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あたしは、江原様も夜桜さんも。
そう、翠さんも──…。
[藤峰君も、と小さく付け加え]
喰らいたくは無いのです。
けれども、あたしは──…あたしを止められぬのですよ。
今、こうやって一見平静な様子で、言葉を紡ぐ事が出来ているのも、さつき様を喰らった余韻で、己を保っていられるからで。
[──仁科が言った其の時。
最初に遠くから使用人達の悲鳴。怯え慌て騒ぎ立てる声が、廊下まで響いて来た。反響がクワンクワンと五月蝿い程だ。]
天賀谷さん死んだとき、仁科さんは泣いていたじゃないか……。
[澄んでいると思った。それは望月の目の誤りだったのだろうか]
あれは、あの涙は一体?
[愕然とした面持ちで*呟いた*]
[騒ぎを詳しく聞けば、さつきと杏が屍鬼に殺され、どちらがどちらとも識別が付かない程の姿となって発見された言う話で有る。
枚坂が天賀谷の部屋で、二人の手術を始めたと言う。]
さつき、さま、
食べた……仁科、さん……
[騒ぎの声も遠く耳鳴りのようだ。
枚坂が処置を施さんとしている事など知る由もなかったが]
――……にしな、さ――
気遣ってくれて、
――いつも、
[いつも通りに見えるのに、どうして]
――どうして。
――にしなさん……
[問い掛ける、
問い掛ける。
見開いた眼から泪が零れそうだ。
なんてことはない、
そんな風にまた笑ってくれるのではないかと、願う。
それは、*幻想*]
―天賀谷自室
[損傷の少ない部位を選び、つなぎあわせてゆく。
さつきの右腕、杏の左腕、脚部は幸いにしてさつきのものが双方とも揃っていた。一部裂かれた部位を杏で補う。
骨の断たれた箇所を金属で繋ぎ、筋と神経、血管を微細な糸で縫いあわせていった。
時間経過によっていたませないよう、冷媒に包んでいた臓器をその器たる胴体に一つずつ叮嚀に納めてゆく。]
[仁科は使用人達の話す内容が、自身の話と一致している事を確認してから、翠に其の事を告げる。]
──…ね、彼等の言う通りでしょう。
あたしが殺して喰らったのです。
さつき様は杏と指先を繋いだまま…──。
[枚坂が手術を始めたと言う言葉には、眉を顰め]
──…もう、甦りやしません。
さつき様も杏も、黄泉から還り様も無い場所に居るンで。
[何事かを考える様に。]
旦那様の時と……同じか。
―天賀谷自室
心臓は――
ああ、心臓が……
[――足りなかった。二人の小さな心臓は裂かれ、その欠片しか見あたらなかったのである。]
……そうだね。
天賀谷さん。
貴方も屹度一緒に……
[父と娘の邂逅。それはこうして漸く成るのだ。
私は満足げに微笑むと、天賀谷の肉体に向かいなおる。
胸にそっとメスを差し込んだ。]
…夜桜さん。
あたしの願いは、あたしが貴女を殺す前に。
真に死者が行くべき処へ行く事です。
首を落とすなり、心の臓を貫くなり。
[仁科の貌は影に隠れ暗くなる。]
あたしの身体は、雲井様が碧子様をそうなさった様に、灰にすべきでしょう。さつき様も、杏も。
屍鬼を此の場に残すべきでは無い。
―天賀谷自室
[長い手術は漸く終わった。
二つの顔は秘密を囁きあうように、あるいは愛を囁くように、寄せ合っていた。その瞳は未だ開かない。
だが、時が満ちれば――
その両手にそっと天賀谷の首を抱かせ、私は立ち上がった。]
―天賀谷自室
[寝台脇の医療用ポンプは定期的な音を響かせている。いくつもの管を通じて、さつきと杏の肉体には透明な溶液が送り込まれていた。]
ここは厳粛な場所だ。
誰も彼らの眠りを妨げてはいけない。
[部屋から出て、女中に申しつけたその瞳はひどく昏かった。]
[夜桜の短い返事に、頭を下げて礼を言う。
──…仁科の視線は階上へ。]
(江原の事を含め)あたしに未練は多々有れど。
気掛りは1つで。
旦那様の遺体にした様に、さつき様や杏に手術をなさるのは間違いで。あたしが本当に死んだ後、身体の一片たりとも不死を望む様な者には渡してならないンで。
あたしより先に、或いは同時に。
──…どなたか。
枚坂先生を殺して戴けませんか。
[仁科は真剣な目でぐるりと*周囲を見渡す*。]
―天賀谷自室→書斎
[内階段から書斎に入ると、壁面にかけられた一枚の絵に目を向けた。
暗く重い雲が立ちこめた空の切れ目から僅かに光がのぞき、中央に描かれた島の上部の輪郭を浮かび上がらせている。
岩だらけの島の真ん中には死を象徴する糸杉が生い茂り、海は波立たず静かに広がる。
その島に向かう一艘の小舟の上に、白く布で覆われた棺と――
島に向けてうやうやしく頭を下げる白づくめの人物。
――ベックリンの『死の島』
いつか、天賀谷氏が「これは喪われた四枚目」であると自慢げな口ぶりで話をしていたその様が、思い出された。]
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