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判らぬわ。他の心なぞ何一つ判らぬわ。
己が莫迦にしていると思うのならお前さんがそう思うだけ。
己はひとつも莫迦になぞしておらぬ。
[それきり月に背を向けて、
カラコロ歩く白の後をついて往く]
見たいものは眼で見ると云うておろう。
何が映るか、さてはて、同じものが映るかどうかひとつ眺める。
いいえ喰児様………
わたくしは醜い男で御座います……
[くるりと背を向け、万次郎に呟く。]
……万次郎様、有り難うございます。
さすればわたくし、司棋様に……事を確認し、事の如何によっては……討ちとう御座います。
……それでは。
[踵を返し、宴の席を後にする。]
落ち着け、遥月…。
主様の前に出れば、誰しも塵芥のようなもの。
男も女も、老いも若きも、意味など無いに等しいのだ。
我も古き刀より出し身なれど……――…。
人の姿にありては男の身なれど。
主様を前にすれば、此の身など無。
さて、無でさえあるかどうか。
無と云う名さえ与えられるかどうかよ。
――嘆くのは其方だけなどと思わぬことだ……ッ…――。
[対照的に低く地を這う声音にて、遥月へ]
よう、碧。
有塵は寝ちまったようだなあ。
[酒を乾しつつ笑って見せて]
そう卑下するもんじゃぁ無いぜえ、遥月。
醜いたぁ随分だ。
綺麗なのによ。
お前の身の上は知らねぇが
俺ぁ嘘は謂わねぇぜえ。
[続く言葉に頬杖ついて]
ああ、行って来なあ。
好きにするが良いさ。
……有り難うございます、万次郎様。
[それだけ残し、遥月は林を歩く。遠くに見えるは……]
司棋様………
[――と、血のにおい。]
[月の姿を見送って尚、沸き上った想いは収まらず。
手酌で盃を満たしては干し、満たしては干し。
赤の隻眼、問う声に首肯する]
………そうよ。
其方の云う『わっぱ』が狩るモノであった。
喰らいにゆくか?…童を喰らったように。
[ふと盃に満ちた酒のおもてへ視線を落とす]
………司棋様。
お会いしとう御座いました。
[遥月の唇が震える。紅の視線は、司棋を捕らえる。月明かりで血まみれになったことがはっきりと分かる――]
[カラリ][コロリ] [下駄二つ]
[泉のほとりへ近づけば][まだ少しだけ血の香り]
――すまんな。
妾が派手に暴れたものじゃから、ところどころ水溜りじゃ。
転ぶでないぞ?
[くすり][くすくす] [笑って言った]
嗚呼、お休みみたいだネェ。
司棋の兄さんが狩る者だってェ騒ぎかえ?
[碧と漆黒] [弧を描く] [漆黒を包む黒き蝶] [翅揺する]
寝た子が起きたヨゥ。
[万次郎の声] [視線すぃと] [赤の少年へ]
兄さんは司棋の兄さん狩るンかえ?
鬼ごっこの始まりかネェ。
[遥月の震える声
自分の体を見やれば
メイの返り血で染まった浴衣]
何か用事でも?
[唇が乾く。他の人妖ならいざ知らず。
よりにもよって彼と会うとは]
[遥月のまわりを漂いながら、自分の生前は見ることのなかった彼の怒りを見て一人ごちる。]
……そうだなぁ、想う相手と契れないというのは、
……きっと切なくて悲しいんだろうなぁ。
喰らうさ、喰らうとも。
己が、揺れたとて何一つ変わらぬ。
巡り巡る鬼ごっこは散るまで続くものよ。
[万次に言い残しカラコロリ、
泉に着けば血溜まり踏まぬように、ひょいと飛び跨ぐ]
やれやれ、本当に派手にやったようだ。
白でも虫の居所悪い日もあるのか。
転べば災難よのう、まったく。
[――誰かを殺したのですか?
――司棋様が狩人とは真ですか?
様々な想いが交錯する中、遥月は唇を動かす。]
……宴には、行かなかったのですか?
何か……ご用事でも?
[問いかけるは万次郎、
にいと笑って遥月が 去った方角ちらり見た]
先客が居るからなあ。
昨日なぁ相棒だったからちょっかいかけに行ったがね。
今日は大人しくしとくさあ。
相棒との約束もあるしねえ。
今から行こうかと。
先程まで、少し捜し物をしておりましたゆえ。
[遥月の尋常でない物言いに、嘘を混ぜ]
白水様から頂いた水の球、なくしてしまっておりましたから捜していたのですが。
[青鬼見送り一言投げ遣る]
青鬼も喰らうか。
やれ、三匹で取り合いにならぬよう一筆したためるか…。
[常葉の姿見れば、すぃと眼を細め]
何ぞ狩ってきた?
雑鬼にしては、血の香が濃いな。数を狩ってもそうはなるまい。
酒の香も薄れる程よな。
[ゆらゆら 蝶のハネと碧とどちらを見ればよいのか]
先に手を出したのは彼奴らじゃ――
しかしどうにも足場が悪いのぅ……妾が手でもひいてやろうか。
[差し出した手][薄い笑み]
[青司が出せば手をとって出さぬもほとりで手をつなぐ]
汝れの視る幻が如何なるものかはわからんゆえ――
転んで溶けでもせんように、此処でこうしてみててやる。
[数珠のある手で其の傷ついた手を掴み]
[右手はちゃぷり――泉につけて]
覚悟はいいかえ?
[煌く緋色は真っ直ぐに藍を見つめる]
………では、その血は。
[風に煽られ、前髪が遥月の片目を隠す。紅の視線でじっと見据えて、司棋を捕らえて放さぬように――]
水珠ごときで、そのような血は浴びますまい……
何処へ狩りにでも往かれましたか……?
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