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酒場の看板娘 ローズマリー は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
冒険家 ナサニエル は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
修道女 ステラ は お尋ね者 クインジー に投票してみた。
異国人 マンジロー は お尋ね者 クインジー に投票してみた。
書生 ハーヴェイ は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
学生 メイ は 修道女 ステラ に投票してみた。
流れ者 ギルバート は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
お嬢様 ヘンリエッタ は 学生 メイ に投票してみた。
お尋ね者 クインジー は 異国人 マンジロー に投票してみた。
学生 ラッセル は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
墓守 ユージーン は お嬢様 ヘンリエッタ に投票してみた。
お嬢様 ヘンリエッタ は村人達によってたかってぶち殺された。
人狼は食い損ねてお腹が空いているようだ。
しぶとい奴は酒場の看板娘 ローズマリー、冒険家 ナサニエル、修道女 ステラ、異国人 マンジロー、書生 ハーヴェイ、学生 メイ、流れ者 ギルバート、お尋ね者 クインジー、学生 ラッセル、墓守 ユージーン の 10 人だと思っておこう。
うむ?
[問いをかける赤に、心底分からないと首を捻り]
赤鬼。獲物とはなんだ、獲物とは。
我は特定の獲物を、追っている訳ではないぞ?
どこぞで、流言にでも撒かれたか。
何を云っておるのやら、だ。
なぁに謂ってんだ、
お前の双剣のことさぁ。
[ゆらり僅かに戦の光]
さぞ切れ味がいいんだろう、
鬼ごっこが始まってんなら
目ぇ醒めてると思ったんだがね。
まだのようだぁなあ。
[冗談交じりの殺気は消える]
残念ながらアタシの名はもう喰児に呉れちまったヨゥ。
[ニィと笑み] [紅い番傘] [くるうり] [何時も通り]
生憎とアタシァ狩る者より鬼ごっこに夢中でネェ。
其れに酒が飲めりゃ人間も異形もどっちでも好いのさァ。
[赤鬼にゆぅるりと視線を向けて]
その事か。我は…そうなあ。
今は宴の時。血の宴にするつもりはない。
[つい、と飲み干し]
さて、所用がある故……しばし席を外させてもらおう。
すぐに戻る。酒は残しておいておくれ…。
[ぺた。
裸足の足はどこへ向かうやら、盃も瓢箪も置いたまま]
[秘密の名前、にぃと笑み
万次の言葉受け止めて]
そうかぁ、そいつぁ残念。
まあ酒の席を血に染めんのも無粋かね。
野暮用かい?
ちゃぁんと残しとくから安心しな。
しっかしすげぇ木天蓼酒の匂いだなぁ。
[謂いつつ嬉しそうな声。
呑めればそれで万々歳。]
……喰児様に名を差し上げたと?
[不思議そうな目で、じぃと常盤を見つめる。]
常盤様……
差し出がましい話とは存じますが、名前というものは、ひとりの方に与えるものでもございますまい。まして、安売りしているわたくしが愚か者のように思えてしまいまして……
[ふっと微笑み、首を左右に振る。]
……いいえ。多くは問いますまい。
ねぇ、御二方……
[紬の袖を口に当て、くすりと微笑んだ。]
[ぺたりぺたり。暗い林の中。
時折飛んでくる悪意の礫を黒い霧で吸い込みながら]
…ふぅむ。あの茜の色が必要か。まあいい。
それならばまた…明け方に来るまで。
宴はどうなっていようか。
[ぺたぺたり。時折、霧を濃くして雑鬼どもを追い払い
社へと戻ってきた]
野暮用…済まずに戻ったぞ。酒は残っておるな?
[元の位置に座り]
[遥月の声] [すぃと隻眼眇め] [ニィと笑み]
喰児は最初に名を訊いて呉れて嬉しかったから気紛れに呉れてやったが、遥月の兄さんが思うよりアタシにとっちゃ大事なもンだったのさァ。
其れに人間の中にゃ異形の名知りゃ操れる奴も殺せる奴も居るって話を聴いた事もあるし、アタシァ臆病もンだからこン状況で易々と名はやれないヨゥ。
アタシの名が欲しけりゃ喰児から奪やァ好いさァ。
[去る万次郎を見送れば]
[程なくして用を済ませず戻ったらしく]
酒ならまだまだあるじゃろう。
[自分は水をくいと飲む]
連日の状態を見るに宴は始まったばかりじゃろう?
[くすりと笑んで]
[開耶が杯を離さぬのにも視線をやりて]
幸いにして、未だあるようだな。
[置いていた盃を手にとり、手酌で香の強い酒を注ぎ満たし
こぽり、とくとく...
縁迄溢れそうなそれに、静かに口をつけて]
開耶はもう、酔うてしまったか?
慣れぬ酒の席、しかも是とあっては仕方あるまい。
よう、お帰りだな。
なんだい、済まさずに帰ってきたのか。
へんなヤツだなぁ。
[くつくつ笑いで酒を指し]
ああ、ちゃあんと残ってるさあ。
――名か。
白水は真名。
これ以外の名前は持ち合わせておらぬ。
[袖は口元][薄い笑み]
名を変えるわけにも偽りを言うわけにもいかぬゆえ。
己が名前とこの緋色の目だけが妾が妾を認知するもの。
殺されるなら其れは其れ――。
[緋色の瞳は笑みを深くして]
[盃持ったまま。常葉と赤を見比べて]
其れは力づくでということか?
……赤鬼が狩るモノではない、常葉の君も狩るモノではない。
其のどちらかの可能性が残る限り、我は無理にとは云わぬ。
それに。名を奪う為だけの遣り合いにこやつらは
[柄に片手を置いて]
賛成せぬだろうよ。
いいええ、常盤様。
[にこりと笑い、常盤を見やる。]
常盤様の名を喰児様から戴いては、わたくしが喰児様に喰い殺されてしまいましょう……。不倫の恋の行く末は、殺戮よりも恐ろしい修羅場……。当面はご遠慮させていただきます。
[袖の奥でくすくす笑う。]
喰児様を誘惑しても洒落にはなりましょうが……ねぇ。所詮わたくしは日蔭の身。なんのかんのと言いましても、最後には女の方に敵いませぬ。
[空けた杯置き息を吐き。
肌は酒精に染まろうか]
…嗚呼、目が廻る気がするわ…
[片膝の上頬杖ついて。
此方向く白水、首傾げ見返し]
[戻る万次郎を見遣り]
やれ…ようも飲めるな。
[酔うてしまったかとの言には返しはせず]
頼もしいネェ。
[赤鬼見遣り] [ニィと笑み]
[白の少女] [真名と謂うに] [すぃと視線動き]
アタシァ名を変える訳でも偽る訳でも無いヨゥ。
ただ名乗らぬだけさァ。
其れで逝くンも白水の姐さんには構わぬかィ。
アタシァ未だ未だ遊び足りなくってさァ。
[万次郎の言葉] [向き直り] [柄置くの見]
アタシァ臆病もンだからさァ、御免ヨゥ。
兄さんの獲物達ァ形は恐ろしいが平和的で助かるネェ。
[遥月の笑み] [見詰め] [隻眼の碧] [瞬く]
遥月の兄さんは殊勝だネェ。
欲しけりゃ奪えば好いじゃないかえ?
日陰の身に収まるなンざァアタシなら御免だヨゥ。
そうかい、
高いんだねぇその双子剣は。
[木天蓼酒注いで口につけ
舐めるように呑み始め]
こりゃ旨ぇ。
ありがとうよ、万次郎。
[遥月くすくす笑う声 酒宴独特艶めいて]
ははは、
貰った甘露は旨かったぜぇ?
喰ったら旨いかもなぁ。
但しそれは毒ってな。皿まで喰らうかぁ。
[杯口にし月を見る]
[眩暈止まらず、落ち着かんと吐く息も僅か乱れ]
嗚呼…久々も過ぎてしもうた。
これ程までに酔うとは思わなんだ…
……目が廻る。
[白水の問い、返す最後は見も蓋も無く]
琥珀のは酔っちまったかい?
コイツをいきなり呑んだのかねえ。
適当にもたれときな、酔うのは気持ちいいぜえ。
[面白そうに唇歪め]
白水は酔えねぇんだったなぁ。
やはり難儀さあ。
[常葉の少女に返すはいつもと様相違う笑み]
そうじゃな――
構わぬから躊躇もなく言えるのかもしれぬ。
むしろ……
[逸らされた視線][言葉を留める]
[苦笑混じりの嘆息。柄を優しく撫で離れる指先]
常葉の君、其方が臆病とな?
血の匂いは社に迄漂って来たぞ。
しかして、其方が狩るモノではないというのも事実無根。
若しものとき―――其の時には、こやつらも動こうぞ。
其方が恐れようと恐れまいとな。
[また一口]
一度、醜態を晒しておるからか。
慣れたのだろうよ。開耶、其方は無理せぬ方がよい。
日蔭の身も、馴れればそれなり。苦しみは軽くなりましょう……。
「愛している」とは言うてはならず、想いはひたすら胸の内。本気は無粋、全ては夢幻の戯れに御座います。
……如何に相手に「愛している」と言わせぬか、心の内で燃え上がる炎に焼かれ狂おしい程身悶えて、しかして焦がされぬよう堪える悦び……
………ふふっ。
其のようなことを「悦び」としてしまうわたくしは、傍目から見たら随分とおかしな姿をしているのでしょうねぇ……。
[乱れた吐息][苦しそうに]
[目が廻るほどに酔うとはどういうものか]
左様か。
――まぁ、辛くなったら言うがいい。
[酔わぬ女][他者の酔いまで醒ませるか]
[笑う赤鬼][笑みを返して]
そうじゃな、まことに難儀なことよ――。
とはいえ、醜態を晒さずに済むは助かったと言うべきかえ?
[首を傾げていたづらに]
[暫く酒煽り、聞くともなしに宴の声に耳傾けて。
夜風にふわり舞い散るさくらの風映す藍は朧。
コトリ、瓢箪置きゆらりゆらり]
己は少し酔い覚ましに戯れてこようかの。
久方ぶりの芯まで酔う酒。酔いが回りすぎたわ。
[ふらり仰ぎ見る桜。
耳に届くは――子供の声か]
それにはよう帰らねばわっぱが泣きよるわ。
[からりからら笑う声。
誰に云うか、霞む藍色目は柔らかに。
酔いのうちに見るは何処の桜か。
席立ちふらりふらりと宵闇歩き出す]
あんときの万次郎はなかなか面白かったなぁ。
やれ呑めさあ呑めってなぁ。
[くつくつ笑い思い出す]
眼が回るたぁ随分キてるねぇ。
まあそっから先が酒は面白いんだけどなあ。
辛いんなら白水に覚ましてもらっちゃぁどうだい?
[謂って白水振り返り]
そういう利点もあるかい。
介抱の手が必ずあるってぇのはいいかもなぁ。
酒の泉にでもひたりゃぁ話は別かねぇ?
[いたずらな声にからかい返し。]
[赤隻眼に視線向けるもできぬまま]
…ああ、その通り。
これ程に酔う酒が在るなど思いもせなんだ…
[万次郎の言に息を吐き]
やれ、そのようなものに慣れたくは無いな。
言われずとも無理はせぬわ…
[額押さえてまた頭振り。
視界の揺れを払わんとするも、反に視界は更に揺れ]
[たん、と地に手をついて]
…白水。
すまぬが水をもらえぬか。
[異質の笑み] [紅い双眸] [逸れる視線] [見詰める隻眼]
[しゃなしゃなり] [紅い袂] [取り出す木目の盃] [すぃと差し出し]
続きは訊かぬ方が好いかえ?
今宵は一献白水の姐さんと水でも酌み交わそうかィ。
[万次郎の声] [振り向き] [ニィと笑み]
窮鼠猫を噛むってネェ。
アタシとて襲われりゃ身も護ろうさァ。
兄さんアタシに向ける刃は無いとお謂いで無かったかえ?
其れすら違え狩る者は切り捨てるンかィ。
[遥月の唇] [愛してる] [愛してる] [繰り返される言の葉]
アタシァ愛なンざァ謂おうと思わないしネェ。
惚れた腫れたは刹那にゃ向かぬさァ。
遥月の兄さんがおかしいたァ思わないが、好んで其処に身を置くンなら嘆く事ァ無いと思うけどネェ。
主様の命と、我が矜持、天秤に掛けてどちらが重い?
主様の命よ。
其方が狩るモノであったならば
躊躇いなく刃向けるであろうな。
我が矜持など、主様の意向に比べれば塵芥のようなもの。
主様あってこその我。
只、それだけのこと。
[盃を干した男からは香が漂う。犬やら猫やらに影響を及ぼすのだろうか]
[平静に在らばその言に何ぞ感じたやもしれないが。
酔いに酔わさる霞の内、
唯ひらりと去る青司に手を振りて]
[赤隻眼に漸く揺れる琥珀向け]
もう要らぬ。
これ以上は醜態晒すのみぞ。
[去る藍色を見送れば]
[くすり][くすくす]
妾は泉に依存するゆえ――
泉の水が酒にならば、妾も常に酔うておるかもしれんのぅ。
[赤鬼謂うのに無邪気に笑い]
[地に手をついた開耶に向かって]
酔い覚ましが必要かえ?
[首を傾げて開耶に問う]
[杯を差し出す常葉の少女]
汝れは酒が良いのではないか?
[いいながらも、杯満たす]
[ふわり、ふらり、カラコロリ。
宴より離れて木立へ向かう。藍の目移ろう現世か夢か]
[ふわり、山吹の着物の小娘、宴向かい脇を通り抜けかけ]
[――ふわり、山駆ける童が云う事聞かずいつまで遊ぶ]
どこぞ行く――わっぱ。
[するり、隻腕絡め、揺れる山吹の袖
手から毀れるもんじゃ焼き。
藍の浴衣に引き寄せて、腕に爪立てもがく様も気に留めぬ]
碧はこう見えて怖いぜぇ。
油断しちゃいけねぇ。
[窮鼠猫を噛むという。其の牙の傷いかほどか]
主様、
主様ねえ。
[不遜な態度でくつくつ笑う。
琥珀色に眼を向けて]
そうかい、そりゃぁ残念だ。
酔っ払ってんのも愉しそうだと思ったんだけどなぁ。
[杯仕舞って立ち上がり]
万次郎じゃねぇが俺もちょいと野暮用だ。
ちいとしたら直ぐ戻らぁ。
[ひらり手を振り歩む先、
相棒の足の向いた場所]
[万次郎の言葉] [小さく肩竦め] [揺れる常葉]
兄さんは主様が重いンだろうさァ。
アタシァ自分が一番重いからネェ。
[開那の様] [眺め] [何を謂うでも無く]
[白の少女] [満たす盃] [すぃと煽り] [白の手伸べ]
途切れた言の葉の続きを訊く変わりに返杯しようかィ。
[赤鬼] [金色細めるに] [ニィと笑み]
おや、酷い謂われ様だヨゥ。
アタシの何処が怖いって謂うンかえ?
喰児も遊びにお往きかえ?
往くンなら土産の一つも強請ろうかィ。
[香を纏ったまま、もう一献と手酌で。
今度は すい と飲み干して
僅か目元が赤いか、いい具合に酔いもまわったようで]
……ふぅ。良い酒だ。
[仰ぎ見て、羽螺羽螺と散る花びら其の一枚を捉え
ふぅ
と、木天蓼の香混じりの息で吹き飛ばした。
そのまま、その場で*呑んだり呑まなかったり*]
[肩越し常盤を振り返り]
綺麗過ぎて怖いのさぁ。
土産か、そんならなんか見繕ってくるさあ。
[そうしてそのまま歩き出す。]
さあて、
相棒何処かねぇ。
[それはそれは愉しげに]
[開耶より差し伸べられた杯に目を細め]
[水を片手に近寄れば][注がずそのままもう片方で顎を捉える]
妾も少々、酔うてみたくなったゆえ――悪く思うな。
[くいと持ち上げ][唇重ねて暫く―――]
[泉は開耶に入り込み][酒気は己に取り込んで]
[唇離せばその頬には僅かに朱が差し]
[はぁ、と甘い息を吐いて僅か意識乱れて水を落とす]
――ん、初めて酔うがこれではきつかったかの……
[軽く眩暈を覚えるも][少しすればやはり酔いは醒めて]
[髪をかきあげ水を拾いなおせば][開耶の杯を満たす]
――まさに刹那じゃな。
[浮かべた笑みは苦く]
[良い闇に、浮かぶ赤色にやりと笑むか]
ああ、誰と思えば相棒よ。
[すいと藍の目細めれど、それでも朧は消えぬまま。
腕に小娘抱いて、立てられる爪痕から滴る墨色]
かっかっか、云う事聞かぬからこれから仕置きよ。
なんぞお前も混じるか喰児。
[ぼうとしたまま、もがく蘇芳見下ろし]
――ああ、そうか、そうか。仕置きも何もとうに喰われておるのう。
[ひとりごちて、首捻る]
さて、己は何時の間に鬼ごっこしておったか。
[伸べた杯を擦り抜けて。
顎掴まれ顔上げさせられ]
[重なる唇瞬いて、動きは見事に凍ろうか]
[離るる白水をぼぅと見遣り。
水落つるに漸く我を取り戻す。
己が中の酒気が消えるに気付くも今で]
……やれ、全く驚いた…
[水の注がるるを受け取りて。
ぐいと一息に飲み干さん]
[僅か頬が染まるるは、酒精の所為とは誤魔化せぬ]
ふふっ……白水様。
俗世を捨てた密教の高僧様には、そのような刺激は強すぎましょう……
[袖の奥でくつくつ笑う。]
あらあら、いやだ、開耶様。
……その頬、御酒の紅かしら?
もし気掛かりなら、わたくしの白粉を御貸ししましょうか?
――くつくつ、くつくつ。
なんだぃ、迷子の嬢ちゃんじゃねぇか。
そんなら俺も混ざろうかあ?
[つかつか歩いて近づいて
顎とりついと上向かせ]
相棒に捕まっちまったかあ。
どうだい、赤鬼青鬼に喰われてみるかい?
[睨む瞳は煌いて 山吹色に墨色模様]
[くすり笑って開耶を見つめ]
驚かせてすまんな。
されど、事後承諾でなくば逃げられるかと思うたゆえ。
[袖は口元][薄い笑み]
飲んだ端から流れてしまうゆえ、
酔うたものから酒気を奪えば酔えるかと思うたが
刹那も刹那――無駄だったようじゃ。
[頬が染まるに首傾げ]
[吸いきれなかったかと考え込み]
はて――全て吸い取ったつもりじゃが
まだ酔いは醒め切っておらぬか?
[顔色伺い不思議そう] [失敗したかと不安げに]
[何をなさるか]
[小娘は蘇芳を睨むか。
絡める腕からもがき、笛を取ろうとする仕草に]
物の怪がやすやす正体教えてどうなるか。
[墨濡れる指先、小さな顔に這い上がり
笛吹けぬよう親指ひとつねじ込むか。ガリと歯を立てれば流れる墨]
赤鬼青鬼がひとつ教えてやろうぞ。なぁ赤鬼や?
[藍の朧は浮かんで消えて。弧を描く]
[頬色を指摘されるば、かぁと更に色濃くなり]
……っ、遥月!
[口許拭い杯叩き置き。
咎めの声は鋭くも、その貌では意味も無いか]
[其処にかかる白水の声。
矢張り動きは僅か止まるるか]
…やれ、もう良い。
[右の手ひとつで貌覆い。
覗く瞳から逃れようと]
……酔いは醒めた。
充分に醒めた。
[くつくつ笑う遥月に視線をやれば]
刺激か――。
酔い醒ましがほしいと言うから、酒を洗ってやったのじゃが。
――流すにはこの水でも充分なところ、
酔うてみとうて直接吸ったが、無礼じゃったかの。
[思案の瞳][貌覆う様子にも穏やかに]
ならばええが――水ならたくさんあるゆえ、いくらでも飲め。
笛、九十九神かい。
ああ、それで。
[がりり噛み滲む墨。
藍の弧金の弧で返し]
ああ、そうだなぁ。相棒。
[墨の色ごと舌で舐めとり]
そうそう、
碧に土産頼まれてたのさぁ。
[叩き置かれた杯を目で追い、開耶ににこりと微笑んだ。]
嗚呼、開耶様。
ならばよろしゅうございましょう……。
その頬染める滴りに、酔い痴れるのは程々に……
[袖の奥で、くつくつ笑う。]
ほう、常葉にか。如何な土産か?
[赤鬼舐め取る墨色は、毀れて娘の肌を這い伝う。
差し入れた指は口内なぞり。青鬼くつりと笑う]
[口許は袖の奥に隠したまま、白水に紅の視線を向けた。]
いいええ、白水様。
思いもよらず、珍しきものを見られました故、わたくし心踊りました。ええ、ええ。そのやり方が、一番よう御座いますよ。
嗚呼、強いて贅沢言いますれば、白水様が酔い痴れる所も、わたくし見とう御座いますが……それは、後ほどにでも。一度にたくさん珍しき珠を見てしまっては、罰が当たってしまいましょう……。
[貌覆うまま、隙から常盤睨み言は無し]
…酔えぬは難儀よ。
酔うてみればもう要らぬとも思えようにな…
[するり落つる手、力無く]
嗚呼、水ももう良い。
我の本質なれば、あまり飲んでは腐れ落つわ…
[酒気も抜ければ眩暈無く。
常の如くにゆぅるり立ち上がり]
…酔うておらぬと言っておろう。
[笑い止らぬ遥月に言葉投げ遣って]
やれ…何ぞ疲れた…
今宵は離れさせてもらうぞ…
[置いた茶浴衣小脇に抱え、一夜限りの黒浴衣。
響く足音微かなれば、*闇に消えるも早かろう*]
さぁ、何がいいかねえ。
飴はもう売ってねぇし。
[山吹袖からすらりと伸びた
細い指に舌はわせ軽く歯を立てる。
ぎりと睨まれ愉悦の顔で]
甘露な魂ってな土産になるのかねえ。
それとも肝?
笛は壊れちまうかねぇ。
ええ……開耶様。心得ました。
[袖を口許から離し、道具箱へと下ろす。]
貴方様は酔ってはおりませぬ……左様でございますねぇ。
[口許は袖の奥に隠したまま、白水に紅の視線を向けた。]
[鏡を手に取り、唇の紅を塗り直す。其の鏡には、酒精の「呪い」から開放された、開耶の姿が映って居る。]
………ふふっ。
[くすり笑って][遥月の言葉に首傾げ]
何故に汝れが心躍るのかは妾にはわからぬが――
他のやり方は知らぬゆえ、良いなら良かった。
[続く言葉に今度は反対側に首を傾げようか]
妾が酔うは無理なようじゃ。
ほんの一瞬、体験出来たが気分の良いものではなかったのぅ。
[捕らえた意味は少し違うか]
[笑う常盤に視線を投げて]
何やら汝れも楽しそうじゃ。
[つられるように笑み返し]
[去る開耶の背に視線投げ]
はて、怒らせてしもうたか。
青司といい開耶といい、妾はどうも失敗が多いらしい。
さてはてあれは何を喰らうか。
しかしお前さんも豆な男よ。
児を前にして喰らわぬは名が泣かぬか?
[からからから、ひとしきり笑い。
腕の中、墨伝う首筋をつぅと舐める]
程よい色が浮かぶと良いがなぁ。
土産で悩むなら、その間に己が丸ごと喰ろうてしまうぞ。
[唇の紅を塗り直し、鏡をしまう。妙に疲れた様子の開耶を見てにこりと笑い、ヒラヒラと手を振った。]
はい、開耶様、また明日。
ごきげんよう。
[ぐるりと周囲を見回して]
あらあら。
そういえば、青司様と喰児様は何処へ……?蘇芳様もいらっしゃりませんが……。
あンまり無理おしで無いヨゥ。
[去る琥珀] [ひらり白の手振り]
[白の少女] [判らぬ様] [ニィと笑み]
嗚呼、開那の兄さんのあンな顔が見れるなンざァ楽しいヨゥ。
[遥月の言] [ぐるり見回し]
さァて、酔い醒ましに鬼ごっこにでも往ったかネェ。
[遥月の声に自分も周囲を見回して]
あの二人ならば――
どこぞで悪さでもしておるのかの?
[口調は冗談めいたもの]
[何をしてるか知りもせず]
蘇芳が見えぬは聊か妙か。
[笑みは消えて思案顔]
ははあ、先に見つけたのは相棒だからなぁ。
ちったあ分別わきまえてるんだぜえ?
だが、そんなら遠慮なくいただこうかぁ。
[薄く開いた口の中、白い牙が獲物を狙う。
娘が爪たて抵抗するも
鬼の前ではそれは児戯。
仮初の身体裂ける音。]
児の肉は矢張りいいなぁ。
そんでもやっぱぁこいつぁアヤカシの味かあ。
[笑い混じりに食みながら]
汝れはいつでも楽しそうゆえ
汝れを見てると妾も少し楽しゅうなる。
[ニィと笑まれりゃ][くすりと返し]
[遥月の言葉に視線を戻し]
酔うことを識る、か。
皆が言うような気持ちいい気分ではなかったゆえ
酔う楽しさがいつかわかればいいのぅ。
[常盤の言葉を聞き、紅の視線は不思議と語る。]
鬼ごっこ……ですか。左様で。
赤鬼様も青鬼様も、お忙しゅう御座いますねぇ。手の鳴る音が聞こえたのでしょうか。
もしくは、わたくしは血肉を食らう鬼ではございませんから、今宵は何も聞こえなかったのでしょうかねぇ……?
[くるりと振り返り、月を見上げる。]
……嗚呼、綺麗な月。
今宵は微かに、山吹色の光も見えますねぇ……。綺麗なこと……。
[柔らかく降る月の光に、遥月は*目を細めた*]
[隻眼の碧] [すぃと眇め] [紅い双眸覗き]
白水の姐さんは何時も物憂げだからネェ。
偶に迷子の童みたいに見えるヨゥ。
さァて、手を鳴らしたンは誰かネェ。
嗚呼、今宵も佳い宵さァ。
[遥月倣い] [番傘の向こう] [山吹色の月仰ぎ] [呟く]
お前さんは味で見分けがつくのか?
[首筋、顔を離さずちらりと赤鬼見遣る]
かっかっか、良かったなぁ小娘。
己に唯喰われるよりは、身の潔白示して喰われたほうがまだ良かろうて。
――どのみち散りて終わるに変わりはないが。
[赤鬼喰ろうて此方に散る赤、毀れる墨色。
己の体に飛び散る前に赤を取り込み煤と変わる。
娘の体を伝う墨は蔦の如く娘の体を這いずりまさぐる]
あぁ、子供のその顔、久しぶりに食欲をそそるわ。
己は甘露な魂ひとつで充分よ。血肉は赤鬼が食らうと良いさ。
さぁて、――攫いて戻れよ。
[からり笑えば、娘の身体に巡る墨。
魂さらい青鬼の口へと滑り込む]
わらわを童よばわりとは――面白いことを言うのぅ。
わらわはいつも笑うておる。
[口元にあてた袖][見える緋色は笑みたたえ]
手の鳴る方――か。
[同じく見上げた山吹の月]
伊達に喰い散らかしちゃいねぇさ。
[にいと笑って食む血肉、べろりと舐めた己の手
山吹色を緋に染めた。
這いずり回る墨の色
白い喉が仰け反った]
旨ぇなあ。
その辺の子鬼とは違う味さあ。
土産はこいつにするかねぇ。
[引き出す臓腑は月夜に光り]
[ゆらり、魂攫えば、身を離し。
離れた木の幹背持たせて眺める。
呑まずに口の中転がす甘露は飴のよう]
かっかっか。
随分と趣味のいい土産だ。
喜ぶか頬叩かれるか見ものだねぇ。
[注ぐ月光、赤黒染めて藍の目ゆらり細く弧を描く]
相も変わらず血塗れのままか。
[くつくつ、相棒へと肩ゆらし。カラコロ幹離れ]
ああ。少しばかり血酔い覚まして帰るとするさ。
先に呑んでてくれよ。
[ふらり、カラコロ下駄鳴らし。散歩の心算で赤鬼別れ遠回り]
[浮く山吹に目を細め]
[笑みたたえたまま立ち上がり]
今度ははかないか――それもよかろう。
[カラリ][ココロ]
わらわはそろそろお暇しよう。
[泉に向かってあゆみだす]
おう、そんじゃあ待ってるぜえ。
[ひらっと手を振り櫻へと]
鬼さん此方、
手の鳴るほうへ。
[節つけ低くわらべ歌。]
目隠し鬼さん手の鳴るほうへ。
[さて鬼は誰なのか。
櫻の花びら近づいて]
[家へと戻る最中に]
[気配感じて下駄鳴らす]
――喰児と一緒ではなかったんかえ?
[いつものように][くすりと笑って近づいて]
[されど――嗚呼] [近づくにつれ笑み消えて]
[カラリコロリと下駄の音は][ふいに途絶えてしまうだろう]
――――――青司。
汝れの中に何ぞおるな。まさかそなた……
[眉を潜めて暫し見る]
[はらり][一筋伝った雫]
[ゆるりと首をふれば]
[霧の壁を作って泉への道へ*引き返す*]
[静まる宴] [転がる瓢箪] [白い手伸ばし] [一口煽る]
[空の瓢箪放り] [紅い番傘] [くるうり] [積もる花弁] [はらり]
嗚呼、嗚呼――
[番傘傾け] [覗き見る薄紅] [零れる吐息] [酒のせいか] [微か甘く]
[潤む隻眼] [すぃと眇め] [わらべ歌の声] [身を捻り] [顧みるは赤鬼]
嗚呼、喰児かィ。
お帰りィ。
[薔薇色の唇] [浮かぶ笑み] [艶を孕み] [濡れた隻眼] [弧を描く]
よう、碧。
戻ったぜえ。
なんだい、大分はけちまってるなあ。
[視線巡らす宴会場、残り香漂う櫻色。]
ほら、土産だ。
喰うかい?
[指すのは先程手に入れた品
緋色よりも淡いそれ]
皆お帰りさァ。
おや、土産は心の臓かえ?
魂は何処ぞへお逃げかィ。
[漂う薫り] [紅い血] [ニィと笑み] [白の手伸べ]
[くちゃり] [紅い紅い塊] [白の手に掴み] [一口齧る]
―――嗚呼…
美味しい、有難う、喰児。
何処の誰のか知らぬが、上もンだネェ。
[紅く染まる口許] [ちろり] [紅い舌が舐め] [ニィと笑む]
魂は相棒が持っていっちまったさあ。
アイツぁあっちのほうが好きみてぇだなあ。
[謂いつつ常盤の食む様子
眼を細めて見つめては]
そりゃあ良かった。
あんガキのだからなぁ。旨いだろうさ。
[笑みに笑みを返して見せて
残った血糊舐めとった]
好みが被っちまったかィ。
なンぞ二人で童相手に鬼ごっこかえ?
[ぴちゃり] [白い腕] [伝う紅] [舐め取り]
[一口] [また一口] [ゆるり] [舌の上転がし] [味わう]
嗚呼、美味しいヨゥ。
駄目だネェ、我慢がきかなくなりそうさァ。
[口に広がる] [甘露な紅] [飲み込み] [潤む隻眼瞬き]
[残り僅かな肉片] [すぃと赤鬼の口許へ] [差し出そうか]
相棒とも気が合うみてぇだよ。
有り難くご相伴に預かったってとこかねえ。
我慢振りきっちまったら
鬼ごっこも始まるかい?
[緋色の鬼は低く笑う。
たおやかな手に良く映える肉の欠片が差し出され
其の手をとって
ひと舐め喰らう最後の欠片。]
ああ、こりゃぁ美味ぇな。
この場所選んで正解だったぜ。
さァてネェ。
そこそこ楽しい鬼ごっこくらいなら近く出来そうだけどさァ。
[取られた手] [口に運ぶ肉] [紅でも引く様] [唇なぞり]
[紅く染まる] [元は白の五指] [丁寧に舐め] [ほぅと溜息]
ご馳走さン、美味しかったヨゥ。
肉を喰らうンなら心の臓だネェ。
そこそこかぁ。
どうせだったら盛大にやっちまいたいところだがねえ。
[血潮は甘露のように甘い。
細い指の感触に鬼は金の眼光らせる]
そう謂ってもらえんなら
土産持って帰ってきた甲斐があるってもんだ。
そうだなあ。心の臓が一番美味いさあ。
[手を伸ばす先には酒精、
血と肉と酒の三つ巴。]
[甘露一つ呑み干して。腹の中で時が経てばそのうち解けるか
煤覆う、腕の傷痕ぼうと眺めていればカラコロ下駄音。
聞き慣れた声に顔上げる]
いや、喰は先に戻ったわ。
[告げるより先に、白から失せる笑み]
なんぞ居るかと問うか。
子鬼の魂ひとつ喰ろうたまでよ。
[訝しげに。けれどしれっと告げて。
はらり、白の頬伝うものに眼疑う。
去る白を追う間もなく霧に阻まれ、
伸ばしかけた腕を弾くように引く。
ころり、袂から転がる水珠気づかぬままに。
ころころと下駄元転がり、たゆたう水珠]
……何故泣く。
己は百鬼よ。喰らわぬ道理などないわ!!
[霧の向こうに叫べども、声は届くか判らずに。
返る声は聞こえぬまま。唇噛み、視線そらして踵を返す]
[コロリ、足元に転がる水の珠。
拾い上げかけ、目に映るは――]
[蒼く蒼く澄んだ水に浮かぶさくらの花弁]
[映し出すは水鏡か]
[赤く赤く深く森で赤に浮かぶ白い子供の腕]
[戻る墨絵の小鳥、迷わぬようにと繋いだ糸も切れ]
[――せいじ、せいじ。子供の呼ぶ声ばかりがこだまする]
く…ぁ、―――。
[ぐらり。口もと押さえ身を折り、地に膝ついて。
酒と共に呑みかけた蘇芳の魂吐き戻す。
ゆらゆら墨に捉えた魂逃げて往く。
強く握る水珠、手の中ぱちりと割れて肉焦がす]
…は、はは。此れは何ぞや。
夢から覚めてもなおも童は食えぬというのか。
それとも狐様のお怒りとでも云うのか。
ああ、ああ、畜生。それでも己は百鬼なのだ。
世迷い事なぞ、なんとなろう。
[くつり歪な笑み浮かべ
口元拭う、手の中残る花びら墨染まり
黒く青く染まり往くだけ]
おや、喰児は本気かえ?
アタシを喰う気にゃ見えないがネェ。
[光る金色] [眇める碧] [白の指] [唇に置いた侭]
次の土産は魂が好いヨゥ。
こンだけ旨けりゃ目も醒めようさァ。
[酒持つ様] [新たな瓢箪] [白の手伸ばし] [一口煽る]
嗚呼、佳い宵さァ。
[喰う気がないと謂われても、
鬼は眼を細めて見せるだけ]
俺ぁ優しいからねえ?
魂かぁ、そんなら次はそうするさ。
吃驚して眼が覚めちまうようなのを持って来てやるさ。
[傾く月を水面に映し
其れごと呷る春の宵]
だなあ。
佳い刹那さあ。
[細まる金色] [ニィと笑み]
気付いたら消えちまってても文句謂わぬ程に優しいと好いけどさァ。
目の醒める魂たァ大きく出たネェ。
嗚呼、楽しみだヨゥ。
刹那を楽しむにゃ未だ足りぬさァ。
そろそろ往くヨゥ。
[白い手] [そぅと紅い髪梳き] [遊螺り] [立ち上がり]
[紅い番傘] [くるうり] [山吹の月] [蜘蛛の巣綺羅リ]
そいつぁいけねえ。
其の前に捕まえちまうさあ。
[碧の描いた弧を見つめ]
ああ、楽しみにしてなぁ。
足りねぇかい。
刹那を満たすまでに
俺も消えちまわねぇようにするさあ。
往くかい。
また佳い夜にでも逢おうさ。
相棒はまだ散歩かねえ。
[蜘蛛の巣光る番傘と月と女と甘い声。
*瞳に宿るは何色か*]
鬼さん此方、手の鳴る方へってネェ。
[小さく手拍子] [コロコロコロリ] [軽やかな笑い声]
[ひらり舞う花弁] [蜘蛛の巣張った] [番傘に降り積もり]
満ちるも刹那、楽しも刹那、刹那紡いで遊ぶのさァ。
嗚呼、佳い宵にネェ。
[大きな赤鬼] [去り往く背中] [白い手ひらり] [踵を返し]
[カラコロカラリ] [下駄の向く侭] [気の向く侭] [*休憩に*]
―境内近く、林の中にて―
[男は微かに下駄鳴らし、しゃなりしゃなりと歩きゆく。何時ものように、林を抜けて――]
……おや?
[袖を口許に当て、眉をしかめる。おぞましい程の血肉のにおい。空気に触れて、其のにおいは赤から黒へと変わり行く時分というところか――]
これは………
[唇の紅がふるりと震える。足が竦み、黒い足袋が鼻緒にギリリと食い込んだ。白い肌はみるみる青ざめ、鼓動は囃子のように鳴る。]
嗚呼……厭なにおい。
恐ろしい……嗚呼……
[唇をギリリと噛み締め、赤黒いにおいの方向へと向かう。ほどなく彼が見たものは――…]
…………………っ!!
[山吹が赤黒く染められた、年端も行かぬ娘子の無残な姿――…]
[鼓動が悪夢を囃立て、男は林を駆け抜ける。]
(誰の仕業……?嗚呼。
これが常盤様のおっしゃる鬼ごっこ……。
わたくしは精を戴きますれど、血肉は嫌……。まして食われて血肉と化すなど……!)
[走り去る男が向かうは酒宴の社。ほっと胸を撫で下ろす……が、それも刹那のこと。点々と土の上に血の痕残り、その傍らには空の瓢箪。さすればその血、その跡は、]
………やはり、嗚呼。
[夫婦の如く寄り添った、赤碧鬼の食卓の跡。]
[男は、がくりと膝をつく。紅を纏う目は見開いて、いつぞや見えた清廉な光が覗く。]
『違います……殺したのは、僕じゃありません……
確かに僕は、許婚を犯し、めちゃくちゃにして、死に追いやった男を殺しました。
でも僕が殺したのは1人だけ。後は僕ではありません。信じて下さい!嗚呼……!
だいたい、どうして許婚の仇を討つのに、僕が関係の無い子どもを殺す必要があるのですか!?』
[唇を噛み、土を握り締める。]
『え……?「はづき」さん……。僕の犯行を隠すために、貴方が……殺した……?』
[紅の唇に血が滲み、男は天を仰ぐ。]
『……嗚呼、「はづき」さん……。
こんな罪深き僕を抱き締め、口づけしてくれた貴方は、何処へ……。本当に、貴方は僕を、愛してくれていたのですか……?』
[紅と血を舌で舐め取り、男はハッと「我」に返った。]
……いいえ。違う。
「はづき」は、わたくしの名……!
他の誰のものでも御座いませぬ……!
[男の瞳に、紅色の光が戻る。]
[蒼白い頬を、酒のではない薄朱に染めて、]
[頭を振りつつ、苦笑い。]
……想い通じれば、夢にてあい見んとは謂いながら、空夢もあるもの。
おれもいよいよか。
[くくく、と喉を鳴らして、]
とまれ、酒……。
[と辺りを探れば、酒満たした瓢箪二つ。]
[驚きの顔をするが、ややあってほろりと笑う。]
誰ぞ、おれの為に取っておいてくれたか……
有り難い事だ。
[一つを取りて、くい、と呷る。]
[酒が入ってやっと心身整ったか、]
[辺りを見回す余裕も出来て、]
[またもや夜の宴の跡と、鼻衝くあやかしの血臭。]
これはまた…怪どもの血か。性懲りも無い…。
此奴等も、それを良い事に愉しんでおるから始末が悪い。
………有塵様。
[紅を引いた唇が、微かに動く。紬の袖で唇の震えを隠し、有塵へと近付いてゆく。]
先ほどあちらの林にて、山吹の着物を着た娘子の亡骸を見つけました。おそらくは、蘇芳様のものかと存じ上げます……。
[袖の奥で、溜息をつく。]
嗚呼、おぞましき血のにおい……。
鬼ごっこが始まったのですね……。
―回想―
[頬を伝った水の感触][まずいと思い霧をもて]
[叫んだ青鬼聞こえれど][ただ求むるは泉の気]
汝れを責めたいわけではないのだ――
[はらはら][はらり] [雫は落ちて]
少し――寂しく思うただけよ。
[袖を目元に当てながら]
[泉のほとりで膝ついて]
……いいえ。
社に血の痕と、その傍らには御酒の瓢箪。宴の最中に血肉を食らった跡が御座います故……
狩人の仕業か、はたまた妖しの仕業か、断定はできませぬが、おそらくは……。
[暫く間を置き、沈んだ声音で誰にともなく呟く。]
あの女童は可哀相なことをした。
見た目は歳若けれど、器物の怪にてまことの齢は分からぬが……笛吹くだけの怪なれば何の咎もなかろうに。
狩人だけでも厄介だと申しますに……。
嗚呼、常盤様のおっしゃる通り、いよいよもって「鬼ごっこ」の時がやってまいりましたね。いつ何時、わたくしの身が妖しに喰われてしまうか分かりませぬ……嗚呼、畏ろしい。
「狩られる前に狩り、喰われる前に喰え」……
妖し達の同士討ちなど愚かだ、なんて悠長なことを言っている場合では無くなったようで御座いますねぇ……。
己が喰わねば、喰われて散るのみ。怯めば、死あるのみ……。そういうことでございましょう……?
―現在―
[一晩過ぎて][夕べを思い返し――]
[青司の中に居たのは誰か][笛の叫びはいつか聞こえた童女のもので]
蘇芳――――。
汝れはまことの九十九神じゃったのにのぅ。
やはり魂の揺らぎは嘘をつかん――難儀じゃ。
汝れがたとえ狩る者であったとしてもわらわは泣いたであろうが。
[減る怪しは最小限に]
[狩る者狩って][また涙して][この関わりを終わらさん]
――万次郎を半分は信じようか。
[手に持った瓢の酒を更に呷り、]
殺らねば死ぬるか。
はは、ますます以って呑まねば居られぬわ。
[目許朱に染め直して、空しさ含んだ笑いに唇歪めた。]
[今を盛りの薄墨桜、]
[己の宿るその樹を振り向いて見上げ、]
春の終わりを待たず散る、か。
否。
それとも命汚く散り終わるまで生きるか。
おれは。
[はらはらと花の雪積もる。]
尤も……
このような惨劇は、狩人が紛れ込まねば起こらなかったこと。嗚呼、早う狩人の魂を主に捧げ、この惨劇を終わりにしとう御座います。
……喰ろうて、狩って。その繰り返し。
嗚呼、わたくしも今暫くは、修羅に成らねばなりますまいて……
[遥月は物憂げに*溜息をついた*]
おれには誰がまことの怪か分からぬ。それを知る術も無い。
誰を疑いたくも無いが、誰も彼もが信じられぬ。
今更に惜しい身では無いが、花の終わるを見たい。
せめて、桜に霞む山が見たい。
その願いすら叶わぬのなら……
[カラリ][コロリ] [歩みを進め]
[ふらり][ふらり] [あてもなく]
死さば判らぬ妾など、居ても何の意味もなさそうじゃ――。
[歩みを進めてみれば、遥月と有塵が見えようか。
遥月の様子に目を細め、傍の有塵に問いかける]
何ぞあったか。
[いつの間にやら][笑みはいつもの通りで]
[袖は口元より少しばかり上に当てて]
ああ…。
[変わらぬ白水の笑みを見て]
山吹の女童が去んだ……喰われたと。遥月がおれに教えてくれたのだ。
[酔いに潤んだ眸には、憂いの気色。]
――蘇芳か。
それを知ったということは、肉体も付近にあるのじゃな。
[酔いに潤む有塵の憂い]
[さらりと頭を撫でようか]
関わりを持った者が去んでしまうはやはり寂しいのぅ。
―――たとえそれが狩る者であったとしても、同じこと。
[手は離れて]
蘇芳は紛れも無く怪しじゃがな。
[笑みは消さず]
見つけて終わらせれば必要以上には減るまいよ。
[有塵の問いには目を細め]
[暫し思案] [口ひらく]
妾は途中で退席したゆえ、顛末までは知らぬ。
居る間は、蘇芳が居ないを遥月や常葉と訝しんでおった。
――赤鬼青鬼の姿が見えず、帰りを待たず妾は帰った。
途中で青鬼に出会うたが、赤鬼とは少し前に別れたと謂う。
赤鬼は恐らく碧鬼の所へ戻ったであろう。
――それだけじゃ。
[さらり頭撫でられ、一瞬驚くが、]
[白き女の笑みに、仕方無しとやや諦める。]
[が、言葉の意味を受け取りかねて戸惑う。]
肉体……骸は林にあるとそうだが。
よう分からぬが、白水は既に女童の死を知っていたのか。
喰児たちから聞いたのか。
喰児は己が喰ったのが怪と知って何ぞ言っておらなんだか。
[ゆる、とまた桜の木下で目を覚まし。
開耶の香はあれだけ自分を酔わせたか
寝起きでふらつくつむりを押さえ、傍で見守る夜斗へと声かけ]
…夢を見たよ。
髪を撫でた人、目が、とてもとても悲しそう。
僕もお前を撫でる時、そんな目をしていただろうか?
[くぅん、と小さく啼いた夜斗、主人を心配するように]
――蘇芳の魂なら……見かけたゆえ。
[薄い笑みはたたえたものの]
[ついと逸らした視線は林]
――青司の傍に、あったのじゃ。
[視線戻して小首傾げる]
笛の叫びが妾には聴こえた――
あの者は間違いなく笛から出でた九十九神じゃよ。
ヒトはあれほど強い思念を残すことは出来ぬ。
[一拍の間]
妾は魂を見分けし者。泉の水は黄泉の空気。
その水鏡は様々な魂が集まる場所よ。
[白き女の『魂を見分けし者』との言葉に、]
[驚きに打たれた顔。]
[先程よりも一層色を失って、常より蒼白い面が更に蒼褪める。]
今…見分けし者、と言うたか。
おまえは、死者の魂を見分けるのか。
人かあやかしか分かるのか。
[有塵の表情にも笑み崩さず]
[袖を口元から外して][一層笑うだろうか]
――そうじゃな。ヒトかあやしか判る。
死した後しか判らぬゆえに、求める力とは異なるが。
[自嘲的な笑み][袖に隠して]
[有塵の言葉] [細めた緋色]
成る程――喰児もかえ?
あの者は悪食……噛み分けることも可能もしれんが
肉体の味なぞ魂ほどには正直ではない。
[くすり][くすくす] [紅い瞳は弧を描き]
[くん、どこぞと無く香る血の香、
空腹には堪えられず目を細め]
…誰か、食われた…?
そこらの異形とは香りが違う…。
あぁ、寝過ぎてしまったかな…。
[苦笑し、己も腹が減ったのか、なんぞ食らってやろうと立ち上がり。
夜斗も流石に腹が減ったか、目を光らせ]
いいよ、好きにしておいで。
僕はあまり異形は好まぬし、少しでいいからね。
[頭一撫で、声掛けて。風が吹いたかと思いきや、夜斗の姿は既に無く]
そのような……死者を見分けるような、力を持った者が二人も揃うことはあるのだろうか?
有り得ぬとするならば……
喰児とおまえ。
何れが嘘か真か?
さぁのぅ……
妾は妾が真だと言えるが、喰児が嘘とも言い切らぬ。
二人のどちらかが真だと謂うなら、妾は妾を真と申す。
[小首傾げて薄く笑む]
喰児の気性からみるに、
緋の味に狂うておるだけなのやもしれぬ。
[くすくす笑う]
[夜斗が去り、自分は桜の木の上へとふわり跳び、頑丈そうな枝にて腰おろし。ぼんやりと、何を見るでもなくたたずんで]
…
[ふと、小さく自分の口元に触れ。
ここに触れた2人の同じもの。少し、苦く顔をゆがめ]
知らない、こんな物思い…
[ぽつ、と*一人ごち*]
[がくりと項垂れ、ざんばらに乱れ髪顔に垂らす。]
[黒髪の帳に隠され窺い知れぬ面、]
[その奥より低く押し殺した声音。]
おれには見えぬ。聞こえぬ。分からぬ。知らぬ。
おまえと喰児、何方がまことで何方が嘘をついておっても……。
[有塵の様子に目を細め]
[声音は優しく響くだろうか]
妾とて、妾の言うことが真なりと言うことは出来ぬ。
喰児の言が嘘とも言えぬ。妾が他を信じきれぬと同じこと。
死さねばわからぬ。生者は皆妾にとってもわからぬよ。
[押し殺した声][眺めつつ]
[消えた有塵][袖は口元]
[カラリ][コロリ] [下駄を鳴らすか]
[神域の空を翔け上がる。]
[何処へ行くとも宛ては無い。]
[ただ、緋の鬼の顔を見れず、]
[己の樹に戻れば顔を合わせてしまいそうで、]
──あゝ、あゝ。
[ただ墨染めの衣、*黒髪の奥の面を覆う。*]
[ゆるり覚める藍の目、背もたす、木立の合間。
うたたねする間に腕から毀れる墨は止まり。
傷痕のこしてけれど、
水珠破った手の平だけは未だ墨が滲む]
[カラコロリ、何処へ行く]
[骸抱き締め][囁くように]
汝れの笛の音、目前でゆっくり聴くは出来なんだが
共に唄えて――愉しかった。
――其れもまた、難儀な縁じゃ。
縁ついでに、其の顔だけでも洗うてやろう。
[しっとりに濡れた袖をあて]
[其のかんばせの緋色をおとす]
[鳴るは葉の音、微かなれども。
林の内のくれなゐ寄りて]
…やれ、酷い有様よ。
[昨日百鬼に己がしたこと忘れたかの如く。
山吹抱く白見遣り]
珍しきかな。
骸とあらば百鬼が寄りて喰らおうに。
[山吹の貌の緋、落つるを見]
[微かな葉音][聞き覚えのある声]
――開耶か。
[小さく名前を呼べば][骸を抱き]
[ゆるりと顔向け][薄く笑み――]
同属喰らうは多くはなかろう。
[緋色の瞳][緋色の衣][緋色の大地]
[白銀の髪が浮かべる笑みは異様な光景にも見え]
ましてや蘇芳は九十九神なのじゃから。
[カラコロリ、木立合間をぶらり往く
昨夜の跡に佇む影二つ。カラコロ、其方へ歩む]
同属喰らう物好きは…左様、多くはなかろうて。
何処の誰の毒が混ざっておらぬか判らぬ躯。
やすやす口にする程あれらも莫迦ではあらぬという事か。
[笑みは異質に、白は緋色の内に鮮やかに]
人の姿なれば妖か人かわかりはせぬ。
やれ、その娘は蘇芳というのか。
一度か二度か姿は見たが、名を聞くは初めてよ。
[つぃと足を踏み出して。
白水抱く骸触れ]
…さて、同属喰らうが少なかれば、
これは誰の仕業であろうな。
腹は割かれて内は無し。
誰ぞ喰ろうた後にも見えるが。
[聞き覚えある下駄の音]
[青司を視界に入れれば刹那固まり]
元に戻れぬ妖しの中に混じるヒト――
礫はやすやす投げようと肉まで喰らう勇気はないらしい。
[くすり笑って]
[からころり。
近付く下駄音に顔を上げ]
やれ、それでは其方は莫迦となるか。
何時ぞや妖を喰ろうたと言うておった気がするが。
[茶の裾再びくれなゐ濡れ]
[開耶の言葉に][失念していたことに気付き]
嗚呼、そういえば――皆にはわからんのじゃな。
百鬼も判らぬものじゃから、喰わぬのではなく喰えぬのじゃろう。
汝れが舞を披露した時、遠く聴こえた笛の音が蘇芳。
妾も名を聞いただけで、他の者ほど永く居たわけではない。
[骸に触れた手見つめれば]
同族喰らいなら――すぐ傍にも居るが。
[笑む白を暫く眺め]
そのようだ。
肉は喰らわねど、礫を投げて消える裁量か。
[莫迦となるか。云われ開耶に肩竦める]
はじめから己が手をつけ喰らうのと、
誰かの喰らうた痕に手をつけるのとでは違うということよ。
何で斃れたか判らぬものまで口にするか。
[躯に触れる開耶にゆると瞬き]
誰ぞの仕業と云うならば、己の仕業よ。
[青司に向けるはいつもと同じ笑みで]
[いつもと違うは蘇芳の緋がその顔についていることか]
今日は――居らんのだな。
消化してしもうたか、どこぞへ捨ててきたか――
[朱に染まった袖を口元に当てて]
[首を傾げて藍を見つめる]
珠も捨てたか――。気配がないのぅ。
[くれなゐ染まる指の先。
ちろり舌先で拭い去り]
…さて。
皆にはというなれば、其方には判ると申すか。
笛の音は覚えておる。
やれ、澄んだ良い音を持つ者と思うておったのだが。
[すぐ傍に。
ゆぅるり青司に視線を遣りて]
やれ、言われてみればその通りか。
それは確かに莫迦のすることよ。
[言って続く青司の言。
瞬き凍る己が貌に気付かずに]
…やれ、真に其方が喰ろうたか。
[ふむ、と白を眺め]
皆にわからぬとはお前さんには判るのか。
赤鬼も喰らえば判ると云うておったが、
さてはて。万次に然り赤と白にも然り。
そのような特異が集う縁でもあるのかのう
[開耶の顔に幾度か瞬き]
おかしな顔をするものだな開耶よ。
真も真。己が攫い魂喰ろうて、肉は赤が喰ろうたわ。
さぁて、如何したかのう。
[笑む白へと薄く笑みを返す]
すまぬな折角貰うたものだが
拾い上げたら割れてしもうた。
[白の顔につく赤を拭おうと、手の甲伸ばして]
[二人の問いに][薄く笑んで]
妾は魂を視る――ヒトか妖しかの区別はつく。
されど、喰児がどうかは妾は知らぬ。
肉を喰ろうてもヒトか妖しか妾にはわからぬのじゃから。
[一拍の間][蘇芳の髪を梳きながら]
肉を喰ろうたのが喰児なれば、喰児は何と言うておった?
やれ…我はそれ程稀有な顔をしておったか。
[ゆぅるり右手で貌覆い]
…少々驚いただけよ。
やれ、どうしたことであろうな。
[最後の言は己に向け。
緋色の山吹に琥珀落とす]
魂のう…それで昨夜己に中に在るのがわかったのか。
[すいとひと撫で拭う甲。口元手に寄せぺろりと舐めて
赤に解けて微か墨滲むのも舐め取りながら]
あれも物の怪と云うておったわ。
[泉に向かい] [白の少女] [姿無きに] [赤黒に染まる浴衣脱ぎ]
[水浴び] [紅差し] [濡れ髪結い上げ] [隻眼の碧] [夫婦金魚眺め]
もゥ好いかえ?
未だだヨゥ。
未だ未だ未だ未だ未だ未だ足りぬさァ。
[ぱしゃり] [水面叩く白の手] [隻眼の碧] [僅か見開き揺れ]
[紅と黒] [出目金] [尾を揺らし] [寄り添い] [離れ] [擦違う]
咲き乱れて何と成ろうネェ。
[揺れる水面] [映る表情] [波紋にか歪む] [白と紅と常葉色]
[赤黒の華咲く浴衣] [羽織り帯締め] [枝の上] [煙管くゆらせ]
ああ、おかしな顔よ。
昨日と違い、笑えぬ顔だったわ。
どうせなら可笑しな顔の方が良いだがな。
[舐めとり終えた手を下ろし
くつくつ笑い、顔に手を置く開耶に首傾げ]
腹減れば喰らうにさほど不思議もなかろうに。
[くすり笑って][藍を見る]
拾い上げたら――か。
不思議なこともあるものじゃ。
[其は水の塊のようなもの] [割る意思なくば割れぬ物]
喰児も物の怪と言うておったか。
妾と喰児がどうであれ、蘇芳は潔白と知れるのう。
[開耶の様子に首傾げ]
――大丈夫か?
[と一言問う。]
魂…なれば誤魔化しできよう筈も無い。
なれど、その言が真とは判りはせぬ。
[ゆるり離れる右の腕。
そのまま落つればくれなゐ弾く]
[山吹見遣るを青に向け]
笑えぬか。
我は其方らの愉しに成る気はない故に、構いはせぬが。
…笑えぬと言いながら笑っておるのは何故か。
[緋色に染まる林の地。
触れる茶も同じく染まる]
[白水の問い、ひらり振るは濡れぬ左]
…大丈夫だ。
[笑む白にすいと藍の目細め]
詰まらぬものが見えたゆえ、
うっかり割ってしもうたのかもしれんのう。
ほんに不思議なこともあるものよ。水鏡、だったか。その欠片でも入っていたか。
…左様潔白だろうよ。小娘は何にせよ物の怪。
さて鬼ごっこは巡るかのう。
[向く琥珀、くつり笑いは留まらず]
心算なくとも勝手に眺めて笑うから良いのよ。
かっかっか、さて、腹でも満ちて機嫌が良いか。
[開耶に緋色の目を向けて]
そう――魂は嘘がつけぬ。
言葉なくとも生者よりよほど正直じゃ。
されど、妾も妾の言葉が真じゃと信じさせる要素もない。
――それに、妾は妾でわかっておるから信用得るも頭にない。
ただ……妾と喰児、2人の見立てが同じである限り、
汝れにとって其の信憑性は高いと思うて良いかもしれんのぅ。
[穏やかな笑みを湛えたまま青司に視線を投げ]
詰まらぬ幻でも見えたか――
妾が封じた清い水の結晶ゆえ、何ぞ見えることもあろう。
良き幻か悪き幻か――しかしそこには真実しか映らぬ。
[くすり][くすくす] [浮かぶ笑み]
[青見る琥珀、僅か険の色持ちて]
やれ…なれば笑われぬ為に我は去ぬか。
…やれ、袖も裾もまた染まってしまったか。
白水、其方の泉を借りても良いか?
[つぃと右腕持ち上げて。
緋色染まる袖にやれと息吐く]
[からり笑っていれば、白の言葉。
ゆると瞬き、浮かぶ笑みは儚きか]
良きか悪きかの幻か――泡沫の夢の終わりよ。
さすれば珠も弾けて消える通り。
[琥珀に顔向ける頃には、にや口元上げて]
臍を曲げられてしもうたか。残念残念。
必要ならばまた洗うてやろうか?
[悪戯な笑み向けて]
[けれどすぐさま申し訳なさそうな色になり]
――昨晩は、すまなんだな。
気分を害したのなら、謝ろう。
泉は自由に使うといい――
[たおやかに笑む]
蘇芳は妖か…やれ、つまりは境消ゆるは未だ遠いか。
[空青仰ぎて息吐きつ]
我見て笑うができるなら、他を見れば尚笑えよう。
我より愉し者ばかりであろうに。
[ぱんと音立て袂整え。琥珀は青司に向きもせず]
[白水の浮かべる色に瞬きて]
…あれは驚いただけと言うたろう。
気を悪くなどはしておらぬ。
なれば泉、使わせてもらおう。
[歩みは変わらず音微か。
ゆぅるりゆるり、泉へと]
[何処か遠き] [隻眼の碧] [僅か眇めて] [睫毛震わせ]
在るかネェ。
[上の空の呟き] [気配気付くに遅れ] [足おろし直す裾]
[現れたる琥珀] [黒き蝶映したか定かではなく] [ニィと笑み]
開那の兄さんは今日も好い形じゃないかィ。
水浴びかえ?
[枝の上] [はたり] [はたり] [揺れる] [苺色の鼻緒]
[歩む泉に影ひとつ。
ゆぅるり見上げれども蝶見えず]
緋に濡れるままは動き辛い。
故に洗い流しにきたまでのこと。
…やれ、其方が在るとなれば脱げぬか。
仕方あるまい、このまま入るか。
[言うが早いか水飛沫。
夫婦金魚の泉の内、溶ける緋色は消えて往く]
[青司に浮かんだ儚き笑みに]
[驚いたように目を瞬かせ口元隠す]
泡沫の夢の終わり――か。
妾には何の幻も見えぬ。見たい幻とて見れぬのじゃ。
見せるばかりの妾は、見える汝れが羨ましい。
されど、汝れにとっては見たくなかった幻のようじゃな。
やれ、難儀難儀。
[顔は殆ど隠れていたが][浮かんだ笑みは痛々しい]
緋に染まるンも楽しいけどネェ。
アタシァ晒すにゃ厭うが見るにゃ構わないヨゥ。
[掛ける声より先] [あがる水音] [跳ねる水飛沫] [隻眼眇め]
[夫婦金魚] [尾を揺らし] [波紋広がる水] [僅か緋が解ける]
嗚呼、嗚呼。
気が短いンだか気が立ってンだかネェ。
今日も何処ぞで鬼ごっこかえ?
己はお前さんを見て云うたり笑ったりしておるのだ。
他を見て笑えというなら、また話は変わろうに。
まあ、良いわ。他見ても愉しは変わらずじゃ。
[悪びれた風もなく、開耶の背にからり笑って見送る]
やれ、難儀だ難儀。
[袖の間から覗くのは痛々しい笑み。
痛むばかりの手で撫でてしまうと墨が汚すだろう。
手は伸ばさず、困ったような笑みを返すだけ]
見たい幻でもあるのか白よ。
誰かの幻でよければ水鏡を映す目に何か映らぬものかの。
己の幻は詰まらぬわ。どうせ見るなら――
[ゆるり首振り]
何を、見たいのだろうな己は。
[泉の内、濡れる茶から雫落つ]
やれ、なれば脱げば良かったわ。
[溜息混じりに袖擦りて。
なれども着のままには擦り難い]
……やれ、面倒だ。
[帯解き淵に投げ。
茶浴衣脱いで緋色擦る]
我は鬼真似なぞしておらぬ。
青司と赤隻眼が蘇芳相手にしておったようだが。
気を使わせちまって御免ヨゥ。
[帯解き] [茶浴衣の緋] [擦り洗う様] [眺め鼻緒揺らし]
童と鬼ごっこたァ聞いたが、ありゃ矢張り蘇芳の姐さんだったンかィ。
幾ら洗えども未だ鬼ごっこは終らぬさァ。
見たい幻――妾が其れを本当に見たいのかはわからぬが
見れないよりは、見える分だけ寂しさがまぎれるかと思うてな。
――否、其れも。
宴と同じく刹那を愉しんでしまえば寂しさが募るばかりか。
[顔そむけるも]
[雫は蘇芳の頬に落ちて]
嗚呼、寂しいのぅ。
関わらなければ毒を受けずに済むものを――
狩る者とて、宴の席の誰かなら
妾がこの手で殺したとしても、妾はまた恋うるのだろう。
[蘇芳を一撫で][また寝かせ]
[すいと立ち上がれば][袖は目元]
水鏡は嘘はつかぬ。
汝れ自身がわからぬことも、綺麗に反映してしまうだろう。
――見る勇気があるならば、一度泉に来るがいい。
[首振る藍に][背を向けたままそう告げて]
[緋色消えるば浴衣も放り。
とぷり沈みて直戻る]
何時追うたは知らぬ故、
其方の知る鬼真似とは異なるやもしれんがな。
やれ、何時になれば終わるのか。
幾度も洗うは面倒よ。
[波紋逃げるる夫婦金魚。
遠くゆぅらり尾が揺れる]
──あゝ。何ゆえに。
[宙に留まりて神域を眺む。]
[もとより外には出られぬが、]
ようやっと心静かに去ねると思うたに……
[墨染めの袖を外したその面は]
[常と同じく冷たく固い。]
[冷えた身のうち温めようと瓢の酒を呷っても、]
[最早朱には染まりはせぬ。]
開那の兄さんが酒量過ごしてお戯れの間じゃないかネェ。
[熱病の如く] [僅か潤む隻眼] [すぃと顔あげ] [遠く見遣り]
嗚呼、アタシの謂うンは違うヨゥ。
どちらも鬼ごっこなれど本気で遊ぶ鬼ごっこは別物さァ。
[コロコロコロリ] [軽やかな嗤い声] [水音に混じる]
刹那のお遊びなンざァ其の内にゃ終るだろうさァ。
開那の兄さんは面倒と難儀ばかりじゃないかィ。
寂しくて泣くのか白よ。
[毀れるものを静かに眺め]
一度関われば毒は身体を蝕むか。
喰っても喰らわれても尽きぬは鬼ごっこかそれとも。
[恋うるものか。口に出さず、立ち上がる白の背を見る]
よかろう。己は見たいものはこの眼で見るが
ひとつ映る真実とやら見るのもよかろうて。
[頷き、ふらりカラコロ、白に背を向け]
幻を見たいと思うならば、
水鏡ではないが己の墨と筆を貸してやろう。
自分の手で描かねば見えぬ幻だがな。
[水音上げて泉の淵。
浴衣取ろうとした手が止まる]
…やれ、それは言うな。
鶏の如くに忘れやれ。
本気の鬼真似か。
其方が言うなれば真に恐ろしく聞こえるわ。
[ぱしゃり鳴る水、浴衣引き]
嗚呼全く。
この世は総て面倒と難儀で出来ておるわ。
[濃茶に変わった浴衣纏い、張り付くそれに息吐いて]
…やれ、着難い。
[愁いに沈んだその眼、何とはなしに林に向けて]
[ハッと、微かな驚きに目見開く。]
桜……
[上つ方より眺むれば、うららかな照日に向かいて伸びた枝に、]
[咲き初めた桜花、ほろほろと。]
[よくよく見れば、参道に並び生いたる桜にも]
[はや霞んだ薄紅。]
……は。はは、は。
[冷たく固い面が緩み、奇妙に歪んで泣き笑い……]
[泣いた痕は見苦しくて][小さな粒へと型を成し]
ああ、そうじゃ。寂しいがゆえに泣く。
永い間、ヒトとは関わらずに生きてきた。
妾はヒトの魂を喰ろうていたのじゃ――関わらばまた寂しくなる。
妖しならば喰うこともない――ゆえに戯れに刻を過ごし始めたが
――失うくらいならば関わらなければ良かったと思うた。
関わらなければ、迷うことなく殺せたものを。
[ゆるり][首振り][涙の粒をおとしきる]
――汝れが去んでも妾は泣くだろう。汝れがヒトでも妖しでも。
見るを選ぶならば――待っておる。
妾には筆と墨を貸されても、絵心がないでどうしようもない。
――何かが見たくなったら、描いてもろても良いじゃろうか。
[儚い笑みは][背を向け合った藍には見えず]
鶏より悪いと謂った事も忘れてたヨゥ。
何が怖いもンかネェ。
胸焦がし死合うはァ楽しいヨゥ。
混じりもンなンざァ何も無くてただ純粋に刹那に遊ぶのさァ。
[潤む隻眼の碧] [眼窟の闇] [眺める琥珀] [浴衣張り付かせ]
何処に居て何を為すも難儀で面倒な兄さんは如何するンかえ?
開那の兄さん求むるは何処に在るンかネェ。
いっそ乾くまで脱いでりゃ好いのにさァ。
この陽気ならそうかからず乾くだろうヨゥ。
もう後二三日もすれば、この神域の桜も皆咲き揃おう……
さくらいろの花霞に覆われよう。
春が。
春が来た。
彼の男と交わした契りの刻が。
[眼より滴は落ちねど、涙に潤んで、]
[つかの間の夢居に立ち戻る黒い眸。]
[木の上腰掛け山を見る。
空気をたゆたう春霞、櫻の花が綻んだ]
さくら、さくら、
霞か雲か……ってなぁ。
[緋色の髪が揺れている。
血腥い風たなびいて白い花弁を舞い上げる。]
[それもひと時、]
[また憂いが面に兆す。]
[眉根を寄せて、]
けれどもおれは。
明日にも去んでしまうやも知れぬ。
酒の精気でどんなに持ちこたえようとも、狩る者は。
さもなくば、怪どもに。
やれ、それは重度なことよ。
[軽口なれど音は常のままに軽く無く]
[潤む碧、見上げ遣り]
夢見心地な貌をしておるな。
刹那を見るは構わぬが、その後に何ぞ残る。
虚しきしか残らぬのではないか?
[一度茶浴衣揺らめかせ。
張り付くに苦労しながら帯を巻く]
さて、な。我も知らぬ。
乾くまで放っておけば見るも厭と言う者と会うやもしれぬ。
着ておってもその内に乾くだろう。
関わり、人に患うてしまったのか。
次いで物の怪までに患うとは難儀よのう。ほんに難儀よ。
己が逝けばまた泣くというか。
泣かずに笑うておれ。寂しいばかりでは何処へも往けぬ。
[くつり、背を向けたまま俯き笑う]
そうだな近いうちに尋ねよう。
[顔を上げて]
やれやれ、絵心なくとも描けば上達するわ。
けれど良かろう。望む幻描こうか。
[ひとつ頷き、カラコロそのまま何処かへ*行くだろう*]
[舞う、舞う。
風に巻かれて桜舞う]
[くれなゐ斑の薄紅扇、拾いて懐差し入れて]
……何ぞ有ったか、薄墨。
[聞こえる声に空翔るる薄墨見上げ]
[花風巻いて社へと、]
[緋の鬼居るやもと頭を掠めたが、]
[それよりも求むる者の行方を知りたくて、]
誰ぞ開耶を知らぬか。
開耶、開耶っ。
[軽口には些か重き音] [ニィと笑み] [見上げる琥珀]
[覗く隻眼の碧] [蕩け] [潤むは] [刹那を想うてか]
其処には過去も未来も在りはせぬ、其ン刹那が全て、己の全てを賭してただ死合うンだヨゥ。
何故後に虚しさが残るのさァ。
大体、腹いっぱいンなりゃ虚しさより先に眠気じゃないかえ?
其ン時こそアタシァ満開の桜の木の下で心地好く転寝でもするヨゥ。
起きたらまた遊ぶのさァ。
[はたり] [鼻緒揺らし]
律儀だネェ。
[有塵の声] [ゆるり] [首を捻り] [揺れる常葉]
おや、有塵の兄さんかィ。
如何かしたンかえ?
ほんに難儀――救いようもない。
宴の物の怪は皆、ヒトの形をしてるゆえ余計に性質が悪いわ。
[くすり][泣き止み笑みを見せ]
汝れが笑えというのなら、汝れが有る時は笑っていよう。
[去り際][骸に][穢れなき珠握らせて]
[下位の物の怪][近寄らせぬよう願かけて]
汝れがどんな幻を見るかわからんが――
良い幻だといいのぅ。
[カラリ][一歩][歩み出て]
妾も、幻が欲しくなったら汝れをたずねよう――
[コロリ][続きの足を出し][自分もどこかへ*あてもなく*]
[常盤の女もその目には見えども視えず、]
開耶。頼みがあるのだ。
喰児からおまえが紅の花咲かす幻を見たと聞いて……。
おれに満開の咲き乱れる桜にこの杜が覆われる様を見せてはくれまいか。
[蕩け潤む碧隻眼。今無き闇眼も潤んでいるか]
…やれ、其方は真に刹那しか見ておらぬか。
嗚呼、其方に問うたが間違いよ。
[無礼千万、呟きつ。
脚に絡む裾、一度剥ぐ。風に揺らせど未だ乾かぬ]
面倒が嫌いなだけよ。
[言之葉ひとつ投げ遣りて]
[降りる薄墨、その言に。
驚いたように瞬きつ]
…構いはせぬが、何故に。
其方が咲いたのだ、その内に皆咲こう。
[綻ぶ桜は己の目には映りておらず。
薄墨に向けるる言は僅か奇妙に聞こえるか]
そう、後ニ三日もすれば皆満開となろう。
けれども皆が咲くまでおれが生きて居らぬかも知れぬ。
生きているうちに見たい。
花に霞む山を。
[うちにじんわり熱を孕んだ眸で同属を見る。]
[そのあまりに熱望するあまり、開耶の言葉の妙には気付かず。]
其処に全て在るのに如何して其れ以上を求むる必要があるかィ。
[潤む隻眼] [眇め] [呟く琥珀] [眺め]
[薄墨桜] [気付かぬ様] [二人の遣り取り聞き]
また桜に染まるンかィ。
嗚呼、良い、好いネェ。
[戯れ歌うわらべ歌、
遠く見えるは墨桜]
匂いぞいずる
いざやいざや見に往かん。
[見る花恐らく血潮色。
遠く誰かの声響き、鬼は器の酒乾した]
[ゆぅるり、溜息]
[生きているうちに。
常に在らば遠き其。今は間近に在る其]
…仕方あるまいな。
[ひとつ呟き、先に収めた扇取り出す]
……刹那は要らぬ。
[常盤に向け遣る言も小さく]
[ゆぅるり開く斑扇。
風に乗せれば常と変わらぬ香を散らす]
[やがて薄紅霞む夢。
それが見ゆるは香の内のみなれど、山一面と広がる如く]
[僅かに届く琥珀の香。
春の夕の真ん中で、薄紅幻影幕を上げ]
さくら、さくら
花盛り―――……。
[立ち上がって見下ろして、ついと地面へ飛び降りる。
恐らくあれは泉の傍だ。
ちゃらり投げ上げ掴む賽。
弄びながら歩を進め。]
──あゝ、あゝ。
[目の裏に焼きついた想い出のあの野辺と、]
[幻のうちにはあれど全き同じ、]
[山一面のうすくれなゐ、霞みて。]
刹那も永久も…―――
[漂う香] [続く言の葉無く] [潤む隻眼の碧] [揺れ]
[長い睫毛震え] [薔薇色の唇] [微か開き] [零す吐息]
嗚呼、嗚呼。
[全て覆い] [一面の薄紅] [映す隻眼の碧] [濡れ]
[枝の上] [差した番傘傾け] [白い喉逸らし] [仰ぐ景色]
―――――嗚呼。
[ふぅわり口許斑扇。
暫しの時は閉じぬまま]
…これで良いか、薄墨。
[春の盛りのこの御山。
引き離されしは遥か過去。
記憶も朧なれば不安も付き纏い]
[問うも恐らく薄墨は聞いていなかろう]
……そうか。
見えるならば良い。
[仰ぐ薄紅、はらはら散りて]
[常盤の零す音、遠く聞く]
[寄れば寄るほど香りは強く
薄紅色も濃くなった。]
よう。
見事だねえ。
[はらりはらはら散るいろに、
笑みを浮かべて片手上げ]
礼告げらることでも無し。
我は幻しか見せられぬ。
[ゆぅるり煽ぐ斑扇。
幻の内にはくれなゐ無く、唯々薄紅積もるのみ]
[現る赤隻眼、くれなゐ色。
つぃと琥珀を其方に遣りて]
やれ、赤隻眼か。
腹が満ちて今まで眠っておったか。
嗚呼。
[零れるは] [熱を孕む] [甘い甘い] [吐息ばかり]
[気配に] [すぃと移す] [濡れた眼差し] [赤鬼捉え]
嗚呼、本当に見事だネェ。
[枝の上] [腰掛けた侭] [くるうり] [赤の番傘回し]
[はたり] [苺色の鼻緒揺れ] [浮かぶ笑み] [桜に色めく]
[顔背け、袖で顔を擦る。]
[扇煽ぐ開耶へと、今度は向き直り、]
いや……おまえのしてくれた事は、おれにとりては幻以上の意味があったのだ。
これでもう、おれは。
[深々と頭を下げる。]
おう、有塵。
どうしたあ、眼に花びらでも入っちまったか?
[琥珀に薄墨、常盤色。
とりどりアヤカシ見遣っては]
花見酒さあ。
咲きかけもまた味があらぁ。
もうすぐここらも満開になるだろうからなあ。
[見事と笑う潤んだ碧、
にいと笑みを浮かべて見上げ]
ああ、
ちぃとお眼にかかれない華やかさだぜえ。
今宵の酒も旨そうだネェ。
[赤鬼に謂い] [周囲の声] [遠い侭] [幹に頭寄せ]
[また一つ] [吐息零し] [幻消える前] [*長い睫毛をおろす*]
[常盤の女に向かいては]
此処に社が立つ遥昔は、この杜はこの様な有様であった。
今は参道も出来、桜の数も幾らか減ったが。
桜の寿命は長くは無い故、樹の種類も前とは異にしておるし。
[ぱふり口許扇当て。
琥珀伏せてゆるり首振る]
幻は所詮幻にしか成れぬ。
刹那に消ゆる我ら(はな)と同じよ。
[赤隻眼の言に瞬き]
…疾うに咲き始めておったか。
……やれ、可笑しなことぞ。
[つぃと扇滑らせて。
触れられぬ花弁迎え遣り]
暫しこのままにしておこう。
香が消ゆるまでの幻夢(ゆめ)だがな。
[ぱちり扇閉じても香消えず。
幻香残して茶桜*去り往く*]
[気紛れに、下駄を鳴らしてカラリコロリと]
[番傘揺らして夕桜、]
[見惚れた様に常盤の女が辺りに彷徨い出でて。]
[碧の髪が遠ざかるのを見計らい、]
……喰児。
[思い詰めた面持ちで見詰める黒い眸。]
ああん?
[視線をついと地面に戻し、思い詰めた黒を見る。
笑いは常のもののまま]
飽きるほど喰らってきたからなあ。
分かるさあ。
[くつくつ笑い]
……それでは。
おまえはおれも人と疑っておるか。
おれも喰らいたいと……然様に思っているか。
[常と同じ笑い浮かべたその顔その目をじっと見据える。]
ああ?
[見据えられては眼を細め]
お前も知ってるだろ?
俺ぁ愉しけりゃぁそれでいいのさあ。
ヒトもアヤカシも関係ねぇ。
それに、お前を喰っちまったら
櫻が枯れちまうしお前と酒も呑めねぇじゃねぇか。
俺ぁそんなのぁ御免だねえ。
白水も……判る、と言うた。
死した者の魂が見えると。魂を視れば、人か怪かすぐに判ると、然様に言うた。
山吹の女童…蘇芳か、あれが正しく笛の付喪神(つくもがみ)と教えてくれた。
ほお、白水がねえ。
面白ぇ術じゃねぇか。
俺と違ってすっとしたやりかただがねえ。
[腕を組んで頷いた]
確かにあの嬢ちゃんはアヤカシさぁ。
おれは喰わぬと言うのなら、では他の者は……?
おまえは人だろうとあやかしだろうと、喰えればそれでいいのではないか……?
[顔を伏せれば、ざんばら髪が面を覆う。]
[黒髪に隠れて眼も顔色も窺えぬ。]
[にいと笑って前屈み、
黒い瞳を覗き込み]
そう思うならそう思やぁいいさあ。
それが気にくわねぇなら俺を消しちまやいいさあ。
最も、そん時ぁ全力で相手させてもらうがねえ。
[それはそれは愉しげに]
どうしたぁ、有塵。
別に喰っちまいやしねぇよ。
[細めたままの眼を向けて
続く言葉に笑みのまま]
そいつぁどうしてだい?
お前も謂ったろう、
放っておくと俺ぁ血に酔って色んなもの喰い散らかしかねねぇぞお?
なんだい、殊勝だねえ。
心配してくれてんのかい?
[笑い手伸ばし髪を梳き
ふいと其の手を離しては]
そうそうくたばりゃしねぇさ。
鬼ごっこはまだまだだしなあ。
……解らぬっ。分からぬ、どうしてなどとは。
ただ、おれが去ぬより先におまえに去んで欲しくないだけだ。
おれを喰うても良い、ただ──
…………ッ?!
[促されるままに、激して答えを継いで]
[己の言葉に、愕然とした。]
有り得ぬ。有ってはならぬ。
[呆然としたまま独りごち、言の葉紡ぐ。]
おれは、花で良かったのだ。ひたすらに待ち焦がれ想いて咲く花で……
[眸彷徨い、千々に乱れた気色漂わせていたが、]
[一転、急速に収まり、冷たく固く蒼褪めた面へと。]
……喰児。
おれは動転していたようだ。済まぬ。
蘇芳の死に様聞いてから、おかしくなって居たのだろう。
[動転から冷静へ、慌しく移るいろ。
金の眼僅かに笑み細め]
気にすんなぁ。
紅に酔ったということにでもしといてやるさ。
[凛と告げる櫻の言葉、
はらはら落ちる花びら掬い]
ああ、俺ぁそういう櫻ぁ気に入ってるぜえ。
もうそろそろ宴も始まろう。
常盤の女君も戻って来ようほどに。
おれは……樹の上で頭を冷やして来よう。
然らば。
[緋の鬼より離れ、踵を返して]
[足下より桜風巻いて]
[何時の間にやら香も消え失せて]
[満開の桜の山は淡い一時の夢に返る。]
[花の風巻上げ舞い上がり、]
[己の宿る白霞の桜へと。]
[高き梢に身を寄せて、]
[このところ手放さぬ酒をば呷る。]
[一息二息、浴びるが如く。]
[顎を伝いて胸にも滴る滴、]
[乱暴に手の甲で口を拭えば、]
[冷たき面にようやっと血の色が。]
……おれは、花のままでいい。だから。
おう、頭ぁ冷えたら降りて来なぁ。
[舞い上がるのは薄墨櫻、
其の背を見送り見上げた空は
既に宵が差し迫る。
一時の夢の紅は消え、緑の木々が揺れていた]
願はくは花の下にて春死なん……
つってたのは誰だったかなぁ。
[傍の木の幹凭れて見上げ、
やはり笑んではくつくつ笑う。
眼を閉じ腕組み緋色の鬼は
*如何なる色を夢見るか。*]
[泉のほとりに腰を下ろしつつ左中指から腕まで絡めた水の数珠を握り念を込める。浸けた右手。揺らり波紋は拡がれど――]
矢張り、何も見えぬか――。
今のこの形こそが、妾の見る幻なのかのぅ。
[泉に映る白い少女][水面をふわり歩いてゆけば]
[その中心で柔らかな][月の灯りを*其の身に受けて*]
[遥月は、幾年もの歳月を過ごした竹を思わせるような、深い緑色の着物を着込んでいる。]
……嗚呼。
これが、妖しの宴……
左様なれど、どこか苦しく、寂しいもの……
[足袋は黒。身支度整え、下駄を鳴らして社へ向かう。]
[風を切る飛礫] [向い来る刃物] [混じり全てを切り取る真空]
[ふわり] [紅い番傘差した侭] [夜空に跳ねる] [紅い花咲く常盤]
今宵も遊んでお呉れかえ?
[淡絞りの白い裾] [膝折り曲げ] [蜘蛛の巣張った傘片手]
[異形見下ろし] [中空より] [番傘くうるり] [蜘蛛の巣放つか]
[背後に月背負い] [ひらり] [袂ひるがえし] [身を翻す]
[真空の刃] [煌く糸切り裂くに] [ひゅうい] [白の手振り]
嗚呼、恐い、怖い、強いネェ。
[木の枝立つも] [追い縋る異形] [更に露天の屋根へ]
[野次馬も集まり] [徐々に喧騒] [響く軽やかな笑い声]
遊ぶにゃ好いが鬼ごっこにゃ遠いヨゥ。
[ついぞうとうと枝の上。
また開耶の香が僅かに香り、顔を顰めるも、
夜斗の捕った獲物の血の香それに勝り]
あぁ、お帰り夜斗。
僕はいいから、お前が好きなだけお食べ。
[ふと、風に乗り届くのは、昨日触れた、あの香り]
遥月…様…。
[顔に影が落ちるもつかの間、ふる、と頭を振って忘れようと]
[軋む露天の屋根] [数多の飛礫] [真空の刃音も無く]
[ひらり] [翻る紅い袂] [揺れる常葉] [じゃり] [地を踏む音]
十把一絡げじゃご不満かえ?
[ぱぁん] [たたむ番傘] [弧を描き振り抜く] [後ずさる異形達]
[くるうり] [紅い番傘] [差し直し] [周囲を眺める] [隻眼の碧]
さァさ、アタシと遊んで呉れるなァ誰かえ?
[忘れたくとも忘れられない、昨日のあの声、あの表情。ぼんやりだったけれども、見えず聞こえずでもなく]
夜斗、おいで。
[ふわりと夜斗につかまって、桜の木から飛び降りて]
[泉の真ん中][遠くで聴こえる断末魔]
[此処から見える異形達][捕らえた瞳は剣呑として]
妾に関わるは、妾に毒を盛るのと同じぞ――
縁が出来る前に根こそぎ葬ってやろうか。
[泉の中心][いつかの日よりも大きい揺らぎ]
[漣は岸を飛び越え][木陰の異形も捕らえるか]
[痛い痛い高笑い][それでも]
[赤の瞳は愉悦を映し] [異形の姿は形も残らず]
関わりなきを葬るはこんなにも楽なのに
難儀よ難儀――狩る者はどこぞ――
[血で染められた][衣に跳ねる]
[異形の血飛沫][蘇芳のぬくもり]
[夜空にきらり、光が走る。目を細めて見上げる。]
これは……妖しの業。
その辺りの小鬼とは……訳が違いますが……あれは。
[光の帯は、犬の姿。]
[社へ降り立ちそのままどこかへ向かおうと
足を進めかけて立ち止まる。少し困った笑顔で笑いかけ]
…何やら、久方ぶりという気分ですよ。
もう、大丈夫なのですか?
[蒼い目に捉えた人の影、
目元口元に紅を引いたその顔は、昨日確かに泣いていた]
[番傘広げ] [血の雨浴びて] [ぼんやり眺め] [ひゅうい]
[白の手振って] [ごとり] [異形の首落ちる] [ざわめく周囲]
未だ遊んでお呉れかえ?
[くるうり] [紅い番傘] [ぽたあり] [紅い雨降り]
[人垣に拓く道] [しゃなしゃなり] [下駄の音鳴らし]
未だ未だ足りないヨゥ。
おやおや、司棋さ……
[振り向き、男は硬直する。紅を纏った目は多く見開き、唇は震えを隠さず、何か言葉を絞り出そうとしている。]
『……は……』
[掠れるように出た声は、空気をスッと切り裂く清廉な男の声。竹のように真っ直ぐに伸びた背は、平時の柳のような遥月とは、明らかに異なるものである。]
『ああ………!』
[男は、司棋に向かって満面の笑みを浮かべ――]
『「はづき」さん!
嗚呼……お会いしたかった……。
久しぶりな気がする、ではありませんよ。本当に久しぶりじゃありませんか!』
[突然に変わった顔を見せる遥月に、戸惑いを隠せず]
何を?「遥月」とは貴方の名ではありませんか?
それとも誰か、他にも遥月と名乗るものがここに?
[気持ち、後ずさり]
[後ずさる司棋に詰め寄り、じぃと顔を見つめる。]
『……………?
あの……冗談が過ぎますよ、「はづき」さん。「はづき」は貴方の名前ではありませんか。
僕は「橘陽之助」、英国名は「ハーヴェイ・タチバナ」。茶道家の端くれをしている僕に、いろいろ手助けしてくださったではありませんか。』
[じぃと見つめた男は、視線をちらりと下にやる。]
『……あれ?
「はづき」さんは、犬がお好きでしたでしょうか…?初耳…といいますか、犬を連れていらっしゃるお姿は、初めてお見受けしたような……。
あの、それと、誠に申し上げにくいのですが……。
「はづき」さん、背が縮みました……か?』
うん、良い目ざめ。
[社にもはらはらと散落ち届く薄紅の花弁に、ちょいと挑む。
軽く握った拳を構えて光る瞳で見すえて腕振れば、薄紅はもう掌の中。
ぱくり銜える]
…ぬぅ。
[遥月の言葉に混乱し]
何…?本当に、どうされたのですか?
何を仰って…?
目を、覚まして下さい、お願いですから…!
[頬に手をやり、少し、泣きそうな顔で懇願し]
[付近の異形を狩りとって]
[泉の周囲は血溜まりなれど]
[泉の水は清いまま]
[水を使ったお遊戯終える]
儚いのぅ……ヒトも妖しも灯を消すことはたやすいわ。
[緋色の瞳は][笑み湛え]
[袖を一振り][地をも*清める*]
あまりに良い香りがするからきっと、美味かろうと思っておったのにのう…
[渋い顔をしてぺぇっと吐き出した。
それから再度、目の端でひらめく薄紅。
今度のそれは花弁ではなくて――]
おやおや。あの犬めの髪かや。
遥月のやつに迫られて後ずさる姿の胸のすくこと。
[近付く気も無いまま、遠目に眺めてやるつもりで良い席を探す。
木の上が良さそうだと思ったようだ。
気配を感じさせるでもなく、するすると登った]
『目は……覚めておりますが……。
あの……どうなされましたか?涙目だなんて、いつもの「はづき」さんらしくないような……』
[頬に司棋の手が触れ、男はふっと微笑む。]
『温かい手……。人殺しの罪に墜ちた僕を赦してくれるような貴方のその手が、僕は好きでした……なんて、臆面も無く言うのは、随分と照れくさいですけれどね。
まして貴方も僕も男の身なのに、僕を愛してくださ……ああっ、ごめんなさい。別にそういう意味では…なく……』
[男は幻覚に囚われたように、司棋の蒼い瞳を見つめている。]
[カラリ] [カラ] [コロ] [瓢箪三つ] [紅い番傘差し]
[今宵も佳い宵] [酒盛りしようと] [境内へ向かう]
[遠く映る薄墨桜] [紅い髪の少年] [深緑の着物の人]
[木に登る気配] [仔猫へと視線映し] [其方へと歩み寄る]
命の姐さんじゃないかィ。
其ンな処で何してるンかえ?
ここまで登れば良いだろう。
[有塵は別の木にせよ、もっと上の梢に登れていると知りもせず。
よく登ったものだと、にんまり口の端を持ち上げる]
おぉおぉ、これほど高いがゆえに、よく見えること…
[見えるのは二人の様子ばかりにあらず]
白水は泉。常磐のひめは露天の辺り?
血しぶく香りのここまで届きそうな…
ほんに働き者であることじゃ。
あれでは昼寝の暇のあろうか?
[先まで眠っていたのにまたも欠伸の生まれ小さく一つ、枝にしがみ付いたまま伸びをする]
[ゆらゆらゆれる影法師、
ひい ふう みい よう いつ む なな や]
ここのたり。
[月が落とす影青く、倒れる陰を一瞥し]
一辺倒で面白くねぇなあ。
もうちょい愉しく踊ってくれやあ。
[自分を見ているようで見ていない、そんな目で見つめられるのに耐え切れずにとうとう涙が数滴、頬を伝い]
違います、僕は「遥月」では…
「遥月」は貴方、僕は司棋。
僕も貴方が好きですよ。
でも、貴方が好きだといっているのは僕じゃない。
お目を、お覚まし下さい
[蒼い目に、見る者の神経を麻痺させるように僅かに蒼い目を光らせて。直に解けるほど、弱い術]
[ひらり] [軽やかに降り立つ仔猫] [得意満面の笑顔]
[隻眼の碧] [僅か弧に笑ませ] [くるうり] [紅い番傘回し]
態々降りて来て呉れて有難うネェ。
今回は巧く着地出来たじゃないかィ。
其ンくらい、悪趣味だなンて謂やしないヨゥ。
なンぞ、面白いもンでも見えたかえ?
『え…?「はづき」さん…
「司棋」とは、どな…た………』
[身体中に、緩やかな痺れが走る。男はどさりと膝をつき、地に生える草を掴んでしばし悶える。]
『あ……』あ………っ!
[痺れが弱まり、男はゆっくりと顔を上げた。]
………司棋様………?
[紅の視線は、茫然とした様子で司棋を見上げた。]
[カラリコロリ。行く先斃れる百鬼共。
ぶらぶらり、手の中瓢箪ひとつ揺れ。
先を見れば赤鬼の姿、藍の目愉しげに細まった]
応、相棒。まだまだ血が足りぬか?
それとも常葉の女に捧げるためかのう。かっかっか。
ふふふ、そうとも。
これが本来のわらわじゃぞ。
あれほど高くより飛び降りようとも…
[顎持ち上げて、大木見上げ]
尻餅つくでなく、受け止められるのみにも非ず、ひらりと着地。
万次郎にも見せたかった。
[何ぞ面白いものをと問われれば]
3つほどな。
紅の穢れを泉にて落とす白水、番傘紅に染め踊るように屠る常磐のひめ、眼閉じるまでは働き者よと見ておった。
そして傑作がな、遥月に苛めらるる司棋の奴めよ。
今もきっと社にて…
[社を指差すが、木から下りた己の高さではもはや目は届かず]
おや、見えなくなったが…今もきっとな。
遥月…さ…
よかった…戻った…
[普段に戻る遥月に安心し、かくりと膝を付き。
緊張感が解けたのか、一瞬意識を飛ばし。
夜斗は倒れて頭を打たぬよう、主人の体を支え立ち]
よう、相棒。
[いつものように挨拶し
にいと笑みを浮かべては]
喧嘩売られりゃあ買わねぇとなあ。
碧に?
こんなん持ってたら怒られちまわぁ。
そう謂やァ命の姐さんは御猫様の化身だったけネェ。
万次郎の兄さんと謂やァ、命の姐さんは万次郎の兄さんと酒呑んでから随分と寝こけてたみたいだけど大丈夫かえ?
[小首傾げ] [くるくる変わる表情] [見詰め]
白水の姐さん鬼ごっこかネェ。
アタシも見られちまったかィ。
カマイタチ一匹くらいじゃ腹の足しにもならなかったヨゥ。
司棋の兄さんと遥月の兄さんは来る道中でちらっと見かけたヨゥ。
なンぞ様子が可笑しかったが、大丈夫かネェ。
[すぃ] [命の視線追い] [首を捻り]
……司棋様?
[意識を飛ばして地に崩れ落ちる司棋が視界に入る。夜斗が司棋を支え頭を打ち付けることは免れたが……]
司棋様……司棋様!
嗚呼……大丈夫ですか……?
………っ。
わたくしも、眩暈が……!
昨夜はすまなんだなあ、
少しばかり迷子になって適当な所で転寝しておったわ。
――それ、侘びじゃ。
[瓢箪ひょいと赤鬼投げて]
ああ、常葉のあれは舌が肥えているか。
小娘の臓物は気に入られたか?
[梢にて、独り静かに酒を呑み、]
[はた物思いに沈んではつく吐息。]
[今また、瓢を傾ければ、]
…やれ。もう無いか。
[空の瓢にこの度は、憂いで無い溜息。]
なかなか帰ってこねぇと思ったら
転寝かい、
襲われなくてよかったなぁ。
[くつくつ笑って相棒見遣り]
ああ、こんなんじゃ足りねぇって謂われらあ。
あれは随分気に入ったようだぜえ。
綺麗に平らげてたさあ。
んんン…
[真理が傾げる小首にも似た角度で、首を傾げ返し]
わらわは、それはそれはもうたっぷりと眠っておったようじゃからのう。
浅い眠りの中身を起こそうとした時は、ずいぶんと具合の悪くなった気のする。
万次郎のくれた酒のあまりの美味さに、夢中で飲んだ事は覚えておるが…。
頭の痛くなるものとは、知らなんだ。
じゃがもちろん、今はすっかり治っておる。大丈夫。
…ほほ、カマイタチ一匹くらいじゃ腹の足しにもならんと仰るか。
その細い指で小さな口を通って、華奢な胴まわりまで多くを運ぶとは到底思えぬのに。
常磐のひめは、見た目に違って大喰らいかのう?
喰児とどちらが多く喰らう?
殺気あればすぐわかるて。
お前さんらも血の匂いをさせすぎじゃ、かっかっか。
ほう。気に入れど足らず。
足らねば何を望むかのう。
刹那刹那と云う割りに、未だ未だと云うてかなわん。
相棒はあれの何処を好いておるのか?
う…
[一瞬の気絶だったからか、直に目が覚め。
自分の上の遥月を見やり]
なんだったんだろう…、どうして…?
…怪我はない…か。
[じぃ、と眠る遥月を見つめてぽつり]
僕も、貴方が好きですよ?
[先程の言葉を、もう一度。
昨日、彼が自分にしていたように優しく髪に触れながら]
夜斗、皆の所へこの人を。
[自分はふらりと立ち上がり。眠る遥月は夜斗に担がせ、社の方へ]
ははあ。そりゃあそうかい。
まあ染み付いたもんだからなあ。
[ついと金の眼細めては]
未だだよう、と謂うのみだなあ。
魂が欲しいとさ、それも甘露なやつだぁな。
気に入るのに理由が要るか?
なあんてな。
見て聞いて触れて呑んで、
在り様が気に入ったのさぁ。
佳い女さあ。
[どさりと覆い被さり、しばし司棋の温もりを衣越しに感じ、司棋の身体を抱き締める。]
う……っ、
『はづき』は、わたくしの名……!
[ふるりと首を横に振り、よろよろと起き上がる。]
申し訳ございません、司棋様。先ほどは失礼の程を……
[夜斗がこちらをじぃと見つめているのを、遥月は思わず見つめ返した。]
……別に、今すぐ取って食らおうとなどとは。
[信用ならぬ、と言わんばかりの表情で、夜斗は遥月を見つめている。]
二日酔いかネェ。
治ったンなら何よりさァ。
酒は呑んでも呑まれるなってネェ。
[微か薫る薄紅] [黒鬼の気配] [またゆるり視線移し]
[命の言葉] [大喰らいと謂う] [コロコロコロリ] [軽やかに笑い]
カマイタチァ喰っちゃいないヨゥ。
弱い奴ァ不味くて喰う気になれないのさァ。
紅ァい紅ァい綺麗な血が見れる以外は足しにもならないヨゥ。
有塵め。
雅な現れ方で目を愉しませてくれると思えば、二言目には「酒くれ、酒くれ」と…
おぬしは、酒のためだけに生きておるのか?
さては真のところ桜鬼などではなくて、酒の入れらるる瓢箪の精であろ。
どうじゃ、当たり?
かっかっか、それもそうだの。
気に入るに理由などありはせぬか。
[からり笑って、藍の目弧を描く]
未だだよう。と来たものだ。
されど明後日には、残る目腐り落ちようぞ。
甘露な魂望みあれの云うように咲き乱れようとも、
己の目玉とともにあれの目玉も腐り落ちて盲となろう。
さて、相棒。あれの為に己の目玉でも抉って行くか?
[にいと口元上げて笑む]
[再び夜斗をじぃと見つめる。]
いいえ、司棋様。
ご心配には及びませぬ。自分の足で歩けます故。……御気遣いは頂戴致しましたよ。
[取り落とした化粧の道具箱を取り直し、遥月は司棋の隣りを歩く。]
酒は呑まれるばかりでなく、飲む物を呑もうともする物とは知らなんだ。
恐ろしき物よ。
…じゃがそれでいて美味。
困ったもんじゃなぁ。
[喰っちゃいないと言う真理の言葉、あれと瞬き]
紅ぁい紅ぁい綺麗な血…
喰うではなくて、それが見たくて屠ってらしたか。
常磐のひめは紅がお好きなのじゃな。
おおそれでは、喰児の髪はまさに麗しく目に映ろう?
きっとヒトには、恐ろしく映るものなのじゃろうが。
[笑った後でほう、と謂い]
腐り落ちるかあ、
何ぞ謂ってたが呪のことかい。
鬼ごっこだ、此処までおいで、だ。
あんまり時間がないのかねえ。
俺の眼やったら面ぁ拝めなくなっちまわあ。
それでもまあ喰えはするがねえ。
[賽を放って受け取って]
[社へ向かう途中、横の遥月をちらりとみやり。
ふと、意識せずに着物の袖に手を触れさせ]
…遥月様、先程のお方はどなた?
遥月様は、誰を恋うておられるのですか?
ハーヴェイ・タチバナ、と名乗るものは、誰ですか?
[最後、聞きなれない名前を問う声は消え入りそうに小さく]
酒も櫻も酔わせるのが巧いから気をつけるンだヨゥ。
有塵の兄さんも来たし今宵も酒宴を始めようかィ。
万次郎の兄さんの持ってきた奴たァ違うが、是も上物だヨゥ。
何せびびった店主がいっとう好い奴出して呉れたからネェ。
[瞬く翡翠の少女] [見詰めニィと笑み] [瓢箪二つ揺れる]
嗚呼、紅ァ好いネェ。
喰児の髪は綺麗さァ。
あの眼(まなこ)もまるでおっ月さンみたいじゃないかィ。
さァて、如何見えるンだろうネェ。
人間も異形もなく好きか嫌いかな気もするヨゥ。
これはこれは常盤の女君。一段と色めいて婀娜なる様よ。
やれ有り難や。酒が無うては始まらぬゆえ。
[ニヤリと唇歪めて笑い、]
……と、仔猫も居ったか。
ふん。おれはまことに桜の精よ。何ど瓢箪などであるものか。
酒は命の水と言うではないか。命永らうには酒の精気取り入れるが一番。
もっとも、他の道も有るが……この話、仔猫のおまえには早かろうな。
おや、褒めてお呉れかィ。
嬉しいネェ。
[ニィと笑み] [くるうり] [番傘回し]
有塵の兄さんは盃はお持ちかえ?
其れとも瓢箪ごとお呑みかえ?
なンなら酌のひとつくらいするヨゥ。
[膝つき] [白い手伸ばし] [手招いて]
[桜綻ぶ夜店道。
右は懐 左は黒浴衣。
険の色持つ妖の気配、今も尽きずに付き纏う]
…嗚呼、どれもこれも綻んでおる。
やれ、真狂いしは我というか。
[くつり零るる嗤い声。
祭囃子に解け消える]
かっかっか、お前の目でなくこの己の目の事よ。
[賽の目眺めて、ゆるり笑む]
左様、呪のようだ。己もあれも気を抜きすぎたわ。
まあ暢気よのう。相棒。
常葉のあれが気が早すぎる故、丁度良いかもしらんがな。
さて酒でも呑みに行くとするか。
[カラリ、宴の方へ足を踏み出す]
――ああ、相棒。
己は明後日あたりあれを喰いにいくぞ。
さて、混ざるか止めるか、先行くか。
それとも己とお前さんも鬼ごっこのはじまりか。
お前さんは如何するだろうなぁ?
[やがて辿るは宴場の道。
すっかり乾いた茶浴衣揺らし、白の最中に姿現す]
[つぃと巡らす琥珀に映りしは]
……やれ、酒を忘れたわ。
[既に瓢箪空けるる姿がみっつ]
酔うは危うく、酔うは楽し…ふふふ。
気をつけよとはわらわに言わず、あまり悪戯を過ぎるなと酒や櫻にこそ言うておくれな、常磐のひめよ。
おお、いっとう好い奴か。
わらわもいっとう好い奴を、いっとう好くぞ。
そうじゃな、まことに桜の精と言い張る者のためにも命の水を酌み交わそうぞ、いざ酒の精気取り入れる宴へと。
お月さんみたいとはよう言うた…
確かに、人間も異形も関わりないかもしれんのう。
金の眼を月と思えば、月見酒。
天にあるのが雲に隠れても、安心じゃな。
ふん、有塵め。それは意地悪のつもりかや?
真は無きをあるがごとく言うて、瓢箪呼ばわりへの仕返しじゃろう。
先ほどの……?
[はて、としばし思案顔。ぐるりと記憶を廻らせて、思い起こすはその断片。]
……嗚呼。
もしや『はづき』とうわ言のように繰り返す男の声の事で御座いますか……?あれは、わたくしにも詳しいことがわからないのです。
わたくしが妖しとして現れた時、最初に口にできた言葉が『は、づ、き』の三文字だと、さる御方がおっしゃって居りましてね……。それを聞いてかの方は、面白がってわたくしを『遥月』と名付けたのです。
恋うる、恋うるといいますと……。嗚呼、はっきりとは分かりませぬ。ただ……わたくしの中で執拗に声を上げる男が、誰かを恋うて泣いて居るのやもしれませぬ。
其の恋うる相手が『はづき』の正体ならば、『遥月』というわたくしは、一体何なのでしょうね……。
[寂しげに遥月は微笑み、司棋の手をそっと取る。無言で首を横に振った時、司棋の口から聞き慣れない名を聞く。]
ハーヴェイ…タチバナ……?
異国の方の御名前ですか……?
嗚呼………
[遥月は、軽い眩暈を覚えた。]
[零れる言の葉] [途切れ] [口噤む有塵] [見詰め]
[長い睫毛] [瞬き] [小首傾げ] [常葉揺れ] [ニィと笑む]
喰児は優しいから好きだヨゥ。
でも謂った通り、アタシァ色恋沙汰とは無縁さァ。
本気も本気の鬼ごっこをしたいンだヨゥ。
さて、杯。白水に貰うた清水の杯が有ったような気もしたが、何処ぞに無くしてしもうた。
出来うれば瓢ごとが有り難いが、たまには美人の酌も良いかも知れぬ。
[差し招かれれば、程近くにどっかと座る。]
相棒かい、難儀だねえ。
[にいと笑って歩きつつ]
暢気かい?
もうちょい急くほうがいいかねえ。
まあ、待てば果報の知らせありとかなんとかなあ。
[ついと眼を細めては]
ほおう。
そりゃあ聞き捨てならねぇなあ。
横から掻っ攫うかどうするか。
[顎に手をあて笑み深め]
ただ、わたくしは……
[首を横にふるり]
……恋うる相手には、決して「愛している」とは言えませぬ。
それがわたくしの運命……わたくしの身に刻まれた、因果に御座います。
それを御忘れなきよう……司棋様。
無きを有るが如く…か。
それも知らんでは、おまえはまっこと童だの。
[くくく、と揶揄う笑い浮かべて頭を撫で繰る。]
精気取り込む他の道とは色の道。童では分からぬのも道理か。
さて、急くかどうかは気分次第よ。
待てば果報。そういう暢気さはお前さんらしくて良いのう。
[カラコロ歩く青鬼赤鬼、
月光に浮かぶ顔、金色の瞳すいと細まった]
さて、如何するか。
己も約束ひとつあるゆえ、
横から攫われるのも面白くないのう。
[此方もすいと藍の目細める]
酒や櫻に幾ら謂おうと聞いちゃ呉れないヨゥ。
だから命の姐さんに謂ってるンじゃないかィ。
[コロコロコロリ] [また笑い]
嗚呼、いっとう好い奴さァ。
命の姐さんも盃はお持ちかえ?
喰児のおっ月さンは雲に隠れぬ変わりに目蓋に隠れるのさァ。
薄紅舞う中で月見酒なンざァ贅沢だネェ。
美人の酌…
[真理と有塵を見比べて]
長身者の酌も中々良かったぞ。
今日も黒盃にて頼んでみようと思いきや、今は居らぬなぁ。
よし、常磐のひめ。
有塵は美人の酌で飲むようじゃから。
瓢ごと飲むは、有塵の代わりにわらわがしよう。
瓢箪おくれ。
[当然とばかりに手を差し出す]
やれ…買いに戻るか戻らぬか。
[幸いか、酒宴の最中に在る者は気付いておらぬ。
黒浴衣持つままも如何かと思うが、
酒を持たずに酒宴に現る方がまずかろう]
[ふる、と横に振られる頭に複雑な表情を]
…僕は…。
[くい、と遥月をこちらへ向かせ、背伸びをして口付けを]
僕がいうのも、いけないのでしょうか…。
もし、迷惑なら仰っていただければ。
それ以上は何も申しませぬよ。
[頭を胸元に少し、預け。
そのまま、一人酒盛りの場所へ。
夜斗は少し困ったように遥月を見つめていたが、そのまま主人を追って]
やれ、失くしちまったんかィ。
困ったネェ。
アタシァ白水の姐さんみたいな真似ァ出来ないヨゥ。
[瓢箪片手に思案顔] [すぃと瓢箪差し出し] [立ち上がる]
ちょいと呑んで待っててお呉れヨゥ。
ちょっくら盃探して来るからさァ。
ははあ、褒め言葉として受け取っておくぜえ。
[約束ひとつ、言葉が落ちる]
そん時ぁ俺と相棒で鬼ごっこかあ?
俺とやってみるかい?
[くつくつ笑いで謂ってみせ]
ぬ。
[撫で繰りられれば、撫でてやるに相応しい器であるのはこちらとばかりに文句を言おうとする顔。
しかしついつい、心地よさに溶けて目を細め。
それでも揶揄う笑いに気が付けば]
童と言うたか、馬鹿におしでない。
猫の育ち行く早さご存じないな。
わらわもそろそろ子を成せる年よ。
色の道とは何を指すかくらい知っておるわ。
ただそれが精気取り込む他の道とは知らなんだ。
試してみるかのう?
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