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…何かしら。
血が…見たくなる。
[惚けたようにグラスの液体を眺め。ゆらゆら揺れるそれを見つめ、ゆっくりと飲み干した]
[濡れた唇をぺろりと舐め、空になったグラスを見つめて]
血が…見たい。
[一言だけ呟き。それからはっとして我に返る]
…何かしら、この感覚は。
[自分の中で何かが蝕んでいるようだった]
[その感覚を振り払うかのように頭を振り、グラスを片付ける。部屋へと戻れば、その感覚も忘れ、深い眠りに*つくことだろう*]
[ゆっくりと――目を開ける。
かけられていた毛布に目を瞬かせ、座っていた体勢からソファへゴロンと横になる。]
こんなもんか。
[手を何度かグーパーさせながら、小さく呟く。
髪をかきあげくすりと笑めば、今暫く毛布の中で*まどろんで*]
――……っ!!
[寝台の上で飛び起きる。
嫌な汗が頬を伝い、額を押さえれば夢を見ていたのだと気付く。]
……。
久しぶりにまともなベッドで寝たせいか。
[心地いい寝台は、夢を誘う。
そして夢は必ずしも良いものとは限らない。
無言のうちにシャワーを浴びて悪夢の残滓を洗い落とす。
部屋のクローゼットを開けば先に確認していた通り、男物の服。]
……最初に見た部屋で私サイズの服があったのは吃驚したが……
[果たしてこれが偶然なのか何なのか。確かめる術はない。]
[職業の割には鍛え上げられ、無数の傷跡の散った体を
引っ張り出したシャツで包む。
寸分の狂いもなくぴったりなサイズなのを確認して。]
……見かけよりもサイズが上なんだがな……
こうまで合うといっそ見事というか。
[ズボンのウェストまでがきっちり合っている。
ジャケットを羽織ると内ポケットに聖書と、ナイフ。
それに幾つかの小道具を突っ込んだ。]
[目覚めればクロークから服を選び浴室へ向かい、熱いシャワーを頭から浴びついでに薬と僅かあかの散る寝間着をまた洗って浴室に干し、鏡に映りこむ自身の姿を覗けば、顔の腫れはもう引いて痣も黄色ぽく目立たなくなっており、全身の傷も薬が効いたのか幾らかは良くなってきている様子で、胸元の深い傷だけが未だ塞がり切らずあかを滲ませていたが、部屋へと持って戻った薬を幾らか塗り]
………
[昨夜傷を負った少女と約束をした以上は、早く治さなければいけないとは思っているのか、けれど自身に治療を施す手つきは機械的で、痛みを感じているのかいないのか顔色一つ変えず淡々と包帯を巻く]
………
[右足の調子を窺う様に少し動かして、そっと指先がなぞる膝裏には煙草を押し当てたらしい古い火傷痕、腕を伸ばし前屈みになれば肩甲骨と背面のあばらが浮く傷だらけの背中には、古い逆十字の傷跡が真新しい傷に埋もれている様だ]
………
[首もとの隠れる服は見当たらなかったのか、黒のワンピースに首筋の包帯を隠す様に揃いのスカーフをふわりと巻き、編み上げのブーツを履けば足元の傷も殆ど隠れて、ソファへと戻りクッションを抱いて紫水晶の瞳は窓の*外を見詰める*]
[自由に過ごして良い、とはいわれたものの。
さりとてすることも無く。
客室ばかりかと思われた2Fを暫しうろつき、色の違うドアを見つける。]
……ここは……ホームバー、か?
[手入れされたビリヤードの台が1つ。
バーカウンターが隅に設えてある。
グランドピアノも置いてあるのに瞬いて。]
……。
随分といい趣味、だな……
[ピアノの鍵盤に軽く触れる。清掃もきちんと行き届いているようだった。]
[ピアノの譜面台には楽譜が一枚。
持ち上げてみると書かれたタイトルは、「月光」]
……選曲の趣味はよろしくないようだな。
[呟いて、楽譜を戻す。
ピアノを弾く技量は無かった。
カウンターへと歩み寄ると、壁面に飾られたボトルを見る。]
……厨房にも酒はあったが、ここにも、か。
[年代物のシングルモルトの瓶を一本。
酒の趣味は良さそうだった。]
[カーテンの隙間から差し込む光に刺激され目を覚ませば夢現で起き上がり。シャワーを浴びて目を覚ますと、ジーンズに裾が長く広い灰色のタートルカットソーを着て、髪を左でゆるく結んで前へ垂らす。窓に近付きカーテンを開ければ外をじっと見つめ]
…良い天気ですのに、外へ出てはいけないのですね…。
[アーヴァインの言葉を思い出し、小さく溜息。ここで溜息をついていても出られないものは出られなくて。昨日より詳しく屋敷の探検をしようと部屋を出る]
[ある部屋の前を横切ろうとして、中から小さな物音を聞く]
……?
[誰か居るのだろうか。それとも何か別な──? 左手を腰の何かに手をかけて、若干警戒しつつドアノブを回す]
…牧師様?
[そこで見えたのはいつもの牧師服ではないルーサーの姿。驚いたような、しかし安堵した表情を浮かべ左手を体の横に垂らした]
[扉が開く音に一瞬内ポケットへと手を伸ばしかけて。
開き始めたドアの向こうに揺れる金髪を認めれば手を下ろし。]
……シスターですか。
おはようございます。
[微笑むとモルトの瓶を棚に戻し。]
こんなところで如何しました?
おはようございます。
[改めて挨拶し、部屋の中へ一歩踏み出す]
ここから何か物音がしたような気がしたので…。
私達以外の何かが居るのかと思いましたの。
[それから部屋の中を見回し、感心するようにほぅと息を吐いて]
こんな場所もあったのですね…。
私にはあまり縁のない場所ですけれど。
……ああ。すみません。
客室では無い様子だったので、気になりまして。
私たち以外には誰もいないと思いますよ。
[カウンターから出るとスツールに腰掛け。]
……広い屋敷ですからね。
このような場所が設けられていても不思議じゃないですが。
それにしても贅沢なことで。
やはり居ませんのね…。
ネズミくらいは居るかとも思いましたけれど。
[小さく笑って。ルーサーの全身が見えれば「服、似合いますね」と微笑んで]
本当に贅沢。
使っている客室の家具や調度品も、広間に置いてあるものも。
使うのが勿体無いくらいですわ。
[目端にピアノが見えれば歩み寄り、カバーをあげて鍵盤を一つ押す。ぽーん、と言う音が部屋に響き、耳に余韻を残しながら消えていく]
まぁ外にも見張りがいますし。
よしんば忍び込んだ他人がいたとしても、逃げられないでしょうよ。
……ナサニエルには「ただのおっさん」と称されそうですけど。
[軽くシャツを引っ張ると苦笑を浮かべ。]
……まぁ確かに囚人には過ぎたる贅沢ですね。
それを自由にして良い、という彼は何者か。
[アーヴァインの言葉を思い出し、腕を組む。
ピアノの鍵盤が一つ音を弾くのに視線を向けて]
……弾けるなら弾いても構わないと思いますよ。
この館からは逃げられない…。
牢獄も同然。
でも牢獄よりは、自由。
[ぽつりと言葉を漏らして]
忍び込んだ人が居るなら、外に出たところで見張りに捕まって終わりそうですわね。
[ナサニエルからの酷評予想を聞いてクスクスと笑いを漏らし]
私とて、修道服を脱げばただの女性ですわ。
他とさして変わらない──。
[変わらない。本当にそうだろうか。否、変わらないなら、こんなところには居ない]
…物好きな富豪、でしょうね。
[アーヴァインの正体はそのくらいしか印象がつかず。弾いても構わない、との言葉にはそちらに視線を返して]
弾けると言っても、讃美歌くらいしか弾けませんわ。
……拘束されないだけ、有難いですよ。
[ステラの呟きに、そう返して。
カウンターの向こうからグラスとシングルモルトの瓶を取ると]
……では今私の目の前で修道服を来ていらっしゃらない貴方は。
ただの女性、ですか?
[彼女とて囚人――ただの、ということは有り得ないだろうが。
琥珀色の液体をグラスに注ぐと、ピアノを見つめて]
弾けないよりは、マシでしょうよ。
私は賛美歌ですら、弾けませんから。
[呟きに返って来た言葉には小さく頷いて]
…見た目だけ、かもしれませんわね。
[視線を下に向け、ゆるく首を横に振り。ピアノの前に座れば気を落ち着かせ、鍵盤に指を滑らせる。部屋の中に賛美歌の曲が響き始めた]
ただの女性──。
一般的な女性と言う意味なら、私は生まれた時から一般的な女性では無かったわ。
”普通”に憧れたことも無かったわね。
[賛美歌を弾きながら、ぽつりと呟く]
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