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[遥月の呟きを聞きとめて]
…契り?結ばれる?…情とは…本当にどういった…ことを…?
[わからない、といった眼を向けながらも]
先日の、水の礼だけでも…
[紅のさされた唇へ自分のそれを寄せ。
数回、ふれさせ離す]
柔らかくて…甘くて…心地よくて…
こういうのは、好きですよ。
[ふわ、と触れ、小さく笑い]
『は、づ、き、さ、ん……』
[司棋が触れた場所へと、涙がはらりと零れ落ちる。]
『ああ……あなたは、どこへ……いったんですか……?ぼくをおいて、いかないでください……ああ……』
[涙を零した遥月から絞り出された声は、平時の彼とは異なる――どこか落ち着いた、清廉な声。]
……有塵のやつ、寝言かい。
やれやれいつもじゃ見せねぇ顔しやがって。
吹き飛ばされたアヤカシどもが見たら
どんな顔するかねえ。
さぞ怪訝な顔をするだろうなあ。
[眠る有塵、掛けるものは生憎無くて
花びら掬い黒へと掛ける。
はらりはらはら羽毛のように]
[喰らうと告げる薔薇色唇]
おいおい、相棒喰らっちまうのかい。
俺が骨を拾うことになるかねえ。
そんなら次は俺が喰うかあ。
[さて本気か否か思案顔]
鬼は多い方が愉しいぜえ。
三つ巴で皆が鬼とかなあ。
[くつくつ笑って常盤の傍の
地面に手をつき間近で見つめ]
変わらねぇならそれがいい。
もっと佳い女になってくれんなら
願ったり叶ったりだぜえ。
[にいと笑って片手を伸ばし
大きな掌髪を撫ぜ]
[遥月の涙に触れて、酔いもさめかけ。
髪を手で梳き、抱きしめたい衝動にかられ。
柔らかく頭を胸元へ寄せ、髪へ口付けを]
泣かれますか?それとも…離しましょうか?
そろそろ…また…
[瞼が重力に逆らえなくなりつつ。
ゆるく、遥月の頭を胸に抱いたまますや、と*寝息が*]
[咲かぬ桜の怨みの叫びも]
[夢幻のうちにありては届かず]
[白き花]
[はらり、散り、]
[ほろり、咲きつつ]
[神域を覆うさくらいろの花霞の*夢に揺蕩う。*]
[目を見開き、月を見上げる。]
『ああ……どうしてぼくはここに……?とおい、とおいばしょにいて……。「はづきさん」、僕はあなたにただ愛されたかった……。なのに、あなたはここにいない……どうして……?
ああ、これが……僕に架せられた罪なのですね……』
[司棋が己の身体を抱き締め、髪を撫でる。触れる唇、あたたかな身体。その感触に驚き、司棋へと視線を下ろす。]
『ああ、あなたは、だれ……?』
[溢れる涙を拭うことなく、ただその場で呆然としている。]
さァて、有塵の兄さんは如何したんだかネェ。
でも見様に依っちゃ嬉しそうかえ?
喰うか喰われるか、本気の鬼ごっこだヨゥ。
どっちが先でも好いが茄子の兄さん喰うンも喰児喰うンもアタシさァ。
茄子の兄さんは水を差されるは好まんと謂ったが、さて三つ巴なら何としようかネェ。
[間近迫る顔] [金色見詰め] [ニィと笑み]
[撫でられるに] [緩く首捻り] [懐く様に]
褒めて呉れりゃ佳い女にも成ろうさァ。
嬉しいかねえ、
待ち人が来た夢を見てるのかもなぁ。
[櫻はなおもひらひら舞った]
本気はいい、燃えるねぇ。
どっちも喰おうたぁ大きく出たなぁ。
水を差したら相棒は溶けるからじゃねえかい?
さぁて、どっちが先か相棒と賽でも振るかねぇ。
[細める瞳、鋭い光。]
そんなら幾らでも褒めるぜえ。
俺ぁ本当のことしか謂わねぇからなあ。
[薔薇色唇ギリギリに
近づき甘噛みをする真似をする]
腐っちまうなぁ勿体無いからねぇ。
[味わえと言われた通りにちろちろと、小さく出した舌で一心に舐めていた盃を持つ手が震える。
甘い痺れは舌のみならず、十分過ぎる程頭へ働きかけ、とうとう耐えきれず残りを一気に口の中へ。
――そして空となった、なってしまった、盃]
ああ……!
[暫くぼうっとそれを眺めていたメイの目に、じわりと涙すら滲んできた。
小さな玉が目尻に溢れるまま、悲痛な声で嘆く]
嘘じゃ。嘘じゃ、これで最後などと…
万次郎よ、そなたが意地悪を言っておるだけじゃ。
…本当は、まだあろう?
そこに隠し持っているのであろう…?
[懐を見せよと襟に掴みかかった指先からは、爪が伸ばされるどころか力も入らない。
酒はまさしく、見事に猫を潰してしまう寸前のよう]
[激情のみがそれを阻み、がくがくその大柄な体を揺さぶろうとする手が万次郎の襟元を乱れさす]
そうしてわらわの居らぬときに、そっと取り出しおぬしが独り占めで愉しもうと…
でなくば、ただ三つの盃のうちに“面白いもの”が消えてしまうことがあろうか…ああ、口惜しや…!
…覚えておろうな。
酔うたら、喰らうのはわらわの方かもしれぬと言ったこと……怒らせてもそれは同じぞ!
[涙に濡れた目尻をきゅっと上げて、掴んだ襟の胸元に寄せた口から歯を覗かせる]
あの甘い痺れを再び、舌に感ぜられるならば…
おぬしの血を通してでも、わらわはいっかな構わぬのじゃから…!
[血を噴き出させて啜るための鋭い歯が、脅すように万次郎の首に付けられ――…しかし強く上下の歯が噛合わさるより早く、くたり身から力が抜ける。
またたびは狂おしく飽くない渇きを、そして酒が深い眠りをメイに*もたらしたようだ*]
[涙は止まることなく溢れ出す。目尻の紅はすっかり流れ落ち、涼やかな青年の眼が覗く。]
『は、づ、き』………
[大きな渦に飲み込まれぬよう司棋の身体を抱き締めて、ひとつの名をうわ言のように繰り返す。司棋の髪に目をやると、頭の中で抑えられて居た筈の記憶が蘇るようで、ほどなくして「遥月」は酷い頭痛と眩暈に襲われる。]
[やがて「遥月」は、司棋の身体を抱き締めたまま、途切れるように眠りについた。理性的で、清廉な男の表情を浮かべて――*]
佳い夢見てるンなら何よりさァ。
[青鬼の置き土産] [瓢箪煽り]
茄子の兄さんと死合いした喰児となら鬼ごっこも楽しそうさァ。
ただ茄子の兄さんの頭ァ無いとアタシァちィと困るからネェ。
アタシもだけど赤鬼青鬼も未だ未だ本気が足りないヨゥ。
[金色宿す鋭き光] [見据える隻眼の碧] [奥に蠱惑の光宿し]
褒めて呉れるなァ、嬉しいネェ。
[噛み付く振り] [白の指] [そぅと赤鬼の唇に置き]
誰にでも触れる易いもンで触られると腐れちまうからネェ。
そうだなぁ。
[朧月夜の真ん中でアヤカシどもの宴は続く。
戯言遊びか本気の言か]
墨塗れかも知れねぇなあ。
相棒は墨絵で来るだろうからねえ。
そんじゃぁ頭残しゃぁいいのかい?
[本気が足らないそう謂われ]
ははあ、もうちぃと血眼にならねえと駄目かあ。
まだ血が要るかねえ。
[蠱惑のいろは心地よい。
赤鬼の髪がざわりと揺れる。
ふっと置かれた白い指、あてられたまま笑いの形]
腐れはこっちの不手際かい?
安く見られたもんだなぁ。そんなら清めてもらおうか。
青鬼ァ頭まで墨に戻っちまったりしてネェ。
頭ァ残りゃ茄子色の頭抱いて咲き乱れようかィ。
[コロコロコロリ] [軽やかな笑い声] [戯言か] [本気か]
血も足りなけりゃ心も足りぬ、刹那に遊ぶにゃ本気じゃなけりゃ詰まらないヨゥ。
[指先に伝わる] [口許動く感触] [すぃと笑みなぞり]
清めは白水の姐さん辺りに頼んど呉れヨゥ。
戯言一つ吐けぬ程に身も心もアタシで埋め尽くされたら触れると好いさァ。
其ン時がアタシが喰われて喰らう時だヨゥ。
それぁまるで墨櫻だなぁ。
[墨がゆらゆら相棒の姿をふと想像し]
あぁ、こいつぁ悪かったなあ。
遊びも刹那も本気じゃねぇとなあ。
[目の前唇弧を描き]
白水に泉を借りて
血の匂いも洗うかぁ。
息も出来ねぇくらいに囚われちまえってか。
碧相手ならそれもいいさぁ。
[常盤の髪をひとつ梳きすいと体を離して胡座をかいて]
酒が足りないなぁ。
[緋色が額に落ちかかる。
*いつか夢に沈むだろうか*]
血の香りは好きさァ。
でも他の奴の匂いのする奴に触れられるなァ御免だヨゥ。
赤鬼ァ女郎蜘蛛の腹の中におさまるかえ?
[触れた指先] [そぅと薔薇色の唇に寄せ] [小首傾げ]
[大きな手] [撫ぜられ] [揺れる] [常盤色] [雛罌粟の花簪]
林檎飴が喰えなくなった今ァ喰児は甘露な魂貢いでお呉れかえ?
[青鬼から碧鬼] [碧鬼から赤鬼] [瓢箪胸にやり]
[遊螺り] [立ち上がり] [番傘] [くるうり] [舞う薄紅]
そろそろ咲き時かネェ。
[呟き] [しゃなりしゃなしゃな] [紅い番傘差して]
[カラリカラコロ] [下駄の音響かせ] [*何処ぞで暫し休息か*]
[東の空がほんのりと白み、ふと目を開くと幾人かの間で横になっていたのに気付く]
昨日のような修羅場は、妖しの者の仲間内ではありふれたことなのかな…
まぁ、ヒトにしたって、酷い事をやらかしはするけど…。
……あたしに半分でもいい、今のようなことができたなら
山吹も盛遠も、もっと永く生きていられたんだよなぁ、きっと。
はて、何かをしないといけないのはわかっているし、
できる力もあるのだけど、……誰のために?
[自分のそばで寝息をたてている者、姿の見えぬ者の顔を見たり思い浮べたりしつつ
はて、困ったなぁなどと言っているようだ。]
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