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[昨夜は宴で猫を酔わせてみた。
今宵はどうするか――
酒宴の持ち寄り調達ついでに社から離れ歩いている。
まばらな店。まばらな人影]
居合い抜きの見世物はもうさすがに居らぬか。
早速疑われておったろうな……ヒトの身分で気の毒なことよ。
[遠く金月、きらりと番傘蜘蛛之糸]
やれ、もう斯様な刻限か。
酒宴こそ好まぬ。
酒も騒がしも面倒も揃うておる。
なれど昨夜は我が騒がせたか。
酒のひとつやふたつを持ってから行くとしよう。
[振り仰ぎ]
[白雪の如、降り積もる花。]
[墨染めの衣にも、地にも。]
おれは然様な言葉遊びは得手では無いが……。
そうさな、花の夢は存外と「とわ」ではないのかな…。
[瓢箪並べる店先を覗く]
『昨夜の兄さんじゃあねえですか。今宵は何をお求めで―――』
酒を……―――
『そうそう、昨夜は言いそびれたがね。木天蓼酒。どうだい。
こりゃ、人もたまらぬ好い気分になるッてェ代物でさあ』
…オニは、どうなのだ?
『―――ハァ、鬼?まさか兄さん、鬼だというんじゃぁ…』
冗談だ冗談。其のくらい察せよ、店主。其れを貰おう。
[凍り付きかけた空気を笑みで溶かして、銭をちゃらり]
空は戻らぬ、だっけネェ。
刹那より空かえ?
[蘇る記憶] [問い掛けか] [呟きか]
開那の兄さんは騒がせたと謂うが、アタシァ昨日のも気に入ったさァ。
好いもン見せて呉れて有難うネェ。
とまれ、律儀な兄さんの事、酒が来るの楽しみにしてるさァ。
またネェ。
[ひらひらり] [白の手振って] [踵を返し] [しゃなしゃなり]
[蜘蛛の巣映す] [番傘くるうり] [下駄を鳴らして] [*林に紛れ*]
おれは眠る。
出来うれば酒を置いていてくれ。目醒むれば呑む程に。
[そう言い置いて、眸閉じる。]
[はらり、散り、]
[ほろり、咲く、]
[*桜の花の樹の下で。*]
…やれ、何処が鶏ぞ。
鶏と言うならばそれも纏めて忘れやれ。
[琥珀は伏せられ、また溜息]
[去り往く番傘、蜘蛛糸廻り。
仰ぐ空は黒か濃紺か]
[つぃと逸れて常盤が往く道を背に。
煉瓦零して歩き往く]
[瓢箪提げて、ふらり。
覚え込んだ道を、考え事半分歩く]
酒宴の最中に少しでも尻尾を出してくれれば、視ようもあるがな。
さて、どうしたものか。
[昨夜から下駄はどこかへいってしまった。
特に執着はなかった。むしろ動き易いと思うほど
だが、傍目にはヒトとして妙ではある
ぺたりぺたり…*社へ向かう*]
刹那の中に永久はあるかもしれんのう。
けれど留まるは、また寂しきよ。
とわと読むには己ならば花眠ると書く。
[さくら舞う、落ちる、黒の男の髪に降り咲く花びら。
眠る男が聞こうが聞くまいが]
己は花の夢と書いてふゆと読む。
春には起きよ、花綻ばせよ。覚める花はけだかきと書こう。
咲けば散り往けど一夜の酒くらいは其処に在ろうて。
[渡された瓢箪そのまま傍に置き。ふらりカラコロその場を去る]
[歩み進めば衣と肌と張り付く煉瓦は割れて落つ。
跡まで消えぬが動けぬでもなし。
妖寄ろうが気にもせず]
[からころ鳴るは人の下駄。
境の中にて人の下駄鳴らすは人の姿のみ]
…やれ、青司か。
[ゆぅるり振り返る貌に髪、あかい煉瓦と共に在り。
歪み紅は唇染めるるままか]
[カラコロ、煉瓦の跡辿り。
視線落としていれば声掛けられて顔上げる]
その顔、月にでも描かれでもしたかのう。
[呆れた顔でカラコロ近づき]
お前さんも着物汚したままの口か。
やれやれ赤を浴びるなら替えの一つでも剥いでおけばよかろうに。
[からころからころ]
[近付く藍は僅か記憶を呼び覚ます]
いやこれは…常盤にされたか。
[一度なぞった白の指。
描かれたというには語弊もあろうが]
やれ、其処まで考えもせなんだ。
動けぬでもなし、このままで良い。
[良く見れば、髪まで乾く煉瓦にまみれているか]
あぁ、月ではなくて常葉の女か。
どちらにせよ遊ばれておるのう。
[半目のままくつり笑んで
わしわしばさばさ
開耶の髪を撫でくりまわし、煉瓦落とす]
これでは風流もなかろうて。
替えが要るなら己の着てた黒の浴衣
枝に掛けたままじゃろうし、それでも着るか?
[カラリ][コロリ] [下駄の音]
[点々と在る煉瓦道][緩く首を傾げるも]
随分とまた、派手じゃのう。
[遠くに見えた影二つ] [煉瓦色に目を細め]
[カラコロゆっくり近づいて]
そんな形(なり)でどこへ行く?
[くすり][微笑み首かしげ]
[カラコロ下駄音、見れば白の姿]
ぽろぽろと道にそれが毀れてるゆえ、
辿ってみたら…うむ、ここは何処じゃろう。
何処へ行くかは開耶に聞くと良い。
[肩竦め返す]
[伸ばす手を止める間もあらば。
髪に差さされて掻き乱され]
[ばらばらばらと崩れ落つ]
やれ…放っておけと。
[ふるり振るいて手を逃れ、煉瓦色の右手で掻き上げる]
…何と勘違いしておるか知らぬが、これも妖の血ぞ。
[舌先紅くれなゐなぞり。
その程度で落ちはせず]
やれ、気になると言うなれば借りようか。
どちらも構いはせぬが。
[からりころり、下駄ふたつ目]
やれ…それ程に気になるか。
昨夜の赤隻眼の方が酷かろうに。
[ぱんと肩口叩けども、沁みた血の色落ちはせぬ]
酒でも買いに行こうかと。
昨夜騒がせた侘び代わりにな。
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