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魂…なれば誤魔化しできよう筈も無い。
なれど、その言が真とは判りはせぬ。
[ゆるり離れる右の腕。
そのまま落つればくれなゐ弾く]
[山吹見遣るを青に向け]
笑えぬか。
我は其方らの愉しに成る気はない故に、構いはせぬが。
…笑えぬと言いながら笑っておるのは何故か。
[緋色に染まる林の地。
触れる茶も同じく染まる]
[白水の問い、ひらり振るは濡れぬ左]
…大丈夫だ。
[笑む白にすいと藍の目細め]
詰まらぬものが見えたゆえ、
うっかり割ってしもうたのかもしれんのう。
ほんに不思議なこともあるものよ。水鏡、だったか。その欠片でも入っていたか。
…左様潔白だろうよ。小娘は何にせよ物の怪。
さて鬼ごっこは巡るかのう。
[向く琥珀、くつり笑いは留まらず]
心算なくとも勝手に眺めて笑うから良いのよ。
かっかっか、さて、腹でも満ちて機嫌が良いか。
[開耶に緋色の目を向けて]
そう――魂は嘘がつけぬ。
言葉なくとも生者よりよほど正直じゃ。
されど、妾も妾の言葉が真じゃと信じさせる要素もない。
――それに、妾は妾でわかっておるから信用得るも頭にない。
ただ……妾と喰児、2人の見立てが同じである限り、
汝れにとって其の信憑性は高いと思うて良いかもしれんのぅ。
[穏やかな笑みを湛えたまま青司に視線を投げ]
詰まらぬ幻でも見えたか――
妾が封じた清い水の結晶ゆえ、何ぞ見えることもあろう。
良き幻か悪き幻か――しかしそこには真実しか映らぬ。
[くすり][くすくす] [浮かぶ笑み]
[青見る琥珀、僅か険の色持ちて]
やれ…なれば笑われぬ為に我は去ぬか。
…やれ、袖も裾もまた染まってしまったか。
白水、其方の泉を借りても良いか?
[つぃと右腕持ち上げて。
緋色染まる袖にやれと息吐く]
[からり笑っていれば、白の言葉。
ゆると瞬き、浮かぶ笑みは儚きか]
良きか悪きかの幻か――泡沫の夢の終わりよ。
さすれば珠も弾けて消える通り。
[琥珀に顔向ける頃には、にや口元上げて]
臍を曲げられてしもうたか。残念残念。
必要ならばまた洗うてやろうか?
[悪戯な笑み向けて]
[けれどすぐさま申し訳なさそうな色になり]
――昨晩は、すまなんだな。
気分を害したのなら、謝ろう。
泉は自由に使うといい――
[たおやかに笑む]
蘇芳は妖か…やれ、つまりは境消ゆるは未だ遠いか。
[空青仰ぎて息吐きつ]
我見て笑うができるなら、他を見れば尚笑えよう。
我より愉し者ばかりであろうに。
[ぱんと音立て袂整え。琥珀は青司に向きもせず]
[白水の浮かべる色に瞬きて]
…あれは驚いただけと言うたろう。
気を悪くなどはしておらぬ。
なれば泉、使わせてもらおう。
[歩みは変わらず音微か。
ゆぅるりゆるり、泉へと]
[何処か遠き] [隻眼の碧] [僅か眇めて] [睫毛震わせ]
在るかネェ。
[上の空の呟き] [気配気付くに遅れ] [足おろし直す裾]
[現れたる琥珀] [黒き蝶映したか定かではなく] [ニィと笑み]
開那の兄さんは今日も好い形じゃないかィ。
水浴びかえ?
[枝の上] [はたり] [はたり] [揺れる] [苺色の鼻緒]
[歩む泉に影ひとつ。
ゆぅるり見上げれども蝶見えず]
緋に濡れるままは動き辛い。
故に洗い流しにきたまでのこと。
…やれ、其方が在るとなれば脱げぬか。
仕方あるまい、このまま入るか。
[言うが早いか水飛沫。
夫婦金魚の泉の内、溶ける緋色は消えて往く]
[青司に浮かんだ儚き笑みに]
[驚いたように目を瞬かせ口元隠す]
泡沫の夢の終わり――か。
妾には何の幻も見えぬ。見たい幻とて見れぬのじゃ。
見せるばかりの妾は、見える汝れが羨ましい。
されど、汝れにとっては見たくなかった幻のようじゃな。
やれ、難儀難儀。
[顔は殆ど隠れていたが][浮かんだ笑みは痛々しい]
緋に染まるンも楽しいけどネェ。
アタシァ晒すにゃ厭うが見るにゃ構わないヨゥ。
[掛ける声より先] [あがる水音] [跳ねる水飛沫] [隻眼眇め]
[夫婦金魚] [尾を揺らし] [波紋広がる水] [僅か緋が解ける]
嗚呼、嗚呼。
気が短いンだか気が立ってンだかネェ。
今日も何処ぞで鬼ごっこかえ?
己はお前さんを見て云うたり笑ったりしておるのだ。
他を見て笑えというなら、また話は変わろうに。
まあ、良いわ。他見ても愉しは変わらずじゃ。
[悪びれた風もなく、開耶の背にからり笑って見送る]
やれ、難儀だ難儀。
[袖の間から覗くのは痛々しい笑み。
痛むばかりの手で撫でてしまうと墨が汚すだろう。
手は伸ばさず、困ったような笑みを返すだけ]
見たい幻でもあるのか白よ。
誰かの幻でよければ水鏡を映す目に何か映らぬものかの。
己の幻は詰まらぬわ。どうせ見るなら――
[ゆるり首振り]
何を、見たいのだろうな己は。
[泉の内、濡れる茶から雫落つ]
やれ、なれば脱げば良かったわ。
[溜息混じりに袖擦りて。
なれども着のままには擦り難い]
……やれ、面倒だ。
[帯解き淵に投げ。
茶浴衣脱いで緋色擦る]
我は鬼真似なぞしておらぬ。
青司と赤隻眼が蘇芳相手にしておったようだが。
気を使わせちまって御免ヨゥ。
[帯解き] [茶浴衣の緋] [擦り洗う様] [眺め鼻緒揺らし]
童と鬼ごっこたァ聞いたが、ありゃ矢張り蘇芳の姐さんだったンかィ。
幾ら洗えども未だ鬼ごっこは終らぬさァ。
見たい幻――妾が其れを本当に見たいのかはわからぬが
見れないよりは、見える分だけ寂しさがまぎれるかと思うてな。
――否、其れも。
宴と同じく刹那を愉しんでしまえば寂しさが募るばかりか。
[顔そむけるも]
[雫は蘇芳の頬に落ちて]
嗚呼、寂しいのぅ。
関わらなければ毒を受けずに済むものを――
狩る者とて、宴の席の誰かなら
妾がこの手で殺したとしても、妾はまた恋うるのだろう。
[蘇芳を一撫で][また寝かせ]
[すいと立ち上がれば][袖は目元]
水鏡は嘘はつかぬ。
汝れ自身がわからぬことも、綺麗に反映してしまうだろう。
――見る勇気があるならば、一度泉に来るがいい。
[首振る藍に][背を向けたままそう告げて]
[緋色消えるば浴衣も放り。
とぷり沈みて直戻る]
何時追うたは知らぬ故、
其方の知る鬼真似とは異なるやもしれんがな。
やれ、何時になれば終わるのか。
幾度も洗うは面倒よ。
[波紋逃げるる夫婦金魚。
遠くゆぅらり尾が揺れる]
──あゝ。何ゆえに。
[宙に留まりて神域を眺む。]
[もとより外には出られぬが、]
ようやっと心静かに去ねると思うたに……
[墨染めの袖を外したその面は]
[常と同じく冷たく固い。]
[冷えた身のうち温めようと瓢の酒を呷っても、]
[最早朱には染まりはせぬ。]
開那の兄さんが酒量過ごしてお戯れの間じゃないかネェ。
[熱病の如く] [僅か潤む隻眼] [すぃと顔あげ] [遠く見遣り]
嗚呼、アタシの謂うンは違うヨゥ。
どちらも鬼ごっこなれど本気で遊ぶ鬼ごっこは別物さァ。
[コロコロコロリ] [軽やかな嗤い声] [水音に混じる]
刹那のお遊びなンざァ其の内にゃ終るだろうさァ。
開那の兄さんは面倒と難儀ばかりじゃないかィ。
寂しくて泣くのか白よ。
[毀れるものを静かに眺め]
一度関われば毒は身体を蝕むか。
喰っても喰らわれても尽きぬは鬼ごっこかそれとも。
[恋うるものか。口に出さず、立ち上がる白の背を見る]
よかろう。己は見たいものはこの眼で見るが
ひとつ映る真実とやら見るのもよかろうて。
[頷き、ふらりカラコロ、白に背を向け]
幻を見たいと思うならば、
水鏡ではないが己の墨と筆を貸してやろう。
自分の手で描かねば見えぬ幻だがな。
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