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嗚呼、成る程。
[紅の視線をゆるりと流し、山吹の娘を見やる。]
そちらのお嬢さんは、初めてお目に掛かりますねぇ……
わたくしは遥月と申します。どうやら貴女様も妖しの方……以後、よろしくお願い申し上げます。
[白い指先で口許を隠し、くすりと笑った。]
しかし狩人が紛れ込んでいるとは、これで益々信憑性を帯びて参りましたねぇ。これほど多くの妖しが、こちらに導かれるとは……。
[そして、常盤に一礼。]
嗚呼、お先にどうぞ。
じきにわたくしも戴きましょうか。
[万次郎から差し出された、大小二つの甘い香りを放つ赤い玉。
──山吹、腹がすいたろう?──
──半分こならもらいます。盛遠さまもお腹がおすきでしょう?──
遠い日に聞いた声が脳裏に────
われに返り]
……あ、あぁ。ありがとう。こっちをもらうよ。
[小さいほうの赤い玉を万次郎の手から受け取った]
[常葉の女の瓢箪に、呆れ顔もすぐ直る]
ああ、ひとつ貰おうか。
[杯ひとつ懐から取り出し、万次の姿にゆるりと向く]
わっぱは未だ寝こけておるわ。
仕方の無いわっぱよ、己は今夜この姿で酒盛りかのう?
[ぺちぺちぺちり、膝で寝こける司棋の額叩く]
[甘やかな匂い誘われて、
緋色が僅かに身じろいだ。
金に映った白闇桜、
さくら、さくら、霞か雲か]
……へぇ
[にいと笑って花びら掬い]
有塵かぁ。
相変わらず見事だ。
あの春を思い出すなぁ……
あいつぁ笑ったのかねぇ。
[緋に降り積もる櫻色、
払いもせずに坐したまま]
[真理の声に仰ぎ見て]
昨夜の宴で、其方が言っていたろう。飴屋を覗く覗かないとな。
飴屋に顔を出してみたのよ…それがこの様だ。
運試しはやはりちんちろりんに限る………。
其方もどうだ。
林檎と苺、どちらが残るかはさて。蘇芳の好み次第。
[つやつやと光る赤。闇夜に映えて]
[独特の下駄の音] [万次郎にニィと笑み]
今宵も集まってきたネェ。
昨日は散々だっただろうけど今宵も兄さん一献如何かえ?
[はら] [はら] [ひらり] [青鬼] [見下ろす]
[呆れる藍] [潤む碧] [映り込む] [薄紅の花弁]
林檎飴の一つも貢いで慰めて呉れりゃ好いのにつれないネェ。
あン子等は雄も雌も判らぬさァ。
証無くとも寄り添い泳げば夫婦だヨゥ。
[赤鬼の声] [すぃと潤む碧向け] [紅に散る薄紅]
おや、お目覚めかえ?
誰が笑った話だろうネェ。
さァさ、今宵こそは酌をしようかィ。
[常盤が青司に向けた言葉を思い出し、紅色の視線を光らせる。]
嗚呼、そうそう。常盤様。
其れなら泣いてご覧なさいな。
青司様ならずとも、皆様がきっと貴女様の色に惑いましょうぞ……
[くつくつ笑う。]
涙は女人の武器故に。
……舐めてふくめば、甘い露と成りましょう。
おう、赤鬼、起きたか。
なかなか風流な姿だのう?
[ゆるり笑って、赤の言葉に桜を見上げる]
お前さんも有塵のように桜に想いでもあるのか。
[花びらはらりと肩から落ちて
追い見た先には小さな影が]
見たことねぇ嬢ちゃんがいるなあ。
どうしたぃ、迷子かあ?
[からかう様に言葉投げ、
頬杖付けば櫻が舞った]
[真理を見上げ、肩を竦め]
…今宵は控えよう。昨夜は醜態を晒した故な。
それに。我には成さなければならないことも有る。
[てもとの林檎飴。
てらてら。つやつや。赤は妖しく色を含む]
ふむ。常磐の君、蘇芳は苺を選んだぞ?
酒の共になるものかわからぬが、林檎飴はどうだ。
要らぬのなら、泉の金魚にでもくれてやろう。
[棒をふらと揺らし、揺らし。
相手が受け取る意思を示せば何らかの形で*渡すのだろう*]
そうかィ、遥月の兄さんは置いて先に始めさせて貰うヨゥ。
[差し出される青鬼の盃] [膝着き] [伸ばす白い手]
[とぷり] [とくとく] [酒満たし] [藍覗き] [ニィと笑む]
酒の一つで呆れも顔も納まるたァ易いもンだネェ。
[万次郎の声] [肩越しに振り返り] [小鬼との遣り取り眺め]
アタシに残ったは林檎飴かえ?
貢いで呉れるンなら有難く頂くヨゥ。
[遥月へ] [すぃと移る碧] [潤む侭]
[コロリ] [コロコロ] [笑う声] [軽く]
アタシの涙は甘露かえ?
ついぞ泣いてないから味なんて忘れちまったヨゥ。
色に惑わせるなァ、遥月の兄さんに任せるさァ。
武器に成るなら使い方くらい覚えないとかネェ。
飴ひとつで泣き止むなら楽なこった。
飴呉れるの覚えて泣くようになったらそれも困るがの。
寄り添い泳げば夫婦か。よく云うわ。
[杯くるりと手の中で弄り、月の言葉に]
月も余計な事など教えんで良い。
泣くのは子供じゃ。色も何もあるものか。
舐めたところで塩辛いだけだろうて。
[不機嫌そうな顔を向ける]
[迷子かと赫い髪の男に問われ、
もはや子ども扱いはここでは当たり前なのかと諦観の念を抱きつつ]
……まぁ、似たようなものだろうなぁ。
[とだけ答える。]
[視界に揺れる常盤色、
頬杖のままで顔を向け]
おはようさん、ってのも妙な時間だがなぁ。
ああ、櫻が笑った話さあ。
おう、酌かい、歓迎するぜぇ。
昨日の分も呑んでやるか。
[謂って片膝立て座り]
いい肴もあることだしなぁ。
[見上げてみれば墨桜]
いいええ。常盤様。
男の身なるこのわたくしに、涙を甘露に変える妖術は使えませぬ故。わたくしの色は、出来損いの紅で御座います。
涙の妖術を使わぬとは勿体ない。貴女様の甘露はさぞや美味しゅう御座いましょう……
[くつくつ]
[青鬼笑い、問い掛ける。
櫻は尚も鮮やかだ]
なあに、
有塵に初めて問われた日を思い出しただけさあ。
変わらず面白ぇヤツでなあ。
[くつくつ低く笑いつつ]
万次郎、
為さねばならんこととは仕返しかい?
ほぅら、昨日のお礼参りだ。
[ふざけた調子で手を振って]
なンだィ、今日は呑まぬかィ。
成さぬ事は判らぬがまた酒も呑もうネェ。
[ひらひら] [ひらり] [舞う薄紅]
[揺ら揺ら] [遊螺り] [紅い林檎飴]
[白の手] [伸べて] [受け取って]
[綻ぶ薔薇色] [寄せ] [潤む碧] [弧を描く]
有難う、兄さん。
お陰様で今日は両方食べれたヨゥ。
[青鬼眺め] [小首を傾げ] [長い睫毛] [瞬くか]
謂われてみりゃそンな手もあるネェ。
寄り添うだけで夫婦に成れるは出目金だからさァ。
遥月の兄さんには好い事を聴いたヨゥ。
けれど涙に色乗せりゃ茄子の兄さんに喰われちまうかネェ。
[万次郎にもらった苺飴を銜えたまま、
月の君と呼ばれた青年と常盤色の娘とのやり取りをぼんやりと眺めている。]
──涙が女の武器、か──
──効かないことも多いようだな。──
[と一人ごちる。それ以上その点については*考えたくはない。*]
ふふふっ…ふふふふ……
[紅の視線は青司へと。]
常盤様の色は日に々々鮮やかになっておりますよ。いけませんねぇ……それを見て見ぬ様になどとは。咲く華を愛でる心の余裕はお持ち下さいませね、青司様……
[目を閉じ、思念に耽る。]
嗚呼、添い遂げれば夫婦とは限りませぬが……添い遂げねば畏ろしい闇に襲われますのも、また夫婦。
好いではありませぬか。
むすぼれたる想いを遂げた夜を、ひとり寝の涙で濡らさぬだけでも。
あい、おはようさん。
[並ぶ] [青鬼] [赤鬼] [前に膝ついた侭]
[白い手伸べて] [紅に乗る薄紅] [そぅと払い]
嗚呼、有塵の兄さんが笑ったンかィ。
そうかィ、そンならお呑みヨゥ。
[とぷり] [瓢箪揺らし] [白い喉] [逸らし]
[仰ぐ桜] [ひらひら] [はらり] [潤む碧] [眇め]
遥月の兄さんが出来損ないかィ。
アタシァ紅にも及ばないヨゥ。
泣くより、遊んで笑って居たいのさァ。
何れ泣く時があれば、其ン時ァ誰か惑わせられるかネェ。
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