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[膝はまだ床についた儘、さつきは袖で口元を拭って後ろを振り返った]
……ありがとう、翠さん。
……お陰で、なんとか楽になりました。
[そうは云ったものの、さつきの顔色は青白かった]
止めて下さいよ!
[...は翠の暗い瞳の色から逃げるように目を逸らす]
翠さんがそんな、諦めたような事を言っては、目が覚めた時に旦那様も嘆かれるに違いな―――…
[―――…床に崩れたさつきが背を丸めて、嘔吐するのが目に入る。
慌てずそれでいて素早い行動で、それを助けようとするのが本来、自分もまたするべきことだ。
しかし時に愛らしい少女らしさを、場に相応しい場面では毅然と天賀谷の姓を持つ年若い淑女として振る舞っていた者のそんな姿は…
受け入れ難い事実は、正しくもう起きてしまったのだと…万次郎に現実感を伴わせるに十分だった]
ああ……。
[使用人としての全ての義務も放って、顔を覆わんとしていた手が止まる。
「分かっているでしょう、旦那様は―――」?
―――もうお亡くなりになっているのだとしたら、「私にできることはやってみよう」と頷いた枚坂は今、何をしようとしていると言うのか?]
[ちらりと天賀谷の顔が見えた。苦痛とも恐怖ともつかないが、血まみれのその顔は歪んだ相を浮かべているように望月には思えてならない]
いけないよ。いけない。
[歌うような抑揚で誰にとも無く低い声で言う]
無念を残して死ぬものは、此の世に帰りたがってしまう。
そのまんまじゃ、天賀谷さんは逝けない。
[何かを否定する様に首を横に振り乍ら、]
…望月様ァ。
あたしや枚坂先生が殺したなら、良かったですよ。
警察に突き出せば仕舞いだ──…。
[誰も彼も皆食堂を出てしまった。
自分もまた、紅茶を飲み干した挙句に給仕も無いとなればやることもなく]
かといって、騒ぎに加わるのも好かんな。
ならばせめて、恐らくは亡者と為りゆく主人の為に楽の音を捧げるのも悪くはあるまい。
[そう呟き、まだ残る数名の使用人にピアノを借りることを告げると]
せめて天では楽の音を解するようになることを祈るのだな、金の亡者め。
[そう呟いて弾き始めるのは、ショパンのピアノソナタ第三番 変ロ短調 作品35――『葬送』――その第三楽章、葬送行進曲。
指が達者に廻るばかりの空虚な音色を、ホールに所在無さげに漂わせ、楽師は*一人悦に入っていた。*]
[さつきが何度か頷く様子を見て、
翠は表情を少し和らげた。]
……よかった。
さつき様、立てますか……?
[此処に長居していては、さつきが辛いだろう。
そう思って翠は尋ねた。
首を落とす、
出来ることがある。
様々な言葉が血塗れの部屋に響いた]
……枚坂さま、
出来ることとは……なんでしょう?
[臓物の欠片が未だ残っている。
変わり果てた、敬愛する主人の姿。
何とかできるのだろうか。
そんな思いも込めて。]
[望月の言葉を聞いた仁科の中に、1つの単語が浮かぶ。
「──…屍鬼」
──…そうだ。屍鬼が、十三を殺したのだ。
あの闇に浮かんだ憤怒の白い貌こそが、屍鬼なのだ。]
[仁科に頷き、なだめるようにその髪に触れようとする]
誰もおまえさんがたが殺したなんて言っちゃいない。こりゃあ、人間に出来る業じゃねえよ……。
『ああ、受け入れねばならないのか。ここに屍鬼が居ることを』
藤峰君。
確かに人は死ぬ。
だが、人を本当の死に至らしめるのは、その死を見届ける者の意志なんだよ……。
[私は独り言のように呟いた。]
[扉枠に手を添えて、さつきは何とか立ち上がった。十三の身体が寝台に横たわっているのを見て、枚坂に頭を下げる]
枚坂先生、すみませんがどうか宜しくお願いします。せめて人らしい形には――。
[無惨な姿からは目を反らしつつ、どうにかそう云った]
―――……っ
[枚坂が引き上げると、天賀谷の胴体から臓物が零れ落ちる。
…もうソレが天賀谷だからと言うより、直視し続けるには胃から内容物をこみあげさせる生々しさの過ぎる遺体を見ずに済むよう、体ごと顔を逸らす]
…取り返しがつかない?
[代わりに、枚坂の言葉をくり返す仁科を見る]
首を切り落とすって……!
[――続いた仁科の言葉に、ハッとする。
ああそうか。…そうだったのか]
屍鬼になってまうことこそが、”取り返しがつかない”と……
[...は仁科の言葉でやっと枚坂が言わんとしていたことが分かり、息を詰めて細めた目で遺体を見る]
首を切らねばならない……のか?
俺には旦那様がむしろ屍鬼を、待ち望まれておられたのだと昨夜の発言では思えてしまった…。
このままでは屍鬼になるのだとして、旦那様にとってそれはむしろ、喜びであるんじゃあ…
[血に染まる部屋から外へと一歩下がり、そこで漸く気付いた様に、さつきは望月へと声を掛ける]
そのままでは、いけない――?
[何か不吉な気配を感じとったかの様に、オウム返しに口に上せた]
[人肌の感触の所為か、異様な事態が浸透してきた所為か。先刻よりは、真っ暗に思えた視界が広く成って来た様に思う。
翠が目に入り、彼女が天賀谷の死を悼んでいる事が分かり、少しだけ安堵を覚えた。]
…望月様、枚坂様。
旦那様は何処へ行けるんで…──。
[囁き声が染み込む。其の声が優しく*更に頬を濡らす水量が増えて行くのだった*。]
翠さん。
私が医師としていままで取り組んできた主要なテーマは人の生き死にの境界のことだった。
一度失われた命はもう戻らないと思われている。
だが、可能性はある。
時間が経てば、その可能性は損なわれていくばかりだがね。
天賀谷さんの死を受け入れるなら、見えないように棺に入れしっかり蓋を閉め、焼き尽くしてしまうことだよ。
土に埋めてはいけない。
土に埋めては――
[私はおぼつかない足取りで扉の方へと向かう。
その背中に、さつきの声が届く。]
いいんだね?
では、せめてそのように――
[――未練が残る、と微かな呟きは扉の向こうに*かき消えた*。]
[仁科の視界を完全に天賀谷の血液が覆うと、真紅の闇は暗黒へと転じた。…何も見えない。噎せ返る様な匂いだけが血塗れである事を示す。
何処とも知れぬ此の世界の中で視界が完全に閉ざされた変わりに、現実世界での仁科の視界は明るくなったのだった。]
……逝ききらんのは、不幸せなことだ。
それに、残されたものが嘆いていいのか望めばいいのか、判らずにいるのも不幸せだ。
[望月には、この場に自分が居合わせたことが運命と思われてならなかった]
どうか俺に、その人の首を落とさせてくれ。
死んでしまったと、もう認識されていたのなら…
[天賀谷の躰を寝台に横たえさせた後、その脇に座り込み呟く枚坂を見ると]
先生は先ほどから、何をしようとされていたんですか…?
……亡くなった…旦那様…に……、それ以上何をしようと?
[その答を意味するのかもしれない言葉が、枚坂の口から独り言のように届き]
”人を本当の死に至らしめるのは、その死を見届ける者の意志”……。
[――意志?
…しかし、自分に何ができるだろう?
...は枚坂の言葉をくり返した後は、口を噤んで首を横に振る]
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