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―三階・廊下
[ガクン、と昇降機が止まるやいなや、ストレッチャーを押し出す。廊下を脇目もふらずただ駆け抜けていった。]
さつき君、父上と再会するためにここへやってきた君が――
君があんな……
[目にした惨状は、到底筆舌に尽くしがたいものだった。
白百合のように可憐に、時に黒水仙のように艶やかだった彼女。
その肉体は常に寄り添うようにつき従っていた杏と共に凶猛な嵐に巻き込まれたかのように引き裂かれ、悽愴たる姿へと変じていた。
折り重なり入り交じり一個の肉塊と変じていた二人は、どの部位がどちらであったのか容易に判断がつかない有様だった。
ただ、滑らかな輪郭を描くその面-おもて-だけが、愛を囁きあう恋人たちのように向かいあい、艶冶として笑みを湛えていたのである。]
[屍鬼ではない、と告げられて、何故か狼狽える望月。
そして仁科の言葉に、ますます唇の歪みが大きくなった。]
ほう。
何故だね? 仁科君。
江原君が屍鬼だ、と謂い出すのかな?
[手を回し、背中の後ろに居る翠を庇うようにして夜桜を見上げる]
彼女は、違う。……きっと。
[他に霊を見るものが現れなかったと言っても、そのものが語らずして死んだ可能性は無ではない。
けれど、信じたい]
翠さんは、違う。
―天賀谷自室
いいかい。
これから、手術を始める。
誰も、この部屋に入れてはいけない。
君たちも、この部屋には決して立ち入らないように。
[私は天賀谷の自室に駆け込むと、血走った目で女中に命を下した。
床を清めていた彼女たちを追い出すと、廊下と階下に通じる扉に鍵をかける。
扉の握り手に壁面に飾ってあった槍をかけ閂とすると、今は亡き天賀谷が横たわっていた寝台脇にストレッチャーを置き、死体袋を開けた。]
[そ、といたわるように望月を抱きしめる。]
……
[よかった。
その囁きは望月にしか届かなかったろう。
そんな事を思う自分は、酷い人間なのだろうか。
それでも、望月が屍鬼ではないと。
そう夜桜が謂ったこと。
翠には、嬉しかった。]
[両の目を見開いたまま、何故か満足そうに、]
──いいえ、雲井様。
江原様は屍鬼じゃあ有りません。
だからと言って、望月様が怯えてなさる様に。
翠さんが屍鬼でも有りはしない。
……屍鬼は、あたし。
此の仁科なのですよ。
……わたしと。
江原様と、仁科さん―――
[夜桜の言葉を繰り返す。
仁科が、見る必要は無い―――と、謂っている。]
仁科さん、それ、どういう―――
[庇うように手を回す望月の後ろで、
翠は仁科を見上げた。]
[望月と翠が労わり合っていた。
血飛沫が飛び散る凄惨な廊下の中、一種の清涼剤のようにも思えたが、この屋敷にはおらぬ他の人間から見ればアンバランスさに奇怪さを感じるものも居たやもしれない。]
江原様は寧ろ…──逆ですやねえ。
影封じの異能と言えば、あたしは知らなかったが夜桜さんは分かるンだろう。
江原様があたしの影をどうにかして封じてくださったお陰で、あたしは夜桜さんを殺さずに済んだンで。
―――ぇ?
[呆然と、息の様な声が漏れた。
仁科から、目が離せない。]
[笑顔が、いつもと余りに変わらなくて]
――う、そ。
―天賀谷自室
――足りない。
二人の命を取り戻すには、あまりに損傷が激しい。
嗚呼――
[絶望のあまり、思わずため息が漏れる。
防水布の袋を開き、遺体の状態を改めて確認すると肉体の再現はあまりに困難であることを知った。]
やむを得ないな。
――いや――
[その時浮かんだ展望はむしろ、啓示めいてさえいた。]
そうだ!
そうすればよかったんだ。
ああ、君たち二人は――ずっと一緒だよ。
[表情にはなんの迷いもなかった。
彼女の願い、そしてここに現れた現実。
それらは符号し、辿るべき道筋を明るく指し示していたのだから。]
[江原の顔を思い浮かべ、]
其の時以外も、何処かで独り、江原様自身の成すべき仕事をなさろうとなさっていたかもしれません。
[江原は死を覚悟していた。恐れながらも覚悟していた。
辞世の言葉でも何処かに刻んだかもしれない。
……想像する。
死に近い異能を持つ者に、死者は惹かれるのやもしれませんねえと呟くが、その言葉に感情は読み取り難く、仁科は瞬き1つしない。]
時間が無いとはそう言った事です。
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