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ああ…。
[変わらぬ白水の笑みを見て]
山吹の女童が去んだ……喰われたと。遥月がおれに教えてくれたのだ。
[酔いに潤んだ眸には、憂いの気色。]
――蘇芳か。
それを知ったということは、肉体も付近にあるのじゃな。
[酔いに潤む有塵の憂い]
[さらりと頭を撫でようか]
関わりを持った者が去んでしまうはやはり寂しいのぅ。
―――たとえそれが狩る者であったとしても、同じこと。
[手は離れて]
蘇芳は紛れも無く怪しじゃがな。
[笑みは消さず]
見つけて終わらせれば必要以上には減るまいよ。
[有塵の問いには目を細め]
[暫し思案] [口ひらく]
妾は途中で退席したゆえ、顛末までは知らぬ。
居る間は、蘇芳が居ないを遥月や常葉と訝しんでおった。
――赤鬼青鬼の姿が見えず、帰りを待たず妾は帰った。
途中で青鬼に出会うたが、赤鬼とは少し前に別れたと謂う。
赤鬼は恐らく碧鬼の所へ戻ったであろう。
――それだけじゃ。
[さらり頭撫でられ、一瞬驚くが、]
[白き女の笑みに、仕方無しとやや諦める。]
[が、言葉の意味を受け取りかねて戸惑う。]
肉体……骸は林にあるとそうだが。
よう分からぬが、白水は既に女童の死を知っていたのか。
喰児たちから聞いたのか。
喰児は己が喰ったのが怪と知って何ぞ言っておらなんだか。
[ゆる、とまた桜の木下で目を覚まし。
開耶の香はあれだけ自分を酔わせたか
寝起きでふらつくつむりを押さえ、傍で見守る夜斗へと声かけ]
…夢を見たよ。
髪を撫でた人、目が、とてもとても悲しそう。
僕もお前を撫でる時、そんな目をしていただろうか?
[くぅん、と小さく啼いた夜斗、主人を心配するように]
――蘇芳の魂なら……見かけたゆえ。
[薄い笑みはたたえたものの]
[ついと逸らした視線は林]
――青司の傍に、あったのじゃ。
[視線戻して小首傾げる]
笛の叫びが妾には聴こえた――
あの者は間違いなく笛から出でた九十九神じゃよ。
ヒトはあれほど強い思念を残すことは出来ぬ。
[一拍の間]
妾は魂を見分けし者。泉の水は黄泉の空気。
その水鏡は様々な魂が集まる場所よ。
[白き女の『魂を見分けし者』との言葉に、]
[驚きに打たれた顔。]
[先程よりも一層色を失って、常より蒼白い面が更に蒼褪める。]
今…見分けし者、と言うたか。
おまえは、死者の魂を見分けるのか。
人かあやかしか分かるのか。
[有塵の表情にも笑み崩さず]
[袖を口元から外して][一層笑うだろうか]
――そうじゃな。ヒトかあやしか判る。
死した後しか判らぬゆえに、求める力とは異なるが。
[自嘲的な笑み][袖に隠して]
[有塵の言葉] [細めた緋色]
成る程――喰児もかえ?
あの者は悪食……噛み分けることも可能もしれんが
肉体の味なぞ魂ほどには正直ではない。
[くすり][くすくす] [紅い瞳は弧を描き]
[くん、どこぞと無く香る血の香、
空腹には堪えられず目を細め]
…誰か、食われた…?
そこらの異形とは香りが違う…。
あぁ、寝過ぎてしまったかな…。
[苦笑し、己も腹が減ったのか、なんぞ食らってやろうと立ち上がり。
夜斗も流石に腹が減ったか、目を光らせ]
いいよ、好きにしておいで。
僕はあまり異形は好まぬし、少しでいいからね。
[頭一撫で、声掛けて。風が吹いたかと思いきや、夜斗の姿は既に無く]
そのような……死者を見分けるような、力を持った者が二人も揃うことはあるのだろうか?
有り得ぬとするならば……
喰児とおまえ。
何れが嘘か真か?
さぁのぅ……
妾は妾が真だと言えるが、喰児が嘘とも言い切らぬ。
二人のどちらかが真だと謂うなら、妾は妾を真と申す。
[小首傾げて薄く笑む]
喰児の気性からみるに、
緋の味に狂うておるだけなのやもしれぬ。
[くすくす笑う]
[夜斗が去り、自分は桜の木の上へとふわり跳び、頑丈そうな枝にて腰おろし。ぼんやりと、何を見るでもなくたたずんで]
…
[ふと、小さく自分の口元に触れ。
ここに触れた2人の同じもの。少し、苦く顔をゆがめ]
知らない、こんな物思い…
[ぽつ、と*一人ごち*]
[がくりと項垂れ、ざんばらに乱れ髪顔に垂らす。]
[黒髪の帳に隠され窺い知れぬ面、]
[その奥より低く押し殺した声音。]
おれには見えぬ。聞こえぬ。分からぬ。知らぬ。
おまえと喰児、何方がまことで何方が嘘をついておっても……。
[有塵の様子に目を細め]
[声音は優しく響くだろうか]
妾とて、妾の言うことが真なりと言うことは出来ぬ。
喰児の言が嘘とも言えぬ。妾が他を信じきれぬと同じこと。
死さねばわからぬ。生者は皆妾にとってもわからぬよ。
[押し殺した声][眺めつつ]
[消えた有塵][袖は口元]
[カラリ][コロリ] [下駄を鳴らすか]
[神域の空を翔け上がる。]
[何処へ行くとも宛ては無い。]
[ただ、緋の鬼の顔を見れず、]
[己の樹に戻れば顔を合わせてしまいそうで、]
──あゝ、あゝ。
[ただ墨染めの衣、*黒髪の奥の面を覆う。*]
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