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[そしてその夜。
アーヴァインが、ここ、ユージーンのいる事務所(兼作業場兼住居)に担ぎ込まれてきた。
彼とは今日の午後会ったばかりだというのに、すっかり変わり果てた姿になっていた。
たまたま彼を訪れた町民が、二階の一室から煙が出ているのを発見して、慌てて何とか火を消し止めたところ、焼け焦げた死体が転がっているのが見つかったのだと言う。
しかし、この遺体が本当にアーヴァインであるのか、それは分からない。遺体はすっかり皮膚が焼け焦げていただけでなく、バラバラに解体されていたからである。単に屋敷内で見つかったから、そうと推測できるだけだ。]
[彼はそのバラバラのアーヴァインをそれなりの形に調えて安置所に収容した。
安置所を出る間際に、入口近くの壁に記された文字に目を走らせる。]
As o’er the cold sepulcher stone
Some name arrests the passer-by;
Thus, when thou view’st this page alone,
May mine attract thy pensive eye!
...
[ユージーンはその詩句を呟きながら、安置所の扉を閉ざし鍵を閉めた。]
――酒場アンゼリカ 地下――
[わたしは右目が見せる過去の映像に戸惑いつつも、しかし拒む事無くその事実を受け入れていた。いや、受け入れるしかなかったというべきだろうか。]
[ローズがわたしに熱い吐息越しに何かを囁く。その声は左耳では彼女の声と認識するも、右耳ではバートの声に変換される。
彼女がわたしの肉厚の素肌をなぞる感触は、半分は彼女の指であり、半分はバートの指に変わった。実際彼がこのような愛撫を行っていたかはもう記憶には無かったけれど、しかしわたしの躰はあったものと認識する。半分ずつ味わう快楽。同性として。異性として。感じ方は同じ。しかし心は真逆に揺れ動き、やがて挟間が生じる。]
[わたしは挟間を埋めようと、再びローズに快感をせがむ。しかし求めれば求めるだけ溝が深まっていきそうで軽い混乱を覚える。
さぁ、わたしは今、男と女どちらに抱かれているの?]
いじわる…触れたい場所なんて…あなたが一番よく解っているくせに――
[わたしは見透かしたような笑みを浮かべるローズに、唇を軽く尖らせて文句を言った。
彼女が触れて欲しい所は解っているつもりだった。でもそれを避けて通るのもまた面白いかと思い――]
じゃぁ…まずはあなたの顔に触れさせて?
あなただと…わたしに確認させて?
『そうしないと、わたしは一体どちらに抱かれているか解らなくなるから…』
[言えない言葉は口内で弾ける]
[ローズマリーはステラの顔に自分の顔を寄せた]
ふふっ、これでいいかしら?
[ローズマリーの右手はステラの下腹部の柔らかな草原をさまよっている]
[混乱を覚える頭の中で、私は左目を使って必死に現実を把握しようとする。
しかし右目を使おうとすると同じように左目も動き出し、わたしは夢と現の区別がつかなくなる。]
『一体どっちなの…教えて?ローズ…、バート――』
[わたしの口内は言えない独り言で膨れ上がる。息苦しさを感じる。でも今口を開いたらわたし、何を言い出すか判らない]
えぇ、そう――
だからもっと触れさせて…綺麗な肌を――
そしてわたしに触れて、刻んで?あなたの歩く道筋を…
[近付いてきた顔に啄ばむような口付けを。でも唇へは触れない。それは娼婦としては禁忌だから]
ステラ、かわいいわ。
でも、なんでそう苦しそうにしているのかしら?
[ローズマリーは一瞬、眉をひそめ、優しくその唇を吸う]
なにか、辛いのかしら、ステラ?
[ローズマリーの指先はステラの茂みをかきわけ、ステラの敏感な突起にたどりついた]
―アトリエ・作業場―
[冷媒の敷き詰められた透明の柩の中にシャーロットを横たえ、彼女をどうすべきかしばしの間肺肝を砕き熟考した。
私には脈拍が既に停止している彼女を、医学的に蘇生させる技術がない。
だが、放っておけば腐敗し朽ち果ててしまうことだけは確かだった。
アトリエと倉庫には、造型に用いる接着剤や樹脂といったありとあらゆる素材が揃っている。彼女の体組織の一部をこれらによって置き換えることで、半永久的に遺体を保つことは不可能ではなかった。
だが、私はその手法にも躊躇いがあった。
私は彼女を“型取り”したいわけではない。生きていた時には及ばぬ状態を半永久的なものとしたところで、どれだけの価値があるだろう。私はそうすることでシャーロットを“殺して”しまいたくはなかった]
[思わず開いてしまった唇は、しかし相手を特定する言葉は紡ぐことなく。わたしはひとまずほっと胸を撫で下ろす]
『でもこの感覚は一体いつまで続くの…?』
[試しに目を閉じてみても結果は同じことで。わたしは半分ずつに分かれた体を何とか繋ぎとめている状態で与えられる快感に酔いしれていた。]
[私はひとまずラング牧師邸まで車を飛ばし、様々な医療品を持ち帰った。
その足で墓地を管理するユージーン・アンダーソンの元を訪ねる。そして、娘の死の事実とその安置に関する要望を伝えた。彼は、指定の時間に安置所前で待っていると約束した。
作業場に戻り再びシャーロットを柩から出すと、持ち帰った極細の糸で創傷を縫合する。傷が目立たなくなった彼女は、今はただ眠っているだけのように見えた。
ミント、立麝香草のエキス、ミルラの香油を肌に振り掛け、まんべんなく塗り広げていく。潤いが長く持続するように。そして祈りを込めた儀式であるかのように。]
―アトリエ・シャーロット自室―
これは……
エリザ…の……?
[なぜここにあるのだろうか。見慣れぬものがそこにあり、私は微かに首を傾げた。シャーロットの服を取りに彼女の部屋に足を踏み入れた時、それは彼女の机の上に広げられていた。
どこへ置いたのか、その存在すらも失念しかけていたエリザの黒表紙の手帳だった。
近づき、インクで綴られた文字を指先でなぞる。所々不自然な滲みがあった。眼裏に焼きついて離れない、シャーロットの儚げな泪に濡れた表情が重なった]
ロティ……。エリザ…
[手帳と共に机の上には、町内の地図]
……ナッシュ。
ナサニエル・サイソン――
[地図の印が示す家。私は呟いていた。
私は地図を折りたたみ、手帳と共に持って行くことにした。後でその内容を吟味するために]
―アトリエ・作業場―
[繊細なレース装飾が施されたおろしたての純白のショーツとブラジャーは妖精の羽のように透き通り、所々肌を透かしている。絹のストッキングを履かせ、ガーターベルトで留めた。
薔薇柄のレースで飾られたオーガンジーブラウスに、ハイウェストの編み上げフリルスカート。ブラウスの上からはラッセルレースのボレロを羽織らせた。
髪についた血の汚れも綺麗に拭い、叮嚀に梳る。あまり地肌を引っ張らないよう柔らかめに流した髪を、白いレースのリボンで結った。]
[純白の装いに身を包み終えたシャーロットを、液状の冷媒がクッションのように敷き詰められた透明の柩に再び横たえる。
透明アクリルの上蓋にドリルで空気穴を開け、そっと蓋を置いた。移動中蓋が外れぬようテープで仮留めし、台車でスロープを通じ地下から*運び出した*]
あっ…だめっ…唇は――
[止める前にしかし奪われてしまった感触に、私はますます混乱する。もし相手がローズならは幾らでも許してしまいたい。むしろその唇で穢して欲しいと思うのだから。
でもバートだったら…?
もし交わしたキスでわたしの本気が彼に知れてしまったら…。
彼はわたしを簡単に捨ててしまうだろう。でもそれだけは耐えられない。今のわたしにとってバートの存在こそが心の支え――]
んっ…――…おねがい…もう先に…わたしの中に…挿れて…――
[ステラの唇に柔らかく口づけ、その唇を舐める。
酩酊するようなステラの表情は快楽にその身を預けているからなのだろうか]
[触れたいといいつつ、一向に触れてこないステラに疑問を抱きつつも、一方的に快楽を与えるのも嫌いではなく、ステラの感じる場所をさぐろうとしている]
ステラ、ここは、どう?
もう大きく膨らんでいるのね…。
[ローズマリーはステラの敏感な突起をステラの喜びの液に浸した指でそろりと撫で上げた]
ステラ、もう欲しいの?
しかたのないコね。
[ローズマリーは身体をずらし、ステラの両足を抱えあげ、ステラの泉を両指で広げ唇をよせた]
[伸ばした手を動かせない理由。それは触れることで相手を確定したくは無いわたし自身の我儘なのかもしれない。
わたしは右目と左目で異なる映像がちらつく様に、いつの間にか酔いしれていた。その不確定な感覚こそに快楽を見出し先を強請っていた。そして恐れていた。触れることによって今誰に抱かれているのか知ってしまう事を。]
『嗚呼願う事ならば、このまま二人に抱かれたままで達したい――』
[不遜な思い。それは背中の獅子が与える罠――]
[淫靡な言葉で煽ってくるどちらかの言葉に、わたしは辱めを受けながらそれでも興奮は絶頂へと上り詰めていく。過敏な部分を這う指先は強弱をつけてわたしを攻め立てる。
そして指とは比べ物にならない生々しい感触が与えられた時、わたしは悟る――]
[嗚呼、これは"あの人"が【見ていた】夢。そして時を越えた復讐なのだということを――]
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