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…っ!
[視界に入るのはナサニエル。見てもすぐに見なかったことにすればよかったのに、何故か目が離せなかった。
彼の行為に見入ってたのではない。
当然、まさか人目に付くような所でそんな行為をするとは思わなかったという驚きもあったが
─以前にも同じようなものを見たことがある─
デジャヴュが目の前に閃いた。]
ユージーン。
頼みがある。
しばらくこの場所に居させてくれないか。
[ユージーンの瞳が揺れた。あまり例のない要請だったに違いない。
長く渋っていた彼だったが、懇願に近い語勢の強さに、漸く肯いた。ただし、いくつか手順を守るようにと言い置いて。
まず、鍵は貸すことができないこと。そして、私がここに残る間も外側から鍵はかけていくということ。
気が済むだけ別れを済ませたなら、扉を開け呼ぶように。その時近くに居るなら、戻ってきて元のように鍵をかける。
扉の開け方がわからない場合、長い時間がかかった場合、いずれも一定の時間が経てばこの場所に戻ってきて私の所在と鍵の状態を確認する。]
[私はユージーンに礼を言った。
彼はその場に残る私から遠ざかり、扉の方へと向かってゆく。
やがて扉が閉まり、錠が下りる金属音が響いた。
私は闇の中に取り残された。]
[窓の外からこちらを見ている青年は、ひどく怯えた様子で居た。他人の家を覗き見しながら怯えるとは珍妙な話だが、ナサニエル自身もカーテンを開け放したままでそのような「行為」に耽ってしまったのだから、致し方の無い話である(つまり、彼はあの夜から続いている余韻を振り切ることができなかったのだ)。]
………誰だ?
[ナサニエルは窓を開け、目を細めて外にいる青年を見やった。上から下まで、舐めるような視線を這わせる。]
お前……は………!
[姿形に見覚えがあるな…と思いながら、ナサニエルは頭の中の記憶の引き出しを*漁り始めた*]
―安置所内―
ロティ……
[ガラスの柩に横たわる眠り姫を王はゆっくりと抱き起こす。
各地に伝播する眠り姫の類型譚を思い浮かべた。
老婆の紡錘に刺され眠りの呪いに落ちた眠り姫。彼女を再び目覚めさせるのは、男の深い情愛と婚姻の証だった。
ニーベルンゲンの指輪――父ヴォータンに炎の垣に閉ざされ眠りの呪いに囚われたブリュンヒルデ。ジークフリートは彼女の桎梏となる甲冑を脱がせ、口吻で眠りより目覚めさせる。
父親としてシャーロットを守ることができなかった私だった。父親としての枷を越えて、一人の男、一個の魂として彼女を求めていた。]
[柩を床に置き、抱き上げたシャーロットをゆっくりと台座に横たわらせる]
ロティ……目を……
目を開けてくれ――
[再生の祈りと共に、唇を重ねた。
どれほどの思いをこの一瞬までに重ねてきたことだろう。
永劫とも思えるほどの日々を経て幾層も積み重ねられた、胸苦しいほどの愛情がその口吻に注ぎ込まれた。]
私を置いて行ってはいけない。
君が居なければ生きていけないんだ。
ロティ……
そばに…
いつまでもそばに居てくれ――
[いつしか双眸からは泪が滾々と溢れていた。頬に、額に、唇に。口吻を重ねてゆく。熱い泪の伝う頬がシャーロットの肌に触れた。
唇は奇跡のように美しくカーブを描く耳朶を辿り、儚く撓る首筋を舌が伝った。]
[指先は探るようにブラウスの釦を辿り、一つずつゆっくりと外してゆく。鳩尾がくっきりと窪み、臍にかけて柔らかな溝となって落ち行く腹部が曝け出された。
ピンと張り詰め弾力のある手触りを愛おしむように掌が辿る。
脇腹からなぞった指がレースのブラジャーに触れると、隙間から滑り込むように柔らかな双球を揉みしだいた。ずり上がったブラから瑞々しい果実が零れ落ちた。淡く色づく先端を唇が吸い寄せ、味わい尽くすように舌が這う。]
美味しいよ。ロティ
ああ……綺麗だ……
[闇に微かに順応した瞳には、彼女の肌がぬらぬらとぬめりを帯び淫らな輝きを帯びて映った。]
[いくつもの襞となり折り重なったスカートは、前人未踏の密林のように行く手を阻んでいる。
愛おしむように膝の内側に口づけると、指で優しく撫でさすりながら奥へと目指した。サラリとしたシルクのストッキング越しに、きゅっと締まり張り詰めながらも柔らかな曲線を描く腿の感触を堪能する。
ストッキングの縁に辿り着き、しっとりと吸い付くような柔肌に触れた刹那、戦慄と高揚が背筋を突き抜けた。
シャーロットの神秘の泉を秘めやかに覆う薄いレースのショーツを静かに下ろしてゆく。そっと片足から抜き取ると、もう片側にかかったままに跪き、谷間に咲く花弁に唇を這わせた。]
ぴちゃ……
……くちゅ……
[粘りを帯びた水音が深閑とした晦冥の中に響いてゆく。
謎めいたリドルを一つ一つ解き明かしていくように、舌先は密やかな花片の襞の一つ一つを丹念に辿った。
怺えきれずに零れた熱い吐息が花冠をそよがせ、鼻先は襞の重なりの収斂する包皮を押し上げる。外気に触れた小さな宝玉を唇が吸い、舌先がふるふると震わせた。
私の昂ぶりはというと限界にまで張り詰めていた。ジッパーを引き下ろしボクサーパンツの開放部から引き出すと、トラウザーズの中で出口を求め喘いでいたそれは勢いよく外に飛び出した。]
[ポケットから先程バックの化粧ポーチから出しておいた香油を取りだし、脈打つ屹立に塗り広げる。彼女の鼠蹊部に導かれた淫欲の哮りの先端は妖美を湛え吸い付くような秘唇を割り開いた。]
ロティ。ひどく痛かったら済まない。
[むしろ、シャーロットが痛みを感じてくれれば、目を開けてくれればと願いさえしながら。ゆっくりと強張りを沈めてゆく。先端に触れた純潔の証の抵抗に背筋が震え唇が戦慄く。
目を閉じ、両腕の中にしっかりとシャーロットを抱きしめるとゆっくりと押し進めた。]
[シャーロットの中に熱を収めながら、私はしばらくの間動かぬままでいた。何度も彼女の唇に口付け、腕の中の彼女を撫でさすった。
そうすれば私の持つ熱が伝わるとでもいうように。]
愛してる。ロティ……
目を醒ましてくれ。
私の元に戻ってきてくれよ
[言の葉が零れると耐えきれなくなり、私は嗚咽を漏らしていた。泪が溢れ、慟哭が喉から迸る。
私はシャーロットに縋り付き、大声で泣いていた。]
[ひとしきり泣き終え悲歎の波が遠のくと、ゆっくり腰を動かした。
髪を優しく撫で、抱き寄せる腕が背中をなぞる。
何度も訪れた波のような欲情の昂ぶりが一際高く登り詰めた頃。シャーロットの首筋に噛みつくようなキスをしながら、深い泉の内奥へと生命の息吹を注ぎ込んでいた。]
―安置所・その後―
[一度では到底昂ぶりを収めることができず、幾度目かの震えをシャーロットの中で感じた後。溢れ出していた淫欲の雫を清潔な布で拭い、それ以上零れ落ちて衣類を穢さぬよう陰部に小さな綿を差し入れた。
衣類を整え下着を元のようにつけさせると、ガラスの柩を元の位置に戻し彼女の身を横たえる。
一時の別れすらも身を切るように辛かったが、最後に口づけると身を引きはがすように離れた。
蓋はすぐに開くよう、ただ重ねておいた。
これ以上の未練があっては、ここから出ることはできない。
探るような足取りで、扉の方へと向かっていった]
―安置所前―
[どれほどの時間が経っていただろうか。闇に慣れた目に外は酷く眩しく、しばし手で目を遮りながら順応するのを待った。
大きな声でユージーンを呼ぶと、墓石の群れの中から身を擡げこちらに向かってくるのが目に入った。
彼が鍵をかけるのを確認すると*その場を後にした*]
──アーヴァイン自宅前(回想)──
「…オーライ、オーライ。よしそこだ。」
ゴワゴワとした癖のある色褪せた褐色の長髪、無精髭を生やし草臥れた男が腕を振り、トラックに向かって停車位置を示している。プーップーッと間抜けな音を鳴らしながらバックして来る車を運転しているのは、白髪まじりのガッチリした体格の男。二人ともいかにも肉体労働者らしい風体だ。
二人は、山崩れのこちら側に取り残された、ヘイヴン唯一の電気工事屋の親子だった。彼等の家は崩れた道の向う側にあった為、昼間は電線、電話線の復旧、壊れた水道管の交換作業をして働き、夜はアーヴァイン邸の隅っこに厄介になりながら、アーヴァインが「無線で確保した」と言っていた救援部隊の到着を待っていたのだった。
例のギルバートが放った小火を消し止めたのも、アーヴァインを尋ねて来た町民と仕事から戻った彼等だった。二階の窓からあがる火の手を発見したのは町民だったが、働いたのは主に彼等親子かもしれない。そして、今まさに彼等はアーヴァインの遺体を、アーヴァインの持ち物だったフォードのピックアップトラックに積み込み、墓守の手で安置所に放り込んでもらうべく、墓地へ向かわんとしている所だった。
…と語ると、彼等が随分と親切な人間の様に思える。が、実のところ彼等は、焼け爛れしかも何者かに食い荒らされた形跡のあるアーヴァインバラバラ全裸死体と同じ屋敷で、夜をすごしたくなかっただけだった。
「結局大した火事にならなくて良かったよ。だが、こりゃあ放火だぁな。なんだか、薄気味の悪りぃ…。」
「なんで放火だってわかるんだ?」
「お前も「あの部屋」の有様をその目玉で見たンだろう、馬鹿だなぁ…。」
「いや、焼け残った写真に気ィ取られて覚えちゃ居ねえよ。酷ぇ写真ばっかりだったじゃねえか。男のケツとか、肛門とか、×××とか。アーヴァインの旦那ァ、いい年こいて独身だと思ったら隠れホモ野郎だったとはなァ。」
無精髭の息子が乾いた笑い声を上げながら、積み終えた毛布で包んだアーヴァインの遺体を確認し、トラックの荷台の後ろを閉じた。ドアを開けトラックに乗り込んで来る息子の手には燃え残ったアーヴァインのコレクションの一部をポケットから出し、運転席の父親に好奇心丸出しの様子で見せつけるように、差し出す。父親は息子の頭の悪さに舌打ちをし、「捨てろ」と吐き捨てる様に言って、ハンドルを片手で回しながら火を付けたばかりの煙草を揉み消した。
「相変わらず頭の回転の鈍い野郎だ、てめえはよォ。アーヴァインさんの隠れた趣味なんざどうでもいい。それより、あの「牧師」がリンチにあって殺されたんだぜ。こっち側にアブねえヤツが居るって事は、俺たちも何時なにに巻き込まれるか分からねえってことだぜ。」
「…んん。マァ、救助が来れば終わりだろ。それよりさっさと糞ホモ野郎の遺体を運んじまおうぜ。あの立派な墓守様がどうにかしてくれるだろ。」
「それに俺はさっき見たんだよ。お前が小便のために車を降りてた間、金髪の小僧が同い年くらいの女のガキに軽々と持ち上げられて、連れ去られるのを。」
「アァ? 親父の方がラリってるんじゃねぇの。ンな事出来るわけねぇだろ。ヘッ!」
「ウルせえ、振り返ったあの女のガキの顔……異様だったんだぜ。」
あり得ねえよ、と言う息子の返答に、父親はハンドルを握ったまま窓の外に唾を吐き捨て、もう一度煙草に火を着けた。
「だからお前は頭が悪ィんだよ。」
頭が悪いと言われた息子は父親の言葉がわかったのかわからないのか、ガムをクチャクチャと噛みながら、ラジオのチューナーを合わせ鼻歌を歌い始めた。
…ike a virgin Touched for the very first time
Like a virgin When your heart beats Next to mine
アーヴァインの遺体を乗せたトラックは墓地へ*向かって行く*。
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