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――轟…
[迫る鬼火を番傘で往なすと燃え上がる]
[ぱぁん、勢い良く傘たたみ火を消して]
[飛び退いて夜斗からも離れ距離を取る]
嗚呼、恐い、怖い、強いネェ。
[狐は夜斗の本体が司棋と睨み地を蹴り翔る]
[此方に向けてまた狐火を飛礫の如く放つか]
[髪に手をかけひゅうい振り抜く手は簪放ち]
其ンじゃ夜斗、噛み殺すかィ。
満足に喰えず腹も減ってるだろうしさァ。
嗚呼……綺麗な色。
[月明りに照らされて、紅い珠は強い光を放つ。]
まるで……命の光。
白水様の、たましいの色かしら……?
[大切に懐にしまうと、遥月は桜の元で寄り添う色をじぃと見つめた。]
……白水様、青司様……
あなた方は、しあわせですか……?
いいえ……。
せめて冥府の淵で、しあわせであらんことを……
[踵を返して、何処へと向かった。]
[狐火避けて、ふわりと戻り。このままでは拉致もあかぬし手も出せぬ。ならば一計]
…翠の御方、あの柱と柱の間に、蜘蛛糸を一つ、よろしいですか?頑丈に、逃げられぬ巣を作っていただきたく。
[一つ、真理に耳打ちし、ひらり夜斗に飛び乗ると、そのまま風のように走り去り]
[遥月はひとり、林を彷徨う。
蘇芳が食い殺された場所――
メイがヒトに討たれた場所――
開耶が佇んでいる場所――
万次郎を犯し、殺した場所――
伝え聞いた場所を訪れ、さながら巡礼者の様に歩く。]
[そして――泉のほとりに辿り着いた。]
―――断!
[狐の後ろ足を貫いた簪は床に狐を縫い止めるか]
[たたんだ番傘開き狐火を防ぐも蜘蛛の巣焼き切れ]
[燃え上がるのに番傘の柄を狐に切っ先向け投げる]
こンだけ燃えてりゃ火も通ってるだろうさァ。
[コロコロコロリ軽やかな笑い声響き]
[動き止る狐の腹に番傘が刺さり燃え落ち]
[鼈甲の簪も直ぐに溶け狐の動きは戻るか]
[床に縫いとめられた狐をみやり、今が瞬間と、夜斗に命じる]
夜斗!
[夜斗の口より小さな火の竜巻起こし、すさまじい勢いで狐へ飛ばす。竜巻巻き込まれた狐の断末魔、身が切れたように血が飛び散る]
相手は燃えてるンだし糸なンざァ持って数秒だヨゥ。
[呟きつ白の手は舞う様に優雅に動き]
[柱から柱に渡す糸は次第に形を成す]
[狐は司棋睨み意識は其方に向いたか]
さァて、夜斗は飯にありつけるかネェ。
[流れ零れる狐火を身を捻りかわす]
[常葉揺れ一歩踏み締めニィと笑む]
[狐、司棋に向かって鋭き爪を振るう]
[紅い泉を目の前にして、遥月は呟いた。]
………白水様。
お願いが御座います。
このような毒を持ち合わせておいて酷く無責任な話では御座いますが……。
生憎わたくし、己の毒を解除する術を知りませぬ。それ故、この泉を元に戻す方法が分からず……困って居りまして。
いつぞや白水様は、ご自分の司る水の力で、わたくしの身体に巣くう毒を溶かすとおっしゃって居りましたねぇ……。
ならばせめて、わたくしの毒を…この泉から消し去り……
願わくば……
わたくしの身体を、浄化しては戴けませぬか……?
[蜘蛛の巣をみやり、にやりと笑い]
大丈夫です、後はお任せを。
[その狐、内臓半分さらけ出し、それでもなお夜斗くらわんと、醜い形相で飛び掛る。]
狐は大人しく、食われておけよ?
[手負いの狐、動きも遅く、風の速さで夜斗が食いついた。ごりっと喉笛噛み砕き、なお息ある狐、放り投げ]
[傷つき夜斗に喰らわれる狐を見詰め]
ほゥら、お往きヨゥ。
[白い面から剥がれるひらりと黒き蝶]
[ひらり]
[ひら]
[ひら]
[ひらり]
[血飛沫上げる狐の傷口へと張り付き]
[直ぐに狐はくたりと身じろがなくなるか]
[闇を宿す漆黒の隻眼は金色の眼残り]
……なぁんて。
少々むしの良過ぎるお話でしょうねぇ……
[クスクスと微笑み、懐にしまっていた紅い珠を取り出し、再び月明りに翳した。]
……けれど……
たとえわたくしが司棋と共に在ることが出来ようとも、この因果な身体では何かと不便でしてねぇ……。願わくば、お手伝い戴けると有り難いのですが。
[遠くで、何かが燃える音がする。
主が食われ、裂かれる声――妖しなら誰しもが聞こえるそれを、遥月も耳にしていた。]
嗚呼……そうか……。
今は、結界が不安定で……
司棋……常盤様……
呉れ呉れも、ご無事で……
[主が裂かれる声が――止んだ。]
…………………っ!!!
[手にしていた紅い珠から光が走り、あっという間に周囲の景色を飲み込んでゆく。]
白水様の力が……
結界によって封じられていた力が……ッ!
やぶ……られ……る………
[次の瞬間、遥月の身体は、真っ白な光に包まれ…]
あああああああッ!!
結界が………壊れる………!!
[逃げる術無く、取り込まれて行った――]
動きませんから…死んだのでしょうか…。
お疲れ様…です。
[ぼんやりと、翠色の髪眺め]
牡丹、焦げてしまいましたね…
[残念そうに、牡丹へ手をやり]
[もう燃えてない狐は紅く血に染まり]
[碧と金の眼は静かに其れを見詰めて]
[ひとつ息を吐きすぃと視線を移すか]
やれ、髪飾りが燃えちまったネェ。
[結界の解ける気配に長い睫毛は瞬き]
[両手で髑髏胸に抱きぐるり周囲を見]
[牡丹へ手を伸ばす司棋へ視線移して]
御免ヨゥ、大事にするって謂ったばかりだたのにさァ。
[眩く白い光の中、遥月は引き裂かれんばかりの痛みに襲われている。]
ぐっ………あああああああ!!
[地獄の炎に焼かれるよりも苦しいのか――遥月の皮膚は、ジリジリと音を立てて焼き尽くされてゆく。]
うっ………ぐ………ああっ……
[光の向こうに、遥月はある影を見る――]
司……棋………
嗚呼……
せめて、貴方に………!
[唇が動く。しかし、其の続きが紡がれることは無く……]
[ヒラリハラリ、虚空に舞うは一羽の蝶。黒と紫を纏う蝶は、社に向かって飛んでゆく――]
いえ…ご無事なら、何よりです。
結界…消えてる…?それじゃ…
遥月…!?
[咄嗟に口にした去った人の名、彼のいうこと正しければ、今頃呪いが解けている筈]
嗚呼、アタシァそう簡単にやられないさァ。
漸く結界も消えたネェ。
[司棋の口から紡がれる名に瞬き]
遥月の兄さんならきっと来るさァ。
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