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[触れる袖][困惑を浮かべたまま]
もう猫ではないのだぞ。
鳴きも歩きもせぬ煤を持ち歩いて愉しいか?
[さらり墨の後を指先はなぞり]
そういえば……
[目の前の青鬼にも、万次郎と名乗った男にも、わっぱだの童だの言われたことを思い出し]
あたしのこのなりは、子供に見えてしまうのかな?
……山吹はまもなく嫁ぐはずだったのだが。
[と、誰にともなく問うてみた]
[からりと笑っていた先ほどとは変わり
相変わらず困ったような表情のまま、
子鬼につられるようにちょいと頭を下げる]
本当にもなにも、お前さんも百鬼だろうて。
ここにおる人のなりした百鬼共より、
まだあちらの露店通りの方が百鬼夜行のようよ。
[元の姿に戻っている物の怪を指してそう云うと
子鬼からの問い]
嫁ぐもなにもわっぱはわっぱよ。
己から見れば立派なわっぱじゃ。百歩譲って小娘かのう。
[なぞられ袂] [微か揺れ] [青鬼映す碧]
嗚呼、楽しいヨゥ。
鳴かず歩かず傍にゃ只の煤だがアタシにとっちゃ黒の仔猫さァ。
茄子の兄さんは煤に還さぬがご不満かえ?
[小首傾げ] [潤む双眸] [僅か弧を描く]
[小鬼の問い] [薔薇色の唇] [ニィと笑み]
茄子の兄さんの謂う百鬼夜行はあっちだが、妖から見りゃこっちの方が百鬼夜行かも知れないネェ。
笛の姐さんは可愛い可愛い童に見えるヨゥ。
[笛の音を常盤色の娘に褒めて貰って、改めて彼女に先刻より深く頭をたれる。
お前も妖しの者だろうという宵闇色の青鬼の突込みには、]
それもそうか。
[破顔する。あたりを見回すが、自分好みの飲み物はあいにく見当たらない。]
いや、好きにしろ。
今しか無いと云うたお前が、
居ない猫を持ち歩くのが不思議だっただけよ。
お前さんにとってまだ猫なら構わぬ。
[小首を傾げる常葉の双眸。
眉根寄せ、訝しげに]
なんだ、お前さんも煤抱えて泣きでもするのか?
[袖から手を離し、ふいと子鬼の方を向く]
それもそうだが、碧鬼の云うのも一理ありか。
しかしさてはて、
百鬼夜行に見えるかそれとも供物の行列に見えるのか
聞いてみなければわからぬが。
供物、ね。
そういえば青鬼さん?お前さん混じり物がどうとか言ってたようだったけれど、
それってどういう?
[先刻から頭の隅で気にかかっていたことを口に出した]
ふむ、狐様には逢うてないのか。
なぁに、この人の成りから戻れぬものの中に
狩人が混ざっているという話よ。
見つけて主様への供物にせよと、申されておった。
刹那に遊ぶから是が猫なのさァ。
[指摘受け尚] [碧は潤み] [ニィと笑む]
舞い散る桜に煤の猫に泣けば好いンかえ?
謡いつ夫婦金魚を殺しても寂しさ募るだけだろうさァ。
アタシァ楽しいのが好いンだヨゥ。
[小鬼の問い] [答える青鬼]
やれ、御狐様も随分と不精だネェ。
話くらい全員にして往きゃ好いのにさァ。
……狩人が、ね。それで供物の行列ってわけか。
という事は、狩人もあたしらと同じ気配をまとえるという事になるの、かな?
人の気配は感じられないし。
[ふむ、としばし考え込む風情]
――くつくつくつ………
[懐に、草紙を忍ばせくつくつと。]
ああ、面白し面白し……
人の慾とは面白し……
[結城紬をキリリと着込み、目尻と唇には紅を。しゃなりしゃなりと男は歩く。]
そうかいそうかい。
お前さんがそう言うなら
お前さんにとってはそうなんだろうな。
逆だ、泣くのは止せという話だ。
夫婦金魚…ああ。いつぞやのあれか。
あれらはまだ元気か?
[常葉の女に困ったような笑みを返してから
子鬼へと頷く]
左様。あまりぼうっとしていると供えるつもりが
供えられてしまうかもしれんなぁ。
そのようだな。人にしては上手く化けたものよ。
よほど鼻が利くか、気配でも見分ける術を持ったものなら或いは。
ふふっ……皆様お揃いで。
相も変わらず、酒宴でございましょうか……?
[目を細め、じぃと皆の顔を見つめる。]
……では、なさそうですねぇ。
[鼻が利く云々という青鬼の謂いに、夜斗のことを思い出し]
夜斗はここで何か食べられたかな?
[と、他愛もないことを考えていたが、
別の誰かの気配が近づいて来たのに気づいた。]
ふうん、また一人、かぁ。
[ちょいと現れた男に向けて会釈する。]
月も桜に誘われたか。
生憎宴はまだだ、酒の仕入れもしとらんわ。
[さらり顎をひと撫で]
小娘が狐様のお告げを知らぬと申すから話しておった。
アタシが泣くと茄子の兄さんは困るンかえ?
其ンなら泣いてみようかネェ。
[冗談か] [本気か] [潤む碧] [揺れ]
[コロコロコロリ] [笑う声は軽やかに]
仲良く元気に白水の姐さんの泉に居を構えてるさァ。
[現れる気配] [つぃと移る碧] [矢張り濡れて]
[遊螺り] [瓢箪掲げ] [一口煽り] [ニィと笑み]
一人で先に始めてるけどネェ。
遥月の兄さんも呑むかえ?
[カランコロ 狩らんコロ]
[相変わらずの下駄の音。響かせて社へ向かい。視界に入った白い霞が櫻だと気付く迄にしばし]
…櫻闇か。やらかしたな。
[手には林檎飴に苺飴。不似合いな甘い香りをさせて]
[賑わう者等へ近づき]
青鬼に、常磐の君に…月の君。蘇芳まで集っておるのか。
司棋は未だ眠りから覚めぬとな…?
蘇芳。其方は林檎と苺とどちらが好みだ?
どちらでも好きな方を取るとよい。
要らぬのなら……丁度常磐の君も居ることだ、あちらへ回す。
[緋色の少女に、甘い香りを放つ赤を差し出し
どちらでもと首を捻った]
[ぴしゃり][ぱしゃり]
[輪から外れて一人で遊ぶ]
泉がわらわの家なのか
わらわが泉の家なのか――
[水面に揺れる白い花]
薄墨は透明な泉によく映えるのぅ。
[くすり笑み]
[泉に映り込む月はゆらゆら揺れて]
花見酒か、月見酒か――
薄墨桜は雪とみなさば薄紅咲けば雪月花となるのかの。
[ぴしゃり][ぱしゃり] [戯れて]
ああ、困るな困る。
泣く子は不得手だ、放っておくぞ。
[ころころ笑う常盤の女。
返す藍は呆れ顔]
そうか泉にのう。なら良い。
子が増えればめでたく夫婦の証となるだろうて。
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