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[遥月の傍でぼんやり佇み、掌にひらりひとひら、淡い花弁]
…我花葬る(ほうる)を痴(こけ)と笑え
いつの日か我を葬るはそも誰ぞ…
[白牡丹が小さく揺れた。]
[熱が身体を駆け巡る、余韻の甘さがまだ残る。
眠る常葉の髪を梳き]
―――?
[未だ墨が滲む腕、違和感をおぼえつと見れば
溶けるが如く墨薄れ
清廉な水の気配がし
そしてそのまま消えていく。]
……そうか。
そりゃあ、よかった。
[く、と低く笑み零し此処には居ない誰かに答え]
ああ、笑うさあ。
[瞳を閉じた真理の頬、そっと撫でては口付けた。]
[頬に落とされる] [微か温かな感触] [長い睫毛震え]
[幾度か瞬き] [身を起こして] [浴衣の前を合わせ直し]
嗚呼、眠っちまってたかィ。
待たせたネェ。
[赤鬼の表情覗き] [小首傾げ]
なンぞ、好い事でもおありかえ?
いいやあ。
綺麗ぇな寝顔見せてもらったから
待ち時間はチャラさあ。
[何か好い事あったのか。
尋ねる真理にくくっと笑い]
なあに。
ひとり、本懐遂げたらしいさあ。
[墨の滲んでいた腕も今は洗い流されたよう]
[遠くで感じた墨の香りと水の清さ、とくんと胸元震えるは]
水の球…?泣いてるの…?
[取り出した水の球、あれだけ澄んでいたものが
今は光も塞がれて。
青くも黒くもなった水、不思議と濁るようには見えぬのは
きっと2人が出会えたからか]
[目を細めてそれを見る]
さよなら…。
どうか…お2人がまた、出会えますように…。
[水の球にそっと頬を触れさすと、ころりと紅い泉へ転がして。球は直に見えなくなるも、視線はずっと球を追い]
――男は罪を犯した。
――人殺しの大罪。
――独りでは出来ぬと思い立ち、
――殺しを生業とする男と共に、
――無実の者を巻き込んで……
――彼は、本懐を遂げた。
――彼に残るは、罪の意識。
――或る時彼は思い立ち、
――其の胸に蝶の姿を刻む。
――紫と黒の蝶は
――生まれ落ちれど、自由に飛べず……
――彼は蝶に何を見たのか。
――其れは………
寝顔なンざァ観られたなァ初めてだヨゥ。
褒めて貰えたから好いけどネェ。
[笑う赤鬼] [誰ぞ本懐遂げたと謂う]
そうかィ。
そいつァ何よりさァ。
[立ち上がろうと] [身を起こしかけ] [一拍] [赤鬼見詰め]
[そぅと白い手は頬をなぞり] [逆の頬に薔薇色の唇寄せる]
こっちも本懐遂げるかネェ。
[遊螺り] [立ち上がり] [帯締め直し]
[番傘拾い] [くるうり] [まわして広げ]
[抜く簪] [常盤落ち] [白牡丹髪に留まり]
[肩に揺蕩う常葉] [白の手] [鼈甲の簪] [逆手に持って]
さァ、遊んでお呉れかえ?
他のなンにも考えず本気も本気の鬼ごっこさァ。
[春の風] [舞う常盤] [薫る白粉と]
[小首傾げ] [桜の色香] [ニィと笑む]
[――ポチャリ。
光を失った水の珠は、紅い泉に落ちていった。]
……白水様。
[小さな声で、其の泉の主の名を呼んだ。]
[そして、
遥月は傍らに居る司棋の肩にそっと手を回し、己の方へと抱き寄せる――]
初めてかあ、そりゃあいい。
[くつくつ笑いで帯を締め、
着流し整え向き直る]
ああ、何よりさあ。
櫻も、咲いて散るんだろうなあ。
[さてそれは誰のこと。
唇触れる感触に眼を細めて髪を撫で]
そうだなあ。
遂げるとしようかぁ。
[番傘まわす常葉はしゃなり。
赤鬼倣って立ち上がる。
向かい合った緋色と常葉。]
鬼さん此方。
[ぴくり、遠くで翠色の気配を感じ、眉を僅かに顰めるも]
…翠の…
終わりも、近いのでしょうか…
[そっと抱き寄せられて、顔を見上げ]
遥月…様、どう…したの?
手の鳴るほうへ、ってなあ。
[構える緋色、唇歪め]
遊ぼうさあ、
愉しもうじゃねえか。
何にも考えられなくなるくらいになあ。
[ゆらりと紅く、揺れるは気配。]
……翠の?
[林がざわめく。
何の気配だろうか――…]
貴方様の、お仲間で御座いますか?
さすれば其れは……常盤様……
[続く言葉を遮るように、司棋の小さな問いが遥月の耳に入った。]
……いいえ、何でも御座いませぬ。
ただ……
ひとつだけ、問うても良いですか?
嗚呼、もう散り際さァ。
[ひらり] [はらり] [舞う花弁] [温かな手の感触]
手の鳴る方へかィ。
[コロコロ笑いつ] [と、と、と] [向き合った侭] [下がり]
[間合いを取って] [赤鬼見詰め] [紅く揺れる気配] [双眸眇め]
嗚呼、漸く…―――
[濡れた碧] [甘い闇漂わす漆黒] [浮かぶ笑み] [恍惚]
―――鬼ごっこが出来るネェ。
以前異形に貰い受けた真理の名ァ喰児に呉れてやったが、アタシにゃ真紅って謂うもうひとつの名があるのさァ。
人間としての其ン名も喰児にあげるヨゥ。
真理も真紅も喰児に呉れて、名も無く只のアタシとして喰児と本気の鬼ごっこと洒落込もうじゃないかィ。
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