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記録なんて――…
[要らない、と小さく呟き、眩い光に殆ど視界は奪われているけれど、ハーヴェイの被りを振るらしき気配は感じ、身じろがずとも何処か不思議そうな様子は滲むか]
俺の事は、知らない方が好い。
運良く還れても、殺されては無意味だ。
[必要無いと伝えた筈の麻酔を――殆ど麻酔は効かないのだけれど――施され、皮膚の縫い付けられていく幾らか麻酔に和らげられた感覚にも、さしたる表情の変化も現れず]
そうかも知れ無い。
違うかも知れ無い。
人間は――…嘘吐きだ。
[自分の部屋へ戻る。
頬をぬらす水は袖で強くぬぐうと部屋の中を引っ掻き回してからようやくひとつを見つけてほっとしたような表情の後にそれを手にし、重みに少しだけ眉を潜めた後、それをポケットに滑り込ませて自室を出る。
タブレットの残り半分を下の上でゆっくりゆっくり溶かしながらニコルを探す。
先ほどの廊下、食堂、中核部、そして──医務室のほうへと。
一応とばかりに扉をノックして中に誰かの所在があるかを確認して]
流れ者 ギルバートは、吟遊詩人 コーネリアス を投票先に選びました。
…Nicholas Gilbert.
〔弱音は吐く癖に頼らない。この友人未満の男は。
手付きに苛立ちは表れず、降らせる声は獣を甘やかす如き其れ〕
僕がお前に伝えられることは少ない。
お前が僕に伝えたいのは知識ではない。
それだけは知っているから…
今笑うな。
今泣くな…
いま、殺したくなる――
〔傍らへ用意してある義眼が灯りに透ける。似て非なる色味よりはと、透明感のある黒を選んだ。手元はやがて眼窩から収めるものを引き上げる、ねちゃりと体液の絡む*音がして*――〕
如何、かな。
[泣きも笑いもしないのは云われたからでもなく、其処に何の感情も浮かばないからでしかなく、何の施しを受けている心算も無い素振りは野良猫の様でもあるか]
――…ハーヴェイに殺される気は無い。
[代わりの瞳が入るも違和感は残り、幾度か瞬いては具合を確かめるもあり]
助かった。
[手術が終わり謝辞ともつかない言葉を述べ、視力を失った筈なのに伸ばす手は迷い無く、自身の眼球の入った其れを確りと掴んで、緩く首を傾け両手で形状を確かめ、ゆっくりとハーヴェイへと顔を向け]
中核部でトラブルがあったら、ラッセルを頼ると好い。
[二度と逢う事も無いであろう相手にも後ろ髪引かれる事も無く、云い残し自身の眼球を持って手術室を出て、一度は自室に立ち寄りベットサイドから煙草を取る]
[煙草を咥え火をつけるでもなく部屋を出て通路を歩く姿は、歩調は違えど煙草を呉れた人物に良く似ていたかも知れず、ナサニエルの部屋へ無断で入り込み、自身の眼球が入ったカプセルと、咥えていた煙草をテーブルの上に置き、メモも残さず入った時と同じく静かに部屋を出る]
崩し将棋は――…無理か。
[呟き夢遊病者の如き常の足取りで、コーネリアスを探し通路を歩む]
[医務室にいたのはいつも以上に不機嫌そうなハーヴェイで、ニコルの所在を尋ねればやはり不機嫌そうに出て行ったと告げる言葉。
ややしてから男に尋ねる]
──人は、心臓と脳と、どっちを壊せばすぐに死ぬ?
[迷いも躊躇いもない声に軽く面食らったような表情の後に答えを教えてくれた不機嫌な研究者に礼を告げて、そしてやはりニコルを探して彷徨う。
廊下でその姿を見かければ声を発しただろうか]
───ニコル。
[稀な戯れには無言で和やかな視線を返し
去り際ハーヴェイが言い掛けた言葉に思考をあてて、
その表情には何も色はなく彼の去り際に薄く笑った。]
死神なんて、いない……。
[居るのは¨人間¨。
ラッセルの問いかけには]
――ああ、俺は……
[ちょっと、と言ってラッセルを見送った。]
[見えずとも気配に一旦は歩みを止め、声が聴こえると一旦は瞬くももう無意味と思い直したか、僅か口許を緩めるもあり]
コーネリアス、将棋しよう。
[相手の返事を待つでもなく、自室へ向かい常の歩調で歩き始め、部屋に着けばラッセルより貰い受けたタブレットを胸ポケットから取り出し、コーネリアスへと差し出す]
はい。
酒場の看板娘 ローズマリーは、流れ者 ギルバート を投票先に選びました。
…将棋?
え、あ。ちょっと。
[決心が鈍らないようになるべく短い時間で済ませたかったのだけれど、当の本人があれでは無理だろうと嘆息してから彼の後を歩き出す。
極彩色の部屋の中へと足を踏み入れたなら、差し出されたタブレットに唖然として]
…なに、これ。
[受け取ることなく、そのまままっすぐにニコルを見返して]
[戻るなりテーブルの上の゙それ゙と煙草を見つけて]
……それが、お前の答えか。
[苦い顔。]
どいつもこいつも馬鹿野郎だ。
[自分もまた――
ゆるゆると首を振り、テーブルの煙草の代わりに受け取ったオムライス味のレーションを胸ポケットに入れる。]
ちょっと行くとこがあるから。
……後で迎えに来るよ。
[瞳にそう言い残し……部屋にロックをかけて出かける]
コーネリアスの食料。
肉は食べないんでしょう?
[受け取られる事の無いタブレットを持った儘に、視線は感じるのか緩やかに首を傾げ]
冒険家 ナサニエルは、流れ者 ギルバート を投票先に選びました。
冒険家 ナサニエルは、文学少女 セシリア を能力(襲う)の対象に選びました。
書生 ハーヴェイは、流れ者 ギルバート を投票先に選びました。
俺が好かれる要素なんてあるはずもない。
好かれることも望んでない。
嫌われても平気。
[彼女と居ると、少し人間になれた気がした。]
君が誰かに殺されるのも、
君が誰かを殺すのも、
君が誰かに食べられることも、
君が誰かを食べることも……
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