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[メイの言葉は聴いて居るのや居らぬのやら。]
[首にぶら下げた、猫も気にせず軽がろと]
[太く張った枝に手を突くと身を任せ]
…わ!
[有塵が風に乗って梢まで飛んでいってしまえば]
これは驚いた…おぬし、そんなことまで。
[...は見直したように目を丸くしているから、有塵の呟いた言葉は聞こえなかったのかもしれない]
わらわとてその気になればそれくらいの高さ、すぐ登れるがな…
[木にはさきほど登ったから、今は地に足をつけているので十分だと呟く。
太く張った枝の上で身を任せる有塵もまた、何事か呟いている]
何か、言ったか?
春の夢を見よう。のう。
[酔うているのか別の何かを見ているのか]
[夢見る目付きで神域を眺むれば]
[風伴わぬ桜吹雪を身に纏い]
[押し拡げ][薄墨桜を包み込んで]
[ひらり、ひらり。]
[ひらり、ひらり。]
[……はらり。]
[未だ硬く蕾んだ白が綻びはじめ]
[見る見るうちに膨らんで]
[ほろり]
[山桜の古木が]
[霞んだ白に覆われていく。]
……はは、は。
[歪みの無い、澄んだ笑い浮かべる。]
[それは常とは違う、儚い、散り際の桜のような笑みではあったけれど]
[それは、傍らの猫の預かり知らぬこと。]
ああ…
[有塵が纏った桜吹雪が薄墨桜を包み込むと、まだ硬く蕾んでいたはずの白は、目の前で綻んだ。
――眠らずとも見る夢のよう。
幻すらこうも、胸に痛みを与えるほどに美しくあれるだろうか。
傍の有塵の浮かべた笑みが、霞んだ白に覆われた古木を包む空気にも負けぬほど清浄に見えた。
ただ今にも失われてしまいそうな笑みにも見えて、メイは声をあげ笑い返すことはせず、胸を押さえ感動を噛み締めた]
[しっかりと連れられた木の枝に足をつけて、有塵に話し掛け、また見上げているつもりでいるはずのメイの目も、とろとろと閉じかけ始めるが]
いや…わるくない。
せっかくの、おぬしが見せてくれた景色じゃ。
…もう少しだけ、ここから見ていてやろう。
[言葉通り枝に腰掛けると、それでもずいぶんと長くその景色を眺め続けた。
時間が過ぎるとメイもとうとう木の枝の上、器用にも身体を落とす事なく寝息をたて始める。
きっと幸せな夢を*見ている*]
[ふわり][ぴしゃり]
[声も届かぬ水底で][目を閉じ暫しの休息を]
永らく人とは話しておらんが、
"お仲間"とこうして毎日約束もせずに会うのも久々じゃ。
――嗚呼、あの中には恐らく鬼狩りも潜んでおろうか。
[くすり][笑う][水底で]
人でなくとも毒じゃのぅ。
難儀や難儀。
[呟く声は水の中にも関わらずはっきりと]
[するりと水面に顔を出せば、減った人影眠る人影]
どこからか桜の花か。昨夜の男かのう。
さぁてわっぱはまだ目覚めぬか。
仕方の無いわっぱじゃ。
[司棋の頭をぺちりぺちりと叩いてから担いでふらり。
ぽてりと転がる雀を摘んで懐に。
社の縁側からカラコロ…コロリ
ねこける赤鬼の姿に苦笑し、はらりはらはら桜散る]
――ほぅ 咲いたかこれは。
[古木の傍、見上げて感嘆ひとつ男と娘の影に気づく]
おーい、有塵と申したか。
[見上げ、声は届くか]
さくらぁー咲いたのうー。
[綻ぶ花にあどけない顔を浮かべ]
良い桜じゃぁー。
[返事はなくとも満足げな笑みを浮かべて暫く桜に魅入る]
──ひと目見し
君もや来ると桜花
今日は待ちみて散らば散らなむ。
[そうして夢見る眼差しで長いこと森を見ていたが]
[ふと、傍らのメイが随分と静かになったと思い、振り返ると、]
ああ。仔猫は眠ったか。
[正しく仔猫の態にて枝の上に眠る娘を見て、]
[花の様に顔を綻ばせた。]
[瞳に映る白い花][僅か見惚れて瞬かせ]
[カラリ][コロリ] [鳴らす下駄]
漸く咲いたか。
ならば今宵の宴は花見となろうか。
[桜の方へと歩み寄り、いくつかの影に笑む]
[青鬼見つけた傍らの]
[司棋の寝顔に首を傾げて視線は藍に戻そうか]
春眠暁を覚えぬのは、汝れだけではないようじゃ。
[すぐ傍に見える赤鬼と][元気に話していた猫と]
[下方より掛けられた声。]
[それが定かには名前を憶えておらぬ藍の男のそれと気付いて]
[根方を見ると、やはりその姿。]
[果たして下から見えるかどうかは分からねど]
[誇らしやかな、清しい笑みを返す。]
そのようじゃのう。
[司棋担ぎ直して、白の姿に薄く笑む]
春が来たならそれも仕方なし。
お前さんも桜見ながら暁を忘れに来たか?
[桜の根元に司棋下ろし、はらり桜の花びら肩に落ちる]
[はらひらり。
手を翳し仰ぎ見る桜の合間
ねこける娘の姿と桜の男の笑みの良さ]
かっかっか。
お前さんでもそのような顔をするのか。
良きかな良きかな。桜は良い顔を呼ぶわ。
今宵の酒は一段とうまかろうてなぁ。
[有塵の笑みに目を細め]
汝れのその笑みが今日の収穫かのぅ。
[青司に薄い笑みをむければ]
妾も今起きたようなものじゃ。
[正確には眠っていたわけではないが――]
泉に入る前は咲いておらなんだ桜が
出てみれば咲いておった。それだけのこと。
[しかしどこか優しい表情で桜を見上げて]
そうかそうか。
一夜眠る間に桜が咲くとは、御伽の話のようだのう。
泉に浮かぶ桜の花もまたよかろうて。
己も一度は眺めてみたいものだ。
[はらひらり、白に舞う桜]
黒い蝶より似合ておるわ。
[顎撫でさらり、懐から雀も顔を覗かせる]
[くすり][笑って]
――確かに、御伽話のようじゃな。
咲く瞬間に立ち会えなかったことを残念にも思うたが
そう言われればこの状況も悪くなかろう。
[はらり]
[花びら]
[風に舞い]
似合うておるか――……礼を言おう。
[覗く雀に視線を合わせ]
今度は雀を描いたか。汝れの力は面白い。
咲く時か。
一度に芽吹く様はなかなか見れぬからの。
まあ良いな。花咲けばそれで良い。咲かぬ桜はただの木じゃ
[ふわり舞う花、白か桜か目を細め
懐の雀を手に乗せる]
かっかっか。
礼なぞ良いわ。思うた事を口にしただけよ。
己はこればかりだ。
昨夜は白の芸は見損ねたのう。
今宵あたりはお目にかかれるか。
[はらり花びら、手のひらの子。
羽をゆすり囀れども飛べそうにもない]
此れは丸く描きすぎて飛べぬ子よ。
かわいそうな事をしてしもうたわ。
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