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ここまで登れば良いだろう。
[有塵は別の木にせよ、もっと上の梢に登れていると知りもせず。
よく登ったものだと、にんまり口の端を持ち上げる]
おぉおぉ、これほど高いがゆえに、よく見えること…
[見えるのは二人の様子ばかりにあらず]
白水は泉。常磐のひめは露天の辺り?
血しぶく香りのここまで届きそうな…
ほんに働き者であることじゃ。
あれでは昼寝の暇のあろうか?
[先まで眠っていたのにまたも欠伸の生まれ小さく一つ、枝にしがみ付いたまま伸びをする]
[ゆらゆらゆれる影法師、
ひい ふう みい よう いつ む なな や]
ここのたり。
[月が落とす影青く、倒れる陰を一瞥し]
一辺倒で面白くねぇなあ。
もうちょい愉しく踊ってくれやあ。
[自分を見ているようで見ていない、そんな目で見つめられるのに耐え切れずにとうとう涙が数滴、頬を伝い]
違います、僕は「遥月」では…
「遥月」は貴方、僕は司棋。
僕も貴方が好きですよ。
でも、貴方が好きだといっているのは僕じゃない。
お目を、お覚まし下さい
[蒼い目に、見る者の神経を麻痺させるように僅かに蒼い目を光らせて。直に解けるほど、弱い術]
[ひらり] [軽やかに降り立つ仔猫] [得意満面の笑顔]
[隻眼の碧] [僅か弧に笑ませ] [くるうり] [紅い番傘回し]
態々降りて来て呉れて有難うネェ。
今回は巧く着地出来たじゃないかィ。
其ンくらい、悪趣味だなンて謂やしないヨゥ。
なンぞ、面白いもンでも見えたかえ?
『え…?「はづき」さん…
「司棋」とは、どな…た………』
[身体中に、緩やかな痺れが走る。男はどさりと膝をつき、地に生える草を掴んでしばし悶える。]
『あ……』あ………っ!
[痺れが弱まり、男はゆっくりと顔を上げた。]
………司棋様………?
[紅の視線は、茫然とした様子で司棋を見上げた。]
[カラリコロリ。行く先斃れる百鬼共。
ぶらぶらり、手の中瓢箪ひとつ揺れ。
先を見れば赤鬼の姿、藍の目愉しげに細まった]
応、相棒。まだまだ血が足りぬか?
それとも常葉の女に捧げるためかのう。かっかっか。
ふふふ、そうとも。
これが本来のわらわじゃぞ。
あれほど高くより飛び降りようとも…
[顎持ち上げて、大木見上げ]
尻餅つくでなく、受け止められるのみにも非ず、ひらりと着地。
万次郎にも見せたかった。
[何ぞ面白いものをと問われれば]
3つほどな。
紅の穢れを泉にて落とす白水、番傘紅に染め踊るように屠る常磐のひめ、眼閉じるまでは働き者よと見ておった。
そして傑作がな、遥月に苛めらるる司棋の奴めよ。
今もきっと社にて…
[社を指差すが、木から下りた己の高さではもはや目は届かず]
おや、見えなくなったが…今もきっとな。
遥月…さ…
よかった…戻った…
[普段に戻る遥月に安心し、かくりと膝を付き。
緊張感が解けたのか、一瞬意識を飛ばし。
夜斗は倒れて頭を打たぬよう、主人の体を支え立ち]
よう、相棒。
[いつものように挨拶し
にいと笑みを浮かべては]
喧嘩売られりゃあ買わねぇとなあ。
碧に?
こんなん持ってたら怒られちまわぁ。
そう謂やァ命の姐さんは御猫様の化身だったけネェ。
万次郎の兄さんと謂やァ、命の姐さんは万次郎の兄さんと酒呑んでから随分と寝こけてたみたいだけど大丈夫かえ?
[小首傾げ] [くるくる変わる表情] [見詰め]
白水の姐さん鬼ごっこかネェ。
アタシも見られちまったかィ。
カマイタチ一匹くらいじゃ腹の足しにもならなかったヨゥ。
司棋の兄さんと遥月の兄さんは来る道中でちらっと見かけたヨゥ。
なンぞ様子が可笑しかったが、大丈夫かネェ。
[すぃ] [命の視線追い] [首を捻り]
……司棋様?
[意識を飛ばして地に崩れ落ちる司棋が視界に入る。夜斗が司棋を支え頭を打ち付けることは免れたが……]
司棋様……司棋様!
嗚呼……大丈夫ですか……?
………っ。
わたくしも、眩暈が……!
昨夜はすまなんだなあ、
少しばかり迷子になって適当な所で転寝しておったわ。
――それ、侘びじゃ。
[瓢箪ひょいと赤鬼投げて]
ああ、常葉のあれは舌が肥えているか。
小娘の臓物は気に入られたか?
[梢にて、独り静かに酒を呑み、]
[はた物思いに沈んではつく吐息。]
[今また、瓢を傾ければ、]
…やれ。もう無いか。
[空の瓢にこの度は、憂いで無い溜息。]
なかなか帰ってこねぇと思ったら
転寝かい、
襲われなくてよかったなぁ。
[くつくつ笑って相棒見遣り]
ああ、こんなんじゃ足りねぇって謂われらあ。
あれは随分気に入ったようだぜえ。
綺麗に平らげてたさあ。
んんン…
[真理が傾げる小首にも似た角度で、首を傾げ返し]
わらわは、それはそれはもうたっぷりと眠っておったようじゃからのう。
浅い眠りの中身を起こそうとした時は、ずいぶんと具合の悪くなった気のする。
万次郎のくれた酒のあまりの美味さに、夢中で飲んだ事は覚えておるが…。
頭の痛くなるものとは、知らなんだ。
じゃがもちろん、今はすっかり治っておる。大丈夫。
…ほほ、カマイタチ一匹くらいじゃ腹の足しにもならんと仰るか。
その細い指で小さな口を通って、華奢な胴まわりまで多くを運ぶとは到底思えぬのに。
常磐のひめは、見た目に違って大喰らいかのう?
喰児とどちらが多く喰らう?
殺気あればすぐわかるて。
お前さんらも血の匂いをさせすぎじゃ、かっかっか。
ほう。気に入れど足らず。
足らねば何を望むかのう。
刹那刹那と云う割りに、未だ未だと云うてかなわん。
相棒はあれの何処を好いておるのか?
う…
[一瞬の気絶だったからか、直に目が覚め。
自分の上の遥月を見やり]
なんだったんだろう…、どうして…?
…怪我はない…か。
[じぃ、と眠る遥月を見つめてぽつり]
僕も、貴方が好きですよ?
[先程の言葉を、もう一度。
昨日、彼が自分にしていたように優しく髪に触れながら]
夜斗、皆の所へこの人を。
[自分はふらりと立ち上がり。眠る遥月は夜斗に担がせ、社の方へ]
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