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―自宅1階・リビング―
[彼にしては珍しく、部屋中を包むようにレコードの音を流していた。]
Cat's foot iron craw
(猫の忍び足 鉄の爪)
Neuro-surgeons scream for more
(神経外科医は手術を叫び続ける)
At paranoia's poison door
(パラノイアの危険な入口)
Twenty first century schizoid man.
(21世紀のスキッツォイド・マン)
[頭の中を支配せんとするようなホーンセクションの音。ギターの音が響き、ベース音は胸を叩く。
――音の洪水は彼を攻め立て、或いはリドルを投げ掛ける。]
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彼女の記憶は、2ヤードほどの頑丈な檻の中ではじまる。
他のトラックは不衛生な状態で複数の檻が混在していたが、彼女の檻はトラックの中でも、特別な一台に乗せられていた。二重の幕、表には当たり障りのない大道具。
検問等に引っ掛かっても不自然に見えないその仕掛けの所為で、彼女の檻の中は常に薄暗かった。
檻に捕えられてからどれほどの月日が経過していたのか、彼女は昼夜の区別を忘れはじめていた。彼女は日に当たる事の無い彼女の肌は病的に白かった。
衣装は気紛れにドレスが与えられる事があれば、襤褸のままの時も、着ない方がマシだと言いたくなるようなきわどく卑猥な衣装の時もあった。共通しているのは、細い首と手足に繋がれた金属の拘束具。首輪に繋がれたチェーンは、常に檻に留められ厳重に錠が掛けられていた。
鉄道移動が廃れ、トラック移動が主要になってからのサーカスは、田舎の興行を止め、都会のみで大規模な巡業をするものが主流だった。そのトラックの一軍が──とある山間の小さな田舎町を通過したのは、給油とタイヤの修理の都合に過ぎなかっただろう。
[私はトラックが最初に停車した鬱蒼とした森の傍を通るうねる一本道に見覚えがある事に気が付いた。
それは、いつもパパの車の助手席で見ている、ごく親しんだ風景。]
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けばけばしい極彩色のテントの内側。
檻の覆いが取り去られ、ショーがはじまる。単純で俗悪なショーだ。
その日の彼女の餌は珍しく、人間の子どもだった。
大抵は「人間の肉」と称された牛や馬、時に犬の屍骸(すべて何処かの民家から攫って来たもの)だったので、彼女は幼い頃、自分が人間だった時代に祖母から習った歌いながら食事をしていた。その町につく前に迷い込んだ都会出身の浮浪者の子ども。人肉が彼女の餌として「その町」で出された事は偶然にすぎなかったのだが。
彼女は食事の時間、目の前に好奇心を剥き出しにした客が居る事には、すでに慣れきっていた。客が罵声を浴びせようと、笑い声をあげて自分を指差そうと、何も感じなくなっていた。食事中に目の前で吐瀉物を撒かれるのと、甘ったるいコークをぶつけられるのだけは、あまり好ましくはなかったけれど。
[歩み寄ってきたハーヴェイを腕の中に抱き取り、その瞳を見詰める。
頬に滑る手の触れるがままに任せ、彼の求めるものが確かにそこに居ると理解できるのを待つように。]
At paranoia's poison door―――
[男は、黙って口許を歪めた。
その目には、澄んだ色の光が宿る。]
ああ……………
「死」の官能が、そこに………!
[目の前には何も無い。
否、彼にしか見えぬ何かが在った。
――「後戻りはできない」。
ギルバートの金色の光が、彼の脳裏に蘇る。]
………もちろん。
望む、ところだ………
[車のキィを手にし、外に出る。]
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弓張り月がやけにくっきりと浮かんだその夜に現れた3人組の客は、今までの客と様相が違っていた。まず、一人の男が彼女が口に銜えた人肉を指差す。すでに断片であるそれを、彼には一目見ただけで人肉だと分かったらしい。
そして、横に見世物小屋の主人が居るにも関わらず、彼は彼女にしか聞こえない声で囁いたと言う。
「私は話す以外の能力は何も無いが、君が何者か分かる。この町の人間は皆、私と似たり寄ったりだ。君の味方になるよ。明日の夜、必ず助けに来る…──。」
じっと檻を見つめたままの男に勘違いをした主人が「檻に入ってあの娘を好きにしていただいても宜しいんですよ、旦那様方」と3人組に意味ありげに耳打ちをする。男は黙って見世物小屋の主人から一歩距離を取り、“Lycanthrope”とおどろおどろしい文字で書かれた札を指で軽くはじいて、出て行った。
[私は石壁に映った長い金髪の彼女が、檻の外へと揺れる大きな青い瞳を向ける姿を見つめる。安っぽい赤いドレスを着た彼女は、珍しく動揺を見せていた。]
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次に私が見た場面は、燃えるトラックの群れと動物が焼かれ泣き叫ぶ声が印象的な夜の場面。先刻、彼女の檻の前に現れた男達と他数人の者が、トラックの持ち主達を屠殺用の刃物と銃で殺し、バラした物をその焔の中へ投げ込んでいた。
彼女はその光景を、彼女に話し掛けた男の首に縋るようにして抱きかかえられながら無言で見つめていた。檻の中での生活が長過ぎた彼女は、足の肉が削げ落ち歩く事が出来なかった。男は言う。
「私は人狼の血を引く者が暮らすこの町で、墓守をしている。新鮮な人肉を君に与える事は出来ないが、死人が出た時、安置所に納めた後から君に少し分ける事は出来ると思う。平穏が欲しくは無いか──」
自らを積んで来たトラックが、檻だけを残して完全に焼け落ちる様子から目を逸らすことなく、彼女は彼に頷いた。
[ヘイヴンを囲う深い森の奥から、遠吠え(>>150)が聞こえる…──。
音は無いのだけれど、私はそれが声である事が理解出来た。
私の血を引いた子ども達の子孫もまだヘイヴンに居るのよ…。
と言う言葉を残して、何時の間にか彼女が見せるヴィジョンは終っていた。結末が暗澹たるものではなかったことに、私は安堵の息を漏らす。
ああそれにしても、旅人が<彼>がこの町に来ているのだ。
<彼>──…ギルバート・ブレイクが、平凡な田舎町だったはずのヘイヴンに厄災を齎した張本人なのだと、私は知る。私が誰かに刺された事も、私が人間として死亡する直前に人狼として目覚め、仮死状態でこの安置所に運ばれ、リックを喰らい、女性の骨の見せるヴィジョンでヘイヴンの知られざる過去を知った事も、すべて──彼が引き起こした出来事なのだと。]
──お前の全てを消し去ってやろう。
過去も、思い出も、苦痛も、未来も……その身体ごと全部。
[三日月のごと、弧を描く唇に嗤いを乗せて、いっそ優しささえ感じる声音で、強く囁いた。]
[リビングの机の上に、書き置きと鍵が残してあった。]
「ネリーへ
安全な場所に逃げたいなり、危険な場所に行きたいなり、お前が何処かへ行きたいのなら、この合鍵で家のドアを閉めるように。
――帰る場所が見つかったなら、鍵は直ちに返せ。」
――――――
「ハーヴェイ…… もし私が無事に帰ってきて
その時、何もかもが解決していたのなら
――君に云えなかったことを云うよ。」
今はもう、深い眠りに落ちているであろう彼の寝室の扉の前で、私はそっと呟いていた。
眠りに落ちているであろう彼に、その言葉はきっと届きはしないだろう――そう思いながら。
安らかな眠りと闇の静寂が彼を安息から妨げない事を願って――私はアトリエを後にした。
――
―車中―
ハーヴェイ……
君は私を軽蔑するだろうな。
私の身も心も灼き尽くしてもやまぬほどの熱情の正体を知ったなら。
[生命の危機を感じるその時、人の生存本能は著しく昂ぶるものなのだろう。
黄金の光と闇から押し寄せる波濤。
私の中の獣欲は叫びを上げ、ひたすらそのかつえを充たそうと私自身を突き動かしていた。]
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