
[瞬時に警戒の色浮かび、ざっと風巻いて、後ろ下がる。]
おまえは…・・・確か「しき」とか言うたな。
物の怪狩り立てるという、狩人だそうな。
開耶を殺めたもおまえか。
[硬く冷たい面に、黒髪の合間より鋭く光る黒い眸。]
[飛びのかれても、かすかに笑うだけに留め]
あぁ…。その手の扇…あの人の…。
喰らったのは…僕じゃぁ無い…。
夜斗は、多分血の味知っているだろうけど
桜の木だったのかなぁ。
肉が食べれなくて、悔しがってた。
[からからと笑い]
でも、貴方に何かしようとは思わない…。
僕は、桜も好きだから。
[それだけいうと、またふらりと踵を返そうと]
何故、何故、物の怪狩る。
人も喰らわぬ、ただただ在るだけの者も居ったろう。
何ゆえに。
それがおまえの性なのか、そうせねば命永らえぬか。
人であれば、そのようなことは無かろうに。
何故に徒に命狩る。人も物の怪も等しく生きておろうに。
[と、低く鋭い声音で捲くし立てた後で、]
[ふっと思い出したように、]
……一応は尋ねておこう。
おまえは彼のおとこか。契りを果たしに参ったか。
…さぁ。
僕の母さんが…物の怪は狩るものと教えてくれたから。
いつも、異形の物の怪ばかり、狩ってたけど
人の形(なり)した物の怪狩るのも、また面白い。
[焦点合わぬ目でにやりと笑い。夜斗は殺気も見せずに]
生きるには食う、
なら物の怪も…命食って…生きてるんでしょう?
契り…?
契りとはなんでしょうか…
あぁ、遥月…様が…そのようなことを…。
あれを契るといいますか…
なら、貴方も僕を食いたいのですか?
契るとは、そのようなことでありましょう?
おれは桜。
ただ想い人を待ちて咲くだけの桜に過ぎぬ。
人の命も魂も、まして物の怪どもを喰ろうた事などないわ。
[語気鋭く言い返す。]
…桜の儚さは…人の魂と聞きますが…。
一体貴方様の足元…いくつの死体を隠していらっしゃる…?
魂散らねば桜は咲きませぬ。
[からかうように、挑発するように]
確かにひとを喰らう怪は多い。
それはそのように生まれついたのだ。それらが如何になろうともおれは知らぬ。
が、ひとを喰らわぬ怪も居ったのだ。
開耶……
おれの樹の下には、おれの骸が在るきりよ。
これ以上骸は要らぬ。増やす気も無い。
仮令春終わるを待てずとも、それがおれの誇り。
ただ、花にて在るがおれの。
喰らわぬから…喰らわれぬとは…道理がいきませなんだ
喰らわぬ怪が喰らうものの如何を知らぬなら
その逆だってありえましょうに
[くつくつと。]
妖であれば狩るのが…僕の為すことゆえ…
[吐き棄てるように言い捨てて、]
おまえが彼のおとこでないなら、どうでも良い。
おまえが憎いが……おれは花であると決めた。
花なれば、ただ咲くのみ。
狩ると言うなら手向かうが、そうでないなら殺す謂れが無い。
然らば。
桜の花が魂留むるのなら
今貴方を殺めて開放してやるのも情けかと
[濁った蒼い目を細く歪ませ、有塵へ向き直り]
春終わるを待たずとも…今、殺してやろうか?
[突然に口調が変わり、蛍の火を顕わしながら]
ふん……おれも狩ると言うか、小童が。
生憎とおれは、去ぬるなら彼れの手でと決めた相手がいる。
そう容易くはやられぬぞ。
[蒼い面、ますます血の気を喪って、白く、]
[けれども、硬く。]
[白い面を見つめ、ふ、と目を緩め]
なら、その者に殺されればいい…。
今は、何もしたくない…
[それ以上は何も言わず、そのままふわり、と霧と消え]
[月明かり][揺らぐ波紋]
[景色はいつもの清浄な泉]
[男と超えた血溜まりも今はすっかり清められ]
――……汝れはもう、居ないのだな。
冷たい手――汝れの手は、あんなに暖かだったのに。
[過日繋いだ手を見つめ]
[数珠握り締め水面に立つ]
己は百鬼と言うてたが、遠い、遠いわ。
汝れは百鬼にはなりきれぬ……。
[どういう意味を含めた言葉か]
[冷たい緋色][寂しさ消えて][ただ終焉を*求めるのみ*]
[社の近く、やはり意識は朦朧と。
意図せずにあの水の球、取り出しふと眺める]
…
[その中に写るのはある人の影だけ。
優しい表情で己の髪を撫ぜる人]
[墨染の躯]
[ふらりふらりと付近を歩む]
――あった。
[昨日の勝負の行方を示す刀(もの)]
汝れも妖し――ならば司棋が狩る者は真か。
[寂しい色など微塵もなく]
[ただ事実を事実として認識するだけ]
[感じた揺らぎ][水の珠]
[すぃと目を細め]
――まだ持っておったか。
結構結構。
嗚呼、鬼ごっこを始めよう。
[小さく呟き今は精神を*集中させる*]
[温い風、雲走らせる花嵐。
綻び開いて咲いては散って
既に酒宴のアヤカシたちも、片手とひとつ残すのみ]
ひい、ふう、みい、よお、いつ、む。
[それはそれは愉しげに、
赤鬼笑って指を折る]
愉しい愉しい繰り返してると
主様は怒るかねえ。
[唇歪めて笑う鬼。
黒紅着流し大きな手にはやはり瓢箪携えて]
[紅を指先で掻き混ぜながら、遥月は目を閉じ溜息をつく。]
………嗚呼。
鬼ごっこなどと……狩りなどと……何故そのようなことばかり。
[その指先を目尻に置き、鏡を見つめ色を広げる。]
元より、わたくしはヒトから成りし妖…。
ヒトと成りたければヒトとして生き、妖しとして成りたければ妖しに成れば良い……
わたくし達は、元より罪に墜ちた者。ならばその罪貫き通し、わたくし達の望む「地獄」へ墜ちましょう……
ねぇ、「橘」様……?
[左胸が、トクリと鳴った。]
[手の平の水の球眺め、とろんとしつつ。
ふいに水がきぃん、と振るえ、脳に直接音が響いた]
水が…?あぁ、帰りたいの…かなぁ?
[うわごとのように呟いて。
水に言われるままに木から降り、泉へ向かおうと]
[道具箱の蓋を閉め、風呂敷で包む。それを手にして社の渡り廊下から腰を上げると――]
あら、喰児様。ごきげんうるわしゅう。
……どなたか、待ち人でも?
[下駄を鳴らして喰児に歩み寄る。]
よう、遥月。
そっちこそ待ち合わせかあ?
めかしこんでるじゃねぇか。
[鬼はくつくつ笑って見せて]
ああ、約束があるんでねぇ。
鬼ごっこさぁ。
[泉のほとりに半身浸し]
[胸の蝶に衣の上から手を当てる]
見る者が欠けた今、当たりが出るまで狩るしかないのぅ。
司棋――か。
まだまだ子どもじゃが狩る者である以上は容赦はすまい。
[左数珠持ち右で印を]
[妖しい色の緋色が語りかけ]
[ヒトにそうしてきたように]
[残酷な夢で泉にゆっくりと誘う]
ふふふ………
[首を傾げて、目を細め笑う。]
あちらは待たれていないやもしれませぬが……。
わたくしにも「手の鳴る音」が、聞こえたのです。ならば向かわねばなりますまいて……
[かいなに風呂敷包みを抱き、歩みをひとつ、カラリと鳴らす。]
喰児様……子細を問うつもりは御座いませぬが……
今までで一番、良い笑顔ですねぇ……。まるで、欲しかった宝物が手に入る寸前の、童子のよう……
鬼さんこちら、ってか。
そうかい、そいつぁいい。
掴まえて来るといいさぁ。
[深く問わずただ謂って、
続く言葉に笑み深め]
ガキかあ、そうかもなあ。
俺ぁ愉しくて仕方ねぇのさ。
遥月、お前はどうだい。
手の鳴る音は、愉しげに聞こえるかぁ?
[紅の目線が、喰児からそっと離れる。]
……いいえ。
愉しげな音などでは御座いません。
ただ………
[踵を返し、喰児へと振り返る。]
………そう在れと、胸の蝶が疼くのです。
己の望む罪に墜ちろと……。
[不思議と、水の球見て幾分か心の病みは和らぐか。
ゆぅるりゆるり、歩を進め。社を抜ければ泉も近く]
…人がいる…
声が…聞こえる…
…誰…?
[紅が逸らされ物思い、
金の眼細め腕を組む]
望んだんならいいじゃねぇか。
[見つめる紅は鮮やかに]
思うようにやりゃぁいい。
恥じることなんぞねぇさあ。
蝶に華の蜜くれてやんな。
[もう一度だけ、喰児に振り返る。]
ええ、喰児様………
有り難う御座います………
それでは、ごきげんよう………。
[カラコロカラリ、下駄を鳴らして、遥月は司棋へと歩み寄る。]
[目の前に喰児と遥月。
気がふれたままであればまた怯えもしたろうが
水の術、惑わされればいよいよ精神深く沈み、己も忘れ。ただ、水の球に映っていた遥月だけには反応を。
表情なく、ただ遥月に近づいて]
貴方…僕を…呼んだ人…?
水の球、貴方が…見えたの…
[顔色を失った司棋を見て、遥月はそっとその身体を抱き締める。]
ええ………
お呼び致しましたよ、司棋様。
[道具箱は音を立てて地面に落ちる。]
……お会いしとう御座いました……
[己の胸に司棋の頭を寄せ、その額に口づける。]
わたくしは……
何がありましても、
……貴方様と共に在りとう御座います……
[されるままに抱きしめられて、口付けられても表情はなく]
でも…僕…貴方を知らない…。
貴方…僕の何…?
貴方が水に映っていたの。僕は貴方の傍にいたの。
でも…わからない…
ふふっ……
「貴方のこと、知らない」……です、か。
ならばこれから、覚えて下さいな。
[司棋の目を見て、にこりと微笑む。]
たとえこの世が地獄の炎に焼かれようとも……貴方様の手を決して離さぬ者、と。
[司棋から身体を離し、道具箱を拾い上げる。再び立ち上がり、司棋の手を取り――]
さあ、妖しを「狩りに」参りましょう……。
ヒトと成りし貴方様の、為すべきことを……。
[司棋の手を取り、泉へと――]
[にこり微笑まれ、手を握られても振り払うことはせず。
意図してか、そうでないのか、きゅっと手を握り返し]
水…が…帰りたがってる…泉…行かないと…
[夜斗を呼ぶほど、頭ははっきりとはしないけども
妙な安堵を持って遥月に引かれるままに]
――司棋の手を取り、泉へと――
……白水様。白水様。
いらっしゃるのでしょう……?
[狩らんとす鼓動を抑え、標的の名を呼んだ。]
[犬の童子が消え失せて後、さてどうしたものか記憶(おぼえ)が無い。]
[気が付けば、林の中にて倒れ居り、]
……そうか。おれは。
[落ちた枝でざっと地を掘り、開耶の扇をそこへ埋める。]
すまぬな、開耶。喰児のことにすっかり気が行って、危うくおまえのことを忘れるところだったよ。
……薄情な話だ。
[薄く唇歪め、それのみを言い置いて去る。]
[泉に着き。水の球と泉の水が共鳴し。
白水の術が解けたのか、僅かに自己が浮き上がり。
己の手をとる遥月を見止め]
あ…?は…づき……?
[一瞬、怯えの色を瞳に浮かべ。]
遥月――生きておったか。
万次郎が妖しというから捨て置いたものを……
――邪魔するのなら汝れも狩り取る。
[誰かがいなくなるたびに]
[寂し寂しと泣いていた面影は露ほどもなく]
[冷たい冷たい氷の笑みで]
[人形のように相手をみやる]
司棋からか、遥月からか――
先に逝きたいのはどちらかのう?
[集う影の無くなった宴の席。]
[果たして今は幾たりが残って居るのか。]
[ゆらゆらと足許些か乱れて、墨染めの衣現れる。]
……すっかり遅くなった。今宵は如何だ。
………いいえ。
わたくしは、司棋様と共に在りましょう……
[白水を横目で見やり、司棋に口づける。]
司棋様。さぁ……いきましょう。
わたくしの魂は、貴方様のもの。わたくしは貴方様を決して裏切りませぬ……
[再び白水に視線を向けて――]
……狩られるのは、貴女様です。
[道具箱から紅を取り出し、白水に向けて投げた。]
毎夜騒がしく居ったものが……随分と減ったものだ。
今宵はおれとおまえだけか。
もう他には居らぬか。常盤の女君は何処だ。
[大儀そうに腰下ろし、]
酒をくれぬか。体が冷えて敵わぬ。
随分と見くびられたものじゃのう。
[右手の指先印を描き]
[眼前に派手な音をたてて水柱があらわれる]
[紅は清浄な水に散らされて]
[おさまる水に緋色の煌めき]
わっぱ一人と妖し崩れに何ができる?
ここはわらわの聖域――逃がしはせんよ。
[遥月にそう語りかけつつ覚醒間もない司棋に]
[かるぅく投げた水飛沫]
[女にとっては水かけ遊び][受けるものには鉛の弾丸]
[『裏切らぬ』の言葉とともに降る口付けに目を見開きながら蒼い瞳に色が戻り。また、以前の己を取り戻したか]
…はい。では、僕は為すこと為すといたします。
[また一陣の風吹き起し、目の前にまた黒い狼]
白水様。貴女に恨みはありませぬ。
しかしながら。今は貴女様を狩る理由が出来ましたゆえ。
死んで、頂きまする。
もう六つを数えるまでだからぁなあ。
片手の指に、1つあまり。
碧か、どっかで子鬼と遊んでるのかねえ。
其のうち来るだろうさ。
[くつくつ笑い眼を細め
有塵の方へ瓢箪寄越す]
ああ、そうかもなあ。
愉しそうだな、喰児。
……常葉の女君とやはり闘うか。青司の様に。
[眸半眼に開き、思いに沈んだ面持ち。]
そう言えば先程、あの司棋とか言う犬の童子。
万次郎が狩る者と言うておったあれに会うた。……矢張り誠に人の様であった。
嘘か誠かは分からぬが、誰ぞ仲間の居る口振りであったよ。
[緋の鬼より瓢箪受け取るその手は微かに震える。]
[それでも取り落とすことは無く、水飲むように呷って長く息を吐く。]
[蒼い面に幾らか生気が戻る。]
[水飛沫、顕わした蛍火と相殺し]
逃がさぬのはこちらの台詞、骨まで喰らってくれる
わっぱと見ゆるも狩る者をゆめゆめ侮って下さいますなよ?
[夜斗に飛び乗り、風のような速さで水面を駆け抜け、白水の間合いへ。夜斗は肉食いちぎってくれようと]
「妖し崩れ」……ええ、確かに。
元よりわたくし、ヒトの身変じて妖しと成った者……
そのような言葉、屈辱とは感じませぬ。
其の言葉こそ、今のわたくしには「誇り」……!
[月に向かって跳躍し、白水の脇へと――距離を置いてヒラリ舞い降りる。]
ああ、そうさあ。
相棒との死合いも碧とやりあうかどうかっていう先行での奪い合いだったからなあ。
[黒い髪の合間から眼のいろが見え隠れ]
ほおう、そうなのかあ。
さっき見たときゃ心此処に在らずってぇ感じだったが。
万次郎の術は本物だったってぇことだなあ。
仲間か。
1人じゃあそこまでずたずたに出来ねぇだろうよ。
[ふっと喰児の顔、真っ向から見据える。]
女君と死合う前に、狐の言うていた様に司棋狩る気は無いのか。
万次郎の見立てが正しければ、残って居る内……
[とそこで喰児の示した数に気が付く。]
[それには些か驚いたようで、声音が少し固くなる。]
もうそれだけしか居らぬのか。
[真っ直ぐ見てくる漆黒に、
金の眼逸らさず見返して]
別段俺ぁかまやしねぇがなあ。
いつも謂ってたろう。
愉しけりゃあそれでいいのさあ。
それに、今あいつぁお取り込み中みてぇだからなあ。
[笑んだままで頷いた]
そうさあ。
随分と少なく為っちまったなあ。
[くすくす][笑う]
[墨濡れのまま] [冷たい微笑み]
恨みがないのはこちらも同じ。
――はだかる者は皆殺してわらわの中の毒を消す。
[今日までのつながりを]
[数珠を一つちぎり投げ][四方八方弾ける水矢]
[くすり笑って][夜斗の追撃ひらりとかわし]
わらわは汝れらをあなどりも買い被りもせん。
さあ、鬼はこちらじゃ、本気を見せてみい。
[次の印を描けば][珠から濃霧]
[一寸先も見えないへだたり]
[道具箱から紅を取り出し、泉にそれを次々投げ込む。]
…………っ!!
せめて、泉が毒で埋まれば………!
[白濁した液体が入った瓶を取り出し、栓を抜き――毒の原液を、泉に向かって投げ込んだ。]
[ちっ、と舌打ち一つ。
飛び交う水矢を夜斗もよけるが奈何せん数多く
数本、体を掠めるも]
その水、吹き飛ばしてくれましょうよ!
[蒼い蛍火、渦を巻き、火柱一つ巻き上げて。
火の風、霧を吹き飛ばすか
水面に写るは白水の影か、それを狙って無数の蛍火、弾き飛ばす]
灼かれて去ね!
そうか。愉しければそれで良いか。
そうだなあ。おまえはいつもそうであったよなあ。
[ほろ苦く笑って、酒を呑む。]
[と、その手を一時休めて、]
……のう、喰児。
おまえはおれの花を綺麗と言うてくれたな。
桜で在るおれが好きだと言うていたな。
[じっと眸の奥の奥底を、更に覗こうとするように、]
[色の変わりを見逃さぬと云う様に、]
[見据えて、言の葉を継ぐ。]
先日言うてしまったからな。
隠しても詮方無い故、おまえには言うが。
老いたる樹にはこれだけの、花咲かすだけでも命削れる。
まして、ありったけの花をなあ。
精気が幾ら有っても足らぬのよ。呑んでも呑んでも追い付かぬ。
……呑むより他に法は無くは無いが、それは出来ぬ。
想いて咲く、おれは花だから。
……………っ!!
[一寸先も見えぬ霧に遥月は怯み、毒投げる手が止まる。]
(見えない………!
これでは、突撃すらできない……!)
[その刹那、霧を裂き飛ぶ炎が走る。]
……司棋様!!
[視線の先には、微かに白水の姿が在るか。]
そうさあ。
会った時からそう謂ってただろう?
[薄墨櫻は酒を呑む。何処か苦味が滲む笑み。
赤鬼瞳を逸らさずに]
ああ、好きさあ。
有塵の櫻は綺麗ぇだからなあ。
しかし。
桜で在っては、おまえをただ見守ることしか出来ぬ。
おまえが往くのをただ見るしか出来ぬ。
おれは、花であるより鬼となった方が良いのかも知れぬと思われてきた。
[低く低く。囁く。]
――……そうかあ。
見事な花だったが代償がでかかったてぇことか。
お前は櫻の精だもんなあ。
憑代が枯れっちまったら途絶える、か。
他の方法をとらず
咲いて散るのを決めたんだなあ。
そう決めたんならそれがいいんだろうさ。
[眼を細めて酒を乾す]
なんと綺麗な芸じゃろう――
宴の余興に最適じゃ。
[うすい笑みで火の渦眺め珠八つ爆ぜ波起こす]
[襲う蛍火水にのみ][晴れた霧の中右手は左の蝶を庇う]
霧はよそうか――やりにくい……
[意図読めぬ言葉を吐いて] [ふわふわと浮く水を出す]
[司棋を見据えたまま印を描けば] [夜斗の頭にかぶさるか]
もがき苦しめ、子猫にオイタをした罰じゃ。
[水の中に頭いれられ空気求めて苦しむか]
[水のかたまり掴めることなくはずす術あらず]
さて、何分もつか――……ん?
[不意に感じる淀んだ空気]
[霧が晴れ、遥月の視界に夜斗が苦しむ姿が入った。]
夜斗様………司棋様ッ!!
[水珠の中に閉じ込められた夜斗めがけ、水珠から出さんと突撃する。]
妖が、おのれを焦がす火をも芸というか!
[瞬間、夜斗を襲う水の塊、
夜斗が息できねば己も同じ、息がつまり夜斗から転げ落ちそうになるを咄嗟に回避し]
──っ!
[息苦しさに顔は蒼く目は見開き喉を押さえもがき苦しみ]
う…あ…ぁ…!
[夜斗めがけて突撃するも、その水の珠は外れない……]
司棋様ッ!!
[蒼白な顔色で遥月は叫ぶ。]
かくなる上は………!
[帯を外して手に巻くと、再び白水へと跳躍する。]
おれは。
おれは。
[射干玉の真黒の眸が揺れる。]
おまえが死ぬのを見たくない。
女君をこの手で、
[と、そこから先を言うことは出来ず、]
……けれど、おまえが女君と死合うのを心待ちにしているのも解かっている。
おまえがやりたいと思うことを、おれはそのまま見守りたいとも思う……。
何を必死になってるのだか――どうせ最後には皆死ぬものを。
[絶対零度の赤い瞳]
[跳躍する遥月を射ぬくように見据え]
遥月――泉に何ぞ仕掛けたな。
[白水に向かって跳躍した遥月は、足を伸ばして白水の胸目掛けて蹴りを入れる。]
―――バシャアアアア………
[大きな水飛沫を上げ、遥月は白水と共に紅に染まった泉の中へ飛び込んだ。]
ええ……勿論……!
[白水を引きずり上げ、目と口、腕を、帯で縛り上げ――白水の身体を捕らえる。]
……貴女様に水を制御させまいと、わたくしの毒を……
[着物の奥で針はいきり立ち、泉へと毒液を更に流し込む――]
手出しは無用さあ。
[有塵の躊躇う言葉の続き、
小さく肩を竦めて見せた。]
ああ、愉しみにしてるさあ。
どっちも了解して、
どうしたいかわかんねぇんだなあ、お前は。
[痙攣しながらいよいよ息がつまり、頭がぼう、となったか誰にともなく弱弱しく手を伸ばし、うわ言のように呟く。夜斗は既に動きもせずに]
は…づき……
[そのまま、ぱたり、と手は落ち]
[並大抵の毒では瞬時に浄化してしまうのに強すぎる毒は泉を汚し初めての経験に珠を掴みそこね水に落つ]
――……あ……ああ――青司の蝶が―……
[胸蹴られる衝撃よりも]
[泉けがれる苦しみよりも]
[消え行く蝶に気をとられ]
[術消え失せて夜斗は解放]
[帯で縛られ身動きできず]
[帯で締め上げ、動きを封じて。遥月は、白水の浴衣の胸元を見た。]
……………!?
何でしょうか、この……胸元の、墨が滲んだような色は……。
[はだけた胸元から見えるのは……]
……………蝶?
それにしては、歪な……
半分溶けて、もう形が分かりませぬが……
[あまりに重い喪失感]
[帯の力ゆるむも目や口ほどく前に]
[逃れた腕はただ胸元を掴み]
[女に既に戦意なく、ただただ震えて身を抱く]
[突然術が解け、夜斗は大きく跳ねながらも息を吹き返し。自身も突如自由になった呼吸に大きく咽せ。遠くに見える、二人の姿。とりわけ戦意消失したかのような白水の姿]
げほっ…ごふ…っ
遥月…白水…様…?
[視界の中に、苦しみ倒れた司棋の姿が飛び込んできた。]
……………ッ!
司棋様!夜斗様!!
[帯を手にして、白水を背にして泉の中をザバザバと歩く。着物は重く、その動きを遅くする。]
司棋様ぁぁぁッ!!
[無様なほどにもがきながら、遥月は泉からなんとか逃れて上がり、司棋の元へと駆け寄った。]
俺が決めることじゃねぇと思うがねえ。
まあ。
鬼であるお前より、
清々しく笑った花の方が綺麗だったさあ。
[覗き込んだそのままに]
消えちまうのを見るのが辛いんなら
[金の眼細めて言の葉を]
俺がお前を散らすって方法も
ありはするがねえ。
[そんな事を、*囁いた*]
[周囲の音など耳には届かず]
[遥月が去れば顔の帯もはらりと落ちる]
[消えた]
[溶けた]
[滲んだ蝶は]
[形を保てず]
[着物に染みたわずかな墨色]
嗚呼――……嗚呼、消えないで、溶けないで……!
[願届かずはかなく消ゆる]
[瞳の色は迷子を映す――]
[遥月はずぶ濡れの姿で司棋に寄り添い…]
ご無事ですか、司棋様……!
嗚呼……良かった……!
[たまらず司棋を抱き締め、その息を頬で感じた。
そして、泉の方へと振り返る。]
白水様、その墨は………?
[目を見開いて、白水を見る。]
[ずぶぬれの姿で抱きしめられて、自分も濡れることはいとわずにまだ力入らぬ腕をゆるく背に回し]
ん…大丈夫…。
貴方も…無事でよかった…
白水様…は?
[くたり、と体を預けながら]
え………?
青司……様……?
消え……た……?
いったい、どういうことです……?
もしや、青司様はもう………?
[白水の言葉に、信じられぬという表情を浮かべて呟いた。]
[遥月の腕の中、青司の名に少し顔を曇らせて]
青司様…昨日、会った…。
よくは覚えてないけれど、今日は気配を感じない…
[青司と白水、寄り添う姿を思い描き。
青司に遥月を想い重ね、心なしか強く遥月の着物を握る]
つめたい、もううごかない、
蝶だけが、生きてたのに……
のう遥月――何なのじゃこれは……
今まで幾人もの死を見つめ、
全てに恋うてきたというのに。
寂しいのは、同じなのに――
[ばらばらな言葉]
[読み取るは困難か]
全てに……恋う……。
[視線を落として、呟く。]
……亡くした命は……
きっと………
[司棋の手が、己の着物をぎゅっと握る。その微かな動きを感じながら、遥月は唇を開いた。]
……同じでは、ありませぬ……
貴女様が涙を流す程に欲して、求め、手を伸ばし――亡くしたことに気付いてもなお、狂おしい程に求める命は……
「同じく恋うる」命では、ありませぬ……
[元はといえば己が迷い込まねば起こらぬことばかり。
妖も己も、触れる温かさ知ってしまったからこそ。
互いに顔さえ合わさねばこのようなこと、終ぞなかったものを
白水の痛々しい顔見るに耐え切れず、思わず口つく言葉は狩る者には相応しからぬものであり]
…ごめんなさい…ごめん…な…さい…
[誰に対してでもなく。ただ、その言葉だけを知るように呟き、涙で濡れる目を*閉じた*]
[はらり][はらはら]
[零れなかった涙は落ちて] [紅い泉に吸い込まれ]
同じでないなら、何だと――……
[績切ったように流れる涙が言葉をそこでつまらせて]
[続きを言うことが出来ないほどに鳴咽をもらす]
[青司――……青司……]
[藍の男のぬくもりを思い]
わらわも、百鬼には、なれなんだのぅ――
[小さく漏らせば]
[紅に染まる泉の中で]
[あの幻を*ひたすら恋うて*]
其れが………
『愛する』と…いうこと……
[誰に対してとでもなく、遥月は司棋の身体を抱き締めたまま呟く。]
恋うる気持ちがつのり、己の身分も立場も、身の安全も、命までも――何もかもかなぐり捨てて、恋うる相手を思い、共に在りたいと願い、其れを叶えんとすること……
[ハッと目を見開いて――]
ひょっとして、白水様は、青司様を………
[続く言葉を、飲み込んだ。]
[男の顔からは、既に紅が落ちていた。他人に晒すまいとしていたその素顔を晒し――それを気にすることもなく、滴り落ちる赤い雫を拭い、司棋に微笑んだ。]
いいええ。
わたくしのことなら、お気に為さらないで下さいな。
この遥月、貴方様の為になら……
[左胸の蝶がトクリと疼き、視線には凛とした光。]
……どのような苦痛も、苦痛とは思いませぬ故……
それくらい、貴方様が『たいせつ』なのですよ。
ねぇ、司棋様………
[遥月は、そっと司棋を抱き締めた――*]
……女君との死合い、邪魔されとうなくておれを殺すか。
矢張りおまえは、
[硬い面が引き歪み、憤怒にも似た色がさっと過ぎる。]
[──がそれも一瞬、]
……違う。違うのだ。
然様な事が言いたかったのではない。
おれは、
[今にも泣き崩れそうな顔色に。]
おれは、彼のおとこの訪れをひたすらに待つ、その為にだけ在る。
身も心も命も魂もすらも縛られて、それ以外の在り様など無い。
彼のおとこに逢わずして、吾から死を願う事も出来ぬ。
だが。
おまえが彼のおとこならば。
[覗き込まれたその顔を、更に近付け息掛かる程、]
[夢の際にて在るような、脆く儚い笑み浮かべ。]
何時の日かあの桜の木の下にて再び相見えんと
童子の頃に交わした契りを、
おまえが果たしに参ったと
そう言ってくれるのならば。
[緋の鬼の金の眸に、烏羽玉の黒き眸を合わせ見て、]
[熱に浮かされた*囁き返す。*]
[ゆる、と目を開ければ己を抱きしめる端正な男性の顔。夢か現か区別つかねど、そぅっと遥月の頬に触れ]
いつか…恋うる相手には言えぬ言葉と仰ってましたね…。
然し…貴方様は十分、仰って下さいました…。
貴方が…過去に失った人を悼み悲しむなら、
僕はその空白を…埋められるでしょうか…。
[優しく、何度か唇触れさせ]
僕は…貴方の全てに、*なりたく…*
― 夜間 ―
[カラリ] [カラ] [コロ] [下駄の音響き]
[ひらり] [ひら] [はら] [薄紅の花弁舞う]
もゥ好いかえ?
[コロリ] [コロ] [コロ] [軽やかな笑い声]
[くるり] [くる] [くる] [紅い番傘回して]
―――もゥ好いヨゥ。
[白い喉逸らし] [仰ぐお月さん] [赤鬼の眼色]
[眇める双眸] [吊り上がる唇] [風に舞う薄紅]
嗚呼、嗚呼―――
[薔薇色の唇から] [零れる吐息] [甘い熱を孕み]
[春風に攫われ] [赤黒に染まる袂] [常葉と共に揺れ]
酒も好いが今宵くらいは静かを楽しもうかィ。
[ゆるり] [長い睫毛瞬き] [唇を引き結ぶ]
[其の姿] [常から離れ] [凛と静寂を纏う]
[言葉無く] [満たすは] [風の音] [薄紅の舞う音]
[金色の月] [見詰める碧] [穏やかに] [優しいか]
[黒が儚く囁き返す。
櫻が櫻がはらはら散って]
待ってたんだぁなあ。
ずうっと。
ああ、知ってるさあ。
古い付き合いだものなあ。
[眼を細めて]
硬ぇなあ。
折角綺麗ぇな花なんだから、
もっと思うように咲きゃあいいのによ。
俺ぁ嘘は吐かねぇのさ。
アヤカシだからヒトでもねぇ。
ただ謂うだけの言葉に意味を見出だすかどうかはお前次第さぁ。
[低い声で言葉を紡ぐ]
『約束を果たしに来た』
と。
[背後で物音] [張られた蜘蛛の巣] [かかる獲物は小鬼か]
[動かずただ月を仰ぎ] [もがく小鬼は其の内にくたりと脱力]
騒がしいネェ。
[綺羅リ] [月光に照らされる蜘蛛の巣] [ぬらり] [紅い雨伝う]
[眸合わせたそのままに、緋の鬼見詰めて。]
[──暫く後、]
──あゝ、あゝ。
おまえは本当に優しい男なのだなあ。
[脆く儚くほろ苦い、笑み零す。]
[両手を突いて肩落とし、顔伏せる。]
[ばらりと髪が面覆いて、]
……もう行け。
女君が待っていよう。
[柔らかく低い声、そこから洩れる。]
優しいなぁ、
どうだろうねぇ。
[伏せてしまった白い顔、
暫しの間見下ろして]
そうだなぁ。
そんならそろそろ行くかぁ。
[立ち上がって歩を進め、
去り際小さく手を上げた]
酒は置いてくから好きに呑みなぁ。
[社後にし歩く鬼。
百鬼夜行の影の群れ、今は疎らに咆えるだけ]
鬼さん此方、
手の鳴る方へ。
[笑い唄うはわらべ歌。
宴の終わりは直ぐ其処だ。
朧月夜のその下で、互いに花を散らすだろう。]
[俯き加減] [常葉彩る] [妖しの蛍火] [薫る大きな白牡丹]
[俯き加減] [そぅと白の手伸ばし] [牡丹の花弁をなぞるか]
………
[遠く聴こえるわらべ歌] [耳慣れた声] [薔薇色の唇は綻ぶ]
[はらり] [誘う様に] [林に張られた蜘蛛の巣は落ち] [月夜に煌く]
[月夜に煌く蜘蛛の糸。]
手の鳴る方へ。
[白牡丹が咲き誇る。常盤の髪が揺れている。
赤鬼、にいと唇歪め]
もういいかい?
[唄うように問いかけた]
[近付く気配] [遊螺り] [振り向き] [笑みに双眸眇め]
[問い掛けに] [唄い返す] [そぅと囁く声] [甘く] [甘く]
嗚呼、もゥ好いヨゥ。
もゥ好いヨゥ。
[鬼を探して] [鬼ごっこ] [もう好いかい] [もう好いよ]
[本気の鬼ごっこ] [掴まえるのは] [果たしてどちらか]
鬼さん見つけたヨゥ。
其れとも――
[赤鬼の姿] [見つけて浮かぶ笑み] [童の様か]
[小首傾げ] [揺れる常葉] [大輪の白牡丹薫る]
アタシが見つかったンかえ?
[もういいよ。
誘うような甘さで響く。
常葉の口元浮かぶ笑み、さながら大輪の花に似て]
さぁて、どっちかなあ。
俺が鬼か、
碧が鬼か。
どっちも鬼なのかもしれねぇな。
[一歩踏み出し草の上、
愉しそうな低い笑い。]
アタシも喰児もどっちも鬼かィ、そいつァ好いネェ。
[コロリコロコロ] [軽やかな笑い声] [宵闇に解ける]
そう謂やァ茄子の兄さんにゃ勝ったのに約束の酌もしてなかったさァ。
生憎と今宵は酒ァ無いヨゥ。
[赤鬼の笑い声] [紅い髪攫う] [夜風に乗り] [鼓膜擽る]
[草の上立つ赤鬼] [向き合い] [くるうり] [赤の番傘回す]
酒ァ無いが変わりにアタシでも抱くかえ?
[ひとしきり][涙流して][呆然と]
[ふらりふらり][水から上がり][どこかへ向かって歩む足]
[遥月と司棋][寄り添うを][見るともなしに見て]
[去り際][以前のような][穏やかな笑み投げて]
――青司のところへいってくる。
[骸が眠る桜の下へ][紅い体を珠もち清め]
[カラリ][コロリ][下駄の音遠く][林の奥へ進み入る]
だろぉ?
[鈴鳴るような笑い声、
鬼もくつくつ笑っては]
ああ、そういやそうだなあ。
俺も酒ぁ持ってねえや。
[くるくる回る番傘に、
続く言葉にくつくつと]
ほおう、そりゃあ嬉しい申し出だねえ。
碧は高いんじゃぁなかったのかあ?
嗚呼、高いヨゥ。
其ン身と引き換え一生に一度きりさァ。
どっちが勝っても全部喰やァ呪(まじな)いは解けるからネェ。
[番傘たたみ] [地に放り] [帯に手をかけ] [するりと解く]
[赤黒に染まった浴衣] [袷が歪み] [柔らかな胸元が覗くか]
ほゥら、おいでヨゥ。
鬼ごっこの前に腹ごしらえさァ。
[白い手伸べ] [握る帯] [風に揺られて] [ふわり漂う]
[鬼さん此方] [手の鳴る方へ] [白い手] [誘う] [誘う]
へえ、一生に一度っきりってかあ。
そりゃぁ高いわけだ。
抱けば喰うか喰われるかってぇワケだ。
[くつくつ笑いで歩みを進め、
誘われるままに常葉の元へ]
腹ごしらえかあ。ああ、喰ってやるさあ。
[差し伸べられた白い手取って、
口付け舐めて]
旨そうさあ。
[林の奥][藍眠る場所]
[ゆるやかに近づき]
[頭抱いて膝に乗せ]
春眠暁を覚えずかえ?
[頬撫ぜ][髪すき][笑いかけ]
お寝坊さんじゃのう。
鬼に喰われてしまうぞえ。
[開かぬ目][冷たいからだ]
[目にすればまた][緋色は揺れて]
嗚呼、好きなだけ喰うと好いヨゥ。
喰われた分は後できっちり頂くからネェ。
[取られた手眺め] [白い指先] [すぃと舌をなぞり]
[互い違い] [潤む碧と] [甘い闇孕む漆黒] [僅か眇めて]
喰児は抱く時も優しいかえ?
[空いた白の手] [そぅと紅い髪梳き] [首筋なぞり]
[間近に顔寄せ] [甘える様に小首傾げ] [金色覗く]
[はらはらはらり]
[我慢はせずに]
[頬落つ涙][墨滲む]
愛しておる――と言うてもいまいちピンと来ん。
汝れは陽光のように暖かな光でわらわを包み、
道しるべのように優しい灯かりで前に咲いた。
散り際華々しく本壊とげて――嗚呼、
今一度、緋色と共に果ててくれるか?
[潤んだ目][けれど笑って][小首傾げて]
ははあ、しっかりしてやがるねえ。
分かってるさあ。
[白い指先ちろと舐め、擽るように動かして]
どうかねえ。
俺ぁ優しいつもりだぜえ。
[首筋なぞられ眼を細め、
間近の薔薇色唇に己の唇重ねて食んだ。
手を白い肌に滑らせて、衣をするりと解くように]
のぅ、青司。
あの山は綺麗じゃったのぅ。
わらわが見た、最初で最後の幻じゃ。
[涙で藍の頬に滲んだ墨を]
[袖でそろりと拭い取り]
汝れが墨だからなのか、わらわが水だからなのかわからぬが
真から混ざりあえずとも、傍にあるだけで安心したよ。
それが遥月の言うた愛することなのかはわからぬが
汝れがおらんだけで、世界がいらなくなってしまったのは
まぎれもない事実ぞ。
[指先に伝わる] [湿った感触] [細まる金色] [覗いて]
[潤む碧] [蠱惑的に揺れ] [白い面] [黒き蝶が翅を揺する]
其ンなら好かったヨゥ。
[首筋をなぞった手] [首に絡めて] [寄せられる唇]
[僅か開く薔薇色] [ぬらりと唇を舐め] [紅い舌が誘う]
優しいのが好いのさァ。
[赤黒に染まる浴衣] [音も無く肩滑り] [肌蹴て足元にたまる]
[月明りの下] [露わになる白い肌] [*直ぐに薄紅に染まるのだろう*]
[ある人は言った]
[出会わなければ、知らずにすんだと]
むかーし……初めてわらわが恋うることになったヒトは
あの謎かけをこう言った。
咲かぬ桜、春を知らずに穏やかな陽射しに包まれて
誰に知られることもなく平穏に、日を送ることが出来ようと。
[潤む碧は薫り立つ。
視界の端で蝶がゆれ、羽ばたく漆黒艶やかに]
ああ。
[着物広げて地に敷いて、白い体を横たえる。
誘う舌を甘噛みし]
優しく、優しくなぁ。
[吐息が擽る首筋を、
舌で辿ったその後に、
耳元で囁く、*真の名を。*]
咲いた桜、
春を知って花開き、火のない心に灯かりを燈す。
風に煽られ火揺れるとも、花ある限り消えはせず。
春が過ぎればはかなく散りて、灯かり共々消え失せる。
[一拍の間――視線は舞い落ちる花びらに沿わせて]
――散るは花、散らすは緋(わらわ)。
次の春を待つことが出来ぬなら、風に散らされ舞うよりも
灯かりが燃え尽きてしまう前に、吹き消してくれとーー……。
[風をうけつつ瞳を閉じて]
わらわはずっと、死ぬのが怖かった。
寂しくて寂しくて……魂を刈り取る度に泣いていたが、
それでも――
殺すは一人との別れ
死ぬは全てとの別れ
想像しただけで耐えられぬことじゃった。
[視線おとして寝顔見つめる]
それなのに……巴も汝れも、死んだのに笑うておるのぅ。
[くすり][笑みもらし]
――巴が笑うて去んだ理由は今なら何とのう判る気がするがな。
[その寝顔に唇寄せて]
汝れがそばに有る暖かさを知ってしまったら――
居らぬ世界が寒くて寒くて寂し過ぎる……
[散る花びらを見つめつつ]
[あの赤鬼は何と言っていたか]
喰児……わらわは答を見つけたぞえ。
汝れの言う通り、わらわの中にあったようじゃ。
ありがとう――
常盤といつか鬼ごっこをした時は、汝れも笑うのかのぅ。
わらわは本壊――汝れも本壊遂げれたら良いの。
咲いた桜――
散るも散らすも緋の目のわらわ。
[咲かずは平穏――咲けば毒得て散るを待つ]
[全てがそうだと思ってた]
[でも今は]
汝れとの出会いが毒だったとは思うておらん。
[浮かんだ色は佳い笑顔]
[藍の頭を膝からおろし]
[隣で寝転び骸を抱いて]
わらわの最後のわがままじゃ。
青司には、色んなものをもらった気がするが
[ぎゅっと抱き締め耳元でささやく]
なれど最後にもう一つ。
汝れの骸をわらわにくれ――
一人で消えるはやはり怖い。
[くすり笑って両の目つぶし]
[その最期まで抱きしめて]
[命が削られれば体も徐々に水に還り]
[骸の男も徐々に墨へと還るだろうか]
[溶けて]
[溶けて]
[溶け合って]
[混ざり]
[雑ざって]
[交じり合う]
[白い泉と黒い墨]
[あとに残るは*水と青墨*]
[耳朶にかかる息遣い] [鼓膜震わせ紡がれる名]
[切なげに眉根寄せ] [背に腕回しきつく抱き締め]
嗚呼、嗚呼―――
[零れ落ちる吐息] [乱れ咲くは熱の華]
[薔薇色の唇] [うわ言みたいに] [鬼の名を紡ぐ]
[赤黒に染まった浴衣] [肩からかけて] [赤鬼に身を寄せ]
[目蓋をおろし] [呼吸を落ち着けるうち] [浅き眠りに落ち]
[──どれ程の間、そうして俯いて居たのか。]
[やがて、]
[手を伸べて、地に転がった瓢箪を拾う。]
[ゆぅらり立ち上がりて、]
[ぞろり、と墨色の衣が地を擦る。]
[中有を静かに見詰める眼(まなこ)が映すは己が周りを舞う花弁と……]
[さくらいろの闇。]
[神域の、数の減りたる怪も]
[見ているのに観ておらぬ目で眺めつつ]
[そぞろ歩く。]
[交わされる声も耳に届けど]
[しかれども聴こえてはおらぬ。]
行かねばなあ、おれの居場所へ……。
[ぞろり、ぞろり。]
[はらり、はらり。]
[びょうびょう、]
[桜を揺らし風が吹く。]
[散らされた、花。]
[墨の衣の端より白く解けて花弁に変じ]
[ほろりほろほろ]
[風に乗り][巻き上がり]
[白き花風となりて]
[遥月の傍でぼんやり佇み、掌にひらりひとひら、淡い花弁]
…我花葬る(ほうる)を痴(こけ)と笑え
いつの日か我を葬るはそも誰ぞ…
[白牡丹が小さく揺れた。]
[熱が身体を駆け巡る、余韻の甘さがまだ残る。
眠る常葉の髪を梳き]
―――?
[未だ墨が滲む腕、違和感をおぼえつと見れば
溶けるが如く墨薄れ
清廉な水の気配がし
そしてそのまま消えていく。]
……そうか。
そりゃあ、よかった。
[く、と低く笑み零し此処には居ない誰かに答え]
ああ、笑うさあ。
[瞳を閉じた真理の頬、そっと撫でては口付けた。]
[頬に落とされる] [微か温かな感触] [長い睫毛震え]
[幾度か瞬き] [身を起こして] [浴衣の前を合わせ直し]
嗚呼、眠っちまってたかィ。
待たせたネェ。
[赤鬼の表情覗き] [小首傾げ]
なンぞ、好い事でもおありかえ?
いいやあ。
綺麗ぇな寝顔見せてもらったから
待ち時間はチャラさあ。
[何か好い事あったのか。
尋ねる真理にくくっと笑い]
なあに。
ひとり、本懐遂げたらしいさあ。
[墨の滲んでいた腕も今は洗い流されたよう]
[遠くで感じた墨の香りと水の清さ、とくんと胸元震えるは]
水の球…?泣いてるの…?
[取り出した水の球、あれだけ澄んでいたものが
今は光も塞がれて。
青くも黒くもなった水、不思議と濁るようには見えぬのは
きっと2人が出会えたからか]
[目を細めてそれを見る]
さよなら…。
どうか…お2人がまた、出会えますように…。
[水の球にそっと頬を触れさすと、ころりと紅い泉へ転がして。球は直に見えなくなるも、視線はずっと球を追い]
――男は罪を犯した。
――人殺しの大罪。
――独りでは出来ぬと思い立ち、
――殺しを生業とする男と共に、
――無実の者を巻き込んで……
――彼は、本懐を遂げた。
――彼に残るは、罪の意識。
――或る時彼は思い立ち、
――其の胸に蝶の姿を刻む。
――紫と黒の蝶は
――生まれ落ちれど、自由に飛べず……
――彼は蝶に何を見たのか。
――其れは………
寝顔なンざァ観られたなァ初めてだヨゥ。
褒めて貰えたから好いけどネェ。
[笑う赤鬼] [誰ぞ本懐遂げたと謂う]
そうかィ。
そいつァ何よりさァ。
[立ち上がろうと] [身を起こしかけ] [一拍] [赤鬼見詰め]
[そぅと白い手は頬をなぞり] [逆の頬に薔薇色の唇寄せる]
こっちも本懐遂げるかネェ。
[遊螺り] [立ち上がり] [帯締め直し]
[番傘拾い] [くるうり] [まわして広げ]
[抜く簪] [常盤落ち] [白牡丹髪に留まり]
[肩に揺蕩う常葉] [白の手] [鼈甲の簪] [逆手に持って]
さァ、遊んでお呉れかえ?
他のなンにも考えず本気も本気の鬼ごっこさァ。
[春の風] [舞う常盤] [薫る白粉と]
[小首傾げ] [桜の色香] [ニィと笑む]
[――ポチャリ。
光を失った水の珠は、紅い泉に落ちていった。]
……白水様。
[小さな声で、其の泉の主の名を呼んだ。]
[そして、
遥月は傍らに居る司棋の肩にそっと手を回し、己の方へと抱き寄せる――]
初めてかあ、そりゃあいい。
[くつくつ笑いで帯を締め、
着流し整え向き直る]
ああ、何よりさあ。
櫻も、咲いて散るんだろうなあ。
[さてそれは誰のこと。
唇触れる感触に眼を細めて髪を撫で]
そうだなあ。
遂げるとしようかぁ。
[番傘まわす常葉はしゃなり。
赤鬼倣って立ち上がる。
向かい合った緋色と常葉。]
鬼さん此方。
[ぴくり、遠くで翠色の気配を感じ、眉を僅かに顰めるも]
…翠の…
終わりも、近いのでしょうか…
[そっと抱き寄せられて、顔を見上げ]
遥月…様、どう…したの?
手の鳴るほうへ、ってなあ。
[構える緋色、唇歪め]
遊ぼうさあ、
愉しもうじゃねえか。
何にも考えられなくなるくらいになあ。
[ゆらりと紅く、揺れるは気配。]
……翠の?
[林がざわめく。
何の気配だろうか――…]
貴方様の、お仲間で御座いますか?
さすれば其れは……常盤様……
[続く言葉を遮るように、司棋の小さな問いが遥月の耳に入った。]
……いいえ、何でも御座いませぬ。
ただ……
ひとつだけ、問うても良いですか?
嗚呼、もう散り際さァ。
[ひらり] [はらり] [舞う花弁] [温かな手の感触]
手の鳴る方へかィ。
[コロコロ笑いつ] [と、と、と] [向き合った侭] [下がり]
[間合いを取って] [赤鬼見詰め] [紅く揺れる気配] [双眸眇め]
嗚呼、漸く…―――
[濡れた碧] [甘い闇漂わす漆黒] [浮かぶ笑み] [恍惚]
―――鬼ごっこが出来るネェ。
以前異形に貰い受けた真理の名ァ喰児に呉れてやったが、アタシにゃ真紅って謂うもうひとつの名があるのさァ。
人間としての其ン名も喰児にあげるヨゥ。
真理も真紅も喰児に呉れて、名も無く只のアタシとして喰児と本気の鬼ごっこと洒落込もうじゃないかィ。
司棋様。
貴方様は………
[林が、ざわり。]
――わたくしを、狩りますか?
[紅を失くした遥月の視線は、司棋の目を見つめて問うた。]
そうだなあ。
待った甲斐がありそうさあ。
[甘く響くは真理の声。常葉の瞳が濡れている。
手の鳴る方へ。
手の鳴る方へ。]
真紅。
真紅かぁ。
いいねえ。綺麗な名だあ。
貰い受けるさ。真理も、真紅も。
[笑みは深まり、炎のように]
あぁ、鬼ごっこを始めようかぁ。
真理――真紅。
嗚呼――
[白の面底の知れぬ深い闇孕む漆黒の隻眼より]
[ひら]
[ひらり]
[ひらり]
[ひら]
[ひら]
[ひらり]
――ザァァアアアアアァ…
[花弁の如く舞う那由他(なゆた)極彩色の蝶]
[呪いかかる魂に囚われし異形達の魂の欠片]
[長き眠りより醒め蜘蛛の巣より解き放たれる]
[ざわり、と鳴る林の音、じっと見つめる遥月の目。
一呼吸、飲み込んで小さな声で]
僕は、貴方の全てになりたいと、いいました。
貴方を狩れば、僕もきっと、死ななきゃいけない。
なら、ずっと生きて一緒に、いたいです。
[小さいけども、はっきりと]
[林檎飴の如くてらてらく光る紅い番傘くるうり]
[張られた蜘蛛の巣月光浴びて綺羅綺羅綺羅リ]
[肩に降りた長い常葉色風に煽られふわり広がる]
さァて、始めようかィ。
[風は極彩色の蝶を舞わせ微か白粉の薫り乗せ]
[三日月の笑み浮かべ片手で逆手に持った簪構え]
[姿勢正して一足踏み立つ姿は凛と静寂を纏うか]
へえ。
[丹色、青碧、躑躅色
蒲葡、金糸雀、常葉色。
眩暈がするほど鮮やかな
色の奔流 溢れ出て]
こりゃぁ見事だ。
[高揚隠しきれぬ様子で
緋色の鬼は笑う笑う。]
蜘蛛の捕らえた蝶の群れ、ってかあ。
こりゃあいい。
最高だぜえ。
[いつかの賽の目、林檎飴。
思い起こさす番傘の
その直ぐ下で女は笑う。]
あぁ。
[口の端から牙覗き、
金の瞳は燃えるよう。
ごうと炎の気配を纏い
赤鬼、斬と踏み出して―――]
………ふふふ。
貴方様の言葉を信じましょう……
嗚呼。どうか……
心変わりは、為さらないで下さいな……
[司棋の身体を強く抱き締め、その唇に深い口づけを施す。]
いつぞや交わした「刹那の契り」とやらは、この紅い泉に捨てましょう……
わたくしが欲するのは……
貴方様の、たましい……
嗚呼。
身体を重ねても何もならぬと、笑わないで下さいな……。
[司棋の身を静かに横たえ、緩やかにその身体を掌でなぞった。]
[ひらひらちらちら極彩色の蝶は花弁と共に舞う]
[風すら起こしそうな蝶の群れの真ん中に立って]
[笑う緋色の鬼見詰め常盤色の狩る者も笑う笑う]
漸く見つけた鬼さん退屈させやしないヨゥ。
[踏み出す赤鬼から逃げるよう飛び退きつつも]
[鋭き爪に赤黒く染まった浴衣の袂切り裂かれ]
[炎の気配にちりりと焦げるに笑みは深まるか]
[くるうり番傘を回したたみ勢い良く地を叩き]
[朦朦と粉塵を巻き上げ飛礫が赤鬼へと向かう]
[同時にひゅうと白の手風を切り簪赤鬼へ翔る]
[地を抉り飛ばす飛礫はどれも小石程度だろう]
[先端の尖る簪は狙い澄ました様に金色の眸へ]
[其の尾に綺羅リと光る筈の糸は粉塵に紛れる]
ん…ぅ…っ
[昨日の今日、僅かの恐怖感はぬぐいきれずとも、おずおずと口付け受け入れて
横たえられ、小さな震えは隠せなかったけれども
ぎゅう、と肩に顔を埋め、小さく頷き]
笑いません…。でも…どうか…離さないで…
ええ……勿論。
[遥月は、目を細めて笑った。]
……司棋様のように、妖しと戦う力は、わたくしには御座いませんが……。司棋様の手を離さぬ力くらいは御座いますよ?
[いつぞや染まったものか――赤黒い痕が残る司棋の浴衣の襟をそっと手にとり、その肩を月明りの元に晒した。]
……嗚呼。綺麗……
司棋様……わたくしの愚かな身体を、どうかお赦しになって下さいませね……
[水に濡れて重みを増した己の着物を剥ぎ、司棋の肌に蝶を重ねた。]
期待してるぜぇ。
[百花繚乱、花吹雪。
飛礫が飛ぶが避けはせず
幾つか振り払って塵と化す。]
ははっ!
[簪鋭く金の眼狙う、
体を倒して紙一重、
眼の端切り裂き緋が散った。
笑みは消えず尚深く、
胴を狙って腕を薙ぐ]
[肌を晒され顔に朱を散らし。触れ合う部分は体温感じ、緊張を僅かでも緩めるか。
遥月の蝶の刺青、指でなぞり首筋へ口付けを]
遥月…も綺麗。この蝶、初めて見ました…。
貴方が愚かなら僕も同じ、どうぞそれ以上は言わないで…
[ゆる、と首に手を回し、小さく微笑む]
―――ザァァアアァ…
[緋色の鬼の炎にか極彩色の蝶は舞い狂い夜空を彩り]
[振り抜かれる腕に腕を引きつ更に一歩退き胸逸らし]
[ひらり胸元肌蹴舞う紅は赤黒に染まる浴衣を更に染め]
嗚呼、良い、好いネェ。
[地を蹴り蝶の群れへと空へ飛び紅い番傘を回し開く]
[くるうり逆に番傘回すと綺羅綺羅リ蜘蛛の巣落ちて]
[蝶の群れ微かな風を起こし蜘蛛の巣を揺らめかせる]
ほゥら、此処だヨゥ。
[引く手に戻る簪手に白い手は空を切り]
[木に巻きつく糸を引き中空で軌道変え]
[楽しそうにコロコロ笑い緋色の鬼を誘う]
この蝶は………
[哀しげな表情で、笑う。]
わたくしが妖と成りし時から在ったもの……。
わたくしがわたくしと成る前の、「ヒト」……貴方様の目の前に姿を現した、あの方が刻んだ蝶……。
「橘」という男の、「罪」の証……
そして…「生きた」証に御座います……
[僅かに顔にかかった血潮、
べろりと赤い舌で舐め]
愉しいねぇ。
[恍惚滲ます互いの瞳、
闇夜にさえも鮮やかな
蝶の彩りその中に]
鬼さん、そこかあ。
[蜘蛛の巣きらきら月に揺れ
深く踏み込み地を蹴って
誘われるままに駈けて行く]
[悲しそうな表情を見せる遥月の頭をゆるりと抱きしめ]
遥月の過去…僕は拒否…しませんよ
どうぞ…そのまま…覚えていて上げて下さい。
忘れられる…のが…一番、悲しいです…。
遥月は遥月…僕は、貴方を否定しない。
僕は…貴方の罪の悲しさ…埋めて上げられますか?
嗚呼、楽しいネェ、愉しいヨゥ。
[軽やかな笑い声は蝶の羽音か風に紛れて闇夜に解け]
[ぽたあり、ぽたあり、赤黒く染まる浴衣から紅い雨降り]
[駈ける緋色の鬼目掛け落ちるは中空を漂う蜘蛛の巣]
此処だヨゥ。
[くるうり番傘回し閉じ風の抵抗無くなれば降下も早く]
[ひゅうい白の手空を切り向かう先は鋭き爪の在り処か]
[向かう蜘蛛の巣切り裂かんと振り上げられる軌道に翔る]
[かすかに響く笑い声、
手の鳴る方へ
手の鳴る方へ
空に浮かんだ蜘蛛の巣墜ちる]
っとぉ
[翻った白い手は
加速するまま狙い撃ち
避ける動作より尚速く
ざくりと鬼を抉って通る]
いいねぇ。真理。
いいねぇ。真紅。
[にいと笑んで傷さえも
ものともせずに赤鬼は
白い腕を掴もうと]
ええ……。
……有り難う。
[ふっと微笑み、遥月は司棋に再び口づける。
優しく、甘く……壊さぬように。
汗ばむ肌と、蝶の入れ墨。
ぺちゃり、とひとつ水の音。]
嗚呼、心満たされればそれで良いでしょうに……
[司棋の身体からそっと離れて]
なのに……深く潜り込みたいと願う……情欲。
わたくしの毒針は、愚かな慾の塊となり……貴方様を……。
[溜息と共に、司棋の身体の奥に手を伸ばし、ゆっくりと滑らせる。]
[口付けられて、惚けたような表情を晒し。
ふと離れる体につい目を開き]
え…?
ひっ…ぁ…、やぁ…っ!
[当然誰も触れさせた事の無い奥の奥、触れる感触、緊張の解けた体が再び強張り。思わず遥月を押しのけようと]
[ひらり、はらり、月夜に煌く切り裂かれし蜘蛛の糸]
[空へと昇る緋色の鬼と地へと落ちる常葉色の狩る者]
[緋を散らした簪を引き戻す腕に伸ばされる大きな手]
嗚呼、喰児、喰児―――
[褥を重ねた時と変わらずうわ言みたいに熱ぽく名を紡ぐか]
[濡れた碧と甘い闇孕む漆黒の互い違いの双眸金色と交わり]
[引く腕に紅散らせつ番傘捨てた白の手をひゅうい振り抜き]
アタシァ此処だヨゥ。
[振り抜いた糸は緋の鬼の首を捕え様とふわりと舞い]
[番傘落ちる頃には地に降り立ち更に背後へ飛び退き]
[風に舞い赤鬼の紅い髪と常葉が揺らめき白粉も薫る]
ふふっ……
数多の怪を封じる司棋様の御身体も、こういうことには馴れておられぬご様子……嗚呼、可愛らしいこと。
[押し退けようとする司棋の両手を受け止めて、片手でそれを纏めて掴む。]
嗚呼……もっと……
声を……聞かせて……
[司棋に口づけると、遥月は司棋の身体の奥へと紅を塗り、そっと押し広げる。]
[手を押さえられて更に緊張は高まるか、それとも秘部に感じる空気に戦慄くか。
弓なりに背は反るも奥は拒否するように遥月の進入を防ぎ]
…ぁっ…ぁあ…
[声を出すのも忘れたように、口から漏れるのは空気のようなかすれた声]
――真理。
[名を呼びたゆたう囁きと
蜘蛛の糸のきらめきが
互いの間を交差する]
――真紅。
[糸が煌き首を狙う。
緋が滴る腕振りかざし、蜘蛛の糸を引き千切る。
幾つか赤の線走り
鬼火はゆらありほの赤く
赤鬼その金の眼が
見つめているのは常葉だけ。]
捕まえてやるさあ。
[疾る。]
[遥月はゆるりと片腕を伸ばし、司棋の身体を捕らえる。
拒絶は、真か否か――
熱く切ない声をあげ、悩ましげに身悶える司棋を見つめ、遥月はにこりと笑った。]
司棋様……嗚呼……
もっと、そのしどけない御姿を見せて下さいな……
貴方様の其の姿は、わたくしだけのもの……
[司棋の首筋に舌を這わせ、緩慢な動きで彼の奥へと「毒針」を差す。
林が、ざわめく。
此処は何処なのか。
今、余所では何が起こっているのか。
――其の全てが脳裏から消え
――遥月は、司棋の身体を優しく揺さぶっている……*]
[鬼火揺ら揺ら仄赤く薔薇色の唇は吐息を零し]
[名を紡がれる度に長い睫毛は小刻みに震える]
[視線受け止め小首を傾げ浮かぶ笑みは童の様]
アタシを摑まえてお呉れかえ?
嗚呼、嬉しいネェ、嬉しいヨゥ。
[互い違いの双眸に映るは目の前の緋色の鬼ばかり]
[長い睫毛震わせうっとりと此方へ向かう様を見詰め]
[血塗れた簪片手に一足飛びに間合いを詰め鬼の胸元へ]
アタシも喰児を摑まえようかィ。
[体に入ってくる「何か」への圧迫に大きく目を見開く。蒼は空よりも鮮やかさを増し、黒は夜よりも深く]
ぅあ…あぁ…あぁあ…!
[己の声とは信じられないような声を上げ、ただその痛みに耐えるように、目の前の遥月だけに全部をさらけ出すように只管に目の前の人間だけの名を呼び続け]
遥月…は…づき…、は…づ…!
[真っ白に焼け付きそうな頭に、ただ、その人だけを*目に写し*]
ああ、捕まえてみなあ。
[ふっと間合いを詰め走る
眼の前踊る常葉色。
薫る白粉、
ふわりと風に]
―――ははっ
[にぃと緋色の笑み浮かべ
抱きとめるように貫こうと――――]
嗚呼、摑まえるさァ。
喰児は他の誰にも遣りゃしないヨゥ。
[金色の眼は目の前で温かな気配に甘く囁いて応え]
[互い違いの双眸は僅か弧を描き薔薇色の唇は綻び]
[零れる緋を浴び白い頬濡れてまた紅く染まりゆくか]
―――ザアァァァァアアアァァアァ…
[風吹き抜けて舞う花弁と共に蝶は夜空に舞い狂い華を咲かせる]
[突き出される腕紅く染まる手で合気の要領で脇に力を逸らして]
[簪投げて逆の手に持ち直しつ握り締めて胸元目掛け手を伸ばす]
[響く、蝶の羽ばたき風の音。
常盤の声が直ぐ傍に。
逸らされた腕、眇めた金。
そして]
―――ッ!
[真っ直ぐ伸びた細い腕、
そのまま赤鬼貫いて、緋色の牡丹を闇夜に咲かす]
はっ、はははは……ッ
[笑う声に血が混じる。
逸れた腕を引き戻し、背に爪立てるも貫けず。
金の眼逸らさず常盤を見つめ]
ああ、捕まっちまったかぁ―――
[それはそれは愉しげに、
鬼はぐらりと身体を傾ぐ――――]
―しばしの後―紅い泉のほとりにて―
[刹那のような、永久のような――
身体寄せ合う逢瀬の後、遥月は立ち上がり、そっと司棋の身体を持ち上げた。]
………司棋様。
貴方様は、そろそろ狩りに行かねばならぬのではありませんか……?
[双の腕で抱き上げたまま、司棋へと首に腕を絡めよと囁いた。]
……お社に、行きましょう……。
わたくしにお手伝いできることは、如何様にも……
[司棋を抱えて、社へと――]
―――とす…
[しなやかな肉体の抵抗はあるも貫く音は微か]
[見上げる緋の鬼の笑い声には緋の気配が滲み]
[金色の眼差を受け互い違いの双眸は瞬きもせず]
嗚呼、摑まえたヨゥ。
[白い手にじわりぬるり緋の気配]
[背に爪立つも笑みは変わらずに]
[一層に艶を増して鬼を仰ぎ見る]
嗚呼、喰児―――
[交わる金色と碧の間をひらり薄紅の蝶が過ぎ]
[紅に濡れた震える手は赤鬼の頬をそぅと撫ぜ]
[唇の端紅が伝うも浮かぶ笑み妖艶にして遙遠]
―――楽しかったヨゥ。
――――はは。
愉しかったぜえ。
真理。
真紅。
最高――――……だ。
[鬼は笑って、最後の顔を焼き付けて。
其のまま*光を喪った*]
[情事の熱、未だに覚めやらず。気絶するように意識を手放し、眠っていたのもつかの間、遠くで祭り囃子が主の到来を知らせるか
がばり、飛び起きるも体の痛みに眉を顰め、身動きとれずにいると遥月に急に抱き上げられ。社へ行こうといざなわれれば]
…はい、では、最後の仕事、為しに参りましょう。
[求めるように首に手を回し、抗うことなく社へ向かう──]
喰児も最高さァ。
[笑み浮かべる唇に薔薇色の唇を寄せ]
[頬に、額に、目蓋に、体中に口接け]
[眼を、肉を、臓物を、静かに喰らう]
[其の身の何処に肉収まると謂うのか]
[呪い解かして即血肉と成り行くのか]
[常葉も、浴衣も、全身を紅く染めて]
[手にした心の臓を齧り咀嚼しながら]
[至福の笑み浮かべゆるり睫毛瞬かせ]
[ぴちゃり、くちゃり、喰らい尽くすか]
嗚呼、嗚呼―――
[緋の残る髑髏(されこうべ)膝に抱え]
[ぬるりつるりと慈しむ様に其れを撫ぜ]
[満ち足りて浮かぶ笑み妖艶にして遙遠]
ほゥら、捕まえたヨゥ。
[まるで赤子をあやす様に優しく囁き]
[頬寄せて薔薇色の唇を落とし口接け]
[コロコロコロリ軽やかな笑い声が響く]
―社にて―
[宴が在った場所であるというのが嘘であるかのように、社は宵闇の中、しんと静まり返っている。]
司棋様、司棋様。
社へ到着致しましたよ。
……とはいえ、どなたもいらっしゃりませんが……。
皆様、鬼ごっこに励んでいらっしゃるのかしら……?
[風に乗り届く祭囃子にすぃと視線を移し双眸を眇め]
おや、そろそろお目覚めかえ?
[緋に濡れ所々赤黒に染まる常葉を結い上げて]
[緋に染まる赤鬼の衣破き腕と胸元に巻きつけ]
[緋の鬼の髑髏手に持ち遊螺リ立ち上がり瞬く]
鬼ごっこも終ったし鬼退治に行こうかネェ。
[紅い番傘拾い上げくるうり回し開いて]
[血溜りに残る骨眺め踵を返し歩き始め]
[カラコロカラリ下駄の音引き連れ社へと]
[また腕の中で意識を飛ばしかけていたけども、着いたと聞こえ、ふとまた目を覚まし。遥月の呼びかけに、少し幼く笑いかけ]
…折角ですから…どうぞ司棋、と呼んでください。
僕も、遥月、とさっきから呼んでいるのですが?
[苦笑しながら、あたりを見回し]
本当に…。翠の…あの方も…そろそろいらっしゃるはず…
喰児様とまだ…?
[緋と紅に染まり紅い番傘差し片手に髑髏持ち]
[其れでも大輪の白牡丹は常葉に白く蛍火を灯す]
[社に着けば見える影の二つは見知った顔だろう]
遅れちまったかえ?
[司棋と遥月へと歩み寄り小首を傾げる]
[司棋の身体を、社の渡り廊下にそっと下ろす。
不意をつく司棋の言葉を耳にして、肩を竦めて微笑んだ。]
……困りましたねぇ……
わたくし、普段からこの態で御座います故、どなたかを呼び捨てで呼ぶことなど……
[じぃとこちらを見つめる司棋を見て、参ったと言わんばかりの表情を浮かべる。]
ふふっ……わかりました。
『司棋』……
これで、よろしゅう御座いますか?
[真理の気配を感じ、足覚束なくとも遥月の腕より下へ立ち。情事の残り香はこの暗闇で消すことできるか]
翠の…ご無沙汰を。
その白牡丹、散らさずに持っていて下さった様で。
ご無事で何より。
その…喰児様…は?
[不意に振り返ると薄墨桜は枯れているか]
嗚呼、有塵の兄さんも逝っちまったンかィ。
本懐遂げたンかネェ。
[髑髏を持ち上げ枯れた木を見せ傍らから覗いて囁き]
散り際は見られなかったがさぞ見事だったンだろうさァ。
[緋色の髪の髑髏を抱いて、常盤が目の前に現れた。]
常盤様…その御首は……
嗚呼、喰児様でいらっしゃいますか……。
しかして、「遅れた」とは……こはいかに?
もしや常盤様、わたくしを狩るおつもりで……?
[常盤の赤い傘が、くるり。
じぃとその目を見つめて、遥月は息を飲んだ。]
アタシァ無事だヨゥ。
嗚呼、折角貰った華さァ。
枯れるまでは大事にさせて貰うヨゥ。
司棋の兄さんも無事かえ?
[司棋の様子にニィと笑み浮かべるも]
[問いに瞬いて髑髏をひょいと見せる]
[微か緋の残る白い手を胸元に置いて]
喰児ァ此処に居るヨゥ。
有塵…?…あぁ、あの黒衣黒髪の…
結局、お話する機会もなく…。
あの方、桜の精だったのですね。
皆、逝かれてしまいました…か。
[寂しそうに、ぽつりと]
嗚呼、喰児の髑髏さァ。
流石に骨全部は持って歩けないからネェ。
[遥月の言葉にコロコロ軽やかに笑い]
[息呑む様子にゆるり首を振って瞬く]
[緋に染まる面に残り翅揺する黒き蝶]
アタシァ司棋の兄さんの恋路を邪魔する気は無いヨゥ。
主様をなんとかしないと蝶が五月蝿くってネェ。
喰児様…貴方が…食った…のですか…?
[いつの夜だったか、大きな掌で頭を撫ぜられたこと思い出し。胸がつん、と痛むけど]
いえ、何も申し上げませぬ。
これが、僕らの仕事ですゆえ。
喰児様と翠の御方が満足なら、それでよろしいのでしょう。
[『恋路』の言葉と共に顔を紅葉に染め上げて]
何を…今更、からかうおつもりですか!?
恋路……
左様、ですか……。
[ぽつりと呟き、司棋をじぃと見つめる。]
いえ……
司棋さ……いえ、司棋はわたくしを殺さぬと申しておりましたが、果たしてもう御一方の狩人様は如何なものかと思って居りましてね……
そうですか………。
[紅を失くした遥月の視線は、常盤の蝶をとらえて揺れる。]
嗚呼、有塵の兄さんの桜も綺麗だったヨゥ。
喰児は誰ぞ本懐遂げたってェ謂ってたけどネェ。
有塵の兄さんの事だったンか判らないけどさァ。
喰児も最期に好い顔してヨゥ。
[司棋の顔見て浮かぶ笑みは柔らか]
其ンな顔おしじゃないヨゥ。
逝くンは寂しいばかりじゃないさァ。
[問いにひとつ頷いて髑髏を頬に寄せ]
嗚呼、全部喰ったヨゥ。
アタシも喰児も是で好いのさァ。
[頬染める様子にコロコロと笑って]
嗚呼、もうからかわないから安心おしヨゥ。
そろそろ往かないとだろゥ?
喰児様………
嗚呼、あの時にあんなに……童のように笑んでいらっしゃったのは、常盤様との「鬼ごっこ」が……
嗚呼……そうですか……。
[何かを思い出したように笑み、先ほど喰児が居た場所に視線をやった。]
司棋の兄さんは優しくて良い子だけど手がかかるからネェ。
お守役が居れば安心だヨゥ。
[紅無き遥月の眼差しを受け]
[黒き蝶の奥で漆黒が揺れる]
[白い手は蝶をなぞり瞬いて]
喰児を喰ったからもう鬼ごっこは満足したヨゥ。
ただ、結界解いて蝶を如何にかしないとアタシァ帰れないからネェ。
[暫し翠の言葉、目に涙を溜めつつ聞いていたけれど、そろそろ時間と思い立ち、涙をぬぐい、頷いて]
はい、取り急ぎ、為すことは為しましょう。
[遥月へ振り向き一言問い]
遥月…はどうする?これは僕らの仕事だから。
遥月にやることがあるなら、どうぞそっちに行ってきて?
往く……どちらへ?
喰児様は、常盤様が討たれた。
有塵様は枯れて消えた。
白水様は何処へと消え、気配は無く……
わたくしを狩るおつもりも無いとなると。
……残るは……。
…そうかィ、喰児は笑ってたンだネェ。
[遥月の視線を追い其処を見詰める眼差しは優しい]
[すぃと髑髏へ視線を落とし額辺りにひとつ口接ける]
残るは……主。
[視線を落とし、しばし逡巡した後、言葉を紡ぐ。]
………わかりました。
どうぞ、お往き下さい。
司棋。
……今から、わたくしの「主」が消え往きます。
わたくしに掛かった、ヒトの形の呪いが解け……わたくしの姿は、元に戻りましょう。
司棋……
わたくしがたとえ、どのような醜い姿に為ったとしても……決して驚かれないよう……
ええ……常盤様。
あの方の、あの時の笑みは、わたくしが見た中で一番幸せそうな笑みで御座いました……。
わたくしの理解を超える話では御座いますが……きっと、喰児様は幸せでしょうねぇ……。
[喰児の額に口づける常盤を見て、優しげな笑みを浮かべた。]
あ…。
[主の結界が消えることは呪いも解けること。言葉をつむぐ遥月へ、不安そうな目を向け。抱きしめたい衝動は、真理の前でもあり、懸命に押さえ]
…大丈夫。
「遥月」でいてくれるなら、どんな姿でも、僕は大丈夫。
[懸命に、笑顔で応えるけども、握り締める手は震えていたか]
主の憑代(よりしろ)たる狐さえ狩りゃ主も鎮まるさァ。
[愛おしげに髑髏を撫ぜ]
[遥月の優しげな笑み見]
[ふわりと柔らかに笑むか]
喰児の幸せが何かは判らぬが、アタシァ幸せだヨゥ。
だからこの身でひとつになった喰児も幸せさァ。
そう謂やァ遥月の兄さんは呪いで人に成ってるンだったネェ。
赤鬼さんは呪い解けたらどンな姿だったンだかネェ。
[髑髏を見詰め楽しそうにそう謂って]
なンなら一足先に向かうから司棋の兄さんは後から来るかえ?
夜斗さえ連れて往きゃ狐さんざァ一瞬だろうさァ。
たとえわたくしが、
蝶に成り、あの空へ飛び立とうとも…
虫けらに成り、貴方を忘れようとも…
餓鬼に成り、貴方に害を成そうとも…
……それでも、良いのですね……?
[司棋の頭をそっと撫でる。そして……]
……わかりました。
では……わたくしは、或る用事が御座います故、貴方の「仕事」は手伝えませぬ。
そちらに行き、事を為してから……
……もし司棋のことを覚えていたら、この社でおちあいましょう……
[ふと司棋に笑み、踵を返す。
そして遥月は、林の奥へと消えて行った――]
[冗談口のような言葉を残して去る遥月に言葉を返せず見送って。真理の言葉に我に返り]
あ、あぁ、狐の力量など知りませんが…とりあえず夜斗なら大丈夫かと。
一緒に参ります。さっさと終わらせたい。
遥月の兄さんが何処へお往きか知らぬが気をつけてネェ。
[ひらひら振る手首は緋の布巻いて]
[司棋の言葉に向き直りひとつ頷く]
そうだネェ、其ンならさっさと往こうかえ?
[紅い番傘くるうり小首を傾げニィと笑み]
[髑髏片手に抱いてカラコロ社の奥へ歩む]
鬼退治に来たヨゥ。
狐はおるかえ?
おいで、夜斗
[青い蛍火、手に満ちて。床にこぼれ形成せば
蒼黒い火纏う狼の姿]
この火、どうぞご注意を。メイを灼いたと同じ火故、
触れれば火傷だけでは澄みませぬ。
僕以外は、ですが…。
狐の力量、しりませんので…
嗚呼、近寄らないヨゥ。
さァて、結界張るくらいだから強いンじゃないかえ?
[空気張り詰め空間歪み現れ出でたる銀の狐]
[狩る者達の形を見て三日月の笑みを浮かべ]
[けれど蒼黒い炎纏う狗を見れば僅か怯むか]
おや、矢張り狗はお嫌いかえ?
[自身は鬼では無く狐だと謂うのにコロコロ笑い]
鬼ァ狗を怖がらぬものネェ。
[狐は挑発に乗る事も無く白い炎纏い狐火放つ]
―林の奥―
……白水様。ごきげんうるわしゅう……
[桜の木の下――
墨と水が交わり、ひとつの色を成している場所へと、遥月は向かっていた。]
わたくしは、ヒトの情慾を食らって生きる妖……それ故か否か、貴女様の声は、とてもよく聞こえましたよ?
恋うる相手の元へは、往けましたか?
嗚呼……
其のご様子なら、きっと……
[さらに歩み寄ると――水の中に紅い珠が。]
………これは………?
[飛ぶ狐火、夜斗と共にふわりとかわし。
夜斗の口から風の塊、弾き飛び、狐火相殺するか]
狐の分際で…。
どうしましょうか?直に殺しますか?
火に火とは少し具合が悪いですが…
――轟…
[迫る鬼火を番傘で往なすと燃え上がる]
[ぱぁん、勢い良く傘たたみ火を消して]
[飛び退いて夜斗からも離れ距離を取る]
嗚呼、恐い、怖い、強いネェ。
[狐は夜斗の本体が司棋と睨み地を蹴り翔る]
[此方に向けてまた狐火を飛礫の如く放つか]
[髪に手をかけひゅうい振り抜く手は簪放ち]
其ンじゃ夜斗、噛み殺すかィ。
満足に喰えず腹も減ってるだろうしさァ。
嗚呼……綺麗な色。
[月明りに照らされて、紅い珠は強い光を放つ。]
まるで……命の光。
白水様の、たましいの色かしら……?
[大切に懐にしまうと、遥月は桜の元で寄り添う色をじぃと見つめた。]
……白水様、青司様……
あなた方は、しあわせですか……?
いいえ……。
せめて冥府の淵で、しあわせであらんことを……
[踵を返して、何処へと向かった。]
[狐火避けて、ふわりと戻り。このままでは拉致もあかぬし手も出せぬ。ならば一計]
…翠の御方、あの柱と柱の間に、蜘蛛糸を一つ、よろしいですか?頑丈に、逃げられぬ巣を作っていただきたく。
[一つ、真理に耳打ちし、ひらり夜斗に飛び乗ると、そのまま風のように走り去り]
[遥月はひとり、林を彷徨う。
蘇芳が食い殺された場所――
メイがヒトに討たれた場所――
開耶が佇んでいる場所――
万次郎を犯し、殺した場所――
伝え聞いた場所を訪れ、さながら巡礼者の様に歩く。]
[そして――泉のほとりに辿り着いた。]
―――断!
[狐の後ろ足を貫いた簪は床に狐を縫い止めるか]
[たたんだ番傘開き狐火を防ぐも蜘蛛の巣焼き切れ]
[燃え上がるのに番傘の柄を狐に切っ先向け投げる]
こンだけ燃えてりゃ火も通ってるだろうさァ。
[コロコロコロリ軽やかな笑い声響き]
[動き止る狐の腹に番傘が刺さり燃え落ち]
[鼈甲の簪も直ぐに溶け狐の動きは戻るか]
[床に縫いとめられた狐をみやり、今が瞬間と、夜斗に命じる]
夜斗!
[夜斗の口より小さな火の竜巻起こし、すさまじい勢いで狐へ飛ばす。竜巻巻き込まれた狐の断末魔、身が切れたように血が飛び散る]
相手は燃えてるンだし糸なンざァ持って数秒だヨゥ。
[呟きつ白の手は舞う様に優雅に動き]
[柱から柱に渡す糸は次第に形を成す]
[狐は司棋睨み意識は其方に向いたか]
さァて、夜斗は飯にありつけるかネェ。
[流れ零れる狐火を身を捻りかわす]
[常葉揺れ一歩踏み締めニィと笑む]
[狐、司棋に向かって鋭き爪を振るう]
[紅い泉を目の前にして、遥月は呟いた。]
………白水様。
お願いが御座います。
このような毒を持ち合わせておいて酷く無責任な話では御座いますが……。
生憎わたくし、己の毒を解除する術を知りませぬ。それ故、この泉を元に戻す方法が分からず……困って居りまして。
いつぞや白水様は、ご自分の司る水の力で、わたくしの身体に巣くう毒を溶かすとおっしゃって居りましたねぇ……。
ならばせめて、わたくしの毒を…この泉から消し去り……
願わくば……
わたくしの身体を、浄化しては戴けませぬか……?
[蜘蛛の巣をみやり、にやりと笑い]
大丈夫です、後はお任せを。
[その狐、内臓半分さらけ出し、それでもなお夜斗くらわんと、醜い形相で飛び掛る。]
狐は大人しく、食われておけよ?
[手負いの狐、動きも遅く、風の速さで夜斗が食いついた。ごりっと喉笛噛み砕き、なお息ある狐、放り投げ]
[傷つき夜斗に喰らわれる狐を見詰め]
ほゥら、お往きヨゥ。
[白い面から剥がれるひらりと黒き蝶]
[ひらり]
[ひら]
[ひら]
[ひらり]
[血飛沫上げる狐の傷口へと張り付き]
[直ぐに狐はくたりと身じろがなくなるか]
[闇を宿す漆黒の隻眼は金色の眼残り]
……なぁんて。
少々むしの良過ぎるお話でしょうねぇ……
[クスクスと微笑み、懐にしまっていた紅い珠を取り出し、再び月明りに翳した。]
……けれど……
たとえわたくしが司棋と共に在ることが出来ようとも、この因果な身体では何かと不便でしてねぇ……。願わくば、お手伝い戴けると有り難いのですが。
[遠くで、何かが燃える音がする。
主が食われ、裂かれる声――妖しなら誰しもが聞こえるそれを、遥月も耳にしていた。]
嗚呼……そうか……。
今は、結界が不安定で……
司棋……常盤様……
呉れ呉れも、ご無事で……
[主が裂かれる声が――止んだ。]
…………………っ!!!
[手にしていた紅い珠から光が走り、あっという間に周囲の景色を飲み込んでゆく。]
白水様の力が……
結界によって封じられていた力が……ッ!
やぶ……られ……る………
[次の瞬間、遥月の身体は、真っ白な光に包まれ…]
あああああああッ!!
結界が………壊れる………!!
[逃げる術無く、取り込まれて行った――]
動きませんから…死んだのでしょうか…。
お疲れ様…です。
[ぼんやりと、翠色の髪眺め]
牡丹、焦げてしまいましたね…
[残念そうに、牡丹へ手をやり]
[もう燃えてない狐は紅く血に染まり]
[碧と金の眼は静かに其れを見詰めて]
[ひとつ息を吐きすぃと視線を移すか]
やれ、髪飾りが燃えちまったネェ。
[結界の解ける気配に長い睫毛は瞬き]
[両手で髑髏胸に抱きぐるり周囲を見]
[牡丹へ手を伸ばす司棋へ視線移して]
御免ヨゥ、大事にするって謂ったばかりだたのにさァ。
[眩く白い光の中、遥月は引き裂かれんばかりの痛みに襲われている。]
ぐっ………あああああああ!!
[地獄の炎に焼かれるよりも苦しいのか――遥月の皮膚は、ジリジリと音を立てて焼き尽くされてゆく。]
うっ………ぐ………ああっ……
[光の向こうに、遥月はある影を見る――]
司……棋………
嗚呼……
せめて、貴方に………!
[唇が動く。しかし、其の続きが紡がれることは無く……]
[ヒラリハラリ、虚空に舞うは一羽の蝶。黒と紫を纏う蝶は、社に向かって飛んでゆく――]
いえ…ご無事なら、何よりです。
結界…消えてる…?それじゃ…
遥月…!?
[咄嗟に口にした去った人の名、彼のいうこと正しければ、今頃呪いが解けている筈]
嗚呼、アタシァそう簡単にやられないさァ。
漸く結界も消えたネェ。
[司棋の口から紡がれる名に瞬き]
遥月の兄さんならきっと来るさァ。
[社に迷い込む一羽の蝶。
その蝶に遥月の気配感じ、そうっと掌に収め。
あの刺青と、同じ色、ふいに涙が浮び]
遥月…?
どういうこと…?
[一羽の蝶は、ヒラリ翅を畳み、司棋の声に身体を動かす。]
[ヒラリハラリ、ヒラヒラヒラ。
司棋の手の中で、軽やかに遊ぶ。]
[そして―――]
『ありがとう、司棋……』
[ひとつ言葉を残して、遥かなる月へと舞い飛んだ――]
[ひらり舞い込む黒と紫の蝶に互い違いの双眸眇め]
[司棋の蝶にかける言葉に納得しゆるり長い睫毛瞬き]
嗚呼、遥月の兄さんは蝶だったンかえ?
[ひらりひらりはらり]
[司棋の手で遊ぶ蝶]
[黒い影と成り視界から消える蝶]
[泣き崩れる司棋の傍らで見送り]
[髑髏を胸に抱いたまま小首傾げ]
遥月の兄さんも本懐遂げたンかえ?
[ガサリ――藪から音がする。]
「橘」様………
[見上げる月に、蝶は溶けて――遥月は、その影を見失った。]
司棋……
常盤様……
蝶を……
「橘」様が生きた証の蝶を……
見ませんでしたか……?
[社に現れたのは、蝶を胸に抱いていた男。]
アタシァ約束なンざァ直ぐ忘れちまうけど、遥月の兄さんはそう謂うたまでも無さそうだったンだけどネェ。
其ンなら如何仕様も無い理由でもおありなンじゃないかえ?
礼を言われたンなら司棋の兄さんが何もしてないと思っても遥月の兄さんは司棋の兄さんから受け取ってたンだろうさァ。
[ただ、涙だけが止まらずに。
彼と同じ名の月だけを、見つめている]
本…懐?
…昔の、大事な人の所に…帰ったの…かなぁ…
だったら…無事に…帰れたら…
[後はもう、声にもならず]
[気配に視線を映すと蝶を胸に抱いていた男]
やれ、人騒がせな兄さんだネェ。
司棋の兄さんは遥月の兄さんが消えちまったと思ってへたっちまったヨゥ。
蝶ならさっきそっから来て其ん内に消えて往っちまったさァ。
司棋の兄さんのお迎えも来た事だしアタシァそろそろお暇するヨゥ。
[藪の音と人の声、振り向けば…]
遥月…!
[傷ついた体の痛みなど、感じもせずに、ただ、その胸元へ]
遥月、遥月…!
[子供のように、泣きじゃくり]
本……懐?
嗚呼、そうかもしれませんね……。
あの方の「罪の意識」と、「生きた証」……
赦され、月へと帰ったのでしょうかねぇ……
[まさか自分が消えたと思われているとは思いも寄らず……遥月はぽつりと呟いた。]
還れたンなら好かったじゃないかィ。
司棋の兄さんにゃ世話ンなったネェ。
遥月の兄さんは司棋の兄さんの事ァ宜しく頼むヨゥ。
縁があればまたネェ。
[遥月と司棋の様子に肩を竦め]
[其れ以上言葉をかける事無く]
[髑髏を抱いてふらりと何処かへ]
[まだ泣き止まず、涙流すもそのままに]
約束、ずっと手を離さないって。
ずっと、一緒って。
お願い、もう、どこにも行かないで…
ずっと、傍に…
最後に、差し上げます。
[ふぅ、と小さく蛍火飛ばし。真理の髪へ、咲かせるはいつぞや咲かせた小さな桜]
その桜が散る前に、また、お会いしたく思います。
…ありがとう、ございました…。
[夜斗も寂しそうに、見送るように真理を見つめ]
ええ………常盤様。ありがとうございました。また、いつか……。
[髑髏を抱いて去る常盤を見送り、遥月は司棋を見つめた。]
……司棋。
[左胸の襟を開ける。其の場所には、蝶は無く――]
……わたくしの呪いは、どうやら消え去ってしまったようで。
元よりわたくしは、ヒトから成りし妖……。だいたい、ヒトを犯して襲うのに、蝶やら虫けらやら、ましてや餓鬼の姿などしても、誰も引っ掛かってはくれませぬよ。
[左胸の襟を戻し、司棋の頭を抱いて囁く。]
司棋がわたくしに、「どんな姿でも良い」と告げてくださらなければ……そして、そこに恐れや躊躇の心が無ければ……わたくしは、戻ってくるつもりはありませんでした。
けれど、司棋は違った……
[司棋の身体を抱き締め、そして……]
ありがとう、司棋。もう離しませんよ……
[去り際にかけられる声]
[立ち止まり振り向いて]
[司棋の顔見てニィと笑み]
生きてりゃまた会う事もあろうさァ。
其ン時ァまた髪に華を飾ってお呉れヨゥ。
[謂うより早く飾られる桜に俯き加減に口許綻ばせ]
[寂しそうな様子に夜斗の頭を撫ぜ司棋に向き直り]
[そぅと赤い髪を梳き頬を撫ぜて頬に口接けをひとつ]
いっとう好きな花も覚えてて呉れたんかえ?
有難うネェ。
夜斗も、司棋の兄さんも遥月の兄さんと仲良くおしヨゥ。
…元気でネェ。
[ふわり微笑む表情は柔らかく]
[子を見る母親の様かも知れず]
[もう振り返らず社を後にして]
[カラコロカラリ下駄の音響かせて]
[結界の解けた異形の祀りを歩くも]
[髑髏持ち血に染まる姿に誰も寄らず]
ひとつお呉れヨゥ。
[何食わぬ顔で瓢箪酒ひとつ買い求め]
[骸骨持って赤鬼の骨置く地へと戻り]
[瓢箪から一口煽って骨に酒をかける]
呪い…消えたんですね…。
よかった…。
蝶が飛んできた時…
遥月、死んだのかと思った…。悲しかった。
でも、それ以上に約束破られたことが悲しかった…
[涙止まったその顔は年相応の笑顔で笑い。抱きしめられて、目を瞑りながら]
ずっと、離さないで下さい。
約束ですよ。
呪いが消え去って……良いのですかねぇ。
おかげで、わたくしはヒトとも妖とも付かぬ半端者に相成りましたよ。
わたくしは、一介の化粧師。
ただそれだけの存在です。
けれど……やっと言えましょう。
司棋……愛していますよ……
僕も似たような半端者ですから、大丈夫。
でも呪いは消えてよかったと思ってますよ。
だって
[くすりと笑い]
僕もやっと言える。
[まっすぐに目を見て微笑み、口付けを送りながら]
遥月…ずっと、*愛してる*。
[ひらり]
[ひら]
[はら]
[はらり]
[散り始める満開の桜の木の下で]
[膝に骨抱き安らかな寝息を立て]
[*名も無き女の見る夢は幸せで*]
日は開けてませんが次回接続が何時になるか未定なので此方でご挨拶を。
今回はご参加頂き有難う御座いました。
正直予想以上に早く枠が埋まり驚きました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
魂の件やら何やら色々と大変申し訳ありませんでした。
駄目な村立て人で本当にごめんなさい。
RPも可能ですし以降は中発言も可としますので自由にお寛ぎ下さい。
参加頂いた全ての方とログを読んで下さる方達に重ねて。
ありがとう。
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