情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 8日目 エピローグ 終了 / 最新
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
「かれ」との関係――肉体と肉体の邂逅――が終わった後も、私の肉体には「かれ」が残した「跡」が強く強く刻まれていた。私の肉体は新しい感覚にうち震え、強烈なフラッシュバックに犯され、時に畏ろしい悪夢にうなされた。
「現実」が歪み、「死」の感覚が活性化し(これは後に知ったことなのだが、私は死者の"姿"と"夢"を視ることができるようになったらしい)、新たな「幻覚」として私の目の前に現れたのだ。
ああ、なんという官能だろう――!
誰かが死を迎えるたびに、私は「かれ」の肉体の感覚をその身で感じることができるのだ!「かれ」の膚、隆起した「かれ」の筋肉、膨張した「かれ」の雄性――ヒトの「死」の記憶が私の身体を蝕むたびに、私の肉体に「かれ」の記憶が鮮やかに蘇る――
私はそれを、よろこびをもって受け入れていた――
「かれ」の肉体の記憶が、欲しい。
この身にそれを刻み、狂おしい程の官能を焼きつけたい。
それは、刻印。
――私の中にふつふつと燃え上がる、「欲望」。
私は、「獣」―――
私は、「かれ」の官能に囚われた、「思慕」の奴隷なのだ―――
――自宅――
[各々の目的地へ向かう車を一人見送ったわたしは雑貨屋を出た後、素直に自宅への道のりを辿りドアを閉めるなりその場に蹲った。
わたしは自身の感情に振り回されて疲れ切っていた。ようやく手に入れたはずのローズは、いともあっさりとギルバートへ戻り、バートはバートでまるで過去の事など一切無かったかのような振る舞いを突きつけてきた。
【気紛れ】と【一人の友人】。
思いを寄せる相手に尽く邪険に扱われたわたし。]
――はははっ…滑稽すぎて笑えないわ…。まるで失笑を買う為だけに舞台に上がる劇人形みたい…。
[いや、失笑を買う為だけに生かされているならそれはそれで割り切ってやろうと思えるからまだ良いではないか。そういう【役割】を与えられているなら、望むままに演じてやろうと割り切れるもの。しかしわたしには感情がある。ピアノ線で吊り上げられた人形ではない。]
だから…時々やるせなくなるよ…自分自身を…そして全てを――
[まるで自分自身を壊してしまうかのように。わたしは拳を何度も床に叩きつけ、やり場の無い怒りを静めようとした。]
[何度目の殴打だっただろうか。]
痛っ――…
[わたしの左手は床に落ちていた小石の破片にぶつかり、その拍子で膚を少しだけ傷つけてしまったらしい。
痛みは大した事はなかったが当たり所が悪かったらしく、皮膚は切れ体内(なか)から血が玉の様に滲んでは僅かに周りを赤く染める。]
あぁ…血が出ちゃったの…ね。
[いつものように条件反射でわたしは血の滲んだ手を口へ運び舌で一滴赤を舐め取る。それは何気なく行ったものだった。そう、ただいつものように何気なく――]
[口内に血の味が微かに広がった。あの何処か金属を思わせるような腥い味が。]
んっ…。
[思わず顔を顰める。しかし次の瞬間、頭の中ではまだ過去には成り掛けていない真新しい記憶がフラッシュバックする。]
あ…っ…あぁ…どうして――…
[わたしの中で蘇ったもの。それは酒場の地下で狂ったように求め合ったあの情事。お互いの指をお互いの体内へと埋めあったこの指に絡みついた蜜を舐め取ったあの味と、今わたしの血の味が重なり合う。皮肉な巡り合わせと共に。]
[今思うに。あの時ローズは排卵期前後だったのではないだろうか。排卵期時のホルモンバランス関係で稀に不正出血を起こす人も居るという。ローズの場合体外まで流れ落ちなかったとはいえ、もしかしたら微量に滲み出ていたのかも知れない。わたしは医学の知識なんて無いから、詳しいことは解らないけど]
それに…――もし、雌としての本能を掻き垂れられるような激しい行為を行った後だったりしたら…?
[そこまで口にして。わたしはぴたりとそれ以上言葉を発するのを止めた。口に出して認めたくは無かった。ローズに纏わる色々な事実を。口に出した瞬間、わたしは一瞬にして自らの言葉で気が触れてしまいそうになるのを無意識に悟っていたのかも知れない。]
―イアンの捜索―
[屋敷に着くや否や、客間の準備と手荷物の搬入を使用人に命じ、ただちに猟犬を駆り出した。日暮れまでそれほど猶予があるわけではない。
ソフィーと共にイアンの捜索に向かったが、やはり彼の姿は杳として知れなかった。
風景に変化をもたらすほどの地形の変化、土壌の流出、暴風雨の後の大量の水分を含んだ土砂は、猟犬の感覚を狂わせた。それ故に、捜索は私たちにとっても予想外なほどに困難な仕事となった。
猟犬は匂いの痕跡を注意深く辿ろうとするが、川のように横たわる土石流の跡や断絶した地層に阻まれ、それらが障壁を形成する迷路に迷い込む。方向感覚を狂わされ、何度も同じ場所を行ったり来たりすることになった。
やがて日昃の陽が、薄靄がヴェールのようにかかった西の昊天を橙色の仄かな色彩に染める頃、私たちはその日の捜索を諦め帰路につくことにした]
―母屋・ニーナ客室―
[ニーナはソフィーと共に母屋の隣同士になる客間に導かれてい
たが、愁傷の跡が未だ表情から去らずにいた。
「兄さん……」
うら寂しい響きだった。ベッドに身を預けたままに空漠とした眼差しで肉親の名を呼ぶその姿に、私は胸が締めつけられる思いがした。愛おしむように髪にそっと触れ、慰撫するように静かに背中を撫でた。
やがて、私は、今はよく休むようにと言い置き立ち上がった。彼女は懶気な仕草で鞄からネグリジェを取り出し、私は着替えを邪魔しないようそっと部屋から立ち去った。]
[ニーナが自分自身の対処能力を遥かに超えた災厄を前に、愛する肉親に縋りたい気持ちはよく理解できた。それが、もう五年も前に亡くなった兄だったとしても、それだけ深い愛着があったのだろう。
だが、ニーナの、まるで兄が生きているような口ぶりには私はひどく当惑させられた。彼女も私と同様、家族の死を受け入れられないでいるのだろうか。]
ロティ……
[私は思わずその人の名を呼ぶ。別れが訪れる日が来ることなど想像することさえできなかった彼女が奪い去られたのは、まだ今日の未明のことなのだ。
だが、ニーナの兄、ラルフが亡くなったのは五年も前のことだ。人知れず何処かで生きているということなど、ありえることなのだろうか。]
[そこで、私は奇妙な違和感に気がついた。
ラルフの顔がまるで記憶の中から浮かび上がってこないのだ。
彼が亡くなった時を思い出す。
その頃私は大学院に通っていて、ヘイヴンと大学のある町、ニューヘイヴンを週に何度か往復する慌ただしい日々を送っていた。ステラとの関係が続いていたのもこの頃だ。それだけにヘイヴンに居る間は家族との時間をできうる限り優先していて、親戚筋とのつきあいがひどく澹泊だった時期ではあった。
それにしても、と思う。時に過剰に鮮明にすぎる視覚記憶に苦しめられる私が、疎遠だったとはいえ甥の顔を思い出せないことにはなにか別の理由があるとしか考えられなかった。
私は意図的に不要と判断した記憶を消去することがある。
消したくても消し去ることができないほどに強い記憶以外はなんとか意識のコントロール下に置くこと。それが、記憶の奔流に悩まされがちな私にとって必要なスキルだったからだ。
私はなにかの理由で、彼の顔を消してしまったのだろうか……]
――
ニーナの兄、ラルフの顔
五年もの星霜を経て甦った兄
そこにはなにか、今起きている出来事の
裏側を繙く鍵が隠されているような気がした
――
[わたしは止血の為に舐めていた指を口許から外し、ゆっくりと立ち上がった。]
そう言えば…寝酒用の赤ワイン、確か切らしていたのよね。お砂糖を落としてホットワインにして飲まないと…今日みたいな夜は寝付けそうに無いもの…。
[そしてわざと平穏を装うように明るい口調で、自らの行動を口に出して確認する。
しかし頭の中では古い記憶がぐるぐると、壊れたレコードのように流れていた。それは昔々の話。でも紛れもなくわたしの消し去る事の出来ない過去――]
雑貨屋は今見て来た通りの有様だから…。やっぱりアンゼリカへ行って一本譲り受けてこないといけないわねぇ。
――面倒だけど…買いに行かなきゃ。
[努めて明るい声を上げると、わたしはワインを入れる為のバスケットと、帰りもし寒くなっても大丈夫なようにと黒い外套を手に持ち、酒場へと向かう道筋を軽い足取りで歩き始めた]
Lullaby of birdland that's what I
Always hear when you sigh
Never in my wordland could there be
Ways to reveal in a phrase how I feel…
[軽く歌などを口ずさみながら…]
――酒場 アンゼリカ――
[わたしは到着するなりCLOSEのプレートを突きつけられるけど気にも留めず、いつものようにノックを三回。そして呼び慣れた彼女の名を口にする。]
ローズ、居るんでしょう?お願いがあるの。ちょっと良いかしら?
[しかし呼んでも彼女は一向に出てこない。何かあったのかしら?それとも…――
彼女の車は無かったけれど、でも確かに店内からは人の気配が感じられる。ほら、今だって窓ガラス越しに彼女の癖のある髪の毛が――]
ローズ?わたしよ、ステラよ。ねぇ、開けてくれないかしら?
[少し乱暴だとは思いながらも、拳を打つようにドアをやはり三回、叩いた。
すると観念したかのように彼女はドア越しにやってきた。しかしドアは開けてくれない。]
ねぇ、どうして開けてくれないの?ローズ。今此処に居るのがわたしだけだって解っているのでしょう?
[雑貨屋から一転、全てに怯えるような素振りを見せるローズに、わたしはよく解らないといった様子で首を傾げて見せ理由を尋ねた。すると僅かな時間を空けてドア越しにか細い声で理由が返って来た。]
「だって…ギルバートが俺以外にドアを開けてはいけないって…言ったから…」
[お前は七匹の子ヤギか?
思わず呆れ返りながらも、切り返したくなる衝動をぐっと堪えて、わたしは出来るだけ落ち着いた口調で彼女に語りかける。教師をやっていて良かったと思った瞬間だった。]
あのねぇローズ…。そんな童話じゃ有るまいし…。
それに――幾らあなたが彼に惚れているからって、所詮新参者の彼と三年以上の付き合いのわたしと天秤にかけて、それでもギルバートさんの方を信じるって言うの?
…わたし達の友情って…そんなちっぽけな…ものだったの?酷いわ…ローズ。わたしはあなたを信じて…この三年間暮らしてきたのに。
[最後の言葉には涙声まで滲ませて。]
[しかし七匹の子ヤギというのは、中々言い得て妙だなと思った。チョークで声色と手足を真っ白に変えて化けたオオカミは、まんまと子ヤギ達を騙して家の中へ入り込み、食事にありつく。
わたしは嘘泣きまで持ち出して――]
「ごっ…ごめんステラ…そんなつもりじゃなかったんだけど…でも最近物騒だからってギルバートが…」
[まんまと扉を開けさせる。]
ううん、気にしないで?ギルバートさんだって、きっと用心のために託して言ったんだし…。きっと悪気は無いわよ?でも…
[そして慌ててドアを開けるローズに、わたしは柔らかい笑みを浮かべ安堵を与える。]
わたしが男だったら…こんな物騒な時に、愛しい人を一人だけ残して留守にはしないけど…な。
――居ないんでしょう?彼。
[痛いところを確実に突いて不安に陥れながら]
[わたしの言葉に表情を曇らせて視線を伏せるローズ。
いい気味だと思った。
ささやかではあるけれど、これは雑貨屋でわたしに与えた屈辱のお返し。昨日のように悲しみに漬け込んであなたの躰を貪ろうとはもう思わない。]
あ、そうだ。ねぇローズ。お願いがあるんだけど。
あなたの所にあるワインセラーから安物のワインで良いの。赤を一本譲ってくれないかしら?実は手持ちのワインを切らしちゃってて…。
あ、ほら。わたし【あなたと違って】男の人に簡単に頼れない性分なのよね…。だから一人で身震いする夜を少しでも和らげる為のホットワイン用に欲しいんだけど…。駄目かしら?
[女の嫉妬って怖いわね。
わたしは自分の言葉尻が自然と刺々しくなっている事を自覚しながらも、あえて隠さずに唇に乗せた。俯く彼女の姿が目に映る。関係ない町の人間からどう思われようが平気なあなたでも、身近なわたしの言葉だと少しはダメージを受けるのかしら?
込み上げてくる感情を噛み殺しながらうっすら口嗤う。勿論ローズに見られないように。]
―母屋・食堂―
[できればハーヴェイを待ちたかったが、食事の準備が整ったとのことで私は普段よりやや早い夕食を摂るべくソフィーと共に食堂へと足を踏み入れた。
ニーナは気分が優れない、と自室で食事を摂ると使用人から耳にし、肯いた。父が松笠の杖を振り、来客をもてなした。
シャーロットの席は空いたままだ。
父の目は赤く滲んでいた。
私たち家族は来客を前に、家族を襲った凶事については触れぬまま食事を続けた。
祖母がスプーンを近づけたり遠ざけたりしながら、そこに映る自分の顔を好奇心に目をキラキラさせて眺めている。
グランマ、冷めるよ、と私は言った。]
[やがて、私の口からは感情の籠もらない平板な口調で言葉が漏れていた]
グランマ。黒牛の角は伐ったから、もう安心だよ。
[祖母はパンの中身を千切っては丸めていた]
「カウボーイが縄かけて〜 シェリフがムチうつ
ワンワン モーモー 大さわぎ」
カウボーイ?
[私は、思わず問いかけていた。
カウボーイだって?
祖母は、きょとんとした顔を向けた]
ウシを追うのはカウボーイ……
そうだわね?
[なぜそんな簡単なことがわからないのだろう、と言わんばかりだった。]
[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19] [20] [21] [22] [23] [24] [25] [26] [27] [28] [29] [メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 8日目 エピローグ 終了 / 最新