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[わたしはドアが開くのを待つ間、ふと引寄せられるように店前で片付けをする男の姿に視線を落とした。
散らばった破片を手で取る姿と、容赦なく降り注ぐ雨に濡れていく姿は、ローズの相手として認識するわたしにはあまりいい印象を与えてはくれなかったが、しかしそのまま見過ごす訳にも行かず――]
よかったら…傘をどうぞ?
[彼に近付き、差していた淡い色の傘を差し出す]
[そして雨音交じりに聞こえて来た足音に振り返り――]
ローズ!無事だったのね…。心配してたのよ?
[濡れる事も厭わない様子で抱きついてきた彼女の身体を、わたしは躊躇いがちにそっと受け入れ、回した腕に少しだけ力を込めた。]
嵐になったわね。
[ローズマリーはステラから身体を離すとステラを店に入るようにうながした]
ああ、心配してくれてありがとう。
それよりも、大変なのことがあって、あなたの助けが必要なの。
[ローズマリーは入り口でギルバートを振り返り]
びしょ濡れじゃないの、ギルバート。
…ごめんなさい、こんなに雨がひどくなってるとは思っていなくて。
大きなかけらがなくなったらもういいわ。
ありがとう。
[ガラスの破片が乗ったダストパンを手に、抱きあう二人の女性を見る。
「友達?」と、目線だけでローズに問うた後で、黒髪の女性に向かってにこやかな笑顔を向ける。]
そういや、ここに来た最初の日に店に居た方ですか?
俺、ギルバート・ブレイクと言います。ベアリングさんの家に厄介になってます。
[苦笑し、]
ローズが濡れるよりは良いだろう。俺は丈夫だからね。
……これ、捨ててくるよ。
[気を利かせたつもりなのか、ステラに会釈すると店奥に引っ込んだ。]
嵐に加えて雷まで…。折角立て直したのに一からまたやり直しね…。
[先の復旧作業を思い出して、私は疲労感に覆われた体から溜息を一つ吐いて促されるまま店内へと足を組み入れた。]
所で助けって…何かあったの?
[ローズの後姿越しに疑問を投げかけながら、件の男の名がギルバートということを認識する。]
『ギルバート…ねぇ…。好色そうな…男』
[昔培った感が働く。さぞかし淫らな一時を迎えたのかしらと、わたしは意地の悪い思考を二人の姿に滲ませて口嗤った。気付かれないようにそっと――]
[と、投げかけられた笑みにわたしは脳裏を過ぎるものを払拭するように微笑み返して――]
ここにきた最初の日…?
あぁ、そうかも…ね?多分入れ違いだったと思うけれど…。
初めまして、ギルバートさんね。わたし、ステラ・エイヴァリーと申します。貴方のような方がローズの傍に就いているなんて、彼女の友達としても少し安心したわ。
何かあったら、護って上げて?
[饒舌は本心でも無い言葉を唇に乗せる。会釈もそれなりに。この6年間で培われたもの。それは嘘だけが上達する事。]
[会釈をして立ち去っていく姿に、何故か胸はざわつきを覚え――]
なんだろう…あまり気持ちの良いものでは…ないわね…
[左腕を掴んだのは無意識だろうか。きつく締め上げるように指に力を込めながら、わたしはギルバートの後姿を見送った]
[ステラをカウンター席に座らせる]
ああ、ステラ、濡れていないかしら?
大丈夫?
あのね、ソフィーがうちの店で倒れちゃったのよ。
雨に濡れて…風邪でもひいたのかもしれないわ。
熱があって。
わたしの部屋で今、寝かせているの。
そんなに具合は悪くはなさそうなのだけれど、彼女のお父様が心配で…。
どうしたらいいかしら。
[私は室内へと入るなり、濡れた外套を脱ぎタオルを剥ぎ取った。お陰で私の服以下のものは全く持って無事だった。]
大丈夫よ、ローズ。それより…
[ローズの端正な赤い唇から滑る言葉に耳を傾け――]
ソフィー…が?
――そう。この雨ですもの…お父様の事も心配ね…。
[私は一瞬だけ思考を巡らせ――]
ねぇローズ、あなたはここに居てソフィーの看病をしていて?わたし…彼女の自宅へと行って来るわ。
状態と…場合によっては食事の介助も必要でしょうし…。
[思い立つと同時に、私は再び外套を身に着ける。重装備はそれなりに大変だけれど、身を護るには変えられない。]
[すぐに出て行きそうになるステラに]
ギルバートが車を運転できるわ。
わたしの車で行って。
たぶん、それが一番いいんじゃないかと思うの。
[ゴミ箱にガラスの破片を無造作に放り込む。掃除用具入れにブラシとダストパンを仕舞ったところで、掌に走る創傷に気付いた。ガラスの破片を拾った時に切ったらしいが、彼の苦痛閾はかなり高い為に分からなかったようだ。
じわりと赤い血が開いた傷口に盛り上がる。]
[手を握りこんで傷を隠し、そっと2階に上がる。幸い二人は話し込んでいて、こちらに注意は向けないだろうと思われた。
客室に入り、小さな洗面台で手についた血を洗い流す。
その頃には、傷口はほぼ塞がり、*細く赤い線となっていた。*]
車で行けば、ここにお父様を連れてくることもできるでしょう?
車椅子を積んでくるのは無理かもしれないけど。
その方が安心じゃないかしら?
──バンクロフト家所有の工場・事務所(回想)──
[『ネイ』が去った後。簡易キッチンには、二人の「女性」が仲良く並んで洗い物をした名残りのように、ティーポットとカップ&ソーサーが伏せられてる。天井には雨漏りの修理の跡。キッチンを背に、事務所の机に向かって細い背中を神経質そうにこわばらせているのは──…エリザ。
カリカリとペンを走らせる音が続く。時折、手元にある黒い帳簿を確認しながら、帳簿とよく似た黒い背表紙のノートに向かって彼女は何かを書きつけている。]
[車で出掛けるようにと手配するローズに、わたしは半ば懇願するような表情で制そうとする。]
まって、ローズ!わたしなら大丈夫だし…それに…若い男の人と二人っきりで狭い空間に閉じ込められるなんて…。
わたし…耐えられない――
[そんな恥じらいは、当の昔に投げ捨ててきているのだけど。でもわたしは彼女が思い描いている潔癖な女を演じ上げようと必死だった。ただ嫌われたくない。その一心で]
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197X年 X月 XX日(曇のち雨)
換気扇を回して随分時間が経つと言うのに、まだ部屋に『ネイ』の残して行ったおしろいと苺の甘ったるいフレイバーが残っているような気がする。
私は自分がまだ正常であるのか自信が持てない。
随分とおかしなことになってしまった。何がどうねじくれてこんな事になってしまったのだろう。
分からない。分からないからこそ、書かなくてはならない。
これが仕事で疲れた私が見る、くだらない悪夢だったらどんなに良いだろう。けれども、二重帳簿につけた『ネイ』に支払った代価の数字が、私が確信犯的に繰り返している現実なのだと教えてくれる。「帳簿が教えてくれる」なんて皮肉なのかしら。
帳簿の数字が示している問題は、『ネイ』との密会の頻度が上がって来ていると言うことだ。
最初から8ヶ月、次は3ヶ月、1月ちょっと、半月…。
あの暴風雨がなければもっとはやかったかもしれない。
ゾッとする。どうして私はこんな薄気味の悪い行為を繰り返しているのだろう。
でも止められない。止められないのだ。
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確認してみたところ、やはり。
後、二週間で『ネイ』に再会してちょうど一年目になるらしい。
当時の日記を読み返すと、ちょうど休日にこの事務所に来る用事があった事が分かる。
あの日も、私は私なりにいそがしく働いていた。経営の傾いた工場、事務所、たよりにならない叔父の養鶏所。実質の収入はバートの彫刻家としての成功に頼り切っていて、私がしているのはバンクロフト家の過去にしがみつく親族たちの心の慰み程度のことなのだろう。バートが成功するまでは、家計のやりくりには少し自信を持っていた。生活が苦しいにも関わらず、先代からいた使用人を解雇もせずにやってきたのだから。
今はきっと私が働く必要は無い。
むしろ、バートやロティは、私が働く事を止めヘイヴンを出て行く事の方を望むのでは無いかとすら思える。私にはここから出る事など、想像もつかないと言うのに。
…と、話が逸れてしまった。
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人気の無い休日の工場の近くで、私は『ネイ』に車をぶつけてしまったのだ。
かすり傷だという『ネイ』を慌ててこの事務所へ運び──。
何故。
何故なのか。
と私は私自身に問いたい。
「彼」がかつてのジュニアハイの下級生、ナサニエル・サイソンだと思い出すのに時間は掛からなかった。何故なら、ヘイヴンに戻ってきた最近のかれには奇妙な噂があったから。かつては、あの少人数のクラスでも印象に残らないような少年で、たしか祖母と暮らしていた。そして珍しくヘイヴンを出て行ったのだ。
随分と変わり果てた姿だった。
入墨をいれるような人間とは、顔見知りでもない限り私は口を利かないだろう。彼を轢いたと言う負い目がなかったら、知り合いであっても声すら掛けなかったかもしれない。
どうやら本当にかすり傷らしいと分かって、安心したことは当然のように記憶している。そこから何を話したのかは曖昧だ。ただ、冗談のような真剣なような顔で彼は「俺は天使なんだ」と言った。
一体、何が天使なのか──。
そして、
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[エリザは時計を見上げ、ハッとしたように立ち上がる。
窶れた顔と同様に、束ねたくすんだブロンドの髪が少しほつれている。
受話器を持ち上げる。]
マーティン。遅くなったけど今から帰るわ。
[受話器を置く音。
眼鏡のふちに指をかけ、一瞬立ち止まるエリザ。日記の続きは、また後で仕事の合間に*書く事に決める*。]
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