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ウェンディは料理用ストーブにフライパンを置いて、そば粉を混ぜた生地を薄く延ばして焼きました。生地をぜんぶ焼いてしまって、パンケーキが何枚もお皿に重なると、上からバターと糖蜜をかけました。
自分たちが食べる前に、ウェンディはパンケーキを少しだけ取り分けたのと、温めて糖蜜をとかしたミルクの茶碗をシャーロットのところに持っていきました。
シャーロットは白い仔犬を膝掛けの上にしっかり抱えていました。
「ねえ。これを飲んで」ウェンディはいつものように話しかけました。
シャーロットはずっともう、ちゃんと答えてくれませんでしたけれど、両手に茶碗を持たせれば、たいてい中のものを飲んでくれるのす。たまに、パンケーキをフォークで運んで一口か二口、食べることもありました。でもそのときのシャーロットは、仔犬を放そうとしませんでした。
リックがシャーロットの膝から仔犬を下ろそうとすると、シャーロットはかえってぎゅっと仔犬を握る手に力を入れました。仔犬が痛がってきゃんきゃん鳴くと、シャーロットはその泣き声に驚いたみたいに、手を放しました。
仔犬はシャーロットの膝からとびおりて、部屋の隅に逃げていきました。シャーロットはてのひらを開いたまま動きません。ウェンディはミルクの茶碗をシャーロットのうんとやせた指の間に置いて、自分の手で包むようにして持たせました。
茶碗を両手に握ったまま、シャーロットは動きませんでした。シャーロットの眼はウェンディより上のどこかを、じっと見つめたままでした。
仕方なく、ウェンディはそのミルクを自分で飲みました。糖蜜をといてあるのに、最近はポリーのミルクは薄くて、絞りたてでも少し苦いような味がするのでした。
「ほら。ミルクをあげるから出ておいでよ」
部屋の向こうでは、リックが仔犬の機嫌を直そうとしていました。少しして、仔犬は戸棚の下から出てきて、ミルクをすくったリックの指先をなめました。けれども、お皿を前に置いても、飲もうとしません。
「皆、ミルクがきらいになっちゃったのかしら」お腹の中で何かがぎゅっとちぢんだみたいな感じがして、ウェンディは自分が泣きそうなことに気づきました。
リックはウェンディの様子には気づかずに、もう一度お皿のミルクを指にすくって仔犬の鼻先に近づけました。仔犬は勢いよくリックの指をなめました。
リックが笑って言いました。「きっと、お皿からミルクを飲んだことがないんだよ。母牛のお乳を直接飲んだことしかない仔牛みたいにさ」
リックは布切れをミルクにひたして仔犬に近づけました。仔犬は布からミルクを吸いました。だんだん布切れをお皿に近づけていくと、仔犬にもようやく、そこにあるのがミルクなのだとわかりました。
つっかえながらお皿からミルクを飲みはじめた仔犬を、リックは嬉しそうに、ちょっと自慢げに見ています。
「ほらね! 仔牛にはこうやって飲みかたを教えるんだ」
ウェンディは、お皿の上で一生懸命に飲みかたを練習している仔犬の背中をそっとなでました。真っ白な毛皮は、まるで羽毛のような軽さ、やわらかさです。お日様の匂いがする、とウェンディは思いました。
「ほんとに、レディが生きてて、子どもを生んだんじゃないかしら」
レディや、村にいた犬たちが皆逃げ出してしまってから、もうどれくらいたったでしょう。あの「狼」という言葉を、それまでの冬とは違った様子で大人たちがささやきあうようになってから。
お腹いっぱいミルクを飲んだ仔犬がげっぷをして、二人はようやく自分たちもお腹が空いていたことを思い出しました。パンケーキはだいぶ冷めてしまっていました。
「春になったら、どうしよう?」ウェンディとリックは、窓から陽が入る床に、並んで座っていました。もう昼間、窓の近くなら、ストーブを炊かなくてもいいくらい暖かかったのです。
いいお天気でした。窓の上のひさしから、つららを伝って水滴が落ちると、お日様がその上できらきら輝くのでした。
「小麦粉も、樽の塩漬け肉も、まだあるわ」
ほとんど二人しか、冬の間それを食べなかったのです。
「でも、いつかはなくなるよね」
二人はずっとそんな話をしないで来ましたけれど、いつか食べ物がなくなってしまうことはよく解っていました。
「雪が消えたら、馬車が来るわよ。ヘンリーさんやメンソンおじさんや」
毎年、村まで商売にやってくる人たちの名前を、ウェンディは思い出しました。お土産に紙風船をくれるメンソンおじさんがやって来るのを、二人はいつも楽しみにしていました。
でも今年は、おじさんが来ても村には誰もいません。二人と、シャーロットしか。
「町まで、歩いて行けると思う?」
「どうやって、シャーロットを連れていくの?」
二人はどちらからともなく、ため息をつきました。お互いの体にもたれかかって、黙ったままお日様が傾いてしまうまで、そこに座っていました。
窓の外をきらきら光る水滴がいくつもいくつもこぼれ落ちて、少しずつ違う水音を立ててました。きれいな音楽のように。
>>98
>あくまでAlpha 38++でAlpha 39にはしない方針なのかな。
いえ、そういうわけではないです。
設置後素晴らしいペースでバグが出ていたので、適当な一区切りまでバージョン留めておかないと物凄い事になりそうだなあと思っただけで(こら
>>113
CVS途中まで使っていたのに、途中から使うのをすっかーんと忘れてそのまんまというのは内緒です(内緒になってない
『大切な午後』
「やべぇ、寝坊した!」
俺は、大慌てで一度止めちまった目覚まし時計を掴むと、布団から飛び起きた。
時計の針は、もう有り得ねぇ時刻を指している。俺の背筋に冷たいものが走った。
服!そこらにあるのでいい!
髭!いい!
髪!いい!
俺は、昨日とほぼ代わり映えのしない格好で、そこいらに置いておいたボストンバッグを手にした。
これだけは、昨日のうちに準備をしておいて正解だった。
急いで部屋を後にして目的地へ向かう。
電車に揺られながらももどかしく、いっそ電車の中で走ってしまおうとさえしかねない勢いで、窓の外を早く到着しろとばかりにじっと見据えた。
そうして、乗換駅を全力疾走した甲斐があったのか、ようやく俺は目的地にたどり着いた。
時計の針は、午後の際どい時刻を指している。
「…あれ?」
なんとか滑り込みセーフで間に合ったと思ったのも束の間。
俺は、イライラしながら俺を責めようと待ち構えているであろう姿を探し回った。
…居ない。
思えば、こんな大遅刻をしているのに、催促の電話すらよこさないのは、不自然といえば不自然だ。
そうこうしている内に、最終搭乗案内のアナウンスが流れた。
俺は、取り敢えず握り締めていた携帯電話を開く。
…ぴぴぴ、ぷるるるるる
「もしもぉーし、ケネス君?どうしちゃったの〜」
俺がさっきまで探し回っていた奴は、能天気な声で嬉しそうに電話に出た。どうしたのはねえだろが。
「…あの…今どこに…?」
「やぁ〜だ、今どこに居るかなんて、ほんとにもうどうしちゃったのよぉ〜珍しいんだから。
もしかして、明日が今から待ち遠しくて、思わず電話してくれちゃったの?それだったら嬉しいな♪」
?!
俺は、慌てて胸ポケットに捻り込んでいたチケットを取り出した。
●月●日●時成田発…
間違いなく今日だ。
「…ソフィー、ちょっと航空券の日付を確認してみろ。俺はいま空港からなんだが」
「…え?」
ソフィーの、か細い声と、何やらごそごそ物を漁るような音が聞こえてきた。次いで絶叫
「嫌〜〜〜〜〜!!」
俺は、呆れるのを通り越して爆笑した。
人でごった返している空港のなかで、人々は俺の事をぎょっとした顔で見てゆくが、そんなこたぁ関係ない。
まったくあいつらしい。
新婚旅行の日を間違える女が、他にどこに居るだろうか。
ふと、外を見ると、俺達が乗る筈だった飛行機が飛び立ってゆくのが見えた。
大騒ぎしている携帯の向うの様子を笑って聞きながら、俺は明日から箱根にでも行こうかと考えていた。
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