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[「鬼に食われよう」
この言葉、聞いた途端に目を見開き、また細め]
…鬼…食われ…る…(くすくす)
今度は…貴方が…僕を食いますか…?
遥月様のように…食うおつもり…?
なら、あの猫のように…焼き殺してやろうか…
皆、食い殺してやろうか…
[痴れ者のように、突然けらけらと笑い声を上げながら
青司の手を振り払い]
夜斗…夜斗…、僕を…殺す人がそこで待ってる…
食っていいよ、あの猫みたいに
せつなに咲くからいいのかもしれないぜえ。
[見上げて問うのは墨櫻、
口の端上げて見返した]
相棒と約束があるんでねぇ。
そろそろ時間なのさあ。
[男の様子]
[嗚呼、また一人狩られるかと緋色を歪め]
[聴こえた名前に目を見開く]
――司棋が、殺したのか。メイを。
汝れは確か、司棋を狩る者だと言うておったな。
人狩りが人をかることはあるまいよ。
メイはまごうことなき猫の化身だったのじゃろう――。
[気休めにしからならないかもしれない]
[進み行く男を止めることは出来ないだろう]
――……今宵は邪魔せぬ。
仇討ちなり何なり、為したいことを為せ。
[寂しい緋色][冷たい緋色]
[哀しい緋色][決意の緋色]
なれど妾は――今宵を逃せば狩る者を、狩る。
嗚呼……
このままヒトを……司棋様を食らい、ヒトを滅して主に捧げたとしても、其の世界は天国というのでしょうか……
[紅を懐にしまい、眉をしかめる。]
……いいえ。
わたくしは「神様」とやらに撃たれ、いずれ地獄へ墜ちるは必然……
討たずは地獄、討てど地獄。
……同じ「地獄」に往くならば、せめて貴方に御伴しましょう……
[常盤の女の問い、]
……ああ。前に青司がおれに訊いたのよ。
「花の夢は何と読む」と。おれは「とわ」と答えた。
[その時の藍の男の表情を思い出し。]
開耶の答えとは真逆だが……おれは開耶を本当に知らなかった、と。
[実直な印象はどこへやら。
冥府の遣いのように全身に黒の靄を纏い
双刀は愉しげにうたうばかり]
…ヒトを喰らう悦び、忘れておったわ。
司棋…いや。わっぱよ、只のわっぱ……。
彼奴にも仔猫と同じ苦しみ、確と味合わせてやろうぞ。
[聞き取れない程の低い声でぼそぼそと呟き]
…あにじゃ?あにじゃ……。
お陰で我はヒトを喰らう悦びを覚えたのだぞ。
感謝…する。
[くつくつくつ...くつくつ..くつくつくつ...
低い嗤いは止まらない。
すらりと双刀を抜き放ち、其の輝きも主に鳴動しぎらぎらと]
遥月? 何を云うておる。
……猫を喰らうたか。
己はまだお前を喰らう気はありはせぬ。
約束あるゆえ、焼き殺すと云うならば容赦はせぬが。
[振り払われる手、気狂いのような笑い声。
ひとつ頬をぱちりと打ってそれっきり
カラリコロリ藍は司棋の隣を通り過ぎる]
わっぱよ。迷子のままでは何れ食われる。
しっかり生きよ。
約束?何を約束したのだ。ここでは出来ぬことなのか。
……女君まで行くのか。おれ一人置いていく気か?
[不審な顔を作りて立ち上がる。]
嗚呼、往くさァ。
[しゃなしゃなり] [誘われる侭] [傍らへ]
[番傘たたみ] [赤鬼の腕] [そぅと腕を絡め]
いっとう好い席で見物と洒落込もうかィ。
[寄り添い] [微か薫る白粉] [赤鬼見上げ] [ニィと笑む]
[薫る白粉、眼を細め]
存分に見て行くといいさあ。
[有塵が不審げ問いかける。
肩越し彼を振り返り]
宴席を血塗れにするわけにゃぁいかねぇだろお?
有塵も来るかあ?
手出しは無用だがなあ。
[くつくつ笑いでそう謂って]
花の夢が永久か刹那かネェ。
永久と刹那ァ裏表、ひとつなンかも知れないヨゥ。
開那の兄さんどころかアタシァ誰の事も判らないけどさァ。
[赤鬼にひとつ] [頷き] [有塵に振り返り]
おや、有塵の兄さんもおいでかえ?
[通り過ぎざま、ふわりと青司へ口付けて]
…さようなら…ありがとう、優しい…人。
[聞こえるか聞こえないかの小さな声でポツリ呟き
そのままふらりと泉へと着き。満ちる空気ににやりと笑い]
…万次郎様、おられましょうか?
[腕絡め歩く緋の鬼、常盤の女、]
[固く蒼い面に刷かれた朱は、酔いのものでは有りはせず、]
[射干玉の黒き眸のその底に、めらと燃ゆるは。]
喰児……女君。
血塗れとは……よもやおまえは。
青司と闘うつもりなのかッ。
死合い……だと?
[ぎり、と歯を食い縛り、振り返りし面睨んで。]
何故、何故。なにゆえに、
[と問うて見たものの、答えは既に己にも分かりている事。]
[詰めた息を吐いて、遣る方無く視線を地に落とす。]
……どうしてもか。それがおまえの望みか。
[左の袖は顔を多い]
[右手は胸元の蝶を探る]
寂しいのぅ――
今宵もまた、誰かが逝くようじゃ。
[失ってはならないものを失った哀しい男か]
[奪ってはならないものを奪った狩る者か――]
青司は今――どこかのぅ。
[寂しそうな瞳は月を見上げて]
――無性に会いとうなってきた。
何故か判らぬは難儀や難儀。
[万次郎を追うことなく、泉に佇み*緋色は揺れる*]
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