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―工場―
[その場所は人の気配が消えて久しかった。今や身じろぎもせず重々しい体躯を横たえたままの機械の群れは、象の墓場を思わせた。
幽かに黴臭く澱む古びた空気。静閑とした闇の中を、そこに残された気配の痕跡を一つ一つ確かめでもするかのように緩やかに歩む。
やがて、事務所の扉の前で足を止めると鍵を開け、中へと足を踏み入れた]
―工場・事務所―
[天井には雨漏りの修理の後が残されていた。事務所のエリザが使っていた机の上は、神経質な彼女の性格そのままに整然と整理が行き届いていた。
ふと、簡易キッチンに向いた視線がその場に似つかわしくないものの上に留まる。
簡素で限りなく実用的なその部屋の中で、そのティーポットとカップ&ソーサーだけが華やかなよそゆきの装いで佇んでいた。
恋人のように寄り添う二つのカップが、その場に居たであろう二人の関係をなにより雄弁に物語っていた。
ジリ……と微かに胸の奥を今はもう遠い忘れかけた古い感情が灼いた。
奥の扉を開けると、くつろげるようにソファーと簡易ベッドが置かれていた。私はソファーに腰を降ろすと、読みかけだったエリザの日記を再び読み始めた]
[読み終えると手帳を閉じ、かすかに首を振った]
ナッシュ……
[そこに書かれていた内容に、私の頭はひどく痛んだ。
ぎゅっと目を閉じ、眉根を寄せたまま深い溜息をついた]
ナサニエル・サイソン
ナサニエル・オリバー・メラーズ……
[過去と現在。断絶した二つの名を呟く。
その奥に秘められた謎は、この奇怪な一連の事件に何らかの関係があるのだろうか。それは、確かめなければならない事実だった]
[そして――]
近親…相姦……
[エリザの日記には私が忘却へと押しやった記憶の鍵が残されていた。
ラルフとニーナ。二人は近親相姦の関係にあったのだ。私はエリザから婉曲的に相談を受けたことがあるその事実の記憶を消去したのだろう。ラルフの顔と共に。
ニーナの面影がシャーロットと重なるが故に――]
――暗闇の中――
[何処からか清楚な歌声が聞こえてくる。]
The Lord is my shepherd, I shall not want,
(主は僕の羊飼い 僕はひもじいことがない)
He maketh me to lie down in green pastures.
(主は僕を緑の牧草の上に横たわらせ)
He leadeth me beside the still waters.
(静かな水のほとりに導いてくれる)
[それは"わたし"が好きだった詩篇の一つ。"私"の伴奏で"わたし"はよく謳っていた事を思い出す。]
[一体誰の視点から考えたら良いのか。女は困ったように視線を宙に浮かべる。
この町で【ステラ・エイヴァリー】と名乗っていた姿は、たしかに"彼女"であって"彼女"ではなかった。
しかしそれはヘイヴンに住まう誰もが知らない事実。そして"ステラ"本人も知らない事実だった。]
面倒だわね…。こう【何年】も【入れ替わって】居ると、時々"私"自身も【本当の姿】がどっちだったのか。忘れてしまうわ…。
[苦笑交じりで女はため息を吐く。眼下には変わらず【ステラ・エイヴァリー】の亡骸が横たわっていた。]
[女は亡骸の上で気だるそうに髪の毛を掻き上げる。ふとした仕草から甘い匂いが零れる。聖女と悪女を表現した彼女の為だけに作られた、聖水ベースの香水が。
その香りはトップは聖女をミドルは悪女を、そしてラストはその二つの姿を脱ぎ捨てた素顔を表現する。
時間と共に全く違う顔を見せると口にしたのは、"ステラ"がヘイヴンの町へ来るまで世話になった援助者の話。その例えをモチーフにこの香水は作られていた。
まだ娼婦になったばかりの"ステラ"に贈られた、援助者からの最初のプレゼント――
しかし今になって考えてみると、それはまた言いえて妙だと女は感心する。]
だって…"私"は修道女で聖女だった【ステラ】ではないんだもの…。ステラを誑かし、破滅への道へと導いた悪い女…。ねぇ?そうでしょう?【シンシア・アリスン】?
[感心しながら、再び眼下で横たわる亡骸にくすくすと意地の悪い微笑を落とす。自らの【本当の名前】を口にしながら。]
――暗闇の中――
[歌が途切れた。詩篇の曲は終わってしまったみたいだった。"私"の伴奏も、ステラの美しい歌声も、今はもう聞こえない。]
もう少し…聞きたかったなぁ。久々だったから…。ステラの天使の声を聞くのって。もう…何年前から聞いていないのかしら…?
["私"は記憶を辿りながら指折り数えて、改めてその年数の長さに苦笑を漏らす。
そして懐かしそうに目を細めながら改めて記憶を辿った。あの日のことを。ステラの命を奪った日の事を蘇らせる様に――]
[視線の主の姿は見えない。僕には目玉が無いのだから、当然だったけれど。向けられているのが視線かどうかも、実際のところは分からなかった]
……誰だよ、お前。
[ただ、彼――“彼”であることだけは何故か確信していた――の存在はいつかどこかで感じたような、強い既視感があった]
[ヘイヴンに住まう【ステラ・エイヴァリー】が持ち合わせていた記憶には、ほんの少し事実と違う部分があった。それは"私"自身が予想を大きく上回る精神的ショックを受けたために、記憶があやふやになったためだと思われる。]
【ステラ】が持ち合わせていた記憶。それは全てが少しずつ真実と違っている。]
["彼女(【ステラ】)"が持ち合わせていた記憶では、ステラとシンシアは身体を許す仲で、その秘め事を神父達に知られてしまい、ステラは罰の為に神父達にセックスを強要させられていた。
しかし穢れた聖女は次第にその蜜の味に溺れ、進んで罰を受けるまでに乱れ狂ってしまう。]
[その反面、シンシアとの官能的な愛を断ち切ることが出来ず、ステラは【シンシアとの愛を貫く為に、神父達の罰を受けている】という理由を付けて、全く違う性愛にずるずると溺れていった。
【犯した罪には、それ相当の罰を受けなければならない】
実に彼女(ステラ)らしい理由をでっち上げて。]
……僕は死んだ。
ウェンディに首を絞められて僕は死んだ。
僕の死体はそこに転がってる。
ほら、そこに。
[“彼”は沈黙したままだった。応えの代わりにただ、可笑しむような意識の波が触れてくる。少しむっとして、自嘲気味な感想を僕は続けた]
いや、もう死体とも呼べないか。
シャーロットに骨まで噛じられて、脳味噌のひとかけらまで舐められて。残ってるのは残骸になった欠片だけだ。
そんな僕に何の用だよ、お前。
[しばらくの間、僕は心の中の憤懣を抑えながら黙っていた。僕に歯があればギリギリと音を立て、まさに歯噛みしていただろうと思った。返事のない焦れったさにもう一度、問い詰めようと思った時――]
『……プッ、クックックック……』
[場違いなほどの笑い声が僕に投げかけられた]
[しかし真実はこうなのだ。
ステラとシンシア(私)が、身体を許す仲になったのは本当の事。事実二人でよく人目を盗んではお互いの身体に触れ合っていた。神父様が不在の日、教会のオルガンで連奏をしていた鍵盤を滑る指が、いつの間にかお互いの体の敏感な部分を掻き鳴らしていた時は、頭が変になるくらい快楽を味わったのを覚えている。]
[そして"私"達の仲が神父様達にばれたのも本当の事。でも其処からが違ってくる。
何らかのきっかけで、神父様達に知られる羽目になった"私"達の秘め事。その後罰と称して彼らの性欲の捌け口になっていのは、ステラではなくこの"私"だったのだ。
神父様達は禁欲の規律に耐えられなくなると、よく"私"を連れ込み裸にした。最初はノーマルなプレイから。そしてエスカレートしていくにつれて内容はだんだんハードになって行った。]
["私"は元々アブノーマルなプレイには抵抗が無く、むしろ村での生活に退屈していたので、"私"も次第に神父様達の要求には快く応じるようになっていた。
その頃にはもうお互いの間に険悪なムードなど一切無く、需要と供給が合致した『契約』事として成立し、事が済むと済まなさそうに手を差し伸べてくる男達と談笑を交える程、"私"と神父様達の間には蟠りがなかった。
そう、全ては遊びの一環になっていたのだ。
少なくても、"私"と神父様達の間の中では――]
『……アッ、ハッ、ハッ、
ハ、ハ、ハハハハ……!』
[失笑から苦笑、そして爆笑と変わっていく“彼”の笑いにカチンときた。思わず怒鳴り返す]
何だよお前!
何がそんなにおかしいんだ!
この…………!
[目の前で真っ赤なカーテンが下ろされたように意識が紅く染め上げられ言葉が続かなかった。その間も“彼”の弾ける笑い声は止まらない]
『アハ、ハハハ、ハッ、ハハハ……!』
[そして"私"はステラにはこれ以上穢れない人でいて欲しいと思い、あえて神父様達との蜜会の事は伏せていた。
もし彼女に知られたら…。きっとステラは廃人になってしまうことが窺い知れたからだった。
何故ならステラは根っからのレズビアンだったからだ。しかも相当プラトニックな――]
[彼女が神の道に進んだのも、家がクリスチャンだという理由も然ることながら、一番は世の男達が持つ欲望の眼差しから自らを守るためであり、穢れたくないという一心からくるものだったようだ。
"私"はその事実を初めてステラをベッドに誘った事後、快楽に頬を赤く染める乙女な彼女の口から聞かされた。告白する彼女は泣いては居なかったけれど、少し疲れきった表情を見せていた。それは後に喪失した空虚感から沸きあがってきていた表情だったと、"私"は理解するのだが。]
[憤りを表す言葉、苛立ちをぶつける相手を見出せないでいる内に、“彼”の笑いは収まった。今まで見たこともない奇妙な生き物を発見した学者みたいな、探り探りの問いかけが届く]
『……いや、笑って悪かった。すまないな。しかし……まだ気づかないのか? 本当に?』
……何を。
……何に気づいてないっていうんだよ。
[そんな事もあり、"私"は神父様達との秘め事を、ステラには絶対悟られないようにした。
緊縛の痕は極力残らないように工夫したし、行為を行う場所も時間も、とにかく詳細に気を配った。全てはステラをそして皆を守るために。]
[しかし運命の悪戯は意地悪で。
必死に隠し通していた秘め事は、ある日最悪の結果になって目の前に突きつけられた。]
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