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[仁科の指に、夜桜の熱が移る。
体温の戻り切らぬ手がじわりと温もる。
血塗れの首を抱えたまま去って行く望月。
戸惑いがちな声を掛ける翠に*小さく頷いてみせた*。]
翠さん……
こんなに冷えて……。
[そっととった手は血の気を失ったように冷たく感じられた。彼岸を見たという彼女はそれだけ消耗していたのだろう。]
温かくて栄養のつくものを食べて――
休んだ方がいいね。
[彼女自身も荒事の中であやうくその命を危険に晒していたことを思い出す。
彼岸のことばかりでは耐えられないだろう。
生きている人間には、温かい食べ物や安らかな眠り、穏やかな現実に戻れる時間が必要だ。
私は彼女を支えながら、階下へと降りていった。
しかし、水盆の前で耳にした言葉はまた彼岸へと私たちを*いざなっていた*。]
『もう、冷水を浴びなくても大丈夫だ。』
夜桜さんが、水鏡で。
碧子様を見たと──。
屍鬼は彼女だと言ったよ、翠さん。
[翠も何かを成すと言うなら見届けなくてはと思い乍ら、一度目を閉じ*また目を開く*。]
――三階/十三の部屋――
[さつきの見つめる中、藤峰の姿が無残な姿と変じていく。
其は異界の審美眼で形作られたグロテスクな造形物であった。彫刻家の鑿も画家の絵筆も彼の周囲には見当たらぬ。しかし、作者の見えざる手が動くたびに青年の身体は人でなくなっていった]
誰が、此れを――
[ひとつだけはっきりしていた事が有った。
寝台に横たわる十三――彼に酸鼻極まりない最期を与えたのとどこか共通の作風が、藤峰青年を素材に選んだ禍々しき芸術家には備わっていた、と云う事であった]
――嗚呼。
此の部屋はきっと、地獄と繋がっているんだわ――
『――等活地獄。
五体を細切れに切り裂かれ粉砕されて死しても、ひとたび涼風が吹けばふたたび元通りになってまた初めから繰り返されると云うけれど――あの有様からでも屍鬼に成り得るとしたら――屍鬼とは其の地獄から這い出てきたものなのかも知れない』
――三階/十三の部屋→廊下――
[くるりと後ろを向き廊下に足を踏み出そうとして、さつきは雲井を顧みた]
――雲井様、来海様。
――あまりこの部屋には、長居なさいませぬよう。
――大河原様も。叔父との御交情はお察し致しますが、どうか。
此処は既に、現し世ではなくなってしまっているのですから。
[其の中の一人を屍鬼であると夜桜/神居がやがて告げる事を、さつきが知ろう筈も無い。だが如何なる予感を得てか、さつきは蒼白な顔で三者を見たのみ。そうして、さつきは廊下へと歩み
*出て行った*]
――三階/廊下→二階/食堂――
[廊下に在った人影はただ杏のもののみであった。その顔色もやはり、室内の凶事を察してか青白い]
「さつき様――」
杏。他の皆様方は?
「あの、由良様の御部屋に……ですが、その」
[杏は其の儘、口ごもる。怪訝な表情でそちらを見、唇を結んで向かおうとしたさつきに、杏は思いがけず大きな悲鳴を発した]
「いけません!
その……厭な、予感がするのです……とても、厭な予感が」
[其の様子は奇しくも、数刻前――或いは僅か一時間前だったのだろうか――の施波執事と大河原夫人との問答を再現するかのようであった]
……厭な、予感?
[問い返しに杏はおずおずと頷いた。そっと近寄ってさつきの袖を掴み、其方へと行かぬよう微かに力を込めてくる。はしばみ色の瞳は必死な色合いでさつきを見上げていた]
『由良様が亡くなった、其の部屋で……其の上で何か起こるとでもいうの。そんな、まさか。でも、いいえ、恐慌に駆られた人が何をするかわからない、其れは先刻見たばかりだわ……』
[心中の思いを感じ取ってか、杏は幾度も首を振る。目元には涙が溜まり、腕を引く力は明らかな程になっていた]
……もう、仕方ないわね。そうまでするのなら……貴女が淹れた紅茶を頂きましょうか。施波さんがいらっしゃれば、お父様の手紙を開けるにも立ち会って頂けるでしょうし。
――二階/廊下→食堂――
[さつきと杏が水盤の前に辿りついた時には、其処には未だ誰も居なかった。其の水面にちらと目を遣り、通り過ぎてゆく]
『真正なる影見が誰か、未だ私は知らない。
……もし、私の持っている異能が真の影見だったとしたら。
……そして私は只、其れを浪費してしまったのだとしたら。
……其れこそが、只ひとつ私の恐れていること。でも、いいえ。そんな事がある筈は無い。私の力はただ、私に対して意味を持っただけ……真正なる影見ならば、きっと――』
―二階・水盆前
[望月青年の問いに、夜桜は答えなかった。
夜桜は賢明な女性だ、と私は内心安堵した。
夜桜が大声でその事実を叫びアジテートしたなら、恐ろしい狂騒の渦中にこの屋敷は呑み込まれるだろう。
パニックになってしまえば、その混迷の中で絶好の機会といえるタイミングを見失ってしまうことになりかねないのだ。
「碧子が屍鬼」との啓示にうずうずと先走りそうになりそうな膝をぐっと踏みしめる。
今はなにより、自重が必要なのだと自戒した。
階下へと消える望月青年の姿を見送る。]
夜桜さん、仁科――美蘭さん、それに翠さんも。
こんなところで立ち話をしていても、寒々しいばかりだ。
部屋で休むか、食堂でなにか食べたらどうだろうね。
せめて、お茶でも呑んで温まって。
[女中にお茶を用意してくれるようにと頼むと、階上へと向かった。]
―三階・天賀谷自室
[雲井の姿を探し求めていた私は天賀谷の居室の扉を開き、変わり果てた藤峰青年の姿を見いだした。]
藤峰君!!
ひどい有様だ……
[天賀谷の死に魂を振り絞るような慟哭の声をあげていた彼のことを思い出す。その嘆きには心からの共感を感じていた私だった。
細やかな気遣いに温かい配慮。仕事を愛し、同僚や客に示していた仕事ぶりは血の通ったものだった。
なにより、率直で誠実な人柄が接していて心地よく感じられる、愛すべき人物だった。]
誰よりも人間らしい君が……早くも天賀谷さんを追うことになるなんて……
[惨苦の滲んだ声が絞り出た。]
―天賀谷自室
[部屋の中には、来海がいた。雲井ばかりではない。そばには碧子の姿もある。]
天賀谷さんの時のように……襲った屍鬼はやはり見えなかったものだろうかね。
[藤峰の遺骸は、人の手では容易になしえぬ様に思えた。
雲井の携える刀を、目線を動かさぬまま視界に捉える。
碧子に接する時に、眼前に立ちはだかるのは彼だろう――と思いながら。
私は以前揶揄した時とは別の理由から、彼と碧子の関係や、彼の素性について話を聞きたくなっていた。]
―江原自室―
[名誉の傷を負った左腕。その動きは鈍い。
だが、コルネールとのやり取りで見せた
鋭い動き。これは奇跡としか言い様がなかった。]
………これは燃え尽きる寸前の灰。
だが、やれるもんだな。案外。
[枚坂から最低限の処置をしてもらい、
出血の量からも命に別状はないようだ。
誇らしげに、その自分の左腕を見る。]
PURPLE HEARTものだ……。
[コルネールが屍鬼か否か。それはまだわからない。
どちらであっても、左腕に受けた傷は名誉。
そう*思った*。]
─半異界化した天賀谷の寝室(回想)─
[何時の間にやら仁科の背後、その頭上高くに女の首が浮かんでいる。
白い貌が冷ややかにじっと見下ろすその下で、仁科が藤峰の肉体を引き千切り切り裂き、貪り食っていく。]
……醜い。
[開いた花弁の唇から、凍りついた聲が吐き出された。]
醜い。おぞましい。
……嗚呼。
矢張り、
貴方は所詮……
[夢中で獲物を貪る仁科にその聲は届いたかどうか。
小さな羽ばたきの如(ごと)、吐息を洩らし、白い貌は霞となって闇に溶けて消えた。]
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