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[よく見覚えのある、肌の艶もいい、身体のラインも露わになった女性が陰湿な空間で、様々な器具で蹂躙されている。
嘘や冗談で、はたまた加工の類でこのような写真は作れようも筈がない。
これは――ネリー自身が過去に受けていた仕打ちそのものだ。]
リックッ――!!
[それ以外の言葉が出なかった。ネリーはなりふり構わずリックの持つフォトアルバムに素早く手を伸ばす。]
[シャーロットは胸にマーティンから受けとった日記を抱えたまま。その内容が、以下のようなものであるとは露知らず。]
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──欲望の話。
あれは『死体ごっこ』に由来するのでは無いかと思う。
あの『遊び』が行われたのは、ネイが死ぬわずか2日間の間、二度だけ。あの遊びが私の奥底に眠っていたことに、全く持って実感が沸かないのだが。
当分の間、安置所へ入ったメンバーと遊ぶ事を両親に禁じられた私は、仕方なしにレベッカとだけ遊ぶ事になった。家の中で。近所でも堅い家庭だと評判だった私達の家に、ネイの母親がネイを連れてだけなぜか謝罪に来て、ネイの母親の手前、ネイと遊ぶ事は許された。
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『死体ごっこ』
それは、誰か1人が死体になり、残りの二人が「死体が本物か」を調べると言うものだった。身体のすみずみまでさぐり、弱い場所をくすぐり──時に切断したり、釘を打ち付けるまねをする。死体になったものは、何をされても抵抗せず、生きている事がばれないように耐えなくてはならない──。
一番死体役の回数が多かったのは当然ネイだった。
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―ナサニエル自宅・1階玄関にて―
[半ば夢から醒めたようなニーナの背中を見送ると、男は再び書斎に籠り、メンソールのにおいがキツい煙草に火をつけた。机に向かい、いつものようにメモを取る。]
さァて……っと。
電話も電気もアウトってことは、冷蔵庫の中身もじきに死ぬな。……ったく、困ったモンだ。
[時間を掛けてメモを取り終えると、男はそれを分厚いファイルにしまった。]
[腕の中の暖かくやわらかい感触。
久しぶりに触れた女性の体
でも湧き上がるのはいつものような嫌悪でも、殆ど感じたことのない愛情でもなく…
それと理解できるまでに、あとどれくらい時間がかかるだろうか
ピシリ──
自分でも気が付かないどこかで、何かに罅入る音が聞こえた…]
ハーヴ。ハーヴ。
信じられないの──。
レベッカ叔母さんや、他、色々な人がこの災害で亡くなったけれど、まさかママが…。
[添えられた腕がやさしい。
ぎゅっとハーヴェイの衣服のすそを掴む。
その時、窓の外から響いてきたスリップ音にシャーロットは涙を止めて青ざめた。]
…パパ?
今の音、パパの車じゃないわよね……。
パパもママも一緒にいってしまったら、私っ。
ねえ、お願い。
ハーヴ、車を出して。
……現場を見に行きましょう。
ここへは途中から一本道だもの。
[スリップ音が父親の車のものではなく、エリザがシャーロットに近付かないよう言い含めていたボブ・ダンソックのアルファロメオの音で有る事は、当然、シャーロットに分かるわけもなく。
だが、音が聞こえたと言う事はボブの車は、何時もシャーロットが父の帰宅を知る「あのあたりのカーブ」に差し掛かったところに違いなかった。]
[ナサニエルの家を後にして。
傘など用意してこなかったのだから、当然、すぐに乾かした服も外套も雨にまみれてゆく。
まだ少しほてりを残す体には夏の温い雨でもそれなり気持ちがよかった。
そのまま、ブランダーの店へと歩いて帰る途中、従妹と伯母夫婦の住む家の近く。
見覚えはあるけれど、その場所では見慣れない外車にいぶかし無用な表情を浮かべて近づく。
よくよく目を凝らせば、中で男がのた打ち回っているような様子で、更に表情を険しくしながら窓ガラスを二度たたいてみる]
……Hello?
[不安そうに震える少女があまりに哀れに見えてどうして自分がそうしたのか分からない。
ただ…触れてみたかっただけなのかもしれない。
しかしその瞬間は心の衝動に確かに負けていた]
シャロ…
[ふと上を向いた少女の唇に一度だけ、軽く自分のそれを重ねる。
小さくシャロの頬に指で触ると、何事もなかったように]
わかった、行こう。道は知っているかい?
ちゃんと事故にあわないような道を教えてくれよ?
[もう一度、優しく抱きしめると、車を出すために体を離す]
――町中――
[泥濘に足を取られながらも、わたしはゆっくりと町中へと歩みを進めた。
向かう先は雑貨屋。元々食が細かった所為もあり雑貨屋へと通う頻度は少なかったが、それでも元生徒の自宅でもあったため向かう道筋は慣れたものだった。]
そういえば…シャーロットの口からも、リックの名前が出ていたけど…あの二人、今も変わらないのかしら…。
[手は焼いたけれど、それでも思いやりのある姿を思い出し、わたしは小さく笑んだ。体調を崩した際、真っ先に駆けつけて心配してくれたのが彼らだった為、わたしの記憶の中では憎めない存在としてその姿は今もくっきりと色濃く残っていた。]
ああっ…
[振り向き様にネリーの右手をアルバムに伸ばす。が冊子はリックの手にしっかりと握られており、リックの意志に従いネリーの手の届かない所まで動いていく。
なりふり構わず手を伸ばしたことにより、踵から手の指まで全身が伸びきり、油断だらけになったネリーの全身は、もう一方のリックの手を身体で受け止めるには十分すぎた。
バランスを崩した事と頬をSLAPされた事によりネリーは勢いよく前のめりに転んだ。
あうっ!
背後を見上げると、あの形相があるような気がしてならず、すぐ後ろを向く事はできなかった。]
[窓をコンコンと叩く音が聞こえる。
天の助けとばかり、信じていない神に感謝する。]
た……助けてくれえ!!助け……。
[息も絶え絶えに、助けを求める。]
―1階・書斎―
[男は、引出からアスピリンを取り出し、1粒ずつ丁寧に噛み砕く。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……まるでラムネ菓子のように、味の無い粒を噛み砕き、ごくりと飲み込む。彼の傍らには、透明な液体が入ったワイングラス。アスピリンが舌の上に溜まったらそれをワインで流し込む。]
美味くねぇな。
………当たり前か。
やっぱり「ルーシー」じゃねぇと……ダメか。
[メモを取りながら、アスピリンを噛む。10個、11個、12個……]
[這い蹲ってでも逃げるべき? お姉さんを「ぶって」ごまかすべき?
ネリーは僅かな時間で考える。しかしどちらも首尾よく終われそう、とは思えなかった。
保身が故に、そのまま1歩、腰を抜かしながら前へ移動する。]
[いきおりよく振付ける雨の中、中でわめいているような様子も雨に掻き消え、肩を竦めて]
…ちょっと、失礼するわよ。
[少しのためらいはあったのだけれど、そのままアルファロメオのハンドル側の扉を開けて中を覗き込みながら]
…失礼、ミスター。
どうされたの?
[訝しげな表情のまま、中を覗き込めば彼の面にいつもかかっているサングラスはなく、漠然と彼が落としてしまったらしいそれを探して視線は車内に]
ダメだよ。逃がさない。
ネリー。狩人は、獲物に容赦したりなんかしない。
[宣言し、背後の抽き出しを開ける。
指先は即座に求めていた物体に触れた。
繋がった双つの輪。冷たい金属で出来た手錠]
[一瞬、触れたやわらかいものが口唇であるとわからなかった。
目を丸くして小さく口唇を開く。
頬に触れる手と、優しく回された腕に安心感と嬉しさをおぼえ、眉根を悲しげに寄せたままではあったが、微笑みを浮かべた。]
……ありがとう、ハーヴ。
大丈夫、私、目は良いんだから、道案内はまかせて。
それにあなたが事故を起こしたら、私だって一緒なんだから……。
[まだ震える指先をハーヴェイの指に軽く絡ませて、ガレージへ向かう。]
──バンクロフト家→ボブの事故現場へ──
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