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[常盤色の少女の問いに振り返り、悪戯げにくすりと笑んで]
そうじゃな――
[ふらり][ふらり]
[酔ってもないのに千鳥足]
綺麗だと申すものがおった。醜いと申すものもおった。
ゆえに妾は、今の形も元の形も好いておると言えよう。
[答えにならぬ答えを返し、月を仰いで笑みは妖艶。]
そうじゃな。若し戻れたならば――汝れに其の形で語りかけよう。
きっと、そう遠くはないじゃろう。
[カラリ][コロリ]
[足音は軽やかに]
そろそろ失礼しよう――。
身を清める時間ゆえ。
綺麗も醜いも主観さァ。
其ン時は祀りで逢ったと教えてお呉れヨゥ。
紅い眼あれば聴かずも判るかえ?
[白の少女の後姿] [遠退く下駄の音]
[カリリッ] [苺飴] [食べ終え] [塵捨て]
…覗かれない様に気をつけてネェ。
[人混みへと失せた背中に呟いて]
[コロコロり] [笑い] [カラカラリ] [歩く]
是でこン子達を掬うンかえ?
[白い手] [するする] [追い掛ける]
[紅い尾] [揺ら揺ら] [水槽の金魚]
ほゥら、つかまえたヨゥ。
[パシャリ] [椀へ放り] [パシャリ]
[狭い椀] [泳ぎ回る] [出目金達]
母さん帰らぬとでも謡いながら殺そうかァ。
[冗談か] [本気か] [コロコロ笑い]
[パシャリ] [水槽へ] [逃げる金魚]
[カラコロコロリ下駄が鳴る
社の前から、人ごみ分けて露天へと。
肩には墨絵のウグイス。ホーホケキョ]
なんだ、娘。
せっかく捕まえたのに逃がしてしまうのか。
[金魚の水槽を見下ろして、
真理の後ろからひょいと顔を覗かせる]
[パシャリ] [椀の出目金達] [黒と紅]
[寄って] [離れて] [パシャリ] [擦違う]
沢山居たって窮屈さァ。
夫婦(めおと)くらいが丁度良いヨゥ。
[解けた最中] [二匹の出目金] [差し出し]
[袋で踊る] [夫婦の出目金] [受け取り]
おや、兄さんも呪いが解けぬのかえ?
[覗く男] [見上げる碧] [視線は下り]
[隻腕の男] [揺れる袂] [幾度か瞬いて]
呪いが解けても隻腕かえ?
[小首傾げ] [揺れる常葉色] [花簪]
[薫る白粉] [微かな桜] [問いに悪意無く]
雄か雌もわからぬのに夫婦とは金魚も良い迷惑だ。
かっかっか。
[下がる袋を覗いて、からりと笑う]
はて、呪いが解けぬとな。
己はちょくちょくこの姿ゆえ、
なんぞ難儀な事があってもちいとも気づかなんだ。
[片腕で顎を撫でると、首を捻り。
肩のウグイスを指で払う]
さぁてどうかな。腕も足もあればよいが
それ、呪いかどうかも見せてやろう。よっと――
[人もまばらなタイミングを見計らい、宙返り]
……おやまあ。己も解けぬようだ。
[浴衣の合わせを直せば、ウグイスは再び肩にとまる]
[遊螺り] [立ち上がり] [飛ぶ鶯] [跳ねる男]
[視線へ] [持ち上げ] [紅と黒] [夫婦金魚]
仲良き事は美しきかなってネェ。
仮令雄同士でも雌同士でも夫婦は夫婦さァ。
[墨の鶯] [男の肩へと戻り囀るのに]
[袋の金魚] [寄り添い離れ擦違うか]
兄さんは其の格好がお気に入りかえ?
中々に男前だけど、隻腕は不便そうだネェ。
林檎飴と苺飴を一緒に持てないと困っちまうヨゥ。
[コロコロ笑って] [袋持つ白い手]
[墨の鶯へ伸ばし] [触れてみようか]
[少し屈んで、手が届くように肩を下げる]
夫婦は夫婦か。随分と楽天的な娘なこった。
おっと、手が濡れているなら触れてくれるなよ。
ウグイスが解けて滲んでしまう。
飛べぬ鳥は可哀想だ、かたわの不便は充分承知。
[お気に入りかと問われ、]
村の子供をさらうに丁度良い。
[藍の瞳が弧を描く]
そもそも二ついっぺんに食べはしない。
お前さんは楽天的な上に欲張りか?
腕は仕方あるまいて、そのうち右腕残して指先残して綺麗さっぱり消えうせよう。
本懐、本懐。
[からからからり、笑う男]
先の事なんざァ判りっこ無いさァ。
アタシァ、刹那に遊ぶ者。
[ぴたり] [止まる手] [金魚掬いで] [濡れていて]
[屈む男] [寄る鶯] [変わりに寄せる] [薔薇色の唇]
解けちまったら鳴いて呉れないだろうからネェ。
もっと聴かせてお呉れヨゥ。
[藍の双眸] [描く弧に]
[薔薇色の唇] [ニィと笑む]
舌の上で蕩けて喉の奥へ滑り落ちる魂は絶品だネェ。
もっと呉れるって謂うの遠慮したンだ、欲張って無いヨゥ。
この手に持てる以上なんて何時だって邪魔なだけさァ。
消え失せる時は其の子は置いて逝って呉れると嬉しいネェ。
[からからからり] [男が笑う]
[ころころころり] [重なる声]
[真理が肩に顔を寄せると
ふわり、目鼻の先に漂う白粉の香り。
肩にとまるウグイスは小首を傾げて女の唇をつつく]
その通り。飴などよりも余程甘かろう。
なんだ気前の良いのはどこの店主だ。後で己もたかりに行こう。
其の手でその気になれば指の間に4本づつ、8本ばかりはもてるだろう。
食べる端から溶けてしまえば面白い絵が見れる。
[ころころころりと笑う声
失せるときはウグイスを残せと言う]
暫くその予定は無い上に、それらも半日ほどで消えうせよう。
なぁウグイスや。
[ホーホケキョ。今しか知らぬ鳥は囀りを返す
男は赤い唇をニイとあげる女の顔を覗いて]
刹那に遊ぶ者は、呪いが解けぬ今をどのように遊ぶ?
紅のぞろ目が出たけど、そんなに食べ切れやしないヨゥ。
其れに林檎飴は花の飾りと交換して貰っちまったのさァ。
[顔引き] [突かれた唇] [ぺろり] [舐める紅い舌]
[ホゥ] [ホケキョ] [囀る鶯] [見詰める碧は柔らか]
なんだい、予定も無いのかえ?
残る其の子と如何遊ぼうかまで考えたのに残念だネェ。
消えちまうンじゃ詮無いかァ。
[問い掛けに藍へ移る碧] [長い睫毛] [瞬き]
[小首を傾げ男を眺め] [思いつき] [ニィと笑む]
兄さんを林檎飴屋へ連れて行こうかネェ。
食べ損ねた林檎飴を太っ腹な兄さんにたかるとするヨゥ。
[男の隻腕] [そうっと腕を絡め] [しな垂れて]
[人混みを分け][向かう先] [林檎飴屋の狒狒]
安心おしヨゥ、今度はアタシじゃなくてこっちの兄さんさァ。
花の飾り?
あぁ、食って消えるものより良いではないか。
良い交換だ。半日で消えてしまわないと尚良いが。
[簪に咲く花をしげしげと眺め、女の様子に呆れた顔]
貰えるかどうかも判らぬのに気の早い娘だ。
消えてしまえばまた描けば良い。
……矢張りお前さんは気が早い。
こら、あまり腕を引くとウグイスが逃げる。
[腕を取られ人ごみをかきわけ歩く。
林檎飴の屋台に着くと女の顔に渋る店主の顔色]
店主、ひとつ貰おう。…賽の目を振れば良いのだな。
[賽を手に取り、真理を見遣る]
よし、勝てばお前にくれてやろう。
呉れた兄さんに訊かないと何時まで在るかも判らないネェ。
でも似合うって謂って呉れたから好いのさァ。
[蛍火灯る花飾り] [俯き加減に白い手伸ばし]
[序に解れた常盤色掻き揚げ] [鼈甲の簪直す]
急がないと次の瞬間には消えちまうかも知れないだろゥ?
兄さんがまた鶯を描いたってェ、其ン子は其ン子。
アタシは今しか判らないし、代わりは無いのさァ。
[コロコロコロリ] [犀の目覗き] [瞬いて]
[コロコロコロリ] [笑う声は] [軽やかに]
嗚呼、嗚呼、負けちまったのかえ?
兄さんの分が無いじゃないかィ。
[カリリッ] [男の手から] [林檎飴齧り]
[上目遣いの碧] [僅か弧に笑ませ] [唇ぺろり]
ご馳走さン、気の毒だから一口で我慢しとくヨゥ。
狐様の結界だ、可笑しな事はそうそうなかろう。
人の命でもあるまいし、別段すぐすぐ消えうせるものもありはせぬ。
まあ良い、今が良いお前さんなら花がいつ消えるかも如何でも良いのだろうな。
[賽の目を見てころころ笑う女の声に首を傾げる]
負けは負けだが、己の分はここにきちんと在………
[手にした林檎飴に齧りつく女。ぼうとしたままため息ひとつ]
刹那を楽しむ者は遠慮を知らぬか。
大きな一口で無くて何より何より。
[一口分欠けた林檎飴を齧りカラリコロリと女の傍を離れて行く]
あぁ、賽の目遊びは中々愉しかった。
気が向けばまた振ろう。
[振り返り、林檎飴を咥えひらりと手を振れば
そのうち姿は人ごみにまぎれて*見えなくなる*]
さァて、如何かネェ?
[何への答えか] [短く呟き] [小首傾げ]
[紅落ちて尚] [薔薇色の唇] [ニィと笑み]
遠慮なんて詰まらないもンとうの昔に忘れちまったヨゥ。
気に入ったンなら何よりさァ。
次は勝って太っ腹な処でも見せてお呉れヨゥ。
またネェ、兄さん。
[ひらひらひらり] [白い手] [振り返し]
[はらはらはらり] [白の袂] [揺れるか]
さァさ、次は何して遊ぶかネェ。
[呟いて] [カラコロカラリ] [下駄の音響かせ]
[向かう先は] [宵の祭りか] [*佳い祀りか*]
[遊螺り] [揺ら揺ら] [袋の中]
[夫婦金魚] [寄り添い] [離れ]
狭いネェ。
ほゥら、広い処へお往きヨゥ。
[ポチャリ] [ポチャ] [ポチャリ]
[泉に零す] [紅と黒] [出目金達]
[パチャリ] [パチャ] [パチャリ]
[冷たい水] [素足で] [蹴り上げ]
嗚呼、良い、好いネェ。
[梢に伸ばす] [白い手] [掴む衣引き]
[淡絞り] [白浴衣羽織り] [帯締めて]
綺麗な花飾りも何時か消えちまうのかネェ。
[濡れ髪] [深い常盤色] [掻きあげる]
[纏め上げ] [鼈甲の花簪] [蛍火灯り]
[薬指] [貝から掬う] [紅を差し]
[泉に映り込む面] [出目金の尾]
[描く波紋に揺れ] [泡沫に歪む]
オイタが過ぎると寂しいってェ殺しちまうヨゥ?
[パシャリ] [叩く湖面] [また揺れ]
[ポチャリ] [白い手] [零れる水滴]
[ヒュウイ] [風を切る] [透明な糸]
[糸引き] [跳ぶ先は] [桜の梢の上]
遊び過ぎても直ぐ飽きちまうさァ。
少ゥし休もうかネェ。
[幹に身を寄せ] [長い睫毛下ろし]
[春風に身を任せ] [*束の間転寝*]
[パシャリ][広がる波紋]
[群青から淡い薄紫に上から下へと染め上げられた着物]
[白い白い素肌]
[通した袖に隠れて]
――まだ解けぬか。
祭は未だ当分終わりそうにはないのぅ。
なんら不可思議なこともないか。
[カラリ][コロリ]
[見上げた梢][静かに眠る常盤色]
こんなところで寝ておっては、
誰ぞとって食われるやもしれぬぞえ?
[笑みは妖艶][首傾げ]
[綺羅綺羅光る水面][朱い瞳に反射して]
[ふらりふらり][桜の下を歩き出す]
[カラコロ] [カラコロ]
[下駄を鳴らし、水辺へやってきた。
桜の木の下にちらつく常磐色。梢と見比べ]
は、無防備な…。
彼奴らに生き埋めにされようとも知らんぞ。
[つい、と興味をうしなったように行く先を*変えた*]
[ごろり 社の軒下]
[転寝から目覚めると、
ウグイスの代わりに藍の浴衣の胸元に残るは少量の煤]
……ほぅほけきょ。
[ひと鳴き真似て、指で煤を掬い息を吹きかける]
[さらさらさらと風に散る煤]
桜はまだ咲かぬか。
[春風に藍の髪がなびく]
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